羊毛は思い通りにならない
紡毛機を我が家に迎え、毎日夢中で練習していた頃のこと。
最初はただ紡ぐことが楽しくて、ロムニー、コリデール、ポロワス、メリノ……。色々な品種を紡いでは、「違いがわかるようになってきたぞ」と満足していました。
でも、肝心の「出来上がった毛糸」をちゃんと見ていなかったのです。
念願の手紡ぎ糸で、いざ編み物を始めてハッとしました。
「思い描いていたものにならない。手紡ぎの良さも活かせていない」
大好きだったメリノの糸は柔らかすぎて腰がなく、編むとくたっとしてしまう。
「紡ぎ方が悪いのかな。それとも羊毛のせい?」
そんな疑問が湧いてきました。
ここから、私の「羊毛の品種」への探求が始まります。
ネットで調べるうちに国産羊毛の存在を知り、北海道で羊毛販売を始めるjacobfleeceshopさんを紹介していただきました。
今振り返ると、この出会いが私の羊毛観を大きく変えることになります。
彼女は編み物に向く品種を提案し、それぞれの特徴を丁寧に教えてくれました。そしてこの時初めて、「同じ牧場の、同じ品種であっても、一頭一頭に個体差がある」ということを知ったのです。
「いつも同じ」ができないという悩み
羊毛の個性を知り、「ニット帽には弾力のある糸」「ネックウェアには肌触りの良いもの」と、作品に合わせて品種や部位を選ぶ重要性に気づいた私。
しかし、慣れてきた頃にまた新しい壁にぶつかりました。
「同じ品種で、同じ作品をいくつも作りたいのに、羊の個体差のせいで同じにならない」
お客様から同じものをオーダーいただいても、
そのまま再現することができない。
思い通りにならず悩みました。
そんな私に新たな光をくれたのが「マンクスロフスタン」のフリースでした。
2cmのフリースが教えてくれた「思い通りにしない感覚」
そのフリースは、これまでに経験したことがないほど短く、毛の長さが2cmもありませんでした。
けれど毛先は日焼けしたキレイな色のネップのようになっていたのです。
「これ、このまま紡いだら絶対に可愛いマフラーになる!」
短いフリースをなんとか糸にするため、洗ったフリースをシート状のまま紡ぐという挑戦をしました。
短い毛を紡いで織る作業は、泣きそうなくらい大変でした。
それでも出来上がったのは、大満足の愛おしいマフラーでした。
その時知ったのは
「作りたい形」に合うフリースを懸命に探すのではなく、
「出会ったフリースが一番生きる形を作ればいいんだ。」という事。
「こうしなきゃいけない」を手放した瞬間でした。
羊の個性を活かす、一期一会のモノづくり
今ではフリースを見つめていると、自然と頭の中にイメージが湧いてくるようになりました。
それは目の前の羊毛と対話しているような感覚です。
作りたいものに合わせてフリースを探す楽しさも、もちろんあります。
でも私は、一期一会の出会いを大切にしながら、フリースと対話するようにモノづくりをしていきたい。
無理にコントロールして整えすぎるのではなく、その子が持つ個性をそのまま活かす。
羊毛は、思い通りにならない。
でも私は今、その「思い通りにならなさ」が面白いと思っています。
羊毛のモノづくりは、だからこそ楽しく、奥が深いのです。
