旅行する理由をつくっているのは、OTAではない

宿泊施設を開発し、経営することは本当に大変です。
土地を探し、資金を集め、建物をつくり、人を雇う。
開業すれば、人件費、光熱費、固定資産税、保険料、清掃費、修繕費などがかかります。料理を提供すれば、食材や飲料の仕入れも必要です。
予約が入らなくても、これらの負担はなくなりません。
それでも「ここに泊まりに来てもらえる」と信じて投資する。
ホテルでも旅館でも貸別荘でも、宿をつくって経営している人は、もっと評価されていいと思っています。
旅行する理由をつくっているのは誰なのか
最近、ふと思うことがあります。
じゃらんがあったから旅行に行くのでしょうか。
楽天トラベルがあったから、その地域へ行くのでしょうか。
もちろん、OTAには大きな価値があります。
宿を探し、比較し、予約する。知らなかった施設を見つけるきっかけにもなります。
ただ、旅行者が本当に求めているのは、その先にあるものです。
このホテルに泊まりたい。
この温泉に入りたい。
この料理を食べたい。
この景色を見たい。
その体験をつくっているのは、現地の事業者です。
OTAは旅行者と宿をつないでくれます。
でも、旅行する理由そのものをつくっているのは、やはり現地だと思います。
一つの宿への投資が、地域に広がっていく
宿泊施設を一つつくれば、建設会社や設計会社、設備会社に仕事が生まれます。
開業後もスタッフを雇い、清掃やリネンを発注し、食材や酒を仕入れる。
宿泊客が来れば、周辺の飲食店や観光施設にもお金が流れます。
一つの宿への投資が、地域のさまざまな事業者へ広がっていく。
これが観光業の面白いところです。
しかも、その起点となる宿泊事業者は大きなリスクを背負っています。
客室が埋まらなくても建物は残る。人件費もかかる。設備は壊れるし、古くなれば再投資も必要になる。
手数料ビジネスとは、背負っているものがかなり違います。

自分も送客事業をやってきたからこそ思う
自分自身も、送客型の事業を成長させ、上場まで経験しました。
だから、送客ビジネスを否定するつもりはありません。
良い施設と旅行者をつなぐことには、明確な価値があります。
ただ、自分たちでも宿泊施設を開発し、運営するようになって、見える景色は変わりました。
何億円も投資して施設をつくる。人を雇う。365日運営する。
そして、売上が悪くても逃げられない。
送客する側だけにいた頃には、完全には理解できていなかった大変さがあります。
この話はOTA批判というより、自分自身への自戒でもあります。
OTAに負けないでほしい
OTAは便利ですし、集客力もあります。
だから、上手に使えばいい。
ただ、「OTAがなければ経営できない」という状態にはならない方がいいと思います。
公式サイトを育てる。SNSで発信する。自分たちの地域や施設について、きちんと情報を出していく。
そして今、生成AIによって旅行者の宿の探し方も変わり始めています。
これからはOTAで条件検索するだけではなく、
「温泉とサウナがあって、料理がおいしくて、静かに過ごせる宿を教えて」
とAIに相談して宿を探す人も増えていくでしょう。
これは宿泊事業者にとって、大きなチャンスだと思っています。
良い施設をつくり、その魅力を自分たちで発信する。
その情報が旅行者へ直接届くようになれば、OTAだけに頼る必要は少しずつ減っていくかもしれません。
良い宿をつくった人が報われる業界であってほしい
ホテルをつくる人。
旅館を守り続けている人。
貸別荘を経営する人。
地方で新しい宿泊施設に挑戦する人。
そういう人たちがいるから、そこへ行く理由が生まれ、旅行する場所が増えていきます。
もちろん、流通も広告も予約サイトも必要です。
ただ、観光を支えているのは、現地に投資し、リスクを背負っている人たちです。
OTAを上手に活用しながら、自分たちの商品を磨き、自分たちの言葉で魅力を伝え、お客様と直接つながる力も持っていく。
良い宿をつくった人にきちんと利益が残り、その利益を人や施設に再投資することで、さらに良い宿になっていく。
そんな循環が増えれば、日本の観光はもっと強くなるはずです。
宿をつくり、長く経営していく。
簡単にできることではありません。
だからこそ、挑戦している人たちがもっと報われる業界であってほしいと思います。
