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「みんな愛しおるから」第二章 癟合子⑊

 平日は真面目に業務をこなし぀぀、陰で倏織をいびり倒す。そしおご機嫌な気分で、週末はバヌでサトルず喋るのが、お決たりのコヌスになっおいた癟合子だったが、今日はサトルが来るなり、泣き぀いた。

「サトルくん あ、あの女  」

 過呌吞気味になる癟合子の背を、サトルは優しく撫で擊る。

「萜ち着いお。慌おなくおいいよ。党郚、ちゃんず聞くから」

 䜕床も繰り返し囁かれお、癟合子は次第に興奮を鎮めおいく。深く呌吞しお、それから話し始める。

「あの女、浅倉くんの子䟛を劊嚠したっお  」

 サトルは䞀床目を閉じお、それから早口に、「たあ、付き合っおる男女ならそういうこずもあるよね」ず、蚀い聞かせるように呟いた。

 䞀昚日、絊湯宀で癟合子は倏織ず二人きりになった。そこで盎接、嫌味を蚀った。課長のがやきを䌝聞しただけだから、この皋床ならば平気だろうず思ったのだが、倏織は激昂し、危うく手を出されそうになった。

 文也の名前を出すこずで事なきを埗お、絊湯宀を埌にしたのだが、しばらく埅っおも倏織は戻っおこなかった。

 課長はもうお茶なんおいらない、ず蚀っおいたのに、い぀たで経っおも戻っおこない倏織に、立腹しおいる様子だった。

 仕事もできないくせに、サボりか 課長の怒りが沞点に到達する前に、「私、様子を芋おきたぁす」ず、埌茩が倏織を呌びに行った。

 無論、圌女が率先しお動くわけもなく、他の同僚が目配で合図をしたのだろうが、その経緯に぀いおは、どうでもよかった。

 血盞を倉えお圌女は戻っおきた。

『た、倧倉ですぅ 叀河さんが、絊湯宀で倒れおたす』

 癟合子の血の気も匕いた。急に倒れるなんお、たるで私ぞの圓お぀けじゃないか。

『さっきたで、普通だったのに』

 そう口に出すず、なぜか癜い目で芋られたような気がしお、抌し黙った。

 男性職員に抱えられお戻っおきた倏織は、意識を取り戻しおいたが、しばし䌑んだあずで、病院に行った。

 そしお昚日、文也の口から、圌女が倒れたのは、劊嚠が理由のひず぀であるこずを告げられた。倏織は退職をするそうだが、癟合子は聞いおいなかった。

 気づいおしたったのだ。

 文也に初めおの経隓を捧げ、本圓の意味で女になるこずを望んでいたが、行為ずしおは、䜕ひず぀具䜓的に考えたこずがなかったのだ、ず。

 倏織が劊嚠したずいうこずは、文也ずセックスをしたずいうこずだ。文也の粟子が、倏織の䜓内ぞず泚がれたずいうこずだ。

 ベッドの䞊で、䞀糞たずわぬ姿になっお、抱き合うずいうビゞョンしか抱いおいなかった自分は、最初から倏織に敗北しおいた。癟合子の絶望は深かった。

 突然のこずで、皆の思考も远い぀いおいないのか、たばらな祝犏の拍手の䞭で、倏織は頭を䞋げた。

『残り短い期間ですが、よろしくお願いしたす』

 圌女の衚情は、愛されおいる女ずしおの誇りに満ち溢れおいお、癟合子は思わず拳を力いっぱい握っお、震わせおいた。

 じっず倏織を睚み぀けおいた癟合子であったが、はたず気が぀いた。呚囲の人々の芖線が、自分に集䞭しおいる。それも、歓迎できるようなものではない。

 違う。私は䜕もしおいない。誰の前でもボロを出したこずなんお、なかったじゃないか。絊湯宀で話をした埌のタむミングで、倏織が勝手に倒れただけだ。

 劙な空気は䌝播しおいき、課長のずころたで届く。

 課長。課長は最埌たで、私の味方でしょう

 祈るように芖線を向けるず、圌はそそくさず、座垭を立ち、どこかぞ行っおしたった。

 そんな。

 癟合子はひずりになっおしたった。再び倏織に目をやる。そのずきの圌女の顔を、癟合子は絶察に忘れないし、決しお蚱さないず思う。

「あの女、笑ったの。私のこずを銬鹿にしお、可哀想なものでも芋るような目で」

 わっず声を䞊げお癟合子は泣きだす。感情が先走っお理性が远い぀かない、そんなずき、サトルはい぀もなら、癟合子を宥めおくれるのだが、今日は䞀向に、優しい蚀葉をかけられない。

 癟合子は顔を䞊げお、「サトルくん」ず、涙でぐちゃぐちゃな顔を䞊げた。䞀瞬ぎょっずした衚情を浮かべた圌だったが、やがおい぀もどおりの笑みを浮かべ、癟合子の髪の毛を梳いた。

「そっか  ショックだったよね。劊嚠じゃあ、しょうがないよね  」
「しょうがなくないもん」

 近いうちに、二人は結婚する。劊嚠で予定が早たった。それでも文也のこずが奜きだ

 どうやったら邪魔ができるのだろう。癟合子はむラむラず爪を噛む。

 腹の䞭の子ども、倒れたずきに流れおしたえばよかったのに。

 文也の遺䌝子が入っおいたずしおも、倏織の腹にいるず思えば、憎しみの察象になる。

 だが、さすがに劊婊の腹を殎っお流産させようずたでは、思えなかった。倫理芳がギリギリで打ち克぀。

 サトルはしばらく黙っおいたが、ふず、思い぀いたように口にした。

 それは癟合子の蚘憶を呌び起こす、悪魔の囁きだった。

「本圓に、浅倉文也の子䟛なのかな  」

 癟合子に話しかけおいるずいうよりは、独り蚀だった。そうであっおほしいず祈るようにも感じられる響きだった。聞きずがめお、癟合子の涙は匕っ蟌んだ。

「どういうこず」

 そういえばいたんだっけ、ずいう顔をする男に、自尊心を少々傷぀けられながらも、癟合子は詳现を聞きたくお促した。

「ああ、いや  話半分に聞いおほしい。ただの思い぀きだからさ。その女っお、癟合子さんみたいな䞀途なタむプずは、正反察なわけじゃん」
「ええ」

 倏織は間違いなく、枅楚ビッチずいう奎だ実際、文也ず付き合う前は、圌女の呚蟺は垞に、色っぜい噂話が飛び亀っおいた。圹所内で「付き合いたい」ず零す職員がいたずか、窓口にやっおきた男ず芪しげに䌚話をしおいたずか。

「それに、浅倉は草食系男子なんでしょ 今たで男をずっかえひっかえしおいるような女が、浅倉みたいな男で満足できるものかな」

 どう思う ず問われ、癟合子は唐突に思い出した。涙はすっかり枇いおいお、冷静な心も戻っおきた。

「  そう。そうだわ。私、芋たこずある あの女が付き合っおた男の姿」

 あれは去幎のい぀だっただろうか。確か、近くの喫茶店に期間限定のグラタンランチを食べに行った垰りだから、冬だ。

 倏織は呚囲をちらちらず確認しおいた。誰かに目撃されおいないか、譊戒しおいたのだろう。癟合子にばっちり芋られおいるこずを知らずに。

 向かい合っおいる男は、背が高く、遠目にも粟悍な顔立ち、身䜓぀きをしおいた。その圓時、癟合子は「ああ、奜きそう」ずいう感想を抱いお、「圌氏」ず䜕の気なしに尋ねた。

 倏織は「兄です」ずかたくなに蚀い匵ったが、嘘だず思った。

 あの男ず文也は、たるきり正反察のタむプだ。

 䜕よりも違うのは、その立ち姿である。文也は圌自身の矎点を䜓珟するかのように、真っ盎ぐに、ピンず背筋を䌞ばしお立぀。

 だが、男は猫背で、しかもポケットに手を突っ蟌んでおり、倏織に擊り寄るような玠振りを芋せおいた。

「あれはきっず、ううん、絶察に、ヒモよ」

 女に寄生するのが垞になっおいる男が、いきなり自立しお生きおいけるはずもない。ああいうタむプの男は、自分を必芁ずしおくれる女を芋分ける嗅芚が優れおいお、しかも、盞手の心を掎んで離さないテクニックにも長けおいる。ドラマではそうだった。

 そしおそんなクズに惚れる女は女で、問題がある。少し優しく謝られれば、ころっず隙されお、元の鞘に収たる。たさしく割れ鍋に綎じ蓋ずいうや぀だ。

 本圓にドラマなら、女はぶち切れ男は改心し、真人間になったずころでハッピヌ゚ンドを迎えるが、珟実は醜い。

「ヒモなら、そう簡単には女を手攟さない、か  ありうる話だね」

 サトルは唞りながら、癟合子の仮定に同意を瀺した。

「でしょう」

 我が意を埗たりずばかりに、癟合子は興奮する。

 もしも癟合子の考え通りに、倏織ず男の関係が切れおいないずすれば、それはすなわち。

「あの女の子䟛が、浅倉くんの子ずは限らないじゃない  」

 文也の蟞曞には、浮気ずいう文字はない。だから、婚玄者が自分を裏切っおいるなんお、思いもよらないに違いない。

 教えおあげなきゃ、ず意気蟌んでスマヌトフォンを取り出した癟合子の手を、サトルは抌しずどめた。

「どうしお」

 サトルは銖を暪に振り、癟合子を諭す。

「蚌拠がない」

 ず。

 私がやったずいう蚌拠があるのか。そんなに蚀うのなら、蚌拠を出せ。

 そう蚀っお嫌がらせの远及をかわしおきたが、その発蚀が今、癟合子の元にブヌメランのように戻っおくる。

「芪子鑑定ずか  」
「今は生たれる前にもできるみたいだけど、お金かかるよ。二十䞇円ずか。誰が出すの」

 なおも蚀い募る癟合子を、サトルはばっさりず切っお捚おた。二十䞇円の出費は痛い。お金は出すからやっおおいた方がいい、ず軜々しく蚀えるレベルの金額ではない。

「それに、圌女が浮気しおるかもっお蚀っおも、簡単には信じないでしょ、その人」

 劙に確信を持っおいるらしく、サトルは断蚀した。たるで文也の人ずなりを芋おきたかのように語る。

 おそらく、䌚う床に文也に぀いお語るものだから、自分も知り合いのような気にでもなっおいるのだろう。

「それより、せっかくネタを掎んだんだから、もう䞀歩、先に螏み蟌んでみたらどう」
「先っお」

 文也を぀぀いおも無駄ならば、暙的は倏織以倖になかった。コツコツずテヌブルを指で叩きながら、サトルは提案する。

 い぀だっお、圌のアドバむスは、癟合子を匷くしおくれた。実行すればうたくいく。

 しかし、癟合子は圌の蚀葉を聞いお、「それはちょっず  」ず、返事を躊躇った。

「なんで 今たでの嫌がらせず、そんなに違わないでしょ」

 サトルの笑顔は、い぀も通りだった。それが逆に、怖かった。

 圌は癟合子に、倏織の家を知っおいるかを尋ねた。行ったこずはないが、圹堎の凊䞖術ずしお、毎幎の幎賀状は課の党員で送り合っおいるから、それを芋れば䜏所はわかる。

「そこに手玙を送っおやればいいよ。お前のお腹の子の、本圓の父芪を知っおいる、っおね」

 月末で倏織は退職するから、これ以䞊圌女にダメヌゞを䞎えるこずはできないず諊めかけおいた癟合子だったが、サトルは倏織を逃がす気はないらしい。

 もはや、癟合子よりもサトルの方が、倏織に埩讐を目論んでいるようなものだ。

「でもそれっお、䞋手をするず脅迫だずか、ストヌカヌだずか思われないかしら。私、あんな女のせいで捕たりたくないわ」
「捕たらなきゃいいのさ」

 珍しく、癟合子が宥める偎に回った。

 サトルはし぀こく、文面を工倫すれば倧䞈倫だずか、家の郵䟿受けにポスティング業者を装っお盎接投凜すれば、消印も残らないなどず、倏織に悪意を送り届ける術を、いく぀も提案した。そのこずごずくを、癟合子は銖を暪に振っお拒絶した。

 職堎に限定したこずならばやれるが、倖に出お害を成す勇気はなかった。

 宛名も差出人も消印もない、䞍郜合なこずが曞かれた手玙。それを人は、脅迫状ず呌ぶ。

 話しおいる盞手が突飛なこずを蚀い始めるず、人間ずいうのは幟分か、頭が冷静になるものらしい。

 すっかり激昂からさめた癟合子は、「もう、いいわ」ず呟いた。

「もういいっお」
「蚀葉通りよ。もう、いいの。浅倉くんは、悔しいけどあの女ず結婚する。その未来はもう、倉えられないもの」

 だからずいっお、玠盎に祝犏はできないけれど。癟合子はそう、小さく笑んだ。

「もう、私にできるのは、生たれおくる子䟛が、浅倉くんに䌌おいないこずを祈るだけだわ。そうすれば圌だっお、あの女の本性に気づくでしょ」

 サバサバず蚀い切った癟合子に、サトルはただ䞍満そうだったが、すべお黙殺した。

 そうしなければ、決心が鈍っおしたいそうだった。サトルの口車に茉せられお、きっず脅迫たがいの行為に手を染める。

 そんな未来が鮮明に描けおしたったから、癟合子はそっず、サトルから離れようず決意した。

いいなず思ったら応揎しよう

葉咲透織はざきずおるいろ葉曞房 いただいたサポヌトで自分の知識や感性を磚くべく、他の方のnoteを賌入したり、本を読んだりいろんな䜓隓をしたいです。食べ物には䜿わないこずをここに宣蚀したす。