乗船
次は江坂ですとアナウンス。電車が止まったので外に出た。なんとなく、いつも見ている景色と違う。
柱に書かれている駅名を見る。
「和歌山港」
背中を冷たいものが走る。そんなわけない。さっきまで大阪市内だぞ。江坂のアナウンス聞いたよな。
周りに人はひとりもいない。電光掲示板は終電の表示で止まってる。この時間だ、そうだろうな。乗る電車間違えたか?それにしては沿線が違いすぎる。
一滴も酒は飲んでない。眠くもない。ここから江坂ってタクシーでいくらになるんだ。
駅員がホームで叫んでる。
「ご利用ありがとうございました!お気をつけてお帰りください!」
おれは訳のわからないままに改札を出た。
あたり一帯、真っ暗だ。ざざんざざんと波の音が聞こえている。車も通らない。
Googleマップを開いて検索をかける。
「ネットカフェ」ない。
「ホテル」もない。
途方に暮れて歩き出した。
少し歩くと向こうのほうに、こうこうと電気の灯ったフェリーターミナルが見えた。あそこなら朝まで待てそうだ。明日朝イチで帰れば仕事には間に合うし。
自動ドアをくぐると人っこひとりいない。待合の椅子は多量にある。自販機で500mlのお茶を買って座った。なにが起こったんだろうな。寝ぼけてたんかな。寝不足とかでもないけどな。冷えたお茶を飲んだ。結露で手が濡れる。
腕時計の針は24時をさしてる。蛍光灯がチカチカと点滅している。
カバンを枕にしてベンチに横たわった。目を閉じる。波の音が聞こえてる。まぶたの向こうに蛍光灯の光が見える。
うつらうつらし始めたとき、ボォーッと汽笛が鳴った。
頭上でアナウンスが流れる。
「門司港行きフェリーにご乗船いただき、誠にありがとうございます」
乗船?
薄目を開けた。天井が低い。腹に覚えのない毛布がかかっている。
2等船室でむくりと起き上がった。小さい窓の外は真っ暗で、何も見えない。
