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53歳の転機 〜「紡ぐ」ことから始まった新しい景色〜

仕事中心の忙しい日々の中で、
ずっと心の片隅に残り続けていた光景がありました。

それは、テレビで見たカフェで「真綿」を紡ぐ人の姿。
「糸を自分の手で紡ぐことができるんだ」
いつか自分も…
そう思いながらも、現実は仕事に追われる毎日でした。

長年の疲労の蓄積と更年期が重なり、体調を崩し、
53歳でとうとう私は動けなくなりました。

仕事を手放し、何も手につかない日々。
それでも、編み物だけはやめませんでした。

そんな時、ふと目にした
「アナンダ」の出張講習会のお知らせ。

「これだ」
そう思いました。

「紡いで編んでみたい」
ただそれだけの気持ちで行ったその場所には、
想像を超える世界が広がっていました。

多種多様な羊毛。
フェルト、織り、そして糸へ。
私の心を揺さぶりました。

まだボコボコの糸しか紡げないのに、
紡毛機を購入し、山梨の本店にも足を運びました。

糸を紡ぐという体験。
それは単なる技術ではなく、
私の考え方そのものを変える出来事でした。

紡ぎを教わる中で、こんな言葉をもらいました。

「出来た糸に間違いはない。
いい糸は人によって違う。
なぜ、答えを他人に求めるのか。」

その言葉は、深く心に残りました。

それまでの私は、何が正しいのかを探し
答え合わせをするように生きていました。

けれど、その言葉が私の中にひとつの軸をつくりました。

自分が好きなものをつくる。
自分がつくりたいものを、つくる。
それは、誰かに答えを求めるものではない。

羊毛について学び始めると、世界は一気に広がりました。

品種ごとの個性と奥深さ。
植物で染める色の美しさ。

気づけば私は「羊沼」にどっぷりと浸かっていました。

今は羊毛の機能性や、身にまとうことの楽しさを
作品を通して伝えていきたいと考えています。

一頭の羊。
それを育てる羊飼いさん。
そして関わる人々の想い。

私の手から生まれるものが
その温かな循環に触れるきっかけになれたなら。

そんな願いを込めて
今日も羊毛に触れ、手を動かしています。

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