桃に負けるすいか
すいかを食べたのは何年ぶりだろう。
しゃりっとした赤い果肉にかぶりついて、ふと思った。
じゅわっと甘い果汁が、すいかを持つ手を伝って滴る。

松本市の波田地区というところが、有名なすいかの産地だ。夏にしか使わない、専用の選果場があるほど。
だから夏になると、選果場に「すいか村」と名がつく直売所ができて地域ニュースになるし、近隣の直売所では大小さまざまなサイズのすいかが、所狭しと平台に並ぶ。
転居してきた最初の頃は、盆の帰省にすいかを買い、車に積んで帰った。あのころはまだ親戚に子供が多かったから、大きなものを買っても消費できた。
マンガみたいな光景だが、半分に切っても冷蔵庫に入らないサイズなので、丸ごとたらいに水を張ってすいかを冷やしたものだった。いまどきの水温では、さほど冷えないのだけれど。
たが、5年もしないうちにすいかを買わなくなった。なぜなら子供がみな成長して、すいかより桃の方が喜ばれるようになったから。
我が家は大人ふたり。
夫は「俺はすいか好きだよ」というけれど、ひと玉買っても食べきれない。
そしてやはり「桃が食べたい」というのだ。
朝食にしか果物を出さないので、たくさん買っても消費が追いつかない。
そして信州は果物王国である。
夏はすいかだけではない。
ブルーベリー、プルーン、桃にいたっては白桃から黄桃、果肉が柔らかい品種もあればかたくて甘い品種もあって、目移りするほど。
どれも食べたいとなると、すいかを買っている場合ではない。
そんなわけで今日は、年単位ぶりにすいかを口にした。
小さい頃は、夏休みの楽しみといえばすいかだった気がする。
桃なんて高価で、缶詰でさえお目にかからなかった。
たぶん子供の頃は、母がスーパーで半分に切られたものを買っていたのだろう。
三角形に切って、お皿に並んだそれをスプーンで種をほじりながら食べる。
塩はふらない。
甘くなるよというけれど、果物がしょっぱ甘いのはイマイチだと思う。
書いていて思い出したけれど、母が1/2に切ったすいかの果肉をスプーンで丸くくり抜き、外側を器にして、フルーツポンチを作ってくれたことがあった。
他の缶入りフルーツとあわせてすいかの器に戻し、サイダーを注ぐ。
サイダーもめったに飲めないものだったから、冷えたそれがとても美味しいかったし、楽しかった。
誰かの誕生日でもないはずだけど、あれはなんのイベントだったのか。
昔のすいかは、白いところがぶ厚かったので、食べたあと、皮をむいて白い部分を糠床に入れて糠漬けにしたものだった。
品種改良されて、最近のスイカは白い瓜の部分がほとんどない。
家で作るすいかの糠漬けなんて、もうお目にかからないだろう。
すいかの代わりに、シマウリを買ってきて糠漬けや浅漬けを作る。
瓜科のものは身体を冷やしてくれるから、すいかもシマウリの漬物も、暑い夏にちょうどいい。
そういえば、大きくなりすぎたきゅうりも、あれと似たような味がする。
瓜科のものは、果物でも野菜でも同じということか。

