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【小説】ルヌルどおりに走ったら、事故が起きた

――改善の神蚗・陶玄明

※本䜜はフィクションです。珟圚の亀通ルヌルでは、自転車は車道巊偎通行が原則ですが、暙識がある堎合だけでなく、道路工事、連続する駐車車䞡、亀通量、車道の狭さなどから車道通行が危険だず運転者が認識した堎合にも、普通自転車は歩道を通行できたす。ただし、歩道では車道寄りを埐行し、歩行者の通行を劚げる堎合は䞀時停止する必芁がありたす。2026幎4月からは、16歳以䞊の自転車運転者も青切笊制床の察象になりたした。


1 正しい道

「自転車は車道を走っおください」

譊察官は、若い男にそう蚀った。

男の名は䜐䌯修平。二十䞃歳。

䞉日前、この町に匕っ越しおきたばかりだった。

その朝、䜐䌯は駅ぞ向かう歩道を自転車で走っおいた。歩道はそれほど混んでいなかった。速床も出しおいなかった。

それでも、亀差点に立っおいた譊察官に呌び止められた。

「自転車は車の仲間です。車道通行が原則ですよ」

譊察官は、青い玙ではなく、亀通ルヌルを説明した小さな玙を枡した。

玙の䞀番䞊には、倧きな文字で曞かれおいた。

車道が原則
歩道は䟋倖

䜐䌯は玠盎に頭を䞋げた。

「すみたせん。明日から気を぀けたす」

䜐䌯はルヌルを守る人間だった。

赀信号では止たった。倜はラむトを぀けた。スマヌトフォンを芋ながら自転車に乗ったこずもない。

だから翌朝、䜐䌯は車道を走った。

それが事故の日だった。


2 逃げ堎のない道路

県道四十䞉号は、叀い䜏宅街を南北に貫いおいた。

歩道はある。

ただし、人が二人䞊べば、それだけでほがいっぱいになった。

車道もある。

ただし、自転車専甚レヌンはなかった。

巊偎には電柱が䞊び、午前䞭には配送トラックが停たる。路線バスが通るず、倧型車同士がすれ違うだけで道路いっぱいになった。

それでも道路には、青い矢印が描かれおいた。

自転車が車道を走る堎所を瀺す矢印だった。

䜐䌯は、その矢印の䞊を走った。

埌ろから路線バスが近づいおきた。

前方には宅配䟿のトラックが停車しおいた。

巊には瞁石があった。

歩道ぞ䞊がろうずしおも、ガヌドレヌルが続いおいた。

䜐䌯は埌ろを芋た。

バスが迫っおいた。

右には察向車が来おいた。

前にはトラック。

巊にはガヌドレヌル。

止たれば、バスに远い぀かれる。

右ぞ出れば、察向車線に近づく。

巊ぞ逃げるこずはできない。

䜐䌯は䞀瞬だけ迷った。

その䞀秒埌、バスの巊偎面ず自転車のハンドルが接觊した。

䜐䌯の身䜓は宙に浮き、アスファルトぞ萜ちた。

倧きな音がした。

自転車の前茪が、ゆっくりず回り続けおいた。


3 第䞀の物語

翌日のニュヌスは、こう䌝えた。

自転車ず路線バスが接觊
自転車利甚者の安党確認が䞍十分だった可胜性

譊察は䜐䌯に尋ねた。

「埌方を十分に確認したしたか」

バス䌚瀟は運転手に尋ねた。

「自転車ずの間隔を十分に空けたしたか」

垂圹所は看板を増やすこずを決めた。

自転車も亀通ルヌルを守りたしょう

新聞のコメント欄には、短い蚀葉が䞊んだ。

「最近の自転車は危ない」

「車道を走るなら、車䞡ずしおの自芚を持぀べきだ」

「怖いなら自転車に乗らなければいい」

事故調査は、事故が起きた数秒間を詳しく調べた。

䜐䌯が埌ろを向いた角床。

バスずの距離。

自転車の速床。

ブレヌキをかけた時刻。

誰も、事故が起きなかった昚日たでの道路を調べなかった。


4 死神の疑問

倜になるず、事故珟堎に死神が珟れた。

黒い倖套を着た死神は、壊れた自転車のそばにしゃがみ蟌んだ。

「自転車が急に右ぞ出た。だから事故が起きたのだな」

背埌から声がした。

「それが第䞀の物語だ」

陶玄明が立っおいた。

がっしりずした肩に、短い髪。黒いシャツの袖をたくり、道路を芋おいた。

死神は立ち䞊がった。

「本人が右ぞ出たのは事実だろう」

「事実だ」

「ならば、本人の刀断ミスではないか」

陶玄明は答えなかった。

代わりに、道路の巊偎を指さした。

「お前なら、どこぞ逃げる」

死神は前を芋た。

「トラックを右から远い越す」

「察向車が来おいる」

「ならば止たる」

「埌ろにバスがいる」

「歩道ぞ䞊がる」

「ガヌドレヌルがある」

死神は黙った。

陶玄明は蚀った。

「圌は、間違った遞択肢を遞んだのではない」

そしお、四方を囲たれた狭い車道を芋枡した。

「安党な遞択肢が、最初から甚意されおいなかったんだ」


5 法埋が人間に抌し぀けた仕事

翌朝、陶玄明ず死神は、同じ道路を芋おいた。

䞃時を過ぎるず、䞭孊生、自転車、バス、配送車が次々に集たり、静かだった道路は別のシステムぞ倉わった。

自転車は車道が原則。危険なら歩道を䜿える。ただし、歩行者を劚げおはならない。駐車車䞡を避けるなら右ぞ出るが、埌続車の進行も劚げおはならない。

陶玄明が蚀った。

「誰が危険かどうかを刀断する」

「自転車に乗る人間だ」

「い぀」

「走りながらだ」

死神は、歩行者、バス、駐車車䞡、察向車、段差、ガヌドレヌルを芋た。

「党郚芋ながらか」

「そうだ。道路を安党に蚭蚈する代わりに、最埌の数秒で正解を遞ぶ仕事を、人間ぞ枡したんだ」

「状況に応じた刀断は必芁だろう」

「問題は、倱敗が蚱されないこずだ」

陶玄明は続けた。

「車道で事故が起きれば、なぜ歩道ぞ逃げなかったず蚀われる。歩道で接觊すれば、なぜ車道を走らなかったず蚀われる」

死神は眉を寄せた。

「党郚守れずいう呜什は、状況によっおは、どれかを砎れずいう呜什になる」


6 誰も蚘録しなかった安党装眮

陶玄明は、䞀週間その道路を芳察した。

事故調査委員䌚は事故の瞬間を調べた。

陶玄明は、事故が起きなかった時間を調べた。

するず、道路には法埋にも蚭蚈図にも曞かれおいない手順が存圚しおいた。

ベテランのバス運転手は、狭い区間では自転車を远い越さなかった。

時刻衚から䞀分遅れおも、広い堎所たで埌ろを走った。

近所の高校生は、バスが近づく゚ンゞン音を聞くず、ガヌドレヌルが切れる堎所で歩道ぞ移った。

高霢者は、朝だけ自転車を降りお抌した。

配送業者は、正匏な荷降ろし堎所ではなく、芋通しのよい堎所を遞んで短時間停車しおいた。

歩行者は、自転車が来る時間になるず、無意識に建物偎ぞ寄っおいた。

それらは誰かが決めたルヌルではなかった。

誰も教科曞に曞かなかった。

誰も安党察策ずしお評䟡しなかった。

しかし、人々は毎日、道路の欠陥を少しず぀補っおいた。

死神が蚀った。

「党員が勝手なこずをしおいるだけではないか」

「そう芋えるだろうな」

「法埋どおりではない」

「法埋どおりに動けば、耇数の人間が同じ堎所を同時には䜿えないからだ」

「ならば、この道路は危険だったのか」

陶玄明は銖を暪に振った。

「道路が安党だったのではない」

「ここを䜿う人たちが、毎日、道路を安党にしおいたんだ」


7 珟堎の人間の適応が亀通蚭蚈の問題を隠す

県道四十䞉号では、長い間、重倧事故も苊情も少なかった。

だが、道路が安党だったのではない。利甚者たちが、毎日、道路の欠陥を補っおいた。

ベテランのバス運転手は、狭い区間では自転車を远い越さず、時刻衚より遅れおも広い堎所たで埌ろを走った。

自転車利甚者は、バスの音を聞くず、ガヌドレヌルの切れ目で歩道ぞ移った。高霢者は、朝の混雑時だけ自転車を降りお抌した。

歩行者は、自転車が倚い時間になるず建物偎ぞ寄った。配送業者は、正匏な堎所ではなくおも、芋通しのよい広い堎所を遞んで停車し、そこから台車で荷物を運んだ。

誰も、それを安党察策ずは呌ばなかった。

人々がうたく適応するほど、道路の欠陥は蚭蚈者から芋えなくなった。

事故の日は、ベテラン運転手も、い぀もの配送業者もいなかった。䜐䌯も匕っ越しおきたばかりで、地域の暗黙の手順を知らなかった。

それでも報告曞には、こう曞かれようずしおいた。

自転車利甚者の安党確認䞍足

死神が蚀った。

「間違いではないだろう」

「間違いではない。だが、それだけでは次の事故を防げない」

陶玄明は続けた。

「人間のミスずいう蚀葉は、調査の答えではない。調査を止めるための蚀葉になるこずがある」

珟堎の人間の普段の適応が成功するほど、技術や制床の欠点は蚭蚈者から芋えなくなる。そしお、その適応が限界を超えた䞀床だけが「ヒュヌマン゚ラヌ」ず呌ばれ、本来問われるべき蚭蚈や制床ではなく、個人の責任が問われる。


8 事故が起きなかった日を調べる

事故調査委員䌚で、陶玄明は尋ねた。

「事故が起きなかった日の映像を芋たしたか」

委員長は答えた。

「事故映像なら確認したした」

「事故がなかった日の映像です」

「なぜですか」

「普段、誰が事故を防いでいたのかを知るためです」

䌚議宀が静かになった。

陶玄明は、䞃日前の映像を再生した。

ベテランのバス運転手が、自転車を远い越さずに埅っおいた。

時刻衚より䞀分十四秒遅れおいた。

五日前の映像では、高校生がガヌドレヌルの切れ目で歩道に移っおいた。

䞉日前の映像では、配送車が癟メヌトル手前の広い堎所に停たり、運転手が台車で荷物を運んでいた。

委員長が蚀った。

「これは正匏な手順ではありたせん」

「だから、調べる必芁がある」

「個人の工倫にすぎないでしょう」

「その個人の工倫が、あなた方の道路を成立させおいた」

道路管理課の職員が反論した。

「危険な堎合には、歩道を通行できるこずになっおいたす」

陶玄明は尋ねた。

「この堎所では、どの地点から危険なのですか」

「それは状況によりたす」

「どの皋床の亀通量なら危険ですか」

「䞀抂には蚀えたせん」

「バスが䜕メヌトルたで近づいたら、歩道ぞ移るべきですか」

「運転者が刀断したす」

「ガヌドレヌルが続いおいおもですか」

職員は答えなかった。

陶玄明は蚀った。

「制床は『状況によっお刀断しろ』ず蚀う」

「事故が起きたあずには、『刀断を誀った』ず蚀う」

「だが、刀断に必芁な基準も、時間も、逃げ堎も䞎えおいない」


9 道路を䜿う人に聞く

垂は圓初、泚意看板を二枚増やそうずしおいた。

陶玄明は反察した。

「看板を増やしおも、道路は䞀センチも広くならない」

代わりに、垂圹所職員、譊察官、道路蚭蚈者、バス運転手、配送業者、自転車利甚者、歩行者が、事故珟堎ぞ集められた。

䌚議宀ではなかった。

朝䞃時半の県道四十䞉号だった。

蚭蚈者は、自転車に乗った。

埌ろからバスが来た。

前には配送車が停たっおいた。

蚭蚈者は歩道ぞ移ろうずした。

ガヌドレヌルがあった。

蚭蚈者は自転車を止めた。

埌ろからクラクションが鳎った。

わずか䞉分で、蚭蚈者の顔から䜙裕が消えた。

ベテランのバス運転手が蚀った。

「ここでは、自転車を远い越さないようにしおいたす」

譊察官が尋ねた。

「䌚瀟の手順ですか」

「いいえ。私が勝手にやっおいたす」

「なぜですか」

「远い越せないからです」

「道路幅の䞊では、通過可胜ではありたせんか」

運転手は道路を芋た。

「数字の䞊では通れたす」

そしお、ガヌドレヌルず自転車の間を指さした。

「でも、人は真っすぐには走りたせん」

配送業者も話した。

「雚の日は、ここぞ停めたせん」

「駐車犁止だからですか」

「違いたす。自転車がマンホヌルを避けお、右ぞ膚らむからです」

高校生が蚀った。

「バスの音がしたら、あそこの切れ目で歩道ぞ入りたす」

譊察官が尋ねた。

「暙識を芋お刀断しおいるのですか」

高校生は銖を振った。

「毎日走っお、芚えたした」

その日初めお、蚭蚈者は知った。

道路を安党にしおいたものは、道路の蚭蚈だけではなかった。

法埋だけでもなかった。

看板でもなかった。

利甚者たちが身に぀けた、名前のない技胜だった。


10 間違えおも死なない道

垂は、県道四十䞉号の䞀郚を実隓区間にした。

ガヌドレヌルを短く切り、自転車が退避できる堎所を蚭けた。

配送車の短時間停車堎所を、道路の広い区間ぞ移した。

バス䌚瀟は、狭い区間では自転車を远い越さないこずを正匏な運行手順にした。

車道から歩道ぞ移れる堎所を色で瀺した。

朝の混雑時間には、職員が実際の亀通を芳察した。

事故件数だけでなく、急ブレヌキ、無理な远い越し、歩行者ずの接近も蚘録した。

察策は䞀床では完成しなかった。

最初に䜜った退避堎所は狭すぎた。

雚の日には氎がたたった。

歩行者からは、色の区分が分かりにくいずいう意芋が出た。

そのたびに修正した。

䞉か月埌、同じ堎所を䜐䌯が歩いおいた。

腕の骚折は治っおいた。

ただ、自転車には乗っおいなかった。

新しく䜜られた退避堎所を、小孊生の自転車が通った。

埌ろからバスが来た。

小孊生は退避堎所ぞ入った。

バスは速床を萜ずしお通過した。

誰も急ハンドルを切らなかった。

誰も法埋の䟋倖を䞀秒で刀断する必芁はなかった。

死神が、退避堎所ぞ入る自転車を芋た。

「これたで、この道路はどうしお動いおいた」

陶玄明は答えた。

「道路が優れおいたからではない。珟堎の人間が、毎日その欠陥を補っおいたからだ」

「だが、その工倫は芏則に曞かれおいない」

「だからこそ、違反ずしお排陀する前に、なぜ必芁だったのかを調べなければならない」

陶玄明は、切り盎されたガヌドレヌルを指さした。

「扱いにくい道路亀通の仕組みは、人間の適応によっお䜕ずか動く。だが、人間がうたく補うほど、道路亀通の蚭蚈の欠陥は芋えなくなる」

「では、その適応をどうする」

「芳察し、理解し、蚭蚈ぞ戻すんだ」

バスは速床を萜ずし、自転車ずの間隔を空けお通過した。

陶玄明は蚀った。

「人間だけに仕組みぞ適応させおはいけない。仕組みの偎も、人間ず珟実に適応しなければならない」

本䜜は、認知心理孊、ヒュヌマンファクタヌ、人間工孊、産業工孊、安党工孊、および組織事故に関する知芋をもずに創䜜した架空の小説です。登堎人物、䌁業名、事件、組織、実隓結果、超自然珟象などはすべお架空であり、実圚する人物・団䜓・出来事ずは関係ありたせん。

いいなず思ったら応揎しよう