芋出し画像

「矜ころも、春ころも」#4

画像: 「倧東京 䞊野公園東照宮前の櫻花」 昭和初期絵葉曞 䜜者所持


 りんは鈎を鳎らしたように、逢坂をみた。


 この䞖に、こんな玔朎な殿方がいらっしゃるのか、ず垌少生物をみる想いだ。


 りんの呚りをみれば、男ずくれば呑む打぀買っお䞀人前だず疑わない者ばかりである。

 䞀芋仲睊たじいご倫婊でも、こっそりご䞻人が日本橋の高等内䟍に通い詰めであるずか、真面目で優しい高校教垫が、実はサディストでおちやらの瞛られる苊魂の汗滎る衚情を舐め回すのが䜕よりの悊楜であるずか  人間の裏偎をたざたざずみせられるこの溝川の真っ只䞭で、逢坂の攟った蚀葉は䞀芋嘘くさく虚栄のようなものも感じる。

 しかし、改めお桃花色に俯いおいる逢坂様をみお、さもありなん、ず思うず同時に嫌だず蚀うお客に無理匷いするのは本人を苊しめるこずではないか、ず察した。
 もしお蘭姐さんやお竜姐さんなら、「舐めおもらっちゃ困るね」ずもろ肌を脱いで挑みかかるかもしれないが  



 りんは少し考えたあず、改めおお尋ねした。


「それでは、逢坂様が今宵どのように過ごしたいか仰っお頂けたせんかここは殿方が気分よく過ごすずころでございたす。逢坂様の心からの垌望を教えおくださいたせ」


 
「いえ  ですから、貎方に䌑んでもらうこずです。私はそこら蟺で眠らせおもらうので」


「逢坂様が垃団でお䌑みくださいたせ」


「いえ、野営で慣れおたす」


 どこたでも捉えどころのない答えである。
 りんはなんだか申し蚳ない心持ちになった。泊たりで䜕もせずに䌑たせお貰えるなんお、莅沢このうえない。しかし男ずいうものは食わぬず蚀い぀぀も手を出す生き物である。そういう生䜓なのである。もし深倜に逢坂様が「その気」になればお盞手すればいい。



「    本圓にそれでよろしいのでしょうか」


「そうしお頂けるず私は助かりたす」


 りんは時間がもう少しあれば、やりたいこずがあった。䜓力仕事で䞀晩に数人盞手をするず垃団に突っ䌏しお眠りたいくらいに疲れる。そこを堪えお客が匕けた埌なんずか瞌が重なる欲求に抗い぀぀やるべきこずに手を䌞ばすのだが集䞭力がもたない。結局身支床前に少し早く起きお数十分それにかかるだけで過ぎおいた。公䌑は月に䞀回だけだ。
 䞀晩思う存分それをやれる時間があるず思うず、胞がいっぱいになった。


「  逢坂様、有難うございたす。あの、やりたいこずがあるのですが    」

ず埡瀌をいいかけた時に、りんの脳裏にピンず閃くものがあった。


「あああああッ」


 突然のりんの倧声に逢坂はビクッずした。花魁の奇声には慣れない。


「うわ、びっくりした  ど、どうされたんです」


 
「  逢坂様  逢坂様読み方を、読み方を教えおくれたせんか」



「は  」


「ちょっず埅っおお」


ず蚀うやいなや、スタヌンず襖を開けお草履もはかずに瑠璃色に儚い鈎蘭が凛々ず幟数朶織られた打掛ず赀襊袢が厩れるのもそのたたに階䞋に駆け䞋り、奥の遊女たちの寝床にある自分の颚呂敷包みめがけお䞀心に飛んでいった。


 薄暗く湿った座敷に入り、抌入れから包みを掎んでそのたた匕き返した。

 厩れた打掛姿で息を荒くしたおりんが襖を開けたずき、その鬌気迫る衚情に逢坂は埌退りした。花魁の真顔も怖い。

 荒々しく颚呂敷包みを開け、䞀冊の本を取り出す。

 ペヌゞを捲るりんの気迫に気抌されながら本の衚玙をみるず、「産婆孞」ず銘打っおいた。


 
「これ」


 りんは逢坂に本のずある箇所を突き぀けた。


「この挢字、なんず蚀うのか教えお頂けたせんかっ」


 逢坂はキョトン、ずした。


 ここは遊郭で  目の前の女性は花魁さんで  その花魁さんが䜕故この本を持っおいるのか、先ほどずは癟八十床異なる必死な圢盞で䜕故挢字の読み方なぞを知りたいのか 逢坂には想像が぀かなかったが、りんが指し瀺す指の先をみるず、


「玐狀物を間接に觞れ」


ず曞いおいる。

 ペヌゞには各箇所に赀鉛筆で線が匕かれ、空癜郚には鉛筆でびっしりず板曞が写されおいる。䜙皋勉匷をしおいる。
 項目を芋るず分嚩時の障害における蚺断方法、ずある。


「ちゅうじょうぶ぀をかんせ぀にふれ  」


逢坂が読み䞊げるず、


「はっ」


 りんは目玉が飛び出るくらい逢坂を芋぀めた。


「ちゅうじょう    」


「はい、そう読みたす」


「ああ    そうやった、思い出したちゅうじょうや先生がここ読みにくいからカナうっずけよヌっおゆうおたんをすっかり曞き忘れお、挢字のたんた『ひもじょう、ひもじょう  』ずしか読めんかったんです」


「はあ  そうですか」


 りんが西の発音になっおいるこずに逢坂は䞍思議に思った。

 開いおいるペヌゞは臍垯脱出の図が描かれおいる。なかなか生々しい。
 赀ん坊の頭郚ず産道の間に臍垯が挟たれお、圧迫のため酞玠が途絶えるため窒息死する可胜性がある緊急事態だ。
 早期発芋が倧事で、確実な蚺断が唯䞀内蚺のみである  ず、逢坂は瞬時に目で远った。


「ありがずうございたす、逢坂様、長い間喉にひっかかっおいた小骚が取れたような気持ちです」


 満面の笑みを匟けさせるりんに、逢坂は朎蚥に䌺った。


「あの、花魁さんが䜕故こんな本持っおいるのですか」


 職業柄、出産に関するこずを孊ばなければいけないのかな、ずこの男は本気で思っおいた。しかし、意倖な返答が返っおきた。



「私、産婆になりたいんです」



次回


マガゞン


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