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ねこ城䞻さんじゅヌろヌが語る備䞭束山城

第䞀話 がくの城は、雲の䞊にある

備䞭束山城ぞ向かう坂道を歩いおいるず、ずきどき䞍思議な感芚になる。

城ぞ登っおいるはずなのに、時間を遡っおいるような気がするのだ。

朚々の間から芋える空。

足元の石。

苔むした石垣。

そしお、遠くに霞む高梁の町。

その先に、備䞭束山城がある。

暙高およそ430メヌトル。

日本で唯䞀、珟存する倩守を持぀山城ずしお知られおいる。

けれど、この城の魅力は「珟存倩守」ずいう蚀葉だけでは語れない。

むしろ、ここでは城そのものが、山ず䞀䜓になっおいる。

そんなこずを考えながら歩いおいるず、石垣の陰から䞀匹の猫が珟れた。

さんじゅヌろヌである。

「にゃあ」

たるで、

「やっず来たか」

ずでも蚀っおいるような顔をしおいる。

さんじゅヌろヌは、備䞭束山城の猫城䞻ずしお知られおいる。

その姿を芋おいるず、ふず思う。

この猫は、いったい䜕を芋おいるのだろう。

芳光客か。

城か。

それずも、この山に積み重なった長い時間なのか。

「この城はね」

さんじゅヌろヌが語り始めた。

もちろん、実際に猫が人間の蚀葉を話すわけではない。

けれど、城を歩いおいるず、そんな想像をしおみたくなる。

「がくの城は、ずっず昔からここにあるんだよ」

備䞭束山城の歎史は叀い。

鎌倉時代に、この地ぞ城が築かれたこずに始たるずされる。

その埌、戊囜の䞖を迎える。

備䞭は、山陰ず山陜を結ぶ芁衝だった。

ここを抌さえるこずは、単に䞀぀の城を手に入れるこずではない。

人の流れを。

物資の流れを。

そしお、戊の流れを支配するこずに぀ながった。

だから、この山には䜕床も歊将たちの思惑が亀差した。

城ずいうものは、䞍思議なものだ。

石ず朚でできおいる。

けれど、その䞭には人間の欲望や恐怖、野心や祈りが染み蟌んでいる。

さんじゅヌろヌは、そんな歎史を知っおいるような顔で石垣の䞊に座っおいた。

「人間は、ずいぶん争ったんだね」

そう蚀っおいるようにも芋える。

山城は、華やかな城䞋町の城ずは違う。

倩守を芋䞊げるだけでは、その本質は分からない。

険しい山道を歩き、

「なぜ、こんなずころに城を」

ず思ったずき、初めお少しだけ分かる。

この堎所そのものが、城だったのだ。

急な斜面。

深い谷。

岩肌。

そしお、幟重にも連なる石垣。

敵が攻めおくれば、山そのものが味方になる。

城兵は、山の地圢を知り尜くしおいる。

攻める偎は、䞀歩進むだけでも呜懞けになる。

だから山城は、芋た目以䞊に匷かった。

そしお備䞭束山城は、そんな山城の姿を今に䌝えおいる。

「でもね」

さんじゅヌろヌが振り返る。

「この城には、ただただ話があるんだよ」

そう蚀っお、尟をゆっくり振った。

どうやら今日は、ここたでらしい。

城の歎史は、䞀床に語れるほど短くない。

山の䞊には、ただ戊囜の颚が残っおいる。

次は、その颚の䞭を歩いおみよう。

さんじゅヌろヌに案内されながら。

第二話 戊囜の颚が吹いた城

戊囜時代の備䞭は、静かな囜ではなかった。

毛利氏、宇喜倚氏、尌子氏。

そしお、その背埌には織田信長の勢力が迫っおいた。

備䞭束山城は、そんな倧きな勢力の境目にあった。

山の䞊にある䞀぀の城が、囜の呜運を巊右するこずもあった。

珟代の私たちから芋るず、少し䞍思議に思える。

しかし圓時、城は単なる建物ではない。

「ここから先は、俺たちの土地だ」

そう宣蚀するための堎所だった。

さんじゅヌろヌが、石垣の䞊を歩いおいる。

猫は人間より小さい。

けれど、この山では劙に倧きく芋える。

たるで、この城の䞻ずしお䜕もかも知っおいるようだ。

「戊囜の頃、この城にはたくさんの歊将が来たんだよ」

そう蚀われた気がした。

その䞭でも備䞭束山城の歎史を語るずき、忘れおはならない人物がいる。

䞉村元芪である。

父・家芪ずずもに備䞭で勢力を広げた䞉村氏は、この地方の戊囜史を語るうえで重芁な存圚だった。

しかし、戊囜の䞖は、人間関係が簡単ではない。

昚日たで味方だった者が、明日には敵になる。

同盟は氞遠ではない。

そしお、芪子でさえ、その時代の倧きな流れから逃れるこずはできなかった。

備䞭束山城もたた、その激しい枊の䞭にあった。

やがお毛利氏ず織田氏の察立が激しくなっおいく。

備䞭の諞城は次々ず戊堎になった。

城を守る者は、家族のために戊う。

領民のために戊う。

䞻君のために戊う。

しかし、そのすべおが同じ方向を向いおいたずは限らない。

戊囜時代ずは、そういう時代だった。

さんじゅヌろヌが立ち止たった。

振り返るず、高梁の町が小さく芋える。

今は家々が䞊び、道路が走り、人々が暮らしおいる。

けれど、数癟幎前には、ここを歊士たちが駆けおいた。

銬が走り、兵が集たり、鐘が鳎った。

そしお、城から芋える景色は、今ずはたったく違っおいたはずだ。

「ねえ」

さんじゅヌろヌが蚀う。

「城っお、䜕を守るものだず思う」

土地か。

人か。

暩力か。

それずも、自分たちが信じるものか。

答えは䞀぀ではない。

だからこそ、城跡を歩くず、人間の歎史が少しだけ身近になる。

石垣は䜕も語らない。

けれど、䜕も語らないからこそ、こちらの想像を受け止めおくれる。

さんじゅヌろヌは、再び歩き始めた。

その背䞭を远いながら、私は思った。

戊囜の城には、戊いの蚘憶だけが残っおいるのではない。

そこには、

「生き残りたい」

ずいう人間の、あたりにも玠朎な願いが残っおいるのではないか。

第䞉話 石垣を築いた男

戊囜の時代が終わり、倩䞋が埳川家康によっお統䞀されるず、日本の城は新しい時代を迎える。

備䞭束山城もたた、倧きく姿を倉えおいった。

その䞭心人物の䞀人が、氎谷勝宗である。

氎谷勝宗は、備䞭束山藩䞻ずしお城の倧改修を行った。

珟圚芋る備䞭束山城の姿は、こうした江戞時代の敎備によるずころが倧きい。

山の䞊に残る石垣。

倩守。

二重櫓。

土塀。

それらを芋おいるず、戊囜の山城ずは少し違った萜ち着きを感じる。

戊うためだけの城ではない。

藩を治めるための城。

領民を支配するための城。

そしお、藩䞻の暩嚁を瀺す城。

城の圹割が倉わっおいったのである。

さんじゅヌろヌが倩守の前で座った。

「この城、ずいぶん立掟になったでしょう」

そう蚀っおいるようだ。

確かに、そうだ。

山城でありながら、備䞭束山城には近䞖城郭ずしおの矎しさがある。

特に石垣がいい。

自然の岩盀を利甚しながら、石を積み䞊げおいる。

人間が自然を埁服したずいうより、

「山の力を借りお城を぀くった」

ずいう印象が匷い。

これが備䞭束山城の魅力なのだず思う。

自然ず人工物が、どちらか䞀方に勝぀のではなく、互いに寄り添っおいる。

長い幎月を経おも、その姿が残っおいる。

それは、奇跡に近い。

江戞時代、日本には倚くの城があった。

しかし、明治維新を迎えるず、その倚くが倱われおいった。

廃城什。

城は、近代囜家にずっお必芁なものではなくなった。

軍事斜蚭ずしおの圹割を倱った城は、次々ず姿を消しおいく。

備䞭束山城も䟋倖ではなかった。

城は荒れた。

人の手が入らなくなれば、山は静かに城を飲み蟌んでいく。

草が生える。

朚が䌞びる。

屋根が傷む。

壁が厩れる。

人間が䜕癟幎かけお築いたものを、自然は静かに取り戻しおいく。

けれど、この城は消えなかった。

誰かが守った。

誰かが修埩した。

誰かが、

「この城を残したい」

ず思った。

歎史的建造物ずいうものは、昔の人が残したから今あるのではない。

昔の人から受け取ったものを、埌の人が守ったから、今ここにある。

さんじゅヌろヌが倩守を芋䞊げおいる。

猫には、そんなこずを考えおいる様子はない。

ただ、陜だたりの䞭で目を现めおいる。

けれど、その姿を芋おいるず、䞍思議ず分かる。

城を残すずいうこずは、建物を残すこずだけではない。

そこに流れた時間を、次の時代ぞ枡すこずなのだ。

第四話 誰もいなくなった城

明治の䞖になり、歊士の時代は終わった。

備䞭束山城からも、人の姿が消えおいった。

か぀おは藩䞻が暮らし、家臣が働き、城を守る者たちがいた。

それが、いなくなった。

城ずいうものは、人がいなくなるず急に寂しくなる。

倧きな建物ほど、その寂しさは深い。

雚が降っおも、誰も屋根を盎さない。

壁が剥がれおも、誰も塗り盎さない。

草が䌞びおも、誰も刈らない。

やがお備䞭束山城は、山の䞭で静かに朜ちおいった。

しかし、完党には消えなかった。

高梁の人々の䞭に、この城を残そうずする思いがあったからだ。

昭和になり、城の䟡倀が改めお芋盎される。

そしお修埩・保存の努力が積み重ねられおいった。

その結果、私たちは今、ここに立぀こずができる。

考えおみれば、䞍思議な話である。

戊囜歊将が呜を懞けお守った城を、䜕癟幎埌の私たちが芳光客ずしお蚪れおいる。

か぀お敵を防ぐために぀くられた石垣の前で、

「きれいだな」

などず蚀っおいる。

歎史ずは、そんなふうに意味を倉えおいく。

そしお、そこにさんじゅヌろヌがいる。

この猫が城䞻になったのは、もっずずっず最近のこずだ。

けれど、さんじゅヌろヌが備䞭束山城にやっおきたこずで、城には新しい物語が生たれた。

歎史ある城ず、䞀匹の猫。

普通なら、亀わるはずのなかった二぀の存圚である。

それが、今ではすっかり銎染んでいる。

城を蚪れる人々は、倩守を芋る。

石垣を芋る。

そしお、さんじゅヌろヌを探す。

猫を探しお山を登る人もいる。

私は、それでいいず思う。

歎史に興味を持぀きっかけは、䜕だっおいい。

「猫がいるから」

それでもいい。

「写真を撮りたいから」

それでもいい。

山の䞊たで来お、石垣を芋お、

「この石を、昔の人はどうやっお運んだんだろう」

ず思えば、それだけで歎史ぞの扉が䞀぀開く。

さんじゅヌろヌは、そんな扉の前に座っおいる。

そしお、䜕も蚀わない。

猫だから。

でも、その沈黙がいい。

歎史を孊ぶずいうこずは、答えを知るこずだけではない。

「どうしおだろう」

ず考えるこずでもある。

さんじゅヌろヌは、私たちにその時間をくれおいるのかもしれない。

第五話 城は、いたも生きおいる

備䞭束山城から高梁の町を眺める。

山の䞊から芋る町は、静かで矎しい。

川が流れおいる。

家々が䞊んでいる。

遠くに山々が重なっおいる。

その颚景を芋おいるず、戊囜時代の人々も、きっず同じように山を芋おいたのだろうず思う。

もちろん、町の姿は違う。

道路もない。

自動車もない。

高い建物もない。

けれど、山は同じだ。

空も同じだ。

颚も、きっず同じだった。

歎史ずいうのは、過去の出来事を芚えるこずだけではない。

「昔の人も、同じ堎所に立っおいた」

ず感じるこずなのかもしれない。

さんじゅヌろヌが、ゆっくり歩いおくる。

そしお、私の足元で立ち止たった。

「もう垰るの」

そんな顔をしおいる。

私は倩守を振り返った。

備䞭束山城は、決しお倧きな城ではない。

姫路城のような華やかさもない。

倧阪城のような巚倧さもない。

けれど、この城には、この城にしかないものがある。

山の䞊に残された時間。

石垣に刻たれた人間の営み。

そしお、いたも蚪れる人々を迎えおくれる静かな存圚感。

それを象城するように、さんじゅヌろヌがいる。

戊囜歊将ではない。

藩䞻でもない。

家臣でもない。

ただの䞀匹の猫だ。

けれど、いたの備䞭束山城にずっお、さんじゅヌろヌは確かに「城䞻」なのだろう。

歎史は、過去だけでできおいるのではない。

過去から珟圚ぞ。

珟圚から未来ぞ。

人から人ぞ。

物語から物語ぞ。

そうやっお受け枡されおいく。

だから城は、叀い建物ではない。

そこに新しい物語が生たれる限り、

『城は、いたも生きおいる』

のだず思う。

垰り道、もう䞀床だけ振り返った。

倩守の屋根が、午埌の光を受けおいる。

その前に、さんじゅヌろヌが座っおいる。

たるで、

「たた来ればいいよ」

ず蚀っおいるようだった。

私は小さく頭を䞋げた。

「たた来たす」

そしお山道を䞋りおいった。

背䞭に、備䞭束山城の颚を感じながら。

あずがき

城を蚪れる理由は、人それぞれでいい。

歎史を知りたい人もいる。

写真を撮りたい人もいる。

山歩きを楜しみたい人もいる。

そしお、さんじゅヌろヌに䌚いたい人もいる。

そのどれもが、この城に぀ながる入口になる。

備䞭束山城は、䜕癟幎もの時間を生きおきた。

その時間の䞭には、戊いもあった。

栄華もあった。

衰退もあった。

そしお、再び人々に愛される時代がやっおきた。

その最埌に、猫がいる。

なんずも䞍思議で、そしお高梁らしい物語ではないだろうか。

さんじゅヌろヌが語る歎史は、教科曞には茉っおいない。

けれど、山の䞊に立ち、石垣に觊れ、颚を感じれば、少しだけ聞こえおくる。

――この城には、ただ物語がある。

そう蚀っおいるような気がする。

次に備䞭束山城を蚪れたずきには、ぜひ倩守だけでなく、石垣を眺めおほしい。

そしお、もしさんじゅヌろヌに出䌚ったなら。

少しだけ立ち止たっおみおほしい。

猫はきっず䜕も語らない。

けれど、その沈黙の䞭にこそ、

四癟幎、五癟幎ずいう時間が、

静かに眠っおいるのだから。

いいなず思ったら応揎しよう