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「矜ころも、春ころも」#11

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 「わあ、立掟な防空壕がある。きちんず䜜られおるわぁ」


 居間に通されたハナは、庭に掘られたばかりの朚戞も汚れおいない壕を眺めた。

「うちは庭がないから、家の䞭の畳防空壕なの」


 桜の暡様が぀いた菖蒲色の防空頭巟を銖から䞋げ、束葉色の着物に暗玅色の瞞のもんぺ姿のハナは背がスラリず高かった。

 䞋町では庭がない家も倚数あった。
 その堎合は、家の䞭の䞀箇所を畳を䞊げおそこの地䞋を掘った。
 普段は畳を敷いお、避難する時は畳を䞊げお皆が入っおからたた畳で䞊郚を塞ぐのである。


「倧急ぎで先週拵えたものです。䞻人の職堎の方がお手䌝いにきおくれお  」


 柟はお茶ず矊矹を出した。婚瀌の時に頂いたものだ。


「ええっ矊矹うわ、久しぶり。いいのこんな立掟なお菓子」


「こちらこそ。垃だっお䞍足しおいるのに沢山頂いおしたっお、本圓に有難うございたす。倧切に䜿わせお頂きたす」


「あ、日の䞞の日でも䜿える柔らかい济衣垃も入っおいるから、匕き裂いお䜿っおね」


 ヒ゜っず小声でハナが囁いた。
 女性にずっお垃はいくらあっおも有難い。ガヌれや脱脂綿が欠乏しおいる今、倚くの女たちは叀垃を䜿っお毎月の憂鬱な時期を過ごしおいた。その垃も肌に銎染む柔らかい生地が奜たれた。

 

 凛は残りの矊矹を新聞玙に包んでハナに「お子さんにもどうぞ」ず枡した。


「わぁ  有難う。うちは仕立お屋をしおいたの。それで䜙り垃は出おくるのね。もし繕いやお盎しが必芁なら、い぀でも蚀っおね。軍服や囜民服も盎せたす」


「有難うございたす  」

 なんず心匷いのだろう。
 お裁瞫は母や祖母に教わったきり、埗意ではない柟にずっお旊那様の仕事着のお盎しがもしあったら狌狜えるだろうずヒダヒダしおいたのだ。
 恭しく挚拶をする柟に、クスッずハナは笑った。


「そんなに畏たらないで。私たち同じ幎くらいだず思うの。ええっず柟ちゃん、でいい」


「え、は、はい」


「先月ご挚拶にきおくれた時、匕っ越されおきた憲兵さんの奥様っおわかっお。うちの䞻人も憲兵なの。倧陞にいるけれど」


「えッ、そうなんですか」


「手玙はよく届くから元気だず思うわ。柟ちゃんは干支は」


「戌です」


「じゃあ䞉぀違いね。私は未。私のお母さんね、もう亡くなっちゃったんだけど吉原にいたのよ」


「    」


 柟の䞍安を打ち消すようにハナが語った。


「柟ちゃんに雰囲気が䌌おたの。こう蚀ったらなんだけど、蚀わなきゃわからない䜍のんびりした人で働き者だった。幎季が明けおお父さんず結婚しおからは昔のこずは党然喋らなかったから、私もお母さんが亡くなった時に、芪戚の人から䌝えられるたで知らなかったの」


「      」


「本圓は聞きたかったな。お母さんの昔のこず。本人は蚀いたくなかっただろうけど、それでお母さんを嫌いになるなんお、絶察ないもの」


「  そうだったんですか    」


「それにしおも柟ちゃん、産婆の資栌があるなんおびっくりしちゃった。貌り玙はしないの」


「あ  はい  出産時に必芁な噚具が準備できなくお、䞇䞀のこずを考えるず心配になっおしたっお  」


 柟はあらゆる事情の䞭から、最も圓たり障りなく、匷力な理由を遞んで䌝えた。


「そうかあ。ご近所さんも劊婊さん倚いから、重宝されるず思うけど」


 その埌は、代甚食や服の配絊刞に぀いお、他愛ない䞖間話をしおお茶を飲んだ。
 䞀九四二幎二月に「衣料点数切笊制」が始たり、衣料品は䞀人䞀幎で郜垂郚では癟点、郡郚では八十点ず定められた。

 䟋えば、毛垃が十八点、ワむシャツが十二点、囜民服が䞉十二点、袷が四十八点ずそれぞれの衣料品が现やかに点数付けられ、切笊の点数に応じお衣料品が買える仕組みであったが、倚くの人は衣料切笊を䜿わないたただった。手持ちの物を再利甚したり、手を倉え品を倉えおろしお倧事に䜿い続けた。
 特に朚綿の䞍足は深刻で脱脂綿の配絊もなくなった。

 ハナを玄関たで送り、柟はやっず胞に深く぀かえおいた蚀葉を吐き出せた。


「ハナさん。気にかけおくださっお有難うございたす。その、こっちに匕っ越しおきお、ずっず心现くお。お喋りする人もいなくお、淋しかったんです  だから、ハナさんが来おくれお、ずおも嬉しかった」


 うたく蚀葉に出せない気持ちを玡ぐうちに、涙がポロポロず出おきた。

 ハナは柟の様子をみお、


「柟ちゃん、もし日䞭䞀人なら私が行っおいる工堎に行く」


「工堎」


「兵隊さんのタバコを䜜るずころよ。配絊だけじゃ足りないもの。蟲家さんず取匕するのだっお、旊那さんの手前、なかなかやりにくいでしょう」


 それはかなり感じおいた。
 実際、ほずんどの家では闇で亀換するこずで生き延びおいたのだが、芋぀かるず没収されおしたう。しかも、䌊織は摘発する偎だ。

 あの駅の出来事を目の圓たりにしお以来、亀換するのを旊那様に内密に行っお良いものか悩んでいた。
 軍に所属しおいる恩恵で、たたに䌊織が食物を持ち垰っお来おくれるが、い぀恩恵に預かれるかわからない分心蚱ない。


「工堎で働いおいるず、特別に配絊手圓が貰えるの。乳飲み子の奥さんもいるし。私も針仕事だけじゃ䞍安だから行っおるわ。監督さんはカミナリ芪父だけどね。産婆さんをやるたでの繋ぎにいいかも」


 ふふっず笑っお「じゃあね」ずハナは垰っお行った。


「そうか  そういう手があったか  」


 柟は今䞀人である。婚瀌の日以来、旊那様は子䟛を䜜る気配が芋られない。子がいないのなら尚曎お囜に為に勀劎すべきではないか。

 

 今日のお倕飯は癜菜ず人参、干し怎茞のおうどんず、ひじきずお豆のお煮付け、湯豆腐、蜜柑だった。
 動物性の蛋癜質が今ない。


「え、工堎    」


 倕食時、䌊織は柟の提案に驚きの声を隠せなかった。
 垰宅した時に衚札の貌り玙がないのをみお、もしや、ずは思ったが。


「はい。食べ物も頂けるようですし。日䞭時間があるのでお勀めしたいのです」


「それは  玠晎らしいこずだず思いたすが、産婆の仕事はどうなりたす」


 柟は、ハナに話したこずず同じ理由を語った。


「今は、時期ではないず思っおいたす  」


「  そうですか    噚具の䞍足なら仕方がないか  」


 䌊織は暫く考えおいたが、思い切っお尋ねた。


「柟さん、他に理由があるのではないですか」


「      」


「貌り玙をしおから、あなたが毎日勉匷をしおいるこずも、手で予習をしおいるこずも芋おいたす。それほどやる気があるのなら、病院の産婊人科でお手䌝いをした方が、よほど圹立぀ず思うのですが。免状があるなら即戊力ですぐ雇われるはずです」


「      」


「産婆も産婊人科の病院も人手が䞍足しおいたす。劊婊さんも倚い。今埌のこずも芋据えおも働くいい機䌚だず思いたすが」


 うめよ増やせよの囜策で出産は戊時䞭掚奚された。
 男性のお医者は軍医ずしお招集され、千䜏では女医が産科の他に内科、小児科を担い、少ない産婆は呌ばれる範囲も広く、郜垂郚だけでなく足立の田舎たでもかけ走っおお産の介助をした。


「  病院は激務で、家のこずが疎かになるず思いたす。ですから  」


「家のこずは構いたせん。産婆になりたかったのでしょう」


 柟は心を噛み朰すように声を絞り出した。


「    自信がありたせんし、私には産婆になる資栌がありたせん」


「  柟さん」



「あ、今日はお颚呂、沞かしたすね。寒かったでしょう。ゆっくり浞かっおください」


 これ以䞊は居た堪れなくなり、䞭座しお野分が吹く倖に出る。

 柟は先ほどの䌚話を忘れるように、颚呂堎の釜戞に萜ち葉ず小枝をせっせず攟り蟌んだ。

 勢いよくマッチで擊る。

 小指ほどの灯に浮かんだ顔は、厠の萜ずし玙のようにくしゃくしゃに歪んでいた。



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