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なぜ『ヴァレリアン』は『フィフス・エレメント』になれなかったのか?

2017年公開の『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は筆者が公開前、非常に期待していた作品だった。

監督をリュック・ベッソンが務めるフランス映画で、未来を舞台としたスペース・オペラ。
これらの共通項から、1997年の大ヒットSF『フィフス・エレメント』の再来かと封切りを待ち望んでいたのだが・・・結果としては彼の作ほどの成功は収められなかったと言えよう。

進化した美しいCG描写、ハラハラドキドキの冒険活劇・・・観手を楽しませる要素は十分に備えていたはずだが、興行的にも不振となった原因は果たしてどこに?


タイミング


『フィフス・エレメント』はとにかく面白かった。
ポップでコミカルな世界観はSF映画史においても際立っており、オレンジを基調とした独特の色彩や、世界的デザイナーのジャン=ポール・ゴルティエによる奇抜な衣装は話題性たっぷり。

『フィフス・エレメント』

キャスティングもブルース・ウィリスミラ・ジョヴォヴィッチゲイリー・オールドマンクリス・タッカーなど、非常に豪華な顔ぶれだった。

公開された90年代後半は世紀末ということもあってか、大作・名作が目白押しの時代で、世界では『タイタニック』、日本国内では『もののけ姫』など、『フィフス〜』ですら霞んでしまう"怪物級"がいくつも生まれた。

現在のようなSNSはおろか、インターネットすらまだ満足に発展していなかった当時、宣伝と評判のみで数々の記録を打ち立てたレジェンド達には尊崇の念を今も禁じ得ないが、そんなタイミングも『フィフス・エレメント』にとっては追い風となったように思う。

一方で『ヴァレリアン』だが、20年という時の経過は社会における映画の潮流をすっかりと変えてしまい、際立った宣伝戦略に乏しかった本作は物語自体はつまらなくないものの、アメコミ勢をはじめ刺激的なSF作品に見慣れた観手の度肝を抜くほどのインパクトは持ち合わせていなかったようだ。

後述する原作のファンはまた別の感想を抱いたかもしれないが、その他の映画ファンにとっては『フィフス〜』が公開された当時の観手が得た満足感を再現するには"機を逸した"というところか。

奇才リュック・ベッソン


とはいえ、監督など一部の諸元が同じだからという理由で『フィフス〜』と比較されるのは『ヴァレリアン』とて心外だろう。

リュック・ベッソンはSF専門の作り手というわけではなく、むしろそれ以外のジャンルにおいて名声を確立してきた。

リュック・ベッソン

伝説のダイバーであるジャック・マイヨールを描いた『グラン・ブルー』(1988年)や、百年戦争を扱った歴史大作『ジャンヌ・ダルク』(1999年)、スカーレット・ヨハンソンが人間の脳限界を突破してしまう『LUCY/ルーシー』(2014年)などが筆者の印象に強く残っているが、やはり氏の代名詞といえば『レオン』(1994年)だろう。

『レオン』

フランスの国民的俳優ジャン・レノと若き日のナタリー・ポートマンが紡ぐ非日常的な掛け合いは、映画史におけるヨーロピアン・テイストの最高峰として不動の地位を築いた。

これらの作品群と比べれば『ヴァレリアン』も『フィフス〜』も、表面的には異なる分野に属するコンテンツだが、カメラワークや洒落っ気など、深〜いところではベッソン節が随所に利いている・・・氏のファンならこれに同意してくれるだろう。

ただ『ヴァレリアン』にはそれを"薄めて"しまう要素が・・・

"美しすぎた"か?


粗筋についてはネタバレを避ける・・・というよりも、よくある典型的なSF活劇モノなのでわざわざ列記するまでもないだろう。

宇宙ステーション「アルファ」を舞台に主人公ヴァレリアンと相棒のローレリーヌが任務に邁進するのだが、展開よりもとにかく背景が美しい。

もちろんその大半はCGによるものだが、クオリティも申し分なく、地球のものではない異星の風景は観手に強烈なインスピレーションを与える出来だった。

ただこれが落とし穴になり得ることは昨今の映画業界、特に2010年代以降の作品において度々立証されてきたのは周知の事実だろう。

本作でも「アルファ」の内部世界や、悲劇に見舞われる以前の惑星ミュールの幻想的な景色など、多額の予算が注ぎ込まれていることを窺わせる描写が随所に確認できるが、一方で噺の展開はありきたりで少々アンバランスな印象。

要するに"視点がズレる"のだ、美しすぎるCGは。

その点において『フィフス〜』はまだまだ映像技術が発展途上にあった時代の作品だけに、特殊メイクやセットといった作り手の労力が物語の面白さをダイレクトに底上げする役割を全うしていたのではなかろうか。

クリーチャーについても、『フィフス〜』のエイリアン種族はこってりとしたハリボテ感が悪党すら可愛く仕上げていたのに対し、『ヴァレリアン』の画面内にしか存在しない"虚像"達は「よく出来ている」と思わせる一方、不自然に豊かな表情などは気持ち悪さも否めなかった・・・正直なところ。

まぁこれは本作に限った問題ではなく、AI映画の登場によって今後ますます拍車がかかってくるのは避けられないのだろうが。

マーベル勢の生み出した功罪はやはり大きかったと言える。

原作の有無


もう一点、『ヴァレリアン』と『フィフス・エレメント』の大きな違いは原作の有無だ。

『フィフス〜』が原作のないオリジナル作品であるのに対し、『ヴァレリアン』はフランスで有名なバンド・デシネの人気コンテンツ。
あの『スター・ウォーズ』にも影響を与えたというのだから相当なものだが、確かにコミカルな雰囲気は似通ったものを感じた。

ただバンド・デシネは"バンド・デシネだからいい"というのが筆者の意見で、アメリカン・コミックに比べて遥かに芸術度・哲学性で優れている作品が多い分、映像化の際には高いハードルが伴うもの。

フランス国内でこの映画版『ヴァレリアン』がどう受け止められているのか、上辺のレビュー評価ではなく、特に原作ファンの忌憚なき感想を聞いてみたいものだ。

そもそも目指していない


色々と書き連ねてきたが、結局のところ両者にはそれぞれの魅力があり、同じ文脈で比較すべきでもない・・・そういう考えに落ち着いた。

『フィフス・エレメント』には90年代という大作映画黄金時代の"勢い"と"華"が今でも感じられるだけのパワーがあり、娯楽コンテンツとしての普遍性は当時を知らない世代にも間違いなく受け入れられるはず。

一方で『ヴァレリアン』の美しさは映像重視の観手、とりわけ多額の予算を掛けたコテコテのハイクオリティな画面(えづら)が好物という方にとっては必修と言える代物。

この点さえ弁えて鑑賞すれば、最後どうなったのかよく覚えていないストーリーも大して気になることなく、決して二番煎じなどではない本作の魅力を存分に味わうことができるだろう。



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