【終活日記】金価格の高騰・暴落 ~ 製造業の未来に不安を感じる理由
はじめに
1月30日、金と銀の価格が急落したというニュースが大きく報じられました。
昨今、金価格の高騰は耳にしていましたが、改めて三菱マテリアルさんの資料を確認して驚きました。

ここ数年の上がり方は、まさに「暴騰」といえる異常な値動きです。
香港で発生した多額の現金強奪事件の背景に、金の裏取引があったのではと囁かれるのも、この価格を見れば納得せざるを得ません。
製造業にとっての「金属高騰」は死活問題
かつて製造業に身を置いていた私にとって、金属価格の変動は単なる経済ニュースではなく、まさに「死活問題」でした。
製品に金を使うことはありませんでしたが、銀を少量、そして銅を大量に使用していたからです。
気になって最近の銅価格を調べてみると、金ほどではないにせよ、やはり高騰が続いています。

この状況を見て、私は過去に経験した「ある惨状」を思い出さずにはいられませんでした。
リーマンショック前後の「銅」を巡る悲喜劇
私が入社した1984年頃、先輩からは「銅は1kgあたり300円程度で安定しているものだ」と教わりました。
長らく安定した価格帯が続いていましたが、異変が起きたのはリーマンショックの少し前からです。
当時、現場では先物取引の予約があったため、しばらくは以前の安い価格で調達できていました。
しかし、人事異動で購買部門の責任者になった人物が、大きな決断ミスを犯します。
「銅価格は、そのうち下がるはずだ」
そう判断し、予約を控えたのです。ところが期待に反して銅価格は上昇し続け、結局、必要に駆られて最高値圏で大量注文することに。
その直後、リーマンショックが世界を襲い、価格は暴落。
会社の手元には、市場価格より遥かに高い「負の遺産」としての銅が大量に残されました。
30年の蓄えが消えた瞬間
この高値掴みによる赤字は、一気に積み上がりました。 さらに不幸は重なります。同時期に新規投資した設備が、販売不振で稼働せず、遊休資産となってしまったのです。
30年近くかけてコツコツ積み上げた会社の内部留保は一瞬で底をつき、巨額の赤字を抱えることになりました。
その結果、待っていたのは過酷な現実です。
国内2工場の閉鎖
大規模なリストラの断行
事業部門の吸収合併
昨日までの活気が嘘のように、現場は苦難を強いられることになりました。
明暗を分けた「釣り人」の存在
一方で、正反対の道を歩んだ同業他社がありました。
銅の先物取引に成功したそのライバル企業は、好業績を背景にシェアを拡大。
皮肉なことに、我が社を去ったリストラ社員たちを次々と雇用していきました。
なぜ、これほどの差がついたのか。深掘りしてみると、組織の「影の部分」が見えてきます。
● 情報の質の差
実は高騰の直前、華僑の経営者たちの間では「次は銅が上がる」という情報が回っていたそうです。
後になって、華僑の友人がいる知人が「そういえばあの時、あいつが言っていたな……」と思い出話をしてくれましたが、時すでに遅し。
生きた情報を掴み、経営に活かす力に差がありました。
● 専門スキルの軽視と人事の失敗
先物取引は極めて専門性の高い分野です。
我が社にもかつて専門家がいましたが、2002年のリストラで退職させてしまい、後継者も育っていませんでした。
対照的に、成功したライバル社の担当者はユニークな人物だったそうです。
「あいつはほとんど出社しない。釣りに行っているのではないか?」と社内で噂されるほど。
しかし、おそらく彼は社内に閉じこもるのではなく、外で市場の本質的な情報を収集していたのでしょう。
大きく会社に貢献した彼は、社長賞と特別賞与を授与されたそうです。
● 楽観論という罠
巨額投資を決めた時期、市場は確かに好調でした。
しかし、水面下では中国や韓国メーカーが猛追していました。
「市場はまだ伸びる」という楽観論に支配され、投資計画を白紙にする判断ができなかった。
それが致命傷となりました。
おわりに
金価格の話は投資の文脈で語られがちですが、銅をはじめとする実用金属の価格変動は、実体経済、そして現場で働く人々の人生にまで多大な影響を及ぼします。
かつての惨状を知る者として、現在のインフレと金属高騰が、日本の製造業に新たな影を落とさないか、懸念が拭えません。
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