【なつかし洋画】 マイノリティ・リポート 【近い将来?】
先日、栃木で発生した強盗殺人事件を受けて警察庁長官が対策の強化を指示した上で、「強盗の実行前に被疑者の確保を」と訓示。
ニュースを観て「しっかり頼むぞ」と思う一方、神出鬼没な流動型犯罪に対して「どうやって『実行前』に?」と捜査手法が気になった次第。
すると後日、東京の小金井にて「強盗予備」事件で現行犯逮捕。
この件については何度も前兆があったらしいが、一連の流れから筆者の脳裏にふと浮かんだひとつの映画が。
2002年公開のアメリカ映画『マイノリティ・リポート』だ。
公開:2002年
原作:フィリップ・K・ディック
監督:スティーブン・スピルバーグ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:トム・クルーズ、コリン・ファレルほか
近未来クライムサスペンス
原作はあのフィリップ・K・ディック。
泣く子も黙るSF界の巨星が1956年に発表したクライムサスペンスを"トム・クルーズ風"にアレンジしたのが本作で、傑作『ブレードランナー』や名作『トータル・リコール』の流れに連なるディックの業績の一端となっている。

『ブレード〜』然り、『トータル〜』然り、SFという土台の上で人間のアイデンティティを描いてきた氏だが、本作においてもその傾向は強調されており、スピルバーグの手腕も相まって非常に洗練された世界観が構築されていた。
観る者によっては『ブレードランナー』よりもこちらが好き、という可能性も大いにあるだろう。
犯罪予知システム
この物語における設定上の最たる特徴が・・・
犯罪が起こる前に容疑者を逮捕するシステム
であり、上述した栃木の事件に関する警察庁長官の訓示にも既聴感を覚えたわけだが、無論フィクションと現実、そして時代の差異は明確にある。
本作では「プリコグ」と呼ばれる超能力者が未来を予知し、それに基づいて事が起こる前に犯罪者を確保するという、まぁ理想的で都合の良い防止システムが部分的に導入されているのだ。

この「プリコグ」だが、如何せん痛々しく描かれており、予知能力の獲得と引き換えに身体的な頑丈さを犠牲にしたかのような弱々しい風体。
しかも髪を短く刈り込んだ少女も採用されているためか、まるで実験体のような印象を受けたのだが、この設定が本作の繊細で張り詰めた空気感を醸成しているようにも感じられた。
「プリコグ」はおそらくprecognitive、precognitionからだろうが、日本語字幕で「プリコグ」とカタカナ表記したことで固有名詞感が強くなっていたのは得策だったのではないだろうか。

劇中、「犯罪予防局」内のプールでは3体のプリコグが"働いて"いたが、どことなく『エヴァンゲリオン』の「MAGIシステム」を連想させられた。
当然、関係はないだろうが。
上述したようにこのシステムが物語序盤では「部分的」に用いられており、全国に正式採用するか否かの国民投票が控えているらしい。
絶対的な万能手法というよりは試験的な運用段階にある技術と推測できるが、このあたりの状況設定もなかなかリアルだった。
兎にも角にもトム・クルーズ
スピルバーグ作品にたびたび出演している印象のあるトム・クルーズだが、意外にも主演を務めたのは本作と『宇宙戦争』(2005年)のふたつのみ。

近年も『ミッション:インポッシブル』シリーズで体当たりアクションを披露し続けているが、本作においてもお家芸は健在。
走る、撃つ、飛び降りる、飛び移る。
今回は追われる身となるのだが、なおさら美しい走行フォームを拝めることに。
お世辞にも演技力の幅が広いわけではないのに、どんな作品でも"トム色"に染めてしまうのはさすがスーパースターだと強く感じさせられたものだ。

あと本作ではコリン・ファレルも出演。
脇役ながら重要な人物を演じており、風貌も『ザ・バットマン』(2022年)のペンギン役とは似ても似つかない知的な青年という印象。

演技についてもキャリア初期だからか、最近のこってり濃厚なものとは違い、爽やかなクールガイ調でトム・クルーズの熱演をアシスト。
今やどちらも大御所となってしまったため今後の共演は可能性として低くなってしまったが、それだけに本作では貴重な2ショットをここぞとばかりに堪能できる。
ガジェット
劇中、物語の本筋とは別のところで印象的だったシーンがある。
プリコグから送られてきた未来の光景を予防局の職員が解析するのだが、これが非常にスタイリッシュ。
ゆったりと大きな透明モニターに表示されたデータを両手に装着した操作グローブでスムーズに移動、回転させるのだ。

今でこそ我々も携帯端末の画面を指でなぞる毎日だが、公開当時はあのWindows95が発売されてからまだ7年しか経っていない時代。
ついこの間まで段ボール箱のようなパソコンを尻尾のついたマウスで操作していたのだから、こんな描写を見せられては"未来"を感じずにはいられない・・・そう思ったのを鮮明に記憶している。
このガジェットについては近いうちに実現しそうな気もするが、予知システムについてはどうだろう。
プリコグの超能力は特別変異人類の登場を待たなければいけないが、それよりも先にAIが犯罪の未然防止を達成するのでは・・・?
銀残し
もうひとつ印象に残っているのが本作の画面(えづら)だ。

未来の世界を舞台とした作品ではあるのだが、どことなく"汚れ"のような質感が節々に見受けられ、よくある「ツルツルでピカピカ」の清潔なSFの風景とは一線を画している。
無論、『ブレードランナー』のような退廃SFほどではないが、『宇宙戦争』にも同じような感覚を覚えたため、この時期のスピルバーグが好んで用いたスタイルなのかもしれない。
調べてみると「銀残し」という撮影手法のようだが(↑)、確かにコテコテのCGが創り出す埃ひとつない未来描写よりもリアリティ、親近感に富んでいるのは確かだろう。
好き嫌いは観手によって分かれるだろうが。
不朽の名作・・・とはならなかったが
諸々振り返ってきたこの『マイノリティ・リポート』。
同じディック作品でも『ブレードランナー』のような普遍的評価は得られず、『トータル・リコール』ほどのエンタメ性もない。
スマッシュヒットが目白押しであるスピルバーグ作品の中でも影の薄さは否めないが、だからこそ・・・と言うべきか、渋くクールな大人のSFとして、また近い将来こんな世界がくるのでは? そんな想像をさせてくれる予言作品として、これからも記憶の片隅に仕舞っておこうではないか。

