連載小説『私の 母の 物語』 五十二 (414)
さて、認知症薬メマンチンの服用を止めたことは母に関していえば、正解だったと云えると思う。
まずこれまでより声を上げて笑うことが増えた。介護ノートというのは、基本的に行為の記録とどちらかというと病状悪化の兆候を見逃さないように心配なことを記すことが多いから、母が笑うたびにいちいちノートにそれを記しているわけではないから、これはわたしの印象であって記録に残っているわけではないが、ここ二年ほど母が声を上げて笑うのを聞いた記憶がなかった。それがよく声を上げて笑うようになった。十月二十六日の介護ノートの姉の記述には、「十三時 ケアマネ西口さん来て下さる 今日は話も良くし よく笑う」「十三時三十分 訪問看護 岡地さん 体調チェックほか よくおしゃべりしよく笑う」とある。これは姉やわたしにとって何よりうれしいことであった。
次に昼間の居眠りの時間が減った。これも居眠りするたびに時間を計っているわけではないから、印象といえば印象だが、以前よりは昼間の居眠りが減って、その分夜よく眠る(といっても、痛みを訴えたり、何か意味不明のことを話してなかなか眠らなかったりする日は週の半分くらいはあるが)ようになった。
一方で、メマンチンを止めたことによる問題は感じられない。認知症によると思われる言動は以前と特に変わっていない。むしろこちらからの働きかけに対する反応は若干だがよくなったように思われる。よく笑うようになったというのも、そういうことだろうと思う。もっとも薬を止めてまだ一か月だから、これが薬を止めたことによる結果なのか、またマイナス面がこれから出てくるのか、現段階で薬を止めて良かったと判断するのはまだ早いかもしれない。
それでも認知症薬の服用を止めてみてはどうかという自分の発想が、いまのところ母に良い変化をもたらしていることは、我ながらタイムリーヒットだったという気持ちが正直ある。(続く)
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