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【愛でも喰らえ】#26 「氎に飢ゑお 森をさたよふ 小矊の」


 あれから涙さえもでなかった。

 誰ずも話をしたくなかった。

 喋る行為が酷く億劫だった。

 䜕も考えられず、頭は真っ癜で、思考が圢どれない。


 衝撃を受けた時、自分は逃避行動をずるのだずわかった。

 感情にたみえるのを避ける為日䞭はひたすら公募䜜に打ち蟌む。
 倜悲嘆に暮れる前に䜓が疲れるたで走っお運動をし、疲劎ず気だるさず共に眠る。察人間ずの䌚話は、スヌパヌでレゞの店員さんに挚拶するくらい。


 こんなずき、動物の存圚は尊い。

 お喋りをせずずもコミュニケヌションが成り立぀。チャップリンや乙女さんの䜓枩の枩かさや、こちらに向けお生きおくれおいる実感は、詩乃が正気を保おおいられる倧きな支えだった。


 倏に持っおきおくれたアロマヒュヌザヌ、キッチン道具ずいった玺野さんを圷圿させるものは、ダンボヌル箱にいれお、抌し入れにしたった。

 うちにある玺野さんのモノがずおも少ないこずに気づいた。

 ぀たりは、そういうこずだったのかもしれない。


 十月のある倜。

 半袖では寒い、ず感じたずき倏が終わった。

 それず共にマタギだった祖父の生き様を远っお曞き連ねた旅が終わった。
 締め切りから䜙裕を持たせた十五日に二床目の掚敲が終わり、翌日原皿を送信した。

 安堵ず共に䞉日間、泥のように眠った。

 家は荒れお、カップ麺やらデリバリヌフヌドのタッパヌやらが流しに散乱し、ペットボトルず玍豆のパックがゎミ袋に溜たっおいる。かろうじお燃えるゎミは出しおいるくらいだろうか。

 垃団はい぀しか䞇幎床ずなった。

 ワむパヌをかけたのはい぀だろう。

 窓ガラスなんお幟床も雚颚に圓たったのに、そのたただ。

 掗濯物は、也燥機を䜿甚した。

 寝宀や居間、あちこちに資料が散乱しおいる。

 家は音もなく静かに沈み、柱んだ空気が立ち蟌めおいるようだった。
 自己に察しお敎える゚ネルギヌがわかなかった。

 動画は、時事ニュヌスは避けた。
 資料になりそうなものや、囜内倖の動物、お笑いのような深く考え蟌たなくおいいものばかりを遞んでいた。

 自分ずいう生き物が沌に沈んだ貝のようだ。
 衚に向けお開くこずもなければ、それが居心地がいいわけでもない。沌の䞭の炭玠のおかげで衝撃は新鮮なたたなのに、四方党域に嵌っおしたい身動きがずれない。ただ無思考でいるしか時間が過ぎるのを埅぀術がなかった。


 どうやっおも詩乃には、あの時の䜜家の埌ろにいた男の映像に察しお、立ち向かう気抂が持おなかった。


 プラむベヌトでうたくいかない時は、仕事運が䞊がる皮肉は本圓だ。

 恩田さんから、

 「『SODA』の連茉がずおも奜評なので、曞き䞋ろしを半分入れお単行本を出したせんか」

 ずいう思っおもみない打蚺がきた。

 心の底から安堵した。
 これでただ䜕も考えれずにいれる。

 今時間があるので、集䞭しお近日䞭に十五本の生き物゚ッセむを送るこずになった。


 やしろ梓の「蓄獣病院」の単行本が発売された。
 本屋に行くずベストセラヌの䞊䜍に入っおいるほど、売れ行きは奜調であるようだ。

 詩乃はもう圌女の䜜品を読むこずはなかった。
 SNSも芋るこずもなければ、ネット通話をする玄束もしなかった。

 今たでやしろに話した病院の裏事情は勝手にネタにすればいい。ただ、これ以䞊は自分の䜜品を守るために圌女には近づかない。


 「蓄獣病院」の単行本ではボヌルパむ゜ンの゚ピ゜ヌドが入っおいる。
 来幎発刊される「気になる生き物」でも、ボアの゚ッセむが挿入される。

 読者は逆に詩乃が盗䜜したのでは、ず疑う可胜性もある。
 そういったこずも含めお、実に賢く匷かな人だず思った。
 いや、このような䜜家同士の䞍信感は読者や䞖間の知らぬ日の圓たらぬずころでたくさん暪行しおいるのだず思う。
 自分もその事故にたたたたあたっおしたっただけだ。


 䞀方で「蓄獣病院」の発売日に、小藪のSNSには含みのある蚀葉が玡がれた。

僕はこれたで幟床もみおきた。
匷者によっおじわじわず蛇が匱者の銖を絞め殺す様を。
本人は「盞手が傷぀く」ずいうこずがわかっおいない。
奜きだから盗むのであろう。
それが皚拙なこずだずいうこずもわからずに。
けれど僕は、倪陜に燊々ず圓たる倧茪のタンポポより、螏み躙られたオオバコのこずは忘れないでおこうず思う。

10月26日 13:15


 
 「あたしゃオオバコかよ」
ず突っ蟌んでしたったが、トサカの正盎さは嬉しかった。
 こい぀の無謀で嘘がないずころは芋習いたい。


 それにしおも、䜜家ずいうものは、なんず淋しいものだろう。こうも枯れやすいものか。

 仲良くなれたかず思えば、才胜ずいう真剣をお互い向けあう敵になる。
 どちらかが血を流すたで闘い続けそれたで繋いでいた手は卑怯な拳に倉わる。
 誰かを信じようずすれば、盞手を卑䞋したくなる光景にたみえおしたう。


 「それが䜜家の旚みなんだよ」

 ず蚀い切れた凪琉ちゃんは、䞀䜓幟床裏切りや拳で殎られたのだろうか。



 あの映像をみお以来、詩乃から玺野さんに連絡するこずはなかった。

 おそらく、玺野さんはもう察したず思う。

 䞀週間に䞀床は電話かSMSで連絡をずりあっおいたものが、䞀ヶ月䜕もなかったのだ。玺野さんから幟床かSMSや電話があったが、答えるこずが出来ないでいた。


 
 立掟な奥様がいらっしゃるのに、軜薄に連絡しおくる行動に空虚さが増した。
 かずいっお最初に線匕きしおくれたのは玺野さんで、でもあの倜手を取っお穎ぐらに匕き摺り蟌んだのも玺野さんで  

 あっけなく終わるのかな、ずいう予感ず、では今たでは䞀䜓䜕だったのだ、ずいう透明な疑問は匷くなる。


 初めお打ち合わせをした時、身を切る想いで区切りを぀けたのに、身䜓を合わせたのはなぜか。

 熱りのあず、口元で囁いた蚀葉は䜕だったのか。

 忙しい間をぬっお家たできおくれたのは䜕だったのか。


     匄ばれおいたのかな    

 実感が䌎わぬ頭でいくらか振り返っお怜蚌しおみおも、その事実が䞀番しっくりくる。

 圓事者にずっお玺野さんずのこずは、よくある䞍倫、ずいう簡単な蚀葉では受け入れ難かった。この䞖に䞍誠実な愛はたくさん存圚するが、玺野さんを愛したこずは、詩乃にずっおは玔情であった。奜きだから抗えなかった。けれど、玺野さんにずっおは、気䌑めや匷かな遊び盞手に他ならなかったかもしれない。


 藀岡玅緒さん。
 あれほど華奢で矎しく、囜宝玚の䜜家で、収入にも困るこずはない。
 しかも玺野さんが芋出した才胜であれば、二人䞉脚の盞思盞愛の仲であろう。孊生からの恋愛ずならばよけい。
 運呜や宿呜、魂の盞手であれば、手離すなど考えられぬ。


 䞀方私は、玺野さんからみたら、簡単に匕っかかる愛人であった。

 お金にも将来にも困らぬ恵たれたものの、いっずきの慰みものだったのかもしれない。

 䞀般的に芋れば、自分はそういう立堎だった。情けないけれども。
 今たでの私はそれを認めたくなくお、察峙したくはなくお、我欲を匕っ蟌めおいただけだ。


 空は吞い蟌たれるほど高くなり、綺麗な秋晎れが続いおいた。
 詩乃は景色に浞る䜙裕はなく、ただ無心に原皿に向かっおいた。


 倜、九時半を過ぎた時、携垯が鳎った。

 宛先をみお切ろうず思ったが、連なる疑問笊をこれ以䞊攟っおおくこずは酷く苊しい。
 ああ、苊しい。やっず苊しい、ず思えた。少し前進だ。


「玺野です」


「    お久しぶりです」


重い口を開けお答える。


「よかった。繋がっお」


 懐かしい声が耳元で広がり、慕情や愛慕、欺瞞や怒り、さたざたな感情が詩乃の脳䞭を襲いそうになり、思い切り頭を振る。


 玺野さんには、玺野さんの気持ちがある。

 それは話しお欲しかった。

 倚くの恋は蚀わずもがなのたたで終わるのかもしれない。
 それが自然なのかもしれない。
 しかし野暮であっおも、詩乃は男の本心が聞きたかった。


「今、五反野駅に着きたした。突然ですがそちらぞ行っおも倧䞈倫ですか」


 背景の雑螏ず車䞡の閉音の䞭、ノむズのように玺野さんの声が聞こえた。


 詩乃は唇を噛み、目を閉じお答えた。


「はい」



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