整える、という生き方 -がんばる前に、整えるという選択 -
こんにちは。
僕は岐阜県の郡上市でパーソナルトレーナーをやっている曽我雄介といいます。
突然ですが、
最近ちゃんと呼吸してますか。
「......してるわ」と思いますよね。
止まってたら大事件ですから。
でもこういう意味です。
今この瞬間、肩が上がっていませんか。
首が少し前に出ていませんか。
スクロールしながら、気づかないうちに息を浅く止めていませんか。
……どうですか。
一個くらい当てはまりましたか。
これ、あなただけじゃありません。
みんなやります。
普通に。
なんならパーソナルトレーナーをやっている僕ですら、気づいたら肩が上がっています。
職業的にどうなんだという話ですが、本当のことなので仕方ない。
ただ、このことがすべての始まりだったりします。
この記事は、僕の理念思想哲学の入口として書きました。
姿勢のこと、呼吸のこと、習慣のこと、志のこと。
いろいろな話が枝分かれしていくのですが、すべての根っこにあるのは、この一言だけです。
がんばる前に、整える。
「え、それだけ?」と思ったかもしれません。
そうです、それだけです。
ただ、この「それだけ」が意外と難しくて、意外と大事で、意外と見落とされている。
なぜそう思うのか、順番に話します。
トレーナーが一番よく聞く言葉
パーソナルトレーナーとして仕事をしていると、クライアントの方からよく聞く言葉があります。
「もっと早くやっておけばよかった」
体のこと、食事のこと、睡眠のこと。
「若いうちに気をつけておけば」「あのとき無理をしなければ」という声を、30代後半から50代の方々から繰り返し聞きます。
でも僕が気になるのは、その後に続く言葉です。
「わかってはいたんですけどね」
これ、けっこうぐさっとくる言葉です。
「知らなかった」じゃないんです。
「わかっていた」のに、できなかった。
体を動かしたほうがいい、とは思っていた。
食事を整えたほうがいい、とはわかっていた。
でも、なんか、できなかった。
「忙しかった」
「余裕がなかった」
「疲れていた」
全部、嘘じゃないと思います。
でも実は、その奥に共通した原因があります。
それが「状態が整っていなかった」ということです。
……なんか急にそれっぽいこと言い出したな、と思いましたね。
「がんばる」の前に、何かが足りない
何かうまくいかないとき、僕たちは「もっとがんばろう」とします。
スキルを磨く。
時間を増やす。
意志を強くする。
自分を追い込む。
真面目な人ほど、これをやります。
でも実は、多くの場合に足りていないのは「能力」でも「努力量」でもなく、
状態です。
呼吸が乱れている。
睡眠が足りない。
神経が常に緊張している。
体が慢性的なストレス反応の中にある。
この状態で「もっとがんばれ」と言っても、なかなか酷な話です。
エンジンがオーバーヒートしているのにアクセルを踏んでも、壊れるだけです。
ここを知っておくと、少し楽になれます。
「なんでできないんだろう」じゃなくて、「あ、状態が整っていないんだな」という見方ができるようになる。
自分を責める量が、少し減ります。
「それって、ただのサボりの言い訳では?」と思ったそこの貴方。
その疑問は正しいです。
ただ、ここで言いたいのは「だからしなくていい」ではなく、「順番を変えよう」という話です。
がんばる前に、まず整える。
そういう話です。
では「状態が整っていない」とは、体の中でどういうことが起きているのか。
体の中で何が起きているか
人間の体には、自律神経という仕組みがあります。
「交感神経」と「副交感神経」の二本柱で、心拍・血圧・呼吸・消化・免疫・ホルモン分泌など、生命維持に関わるほぼすべての機能を自動でコントロールしています。
自分では意識していないのに、心臓が動いて、消化が進んで、体温が保たれている。
全部これのおかげです。
人体すごい。
交感神経は「戦うモード」。
緊張、興奮、集中、活動。
副交感神経は「休むモード」。
リラックス、消化、回復、睡眠。
この二つがバランスをとりながら、体の状態を整えています。
現代の問題は、多くの人が慢性的に交感神経優位になっていることです。
スマホを常に見ている。
仕事のメッセージがいつでも来る。
SNSで誰かと比べ続ける。
騒音、情報過多、将来への不安。
これらは脳と体にとって「まだ戦わなければいけない」というサインです。
戦場でもないのに、ずっと戦闘態勢。そりゃ疲れます。
どれだけ強い人間でも、臨戦態勢を24時間365日続けたら壊れます。
交感神経が過剰に働き続けると、ストレスホルモンのコルチゾールが慢性的に高くなります。
コルチゾール自体は悪者ではありません。
短期的には、体がストレスと戦うために必要なホルモンです。
ただ、慢性的に高い状態が続くと、睡眠の質の低下、免疫機能の低下、気分の不安定さ、思考の硬直化といった問題が起きやすくなると報告されています。
さらに重要なのは、「考える力」にも影響が出るという点です。
脳には「扁桃体」という部位があります。
危険を察知する警報器のような部分です。
ストレスが続いて扁桃体が過活動になると、前頭前皮質という「冷静に考える部分」の働きが抑えられます。
「なんであんなこと言ったんだろう」
「なんであそこで踏みとどまれなかったんだろう」
こういう後悔、あると思います。
夜中に一人で思い出して枕に顔を埋めて「うわー」ってなるやつですね。
これ、意志が弱いのではなく、そのときの脳の状態の問題であることが多いんです。
怒りや焦りのまま動いてしまうのは、扁桃体が前頭前皮質を上回ったときに起きる現象で、ある意味「仕組み通り」です。
責めなくていいです。
では、どうすればいいか。
答えはシンプルです。
副交感神経を意図的に働かせる。
そのために最も手軽で有効な手段が、呼吸と姿勢です。
呼吸は、唯一の「自律神経への直通ルート」
自律神経は、名前の通り「自律」しています。
自分の意思で直接コントロールできません。
心拍数を「今すぐ下げよう」と念じても、普通はできません。(できたらそれはそれで怖い。)
ただし、一つだけ例外があります。
呼吸です。
呼吸は、自律神経の支配下にあると同時に、意識でもコントロールできる唯一の生理機能です。
横隔膜を使ったゆっくりとした深い呼吸は、迷走神経(副交感神経の主幹)を刺激し、体を「休むモード」に切り替えるスイッチになります。
いくつかの研究で、意識的な呼吸法がコルチゾールの分泌を低下させ、心拍変動(HRV:自律神経のバランスを示す指標)を改善させる効果が報告されています。
むずかしく書きましたが、要するに「ゆっくり息を吐くと、体と気持ちが落ち着く」ということです。
それだけです。
やり方は難しくありません。
「まず口から、ゆっくり息を吐く」
これだけです。
なぜ「吐く」から始めるのか。
吐くことで横隔膜が上がり、次の吸気で胸郭が広がりやすくなるからです。
多くの人が呼吸を「吸う動作」と思っていますが、「吐く動作がきちんとできると、自然と深く吸える」という構造になっています。
今すぐやってみてください。
本当に今すぐ。
読むのを一秒止めて、口からゆっくり息を吐く。
それだけでいいです。
……どうですか。少し肩が落ちませんでしたか。
これが「整える」の最小単位です。
姿勢が「状態」を決めている
呼吸ともう一つ、状態に大きく影響するのが姿勢です。
猫背や前傾姿勢は、胸郭を圧迫し、迷走神経の活動を抑制します。
丸まった姿勢をしているだけで、副交感神経が働きにくくなる。
「なんとなくやる気が出ない」「気持ちが沈んでいる」という感覚が、じつは姿勢から来ていることは珍しくありません。
ハーバード大学のエイミー・カディらの研究(2010年)では、力強く開いた姿勢を2分間とるだけで、テストステロン(自信・意欲に関わるホルモン)が上昇し、コルチゾールが低下したと報告されています。
姿勢が体の内側の化学反応を変える、という話です。
「姿勢を正すだけで、気分が変わる」
なんか嘘みたいな話ですが、本当のことです。
もちろん2分間いい姿勢をとっただけで人生が変わるとは言いません。
でも「姿勢→ホルモン→気分→行動」というつながりが存在することは確かです。
逆に言えば、崩れた姿勢を一日中放置し続けることは、無意識のコストを毎日払い続けることでもある。
節約できる場所が、意外とあります。
「反応しない」という選択
状態が整っていないと、何が起きるか。
反応が速くなります。
でも精度は下がります。
カッとなって言わなくていいことを言う。
SNSで言い返したくなる。
小さなことが気になってしょうがない。
ちょっとしたことでやる気をなくす。
……全部、心当たりがあるやつですね。
あります、僕にも。
武士道には「間」という概念があります。
刀を抜くまでの、ほんの一瞬の余白。
この「間」が、反応と行動の質を変えます。
現代に置き換えると「すぐ反応しない」というスキルです。
怒りが来たとき、不安が来たとき、誰かと比べたくなったとき。
まず一度、息を吐く。
それだけで、扁桃体と前頭前皮質の間に、わずかな時間が生まれます。
その数秒が、けっこう大事です。
僕自身、これを習慣にしてから「後悔する言動」がかなり減りました。
減ったというか、まだたまにやりますが(笑)
頻度は確実に下がっています。
怒りや不安は悪いものではありません。
情報です。
ただ、それにハンドルを渡さなくていい。
間を作って、自分で判断できる状態にしておく。
これが「抑える」という言葉の意味です。
「志」は大げさでちょうどいい
さて、呼吸と姿勢で「整え」、反応を「抑え」たとして、次に何が必要か。
方向です。
エンジンが整っていても、どこに向かうかが決まっていないと、ただ燃料を消費するだけになります。
ここで出てくるのが「志(こころざし)」という言葉です。
「志」と聞くと急に時代劇っぽくなりますよね。
羽織袴が目に浮かぶというか。
でもそんなに構えなくていい。
志とは一言でいうと、「自分は誰のために、何のために時間と力を使いたいか」という問いへの、自分なりの答えです。
年収ではない。
肩書きでもない。
世間体でも、親の期待でもない。
「最後に後悔しない選択はどれか」という基準、と言えばわかりやすいかもしれません。
吉田松陰は「留魂録」の中でこう書いています。
「死して不朽の見込あればいつでも死ぬべし。
生きて大業の見込あらばいつもでも生くべし。」
30歳で処刑される直前に高杉晋作に送った言葉です。
……いきなりハードル上げてすみません。
別にここまでデカい話じゃなくていいです。
「家族が安心して暮らせるようにしたい」
「お世話になった人に恩返ししたい」
「この町を少しでもよくしたい」
それで十分すぎます。
松陰先生を引用しておいて「それで十分」と言うのも乱暴ですが、実際そうだと思っています。
ただ、この「方向」が定まると、不思議と迷いが減ります。
流行に飲み込まれにくくなる。
比較に揺れにくくなる。
「これは自分の方向と合っているか」という基準が生まれるからです。
羅針盤、という感じです。
持っていると、地図がなくてもなんとかなる。
習慣は、裏切らない
整えることを決めた。
方向も決まった。
では、あとは何か。
続けることです。
ここで多くの人がつまずきます。
「いきなり大きく変わろう」とするからです。
ジムを週4回、食事を完璧に管理、毎日日記を書く。
この計画を立てて、3日で終わる。
……やったことがある人、正直に手を挙げてください。僕は両手で挙げます。
これは意志が弱いのではありません。
設計の問題です。
人間の脳は、急激な変化を「脅威」として認識します。
習慣というのは、脳にとって「安全なルーティン」です。
変化は小さければ小さいほど、定着しやすい。
ラリーらの研究(Lally et al., 2010, European Journal of Social Psychology誌掲載)によれば、新しい行動が自動化されるまでには平均66日かかることがわかっています。
さらに面白いのは、途中で一日や二日抜けても、習慣の定着速度に統計的な有意差はなかったという点です。
つまり「完璧にやり続けること」より「細く長く続けること」のほうが、はるかに重要です。
一日サボっても、終わりじゃない。
筋肉と同じです。
大半の人は、いきなりベンチプレス100kgは上がりません。
10kgから始めて、少しずつ積み上げる。
人格も生き方も、この地味な反復でできています。
地味です。
めっちゃ地味ですが、これしかないんです。
具体的に何から始めるか。
今日この記事を読んだあなたに、一つだけ提案があります。
今夜、寝る前に30秒だけ、こう問いかけてみてください。
「今日、自分は整っていたか。」
「明日は何を一つ、変えてみるか。」
日記を書く必要はない。
完璧に答える必要もない。
ただ、30秒立ち止まる。
これだけです。
身体が整うと、何が変わるか
ここまでの話を、少しだけ整理します。
整える(呼吸・姿勢・状態)→ 抑える(反応の質が上がる)→ 定める(方向が決まる)→ 続ける(習慣になる)。
この順番には意味があります。
状態が整っていないと、方向を決めようとしても判断がブレる。
方向が決まっていないと、何を続ければいいかわからない。
でも逆に、状態が整いさえすれば、連鎖が起きます。
神経が落ち着く→判断が安定する→行動に一貫性が出る→自分への信頼が生まれる→他者への接し方も変わる。
書くと大げさに見えますが、実際にこの順番で変わっていく方を何人も見てきました。
「なんか最近、丸くなった」「落ち着いたね」と周りから言われ始めるのは、たいていこの連鎖が起きているときです。
僕がパーソナルトレーナーとして仕事をしているのは、「身体を鍛えること」が目的ではありません。
身体を通じて「自分を扱える感覚」を取り戻してもらうことが目的です。
自分の身体が整うと、心の状態がわかりやすくなります。
身体が凝っている、呼吸が浅い、肩が上がっている。
これらは全部、心の状態を教えてくれるセンサーです。
最終的には、自分で整えられるようになること。
依存ではなく、自立。
これがゴールです。
そして自分が整うと、不思議なことに、周りへの目線も変わってきます。
これが「共に生きる」につながる話なのですが、それはまた別の記事で書きます。
整える、という哲学
最後に、少しだけ大きな話をします。
僕がこのシリーズを「予防的人間学」と名付けているのは、現代の多くの問題が「崩れてから対処する」という構造になっているからです。
体が壊れてから病院に行く。
関係が壊れてから修復しようとする。
気力がなくなってからリカバリーを試みる。
これは必要なことです。
でも、もう一歩手前で「整える」という選択肢があれば、消耗しなくてすむことも多い。
予防は、根性でも意志力でもなく、習慣と仕組みの話です。
特別な才能もいらない。
莫大な時間もいらない。
今日から、少しずつ、自分の状態に目を向ける。それだけです。
整え、抑え、定め、続け、共に生きる。
この言葉が、このシリーズ全体の骨格です。
どの記事も、この骨格のどこかに位置しています。
がんばる前に、整える。
強くなる前に、安定する。
人生は劇的に変わらなくても、静かに、確実に、変わっていきます。
遠回りのようで、案外これが一番の近道です。
今日からできること
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
記事の最後に、今日すぐ使える「整える」の最小単位を書いておきます。
どれか一つでいいです。
全部やろうとしなくていいです。
全部やろうとすると、たぶん三日で終わります。
朝、起きたらまず口からゆっくり息を吐く。
その後、少し胸を開いて一呼吸。それだけでいい。
仕事中、何か嫌なことがあったら、反応する前に一秒だけ間を置く。
口からひと息吐いてから、言葉を選ぶ。
それだけでいい。
夜、寝る前に30秒だけ「今日は整っていたか」を問いかける。
採点しなくていい。
ただ、立ち止まるだけでいい。
「整える」は、特別なことじゃありません。
ただ、意識しないと流されていく。
だから、ここに書きました。
何か一つだけ、今日試してみてください。
うまくいかなくても、また明日。
まず、整える。
それが、すべての始まりです。
【コメントで教えてください】
「整える」という考え方に、どんな感想を持ちましたか?
「こんなことに悩んでいる」「こんなことが気になった」でも大歓迎です。
コメントを参考に、次の記事のテーマを考えることもあります。
それではまた。
次の記事でお会いしましょう。
参考文献:
Lally, P., van Jaarsveld, C. H. M., Potts, H. W. W., & Wardle, J. (2010). How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology, 40(6), 998-1009.
Carney, D. R., Cuddy, A. J. C., & Yap, A. J. (2010). Power posing: Brief nonverbal displays affect neuroendocrine levels and risk tolerance. Psychological Science, 21(10), 1363-1368.
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