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金魚が泳ぐ、わたしの小さな美術館

自宅の中で、たったひとつだけ「アート」が呼吸している場所がある。それは玄関だ。

​扉を開けてすぐ、靴箱の上の少し広めのスペースに、季節ごとの額を飾っている。

​春は、友だちが結婚祝いに描いてくれた、優しい色使いの、お花のアーチが描かれている水彩画。

冬は、真っ白い雪の中にシーンと佇む、モネのカササギの複製画。

​そして今朝、私はそこを「春の花」から「夏の金魚」へと模様替えをした。

​もともと金魚のモチーフが好きで、小さな小物を少しずつ集めているのだけれど、なかでもこの切り絵は特別だ。

2024年の「金魚美抄展」で出会ったもので、能登地震の復興支援の一環として販売されていた。

​本物の「アート」を自分で買うのは、あの時が生まれて初めてだった。支援になるという優しさに背中を押されたとはいえ、私にとっては少しだけ勇気のいるお値段。

​それでも、黒い切り絵の線のなかで、ふっくらとした愛嬌のある顔をして優雅にひれを広げる金魚のオランダ獅子頭と、そのまわりを祝福するように囲む可憐な花の美しさに、目が合った瞬間に心が決まってしまった。

​背景の白に映える黒い陰影と、ぽつぽつと散らされた金色のインクが、まるで光る金箔の吹雪のように見える。

壁にかけられた切り絵に呼ばれるように、吸い付いて見惚れてしまったのだ。

いつもは慎重な私が、一緒だった家族がびっくりするほどの素早さで、いそいそとレジへ向かったのを今でもよく覚えている。​

​今朝、久しぶりに箱を開けて、柔らかい布から作品を取り出した。手に伝わる額の確かな重みと一緒に、胸の奥がじんわりと満たされていくのが分かった。

1年ぶりの、嬉しい再会。

これからやってくる本格的な暑さの中、この本物の作品が放つ静かなパワーをもらって暮らせるのだと思うと、なんだかそれだけで今日が良い日になりそうな気がしてくる。

​私の額コレクションには、まだ「秋」がない。

​次にどんな作品と出会い、私の中の「秋」の引き出しが埋まるのだろう。そう思うと、未来の出会いが少し待ち遠しい。

​焦らずに、ひとつひとつ、私の心が「これだ」と小さく震えるものを丁寧に集めていきたい。いつか、月替わりで壁の表情を変えられるようになったら、どんなに素敵だろう。

​扉を開けて入ってくる大切な人や、戻ってきた家族を、いつでも快く迎えてくれる。

ここは、世界で一番小さな、私だけの美術館だ。

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