摩擦を避けてきたとき、実は何が止まっていたのか。
運命レボリューション Season 14「変革の技術」EP06
『摩擦が変革を深める』
対話がかみ合わなかった会議を終えて、気持ちが重くなった。
意見が食い違ったまま、その場をやりすごした。
いつの間にか、「この人とは深い話をしないほうがいい」という判断が積み重なっていた。
摩擦を避けることは、多くの場合、賢い選択のように見える。だがそれが変革の何かを止めていたとしたら、どうだろうか。
不協和が教えてくれること
レオン・フェスティンガーは、「認知的不協和」という現象を研究した心理学者だ。
認知的不協和とは、自分の中に矛盾する考えや信念が同時に存在するときに生じる不快感のことだ。「変わりたいが、変わることが怖い」「このままでは良くないとわかっているが、動けない」という状態がその一例だ。
人はこの不快感から逃れようとする。逃げ方はいくつかある。自分の行動を変える。考え方を変える。あるいは不快感そのものを無視する。
変革のプロセスでは、この不協和が起きることが自然だ。むしろ不協和が起きていないとき、本質的な変化はまだ始まっていない可能性がある。
「生産的摩擦」という視点
ロナルド・ハイフェッツは、ハーバード大学で適応型リーダーシップを研究した人物だ。
彼の研究の中に、「生産的摩擦」という概念がある。変革のプロセスにおいて、ある程度の緊張や不快感は、変化を促す素材として機能するという考え方だ。
摩擦がない会議を思い浮かべてみる。誰も反論せず、全員が頷き、その場はスムーズに終わる。だが決まったはずの計画が、翌月にはまた同じ議題として戻ってくることがある。合意していたはずの前提が、実は共有されていなかったと、あとから氣づくからだ。
摩擦を全て排除することは、変化の可能性も排除することになりかねない。反論や違和感が出ないまま進む計画は、合意の段階では順調に見えても、実行の段階でつまずきやすい。
逆に摩擦を「設計された緊張」として扱うとき、その摩擦が変革の深さをつくっていく場合がある。
摩擦を避けたいのは、自然なことだ
ここで一つ確認しておきたいことがある。
摩擦を避けたいという感覚は、とても自然なものだ。人が不快を避けようとすることは、心理的な防衛として合理的に機能している。
「もっと摩擦に向き合え」という話ではなく、「摩擦にはどんな情報が入っているか」を問う話をしたい。
かみ合わなかった対話の中には、「その場では言語化されなかった問い」が含まれていることがある。意見の食い違いには、「まだ共有されていない前提の違い」が潜んでいることがある。
摩擦を、情報として読み解くことができれば、次の設計が変わってくる可能性がある。

摩擦に隠れている問いを見つける
摩擦を設計の素材にする方法の一つは、「この摩擦の中に、どんな問いが隠れているか」を探すことだ。
かみ合わなかった対話を振り返り、「そこで言葉にならなかったことは何か」を一行書いてみる。
衝突した場面を思い出し、「お互いの前提の何が違っていたか」を整理してみる。
たとえば、締め切りをめぐって言い争いになった場面があるとする。表面では「間に合うか間に合わないか」の話に見えても、掘り下げると「実はスケジュールの不安ではなく、どこまで仕上げれば納得できるかという基準の違いが問われていた」ということもある。そう氣づけたことで、次の会議では「納期」ではなく「仕上げの基準」を先にすり合わせるようになり、同じ言い争いが起きなくなった。
答えはすぐに出なくても構わない。問いとして持っておくだけで、次の対話の見え方が変わってくる場合がある。
今日の一手
最近、不快だった対話や衝突を一つだけ思い浮かべてみると、何かが見えてくることがある。
その摩擦の中に「隠れていた問い」を、一行だけ書き出してみると、次の設計が変わることがある。
「あの場で、実は〜が問われていたのかもしれない」という形でも構わない。
あなたに聞いてみたい
「この摩擦から、大切なことが見えた」という経験はありますか。あるいは、今まさにそういう摩擦の中にいる、という方もいるかもしれません。
次話へ
摩擦を素材として扱えるようになってくると、次の問いが生まれる。
変革が一つの場の内側だけで起きているとき、それはまだ「内部の変化」に留まっている。外の世界へ越境するとき、変革になる。
次話では、境界を越える変革の設計について見ていく。
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