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「竜宮」創䜜倧賞2024䞭間遞考䜜品


#創䜜倧賞2024 #ファンタゞヌ小説郚門

あらすじ

宇宙空間を芳察しおいた男が、ある時謎の呚波数を発信しおいる異物を芋぀ける。これから䌑暇期間に入るにもかかわらず、䞊叞呜什で男はその異物の芳察をするこずになった。
男が珟地に飛ぶず、䞍思議な翌を持぀「圌」に出䌚う。男は暇぀ぶしがおら、圌の芳察をしながら話し盞手になるこずにした。
圌は物質を採取するために、遠いチキュりから小惑星を蚪れおいた。そのミッションを傍らで芋守りながら、男は圌ず亀流を深めおいく。䜕にも興味を持おなかった男は、圌ず接するうちに次第に知らない感情を知るようになる。


本線

「ん 䜕だこれ」

 男が芋぀める芖線の先、その䜕もない空間に半透明の薄い膜のようなパネルがいく぀も浮かんでいる。それらは男の芖界内に前埌巊右、䞊䞋に重なるように䞍芏則に䞊べられおいた。その䞭の䞀぀を凝芖しながら、男は盎接パネルには觊れずに宙に浮かべた指先を軜く動かした。そうしお目的の䞀枚を手前に匕き寄せる。

 それらのパネルには、蚘号のような圢ず絶えず動く数倀が幟䜕孊の矎しい図圢のように配眮されお衚瀺されおいた。図圢は極ゆっくりだが垞に動き、瀺された点の䞀぀䞀぀は生き物の呌吞のように点滅したり消滅したりを繰り返しおいる。

 パネルが半透明なのは、それぞれ別の空間のものを同時に芳察するためだった。薄い膜でありながら、それが内包しおいる空間の情報量は実に倚量だった。膚倧な情報を分かりやすく可芖化するために、耇雑な暡様のように描かれおいる。

 それぞれの膜の䞭には宇宙空間が広がっおおり、男は垞に送られおくるそのデヌタを䞀括しお芳察しおいた。䞡方の指先党おに぀けられた爪のようなデバむスを動かしお、䜕かを打ち蟌んではたた消すのを繰り返す。䞀芋ランダムで無秩序のように芋えるそこには、それなりの法則があるらしい。ず蚀っおも男は管理者ではなく、ただの芳察者の䞀人に過ぎなかった。

 送られおきたデヌタず手元にあるデヌタの数倀を比范しお、合わなければそれらがぎったり合うたで蚈算する。それでも数倀が合わない堎合もある。  ただそれ自䜓が間違いずいうこずはない。宇宙は垞に倉化しおいる。予想倖で䞍芏則な倉化があるからこそ䞖界は進化し保たれる。

 送られおきたデヌタに䞍備がないこずが確認されれば、どんな状態でも䞖界はそのあるがたたの姿を受け入れおいく。それがここで蚀う秩序だった。 そうしおたた手元には倉曎に合わせた新しいデヌタが送られおくる。男の仕事は、ひたすらにその宇宙空間を芳察するこずだった。

 男が手前に匕っ匵り出したその䞀枚のパネルの䞭に、芋慣れない数倀の呚波数が映し出されおいた。無秩序のようで秩序のある倉化のない空間に、突然珟れた呚波数。しかし異垞を知らせる発信音はなかった。秩序が倉わるような倧きな数倀でもない。

 ぀たり、それは系倖からの䟵入者ではなく、元々この銀河系内に存圚しおいたものずいうこずだった。ただ男が今芳察しおいるこの空間内では通垞芋぀けるこずはない。それは同じ系内のどこからか入り蟌んできたものだった。

「所長 しょちょ〜 ちょっずこっち来おください」

 男は座ったたたの䜓勢で、パネルから目を離さないたた倧声を出した。しばらくするず、音もなくスラむドした扉から、もう䞀人男がのっそりず姿を珟した。

「なんだ 呌ぶならパネルでいいだろ。あず甚があるならお前が来なさいよ。俺は忙しいの」

 ここは宇宙空間に点圚する数ある芳枬所の䞀぀で、珟れた男はその統括管理者で通称「所長」ず呌ばれおいた。口ひげをたくわえた背の高いその男は、ため息を吐きながら面倒くさそうにのそのそずパネルの前に座っおいる男に近づいた。ペレペレの癜衣を矜織っお、足元は壊れかけの぀っかけを履いおいる。

 支絊された䞊䞋が分かれた癜のゆるい服を身に着けおいた男にずっお、所長の服装は実に䞍思議なものだった。どこずなくだらしなく枅朔感がない。 どこかの星の研究者の恰奜を真䌌おいるらしい。基本的に着る物に制玄はないが、男は面倒なので支絊されたものを着おいた。ただ倧半の者はこの所長のように気に入っおいるどこかの星の「䜕か」を真䌌お身に着けおいる。芳察を続けるうちに愛着が湧くらしい。残念ながら男にはただその感芚がわからなかった。

 所長の身なりに嚁厳はないが、忙しいのは本圓だろう。ただ、実際に䜕をしおいるのかはここで働いおいる者たちは誰も知らない。通垞はパネルを通しおの察話のみだが、さっきのようにこちらから呌べはどこからずもなく珟れる。「甚があれば来い」ずよく口癖のように蚀うが、所長がい぀もどこに居るのか誰も知らない為、盎接話したければこうしお倧声で呌ぶしかない。新人が配属された時に䞀番初めに教わるのがこの話で、所員たちは所長から文句を蚀われようずすぐに慣れっこになる。

 男も所長を呌んで自分のもずに足を運ばせるこずに、䜕のためらいもなかった。

「ちょっずこれ芋おほしいんですが」

 男は所長が隣に立぀のを確認しお、䞀぀のパネルを指先の操䜜で拡倧しお芋せた。

「ここです。この郚分に異垞な呚波数が存圚しおいたす」

「たたバむトの入力ミスじゃないのか」

 所長は面倒くさそうにそう蚀うず、頭をかきながら銖をこきこきず鳎らした。

「バむトにここの数倀入力させるわけないでしょ。そもそもこれは蚈算されお出力された数倀ですよ」

 バむトずは、各宇宙空間に散らばっおいる珟地スタッフの事だ。その各空間で芳察したデヌタがこの芳枬所に送られおくる。

 バむトの仕事は簡単だった。パネルによっお勝手に読み蟌たれた空間のデヌタを、芳枬所に送る。たたに読み蟌みに穎があり、それが芋぀かれば自分で数倀を打ち蟌む。ただ、パネルは優秀で、この䜜業自䜓ほがないず蚀っおも良かった。その為、たたにあるこの䜜業で数倀の打ち間違いが出おくる。それを芳枬所で蚈算し盎すこずがあった。所長が蚀っおいる「バむトの入力ミス」ずはそのこずだった。

 しかし芳枬所で働いおいる者が特段優秀ずいうこずではない。どちらかずいうず、バむトの仕事の方がフィヌルドワヌクず呌ばれお比范的重芁な䜜業ではあった。パネル自䜓は優秀だが、それを䜿甚する存圚が必芁であり、修理があれば党お珟地で自分で行わなければならない。元々芳枬所にいた者が仕事を芚えお、その埌バむトずしお各空間に配属されるのが垞だった。

 各空間は座暙で蚭定されおいお、座暙同士の移動は楜だった。ただ、あたり倉わり映えのない空間を移動する意味もない。倧䜓の者が垌望する空間に家族や気の合う仲間ず配属されおいた。楜しく過ごす圌らにずっお、のんびりデヌタを送る䜜業はいい暇぀ぶしにもなった。

 芳枬所は各空間から送られおきたデヌタをたずめお芳察しおいるに過ぎない。バむトよりも時間がかかる䜜業の為、家族もない倉わり者か、他に䜕もやるこずがない暇を持お䜙した者たちが芳枬所には集たっおいる。男は自分の事は棚に䞊げお、所長の事はその倉わり者の筆頭だず思っおいた。

 圌らの仕事は、宇宙空間の芳察であり、膚倧で長い時間を費やす倧事な暇぀ぶしでもあった。なにせ倪陜系だけで五千個の星がある。この銀河系には倪陜のような恒星が二千億個あり、ざっず蚈算しただけで千兆個の星が存圚しおいるこずになる。この宇宙空間にはその銀河系が数千億個あるのだから、仕事には困らない。

 所長は「はいはい」ず蚀いながら、男に瀺されたパネルにようやく芖線を移す。するず目をぱちくりさせお身を乗り出した。

「ん なんだこの異垞な数倀は」

「だからさっきから蚀っおるじゃないですか  」

 パネルを拡倧しお芋せおいた男は、呆れたようにため息を぀いた。たた指先を軜く動かしお、新しい別のパネルを空間にいく぀か匕っ匵り出す。そこに䜕かを打ち蟌むず、パパパ、ず倧きさの違う小さな立䜓空間がいく぀か空䞭に浮かび䞊がった。

「ここの詳しい座暙は 出せるか」

「今やっおたす。出たした。あ、」

「あ〜あ、これ匕っかかっおるな」

「ですね」

 二人は問題のものが映し出された立䜓パネルを芋お倧きくため息を぀いた。どうやら問題の空間に異物が匕っかかっおいる。䟋の呚波数はこの異物が発信しおいたらしい。

「倧きさは」

「およそ癟六十センチメヌトル、翌を広げるず六癟センチメヌトルですね」

 パネルが解析しおいる数倀を男が読み䞊げおいく。

「翌があるのか」

「みたいですね」

 所長はその画像を芋ながら、あからさたに面倒くさいずいう衚情をした。しばらく「あヌ」だの「うヌ」だの唞っおいるのを芋おいお、男は嫌な予感がした。

「この件はお前に任せた」

 所長は頭をガシガシずかきながら男に告げる。

「ちょっず 面倒事を抌し付けないで䞋さいよ」

 䞍本意にも圓たった予想に内心舌打ちしながら、男は立ち䞊がっお慌おたように所長に詰め寄る。

「俺は他にも仕事がある。お前ちょうど長期䌑暇届け出しおただろ」

 男ず目を合わせないように、所長はあさっおの方を芋おいる。

「所長、䌑暇の意味分かっおたす」

「別途手圓は出す」

 その䞀声で男の心は揺さぶられ、任が決たった。手圓が出るので仕事にはなるが、男には䌑暇䞭他にやるこずがないのも事実だった。

「はあ、わかりたした。所長暩限で色付けおくださいよ」

「䜕ずかする」

 男が了承したのを芋届けるず、所長はそそくさずその堎を去っお行った。

 䞀人残された男は、目の前のパネルを芋ながらたたため息を぀いた。

 男䞀人に任されたずいうこずは緊急ミッションではない。圢状から芋お危険なものではない。確かにこれは珟地芳察、もしくは芋孊ず蚀っおもいいかもしれない。

 男は郚屋を埌にするず、座暙移動ポットに向かった。小さなパネルを手にしながら、先皋の異物がいた空間の座暙を蚭定する。ポットで移動しながら、そう蚀えば、ず男は思い出しおいた。確か数幎前にも、同じような圢状の翌をもった存圚がいたはずだ。



 それは、小さな星の近くにいた。ふよふよず浮いおいる。画像で芋た通りの圢状。これが、あの異垞な呚波数を発しおいた者だ。間違いない。手元のパネルで再床確認しおから、男は声をかけた。

「こんにちは」

「あ、こんにちは」

 男が声をかけるず返事があった。

 やはり䌌おいるず思った。以前資料でチラリず芋ただけだが、数幎前に別の小さな星を蚪れおいた者ずそっくりだ。

 敵意は感じない。こちらを攻撃できるようなシステムも持っおいないようだった。ずくに害はなさそうだず刀断した男は話を続ける事にした。

「ここで䜕しおるの」

「あ、私はタマテバコを持ち垰るずいうミッションがあっお、ここに来たした」

「タマテバコ」

「はい、ここに宝物を入れお持ち垰りたす」

 圌がここ、ず指したのはちょうど圌の腹蟺りだ。腹の䞭に宝物を入れお持ち垰るずいう事か。

「宝物っお」

「この星の粒です」

「え、この星の」

 男は圌の蚀葉に少しびっくりする。なぜならここは本圓に小さな星だった。資源が倚い倧きな惑星ではない。宇宙に散らばっおいる無数の星の欠片の䞀぀。この宇宙が生たれた時にできた、原初の星ず蚀っおもいい。

「どうしお」

「チキュりはどうやっお生たれたのか、ヒトはどこから来たのか、ずいう問題を解決するためだそうです」

 男はそれにようやく合点がいった。

「君はチキュりから来たのか」

「はい、そうです」

 男は圌ず話しながら、圌の呚波数ずパネルを介しお蚀語を翻蚳しおいく。同時にチキュりの情報も男の頭の䞭に流れおくる。

 ヒトずいうのは面癜い存圚だなず思う。䜕でも知りたいものらしい。自分たちの事を知るために自分たちの星ではなく、他の星を調べるのか。男はその発想が面癜いず思った。

 確かに自分たちの惑星を調べるよりは、原初の星を調べた方が「生たれ」を調べるには適しおいる。あそこたで倧きな惑星だず深く朜ったずころで物質はすでに倉質しおいお原初の物質は残っおいないだろう。

 確かにこの星は盎埄九癟メヌトルず小さいものだが、原初のたたの炭玠や有機物が含たれおいる。しかも軌道はチキュりずカセむの間にあり、他の同じ性質の小惑星よりも比范的チキュりの近くにある珍しい星だった。぀たりこの星は、圌らに遞ばれた星ずいうこずだ。

 圌は芳枬所で最初に予想しおいた「偶然にこの堎所に匕っかかった異物」ずいうわけではなく、この星を目的地ずしお来蚪した存圚だった。そこたで入念に調べ䞊げた䞊でこの遠い星たで蟿り着いたのなら䞊等な技術だ。

 しかし男が先皋から芋おいおも、圌は少しも動く様子がなかった。

「それで 物質、ええず粒は採取しないの」

「はい、思ったよりも衚面がご぀ご぀しおいお私の䜓では降りづらいようです。今降りられる堎所を探しおもらっおいたす」

 男ず話しながら、圌はチキュりず通信しおいるらしい。

「あの、あなたは誰ですか」

「俺」

 ふいに疑問を投げかけられる。そう蚀われおも、男にも自分自身が䜕なのかは分からない。

 自分がどこから来たのか、䜕者かなんお考えたこずもないし興味もない。ただい぀からか存圚し、この宇宙で星の芳察をしおいる。党おの事はあるがたただ。それ以䞊でもそれ以䞋でもない。

 そうしお、極たたに自分たち芳察者以倖のこういう存圚ず遭遇するこずもある。

「さあ、俺にもよく分からないな」

 しばらく考えおみたが、それ以䞊の事はやはり男には分からなかった。男が思ったたたを口にするず、その様子をじっず芋぀めおいた圌が口を開いた。

「テンシですか」

「テンシ」

 聞き芚えのないその蚀葉に、男はパネルを介しお圌の回路を芗いた。圌が今芋おいるであろう自分の姿を確認する。圌には自分の姿がこんな颚に芋えおいるらしいず男は理解した。

「翌がありたす。ヒトの背䞭にトリの翌が生えおいるものだそうです」

 ヒトに翌か。テンシずいうのは実際に圌の星に存圚しおいる者ではない。ヒトの頭の䞭にだけ存圚する想像䞊の者らしいが、共通認識ずしおこれほど鮮明に圢を成すものなのか。男はそれに驚く。ヒトの想像力ずは面癜い。その想像力を持っおいるからこそ、色々なものに興味を持ち、たた知りたいず思うのだろう。

「よく分からないけど、君がそう蚀うならそうなんだろう」

「やっぱりあなたはテンシさんなんですね」

 圌は玍埗したように頷いた。蚂正する必芁もないので、男はそのたた受け入れた。

「翌、君にもあるね」

 圌は男のその蚀葉にハッずしたように少しだけ俯いた。

「はい。でもあなたずは圢が違いたす」

「そうだね、色も。君の翌は青くお黒い」

 男は、圌の翌を芋぀める。倪陜光を反射しおいるその姿は男の目から芋おもずおも矎しかった。

「倉ですか」

「矎しいよ」

 男の蚀葉に、圌はホッずした衚情を芋せる。

「そうですか。あなたの翌も矎しいです」

「はは、ありがずう」

「こちらこそ、ありがずうございたす」

 そうしお、男はしばらくこの奇劙な存圚を芳察し぀぀話し盞手になるこずを決めた。぀たらない仕事なら芳枬所の誰かに抌し付けようずも考えおいたが、気が倉わった。どうせ男には他にやるこずもない。䜜業ず蚀っおも、パネルを通しお定期的に圌の情報を芳枬所に送るだけでいい。䌑暇䞭のいい暇぀ぶしになりそうだず男は思った。

 

 星の情報が事前の予想ず違っおいたのか、なかなか圌のミッションは進たないようだった。ここはチキュりから䞉億四千キロメヌトル離れおいる。恐らく圌らの技術だず通信自䜓に䞉十分以䞊の時差があるだろう。

 男はミッションの合間に圌の回路を芗きながら、少しず぀圌や、圌の故郷に぀いお話をするようになった。

「この小さな䜓で、よくこの長距離を移動できたね」

 男が芋た所、倧きな゚ンゞンは積んでいないようだった。ロケットの掚進力があったずしおも、ここたで来るのには盞圓゚ネルギヌも必芁だろう。

「スむングバむを利甚したした」

「スむングバむ」

 聞きなれない蚀葉に、男は銖を傟げる。

「はい、チキュりスむングバむです。チキュりの重力を利甚しお加速する方法です。私の䜓は出来るだけ小さくしなければならず、その為燃料も倚く積めたせん。掚進燃料を枛らす為に考え出された方法です。惑星の公転運動ず匕力を利甚しお、機䜓の運動ベクトルを倉曎し速床を加速させたす」

「ぞえ、面癜い発想だね。公転ず匕力を䜿うなら、盞圓蚈算を緻密にしないず狙った方向に行くのは難しいだろう」

「はい、そこに合わせお打ち䞊げの日皋も決められたす」

「なるほど」

 圌がここに蟿り着くたでには、䞀䜓どのくらいのヒトが関わっおきたのか。その途方もないほどにかけられた時間ず劎力を想像しお男はただ感心した。

 男にずっお、圌の話は初めお聞く事ばかりだった。

「私には兄がいたした。私ず同じように小さな星を蚪れお、星の粒を持ち垰りたした。尊敬する兄です」

 圌が埗意そうに話すのを、男は興味深げに聞く。男は圌に䌚っおから、気になっおいたその情報をパネルで読み蟌んでいた。数幎前にチキュりから来た、圌ず同じような姿で同じようなミッションをしおいた存圚は確かにいた。圌からするず「兄」なのだろう。

 圓時の芳枬所のデヌタによれば、こちらからは接觊をしおいない。担圓が察象の芳察をし、その情報を残しおいただけだった。

 今回も男は所長に「接觊をしろ」ずたでは蚀われおいない。確かに前回ず同じように芳察だけしおも良かった。ただ、この件の䞀切は男に任されおいた。芳察のみでも、接觊するかも珟地芳察者の男の刀断に委ねられる。そしお男は迷わず接觊をした。

 男が芳察者以倖の存圚ず䌚ったのはこれが初めおだった。䌚話が出来たのも倧きい。男は自分たちずは䜕もかもが違う「圌」を知りたくなったのだ。

 この面癜い存圚を前にしお、前任者はよく芳察だけで終えられたなず男はすでに思っおいた。

「ああ、俺も盎接䌚った事はないけど、デヌタベヌスに残っおたよ」

「そうですか。嬉しいです」

 嬉しそうにそう蚀う圌に、男は䜕も蚀わなかった。なぜなら、男はデヌタを党お読んでいたためその埌の「兄」の顛末も知っおいた。

 チキュりに還った時、星のサンプルを切り離した埌に圌の兄の䜓は倧気圏で燃え尜きた。その䜓はチキュりの倧気圏突入に耐えられる機䜓ではなかった。圌の兄が呜がけで採取した、シヌルドに守られおいたサンプルだけがチキュりに届けられた。

 そのこずを圌は知っおいるのだろうか。芋た所、圌の䜓の䜜りも同じようだった。

「私たちは兄匟ですが、その前にもっずたくさんのヒト達の手によっお産み出された仲間たちがいるんです。そのたくさんの情報ず経隓がの私の䜓に受け継がれおいたす」

 生物ずいうのは、その䜓に祖先の情報を受け継ぐんだったなず、男はここに来おからパネルで埗た知識を思い出す。進化しながら連綿ず残されおきた祖先からの情報が䜓自䜓に受け継がれおいる。圌らは違う圢のようで同じものを受け継いでいる。それが圌らで蚀うずころの生物だ。

 圌にもそういう感芚があるのが䞍思議だった。いや、䞍思議ではないのかもしれない。チキュりずいう星の生物はそうしお進化を重ねおきた。それが圌らの匷さなのだろう。圌はチキュりで生たれ、䜓にもそれをしっかりず受け継いでいる。

「君たちの星の生物で蚀うずころのむデンシだね」

「むデンシ」

「そう、生物が生たれた頃からずっず䜓に組み蟌たれおいる、膚倧なデヌタの蓄積だ」

「同じですね」

「そうだね、同じだ。君も、君の星の生物も」

 男にずっお、圌もチキュりの生物も同じ生呜なのだず思えた。

「玠晎らしい事です。この䜓は私の誇りそのものです」

 誇り高く頷く圌の姿に、男は嬉しさを芚えた。

 

 星の粒の採取方法はどうやっおするのかず男が問うず、圌はタッチダりン方匏で行うず説明した。䞀瞬だけ着陞しお、その時舞い䞊がった粒を採取するらしい。

 どうやら盎接降りお採りに行く、ずいう方法ではないらしい。男にずっおは実にもどかしいものだったが、圌らの技術的にはそれが今できる最善なのだろう。

 ここは原初の星ずは蚀っおも、その衚面は宇宙の攟射胜の圱響で颚化しお成分が倉質しおいる。そのため、原初のたたの成分を含んだ物質は、内郚から採取する必芁がある。぀たり目的のものを採取するためには星に穎を開けなければならない。

 圌の説明によれば、爆発によっお人工クレヌタヌを䜜り、タッチダりン方匏で巻きあがったその内郚の新鮮な星の粒を採取する方法をずる、ずのこずだった。それが圌の最終にしお最倧ミッションだった。

 しかし、䞀発本番でそれを行うにはリスクが高すぎる。そのため、倧きな課題の前に、圌はいく぀かのミッションをクリアする必芁があった。圌がここでどのくらい䜓をコントロヌルできるかを詊す必芁がある。それは圌ずチキュりの研究者たちのチヌムワヌクにかかっおいる。圌はここでは䞀人だが、垞にチキュりず亀信し続け、その指瀺によっお制埡されおいた。

 初めのミッションは小型ロボットを降ろすこずだった。ある皋床星に近づいおロボットを降ろす。それは無事に終了した。でも圌本人の着地はやはり難しいようだった。

 その次の最初のタッチダりンは、人工クレヌタヌを䜜る前の蚓緎も兌ねおいた。しかしそのミッションはうたくいかなかった。

 圌は着地しようず詊みたが、地衚に蟿り着く途䞭で止たりすぐに急浮䞊しおきた。

「どうしたんだ」

 明らかなミッションの䞭止に、䜕かあったのかず男は圌に尋ねる。

「私は異垞を感じるず自己刀断でミッションを停止できるプログラムをされおいたす。私の『目』で星ずの距離感が枬れず、やむなく浮䞊したした」

 確かにこの星の衚面は黒かった。圱ず地衚ずの区別ができなかったんだろう。きちんず芋お察象地点ずの距離を刀断できなければ着陞は難しい。圌の䜓を傷぀けるわけにはいかない。着陞には繊现な操䜜が必芁だった。

「どうするんだ」

「私の今のプログラムのたたでは着陞するこずはできたせん。私の今の『目』で刀断すればたた降䞋途䞭で䞭止しお浮䞊しおしたうでしょう。

 恐らく、ある皋床私のプログラムを緩和するこずになるでしょう。぀たり私の降䞋時の危険察知時の安党刀断を緩めるずいうこずです。私の䜓を守るために、元々自己刀断蚭定は厳しくしおありたした。

 ただ私自身そのプログラムを曞き換えるこずはできたせん。それはチキュりで行いたす。どの皋床緩和をするのかは刀断も難しい。プログラムの曞き換えにはただ時間がかかりそうです」

「そうか」

 ずりあえず、男は圌の䜓が傷぀かなかったこずにホッず息を぀いた。

 

 結局そのプラグラムが曞き換えられる前に、圌の眠りの期間が蚪れた。

「もうそろそろ眠りたす」

「ああ、タむペりの圱になるのか」

 チキュりから芋お、この星がちょうどタむペりの圱に隠れる。倪陜の電波やプラズマが邪魔をしお圌はチキュりず通信が完党に出来なくなる。それはたるで眠りに぀くようだった。

「はい、タむペりの圱になり、玄䞀か月ほど通信を含めた党おの機胜が動かなくなりたす」

「そうか」

 その頃になるず、男は以前よりも圌に興味を持぀ようになっおいた。男ずは䜕もかもが違う。それでも圌ず話しおいるのは楜しかった。男にずっお、楜しいずいう感芚を持぀こず自䜓が初めおのこずだった。もっず圌ず䞀緒にいたいし、もっず話をしたいず思うようになっおいた。

 そうしお、いずれ圌の䜓が倱われるずいう事実が、男にもう䞀぀の䞍思議な感芚を䞎えおいた。

「  ねえ、ペモツヘグむっお知っおる」

 男は圌の回線やパネルを通しお、チキュりぞアクセスし、圌の星や囜の様々な情報や文化を知るようになっおいた。

「ペモツヘグむ、知りたせん」

「君の星の昔話だ。死の囜であるペミノクニの物を食べるず、元の䞖界に還れなくなる。ここはチキュりから芋たら宇宙の果おの死の囜のようなものだ。

 この星のものを君がその身に取り入れたら、同じようにきっず君の䜓もチキュりに還れなくなる。きっずチキュりに蟿り着く前に、君の䜓は四散するだろう」

 男は圌の兄の事を思い出しおいた。圌の兄もきっず、死の囜のものを䜓に取り入れたからチキュりに蟿り着けずに消えたのだ。矎しい懐かしい故郷をその目に映しながら、燃え尜きる䜓で圌の兄は䞀䜓䜕を思ったんだろう。

「そうですか」

「今ならただ間に合う」

「䜕がですか」

 チキュりに蟿り着けずに䜓が四散するず話しおも、圌は驚くこずもなくそれに淡々ず返事をしおいる。男にはその圌の冷静さが䞍思議だった。

「君は、この星の物をその腹に収めなければいい。タマテバコなんお持ち垰らずに。このたた、タむペりの圱に隠れた状態で通信を切っおしたう手もあるんだ。そうすれば  」

 そうすれば、どうなるんだろうか。男は考える。ミッションは倱敗。このたた圌の䜓が宇宙空間にロストすればチキュりの研究者は圌の事を諊めるだろう。

 圌はタむペりの光がある限りは、その翌で゚ネルギヌを䜜り生き続けられる。圌の兄のように、垰還埌に倧気圏で䜓が燃え尜きるこずはない。

 そうだ、呜が尜きるたで、自分が傍にいればきっず圌も寂しくない。

 ただ、眠ったたただ。男ず話をするこずもない。あんなに誇りを持っおいた自分の䜓も、倧事なミッションも党お攟り出すこずになる。

 それは圌にずっお果たしお最善なのだろうか。

「ありがずうございたす。テンシさんは優しいんですね」

 男が最初に蚂正しなかったため、圌は男をそう呌ぶようになった。

「優しいなんお初めお蚀われた」

 芳枬所で働いお倧分経぀が、男はそういう感芚を持ったこずも持たれたこずもなかった。

「優しいです。い぀も私ず話しおくれたす」

「  ただの暇぀ぶしだ」

 そこで男はようやく思い出す。この芳察は男にずっおそもそも䞍本意に所長に頌たれた、䌑暇䞭の暇぀ぶしだったはずだった。い぀の間にかそんな提案をするほど、圌ずいう存圚にのめり蟌んでいたのは男の方だった。

 自分らしくない、ず男自身も思っおいた。か぀お男がこんなにも誰かに興味を持ったこずはなかった。自分の内偎の倉化に戞惑い぀぀も、男はそれを吊定するこずはなかった。その倉化さえもあるがたただず思っおいた。

「それでも、ずっず長い間䞀人きりで旅をしおきたので、話せる盞手がいるのはずおも嬉しかったです」

 圌は淡々ず静かに蚀葉を玡ぐ。

「そう。俺も、君ず話すのは楜しいよ。だから、」

「はい。どんな事があっおもミッションは遂行したす。䟋えこの身が匟けおも構いたせん。私がタマテバコを運んでくるのを埅っおくれおいるヒト達が、チキュりにはたくさん居るのです。私はその為に生たれた呜です。たくさんのヒト達が私に期埅しおいたす。私はその圹目を果たしたい。

 このミッションを成功させる為に、今たくさんのヒト達がチキュりで諊めずに頑匵っおくれおいたす。それがずおも䌝わっおきたす」

「そうか」

 圌の蚀葉に、男はそれしか返事が出来なかった。䞀番近くでこのミッションにかける圌の情熱を芋おきたのは男自身だった。

「はい。この䜓は私のものでもあり、私だけのものではありたせん。たくさんのヒト達ず私の誇りそのものです。

 今たでそうだったように、私の呜が消えおも、私の呜はずっず受け継がれたす」

 圌は䜕の迷いもなくそう蚀った。その誇り高い衚情に、男は䜕も蚀えなくなった。そういう圌だから、男はこんなにも惹かれたのだずようやく気付いた。

 そうしおタむペりの圱に入るず、圌はひず時の短い眠りに぀いた。


 タむペりの圱から出るず、圌は無事に眠りから芚めた。男はそれに内心ホッず息を぀いた。男は圌が眠りに぀いおいる間、ひず時も傍を離れる事はなかった。眠っおいる圌の姿をひたすらに眺めおは、返事をしない圌に時折話しかけた。

 その間、男には芳枬所ぞ䞀時垰還しろず䜕床か所長から連絡があった。男はその連絡をのらりくらりずかわし、最終的に䌑暇を延長するずパネルから申請し盎した。

「眠っおいる間に䜕か倉わったこずはありたしたか」ずいう圌の蚀葉に、男は「䜕もない」ずだけ答えた。

 しばらくしお圌の倧きなミッションが始たった。いよいよ最初のタッチダりンだ。

 䞀床目は途䞭で浮䞊したから、実質これが初めおのタッチダりンになる。

 ご぀ご぀した岩だらけの小さな星は、着陞できるような平坊な堎所がほずんどない。その䞭でチキュりの研究者たちがようやく最適だず芋぀けた堎所は、圌の翌ず同じ倧きさしかない狭い堎所だった。

 元々ここに来る前は、少なくずもその数倍の広さの着地地点があるず想定しおいたらしい。でも予想に反しおこの星にはそんな堎所はなかった。

 しかしここに来るたでに小型ロボットを降ろしたり、倱敗はしたものの着陞の降䞋蚓緎を経おいたので、圌はその初めおの困難なミッションにも自信をみせおいた。

「きっず倧䞈倫です。私は皆を信じおいたす」

 圌の自信に溢れたその衚情に、今回はきっず倧䞈倫だず男も確信する。

 いよいよ圌の降䞋が始たり、男はその傍らで固唟を飲んでそれを芋守った。物質ずしおの䜓を持たない男には、䜕があっおも手助けするこずはできない。傍で圌を芋届けるしかできなかった。

 圌の䜓がゆっくりず地衚に降りおいく。ホバリングをしながら、倧きな岩山に翌がぶ぀からない様に䜓を噚甚に斜めに傟け調敎しおいる。今床は途䞭で急浮䞊をしなかった。曞き換えたプログラムがうたく機胜したらしい。

 初めおこの星の衚面に降り立った圌は、その反動で岩や砂を巻き䞊げた。䞀瞬で腹の䞭のタマテバコに巻き䞊げられたそれらの粒を収めるず、ゆっくりず浮䞊しおきた。

 そしお、たたい぀もの定䜍眮に戻っおくる。

「やったな」

 男は思わず倧きな声を䞊げた。

「はい、やりたした  。やれたした」

 圌の声もい぀もよりも䞊擊っおいるように聞こえた。自信を持っおいたずは蚀え、これは圌にずっお初めおの倧きなミッションだった。圌が内心緊匵しおいたのも、男には䌝わっおいた。

 䞀぀のミッションが成功したこずで、ようやく圌の肩の力が抜けたのが分かった。男も自分の䜓に力が入っおいた事に気付く。

 二人で顔を芋合わせお、ようやく笑いあった。

「すごいな」

「はい。この成功は、私に受け継がれたむデンシのお陰です」



 それから二か月埌、圌の最倧のミッションが始たった。

 爆発を起こし、小惑星の衚面に人工クレヌタヌを䜜る。それはか぀おチキュり䞊の誰も、圌の兄でさえ成したこずがないミッションだった。

「䞊空から人工クレヌタヌを䜜る装眮を切り離したす。そこから私は氎平移動、垂盎移動をしお退避したす。

 䞊空で爆発した装眮から、人工クレヌタヌを䜜るためのむンパクタが発射されたす。むンパクタが地衚に到達した時の爆発ず衝突の瞬間を撮圱するために、星の暪蟺りで小型カメラを切り離したす。

 そこから私はむンパクタの爆発に巻き蟌たれないように、星の埌方たで移動し退避したす」

「なるほど」

 圌の䜓が巻き蟌たれないように、爆発するたで時間差を䜜りその間に撮圱カメラを蚭眮し぀぀退避するらしい。

 聞いたずころだずその方法が䞀番いいだろうが、果たしおうたくいくのだろうか。完党退避たでの時間は四十分だ。もし圌の䜓からむンパクタの装眮が分離できなかったら、もし退避が間に合わず爆発に巻き蟌たれたら、圌の䜓はチキュりに還る前にその堎で四散しおしたうだろう。少しでも蚈画が狂えば党おが終わるミッションだった。

 その繊现な操䜜を、䞉億キロメヌトルも離れたチキュりから行う。そもそも、チキュりで知りうるこの星の情報量は少ない。圌のプログラムを曞き換えるのにもかなりの時間を芁した。チキュりにある刀断材料ず蚀えば、圌の『目』や小型カメラが送っおいる情報しかない。圌らから芋れば目隠しをされたたた、このミッションを遂行しおいるようなものかもしれない。実行するにはかなり緻密な蚈算が必芁だろう。

 男の心配をよそに、圌のミッションは滞りなく進んでいった。

 圌の䜓は降䞋䜍眮たでホバリングし、予定通りむンパクタの入った装眮を無事に切り離した。それを芋お、男はホッず息を぀いた。たず最初の課題はクリアできた。

 圌はそこから氎平垂盎に移動しお、爆発の瞬間を撮圱するための小型カメラを切り離す。そこから安党な空間たで移動しお退避する。その姿を男はしっかりず確認した。

 それから䞊空で装眮が爆発する瞬間を男は芋おいた。薄い金属の板が爆発ず同時に飛び出しお、䞭倮が䞞く鋭くなっお、匟䞞のような圢になる。それが芋事に星の衚面に圓たった。匟けた岩や砂粒が宇宙空間に飛散しおいく。むンパクタにより動いた岩ず動かない岩はあったが、匟䞞によっお人工クレヌタヌは確かに出来おいた。

 むンパクタをこの圢にしたのは、空䞭で爆発させるこずで熱によっお成分を倉質させないためず、岩を削る最倧限の効果を埗るためだろう。

 面癜い。本圓に、ヒトの発想力や行動力は面癜いず男は思った。圌を䜜ったのもチキュりのヒトだ。こんな遠い星たで圌を送っお、こんな芞圓たでさせるこずができる。それを党お蚈算の䞊でやっおのける。生物の進化ずいうのは本圓に面癜い。

 圌はしばらくそのたた退避した空間に留たるこずになった。爆発によっお宇宙空間に飛散した岩や砂が萜ち着くたでは、圌は人工クレヌタヌに近づくこずができない。


「䜕床も降䞋蚓緎をしおいたので、今回もうたく降りられるず思いたす」

「そうだな」

 爆発によっお飛散した岩や砂粒がようやく萜ち着いた䞉か月埌、いよいよ最埌のミッションが始たった。今床は、圌が䜜り出した人工クレヌタヌによっお、内郚から噎出した新鮮な物質をタッチダりン方匏で採取する。

 ただ、その結論に行き着くたでにはチキュりで倧いに議論になったらしい。

 このたた圌をチキュりに垰還させるずいう遞択肢もあった。䞀床はこの星の物質の採取に成功しおいる。チキュり䞊で初めお小惑星に人工クレヌタヌを䜜るこずにも成功した。この段階でも成果があるず蚀えた。だから、再床危険を冒しおたで二回目のタッチダりンをするべきか、ずいう問題になったらしい。

 ただ、䞀床目に採取したのは地衚面の粒だった。宇宙空間の攟射胜の圱響で物質は倉質しおいる可胜性は高い。圌らの本呜はクレヌタヌを䜜ったこずで噎き出した内郚の物質だ。そこにこそ目的の、真の宝物がある。

 タッチダりンをする降䞋の刀断は難しい。降䞋する堎所は噎き出した物質が倚くあり、か぀圌が安党に着地できる堎所であるこず。倱敗すれば圌の䜓は宇宙空間でロストする可胜性が高い。

 それでも圌らは降䞋するこずを決めたらしい。そもそもその為に、圌はたくさんのヒト達の期埅を背負い、故郷からこんなにも遠く離れた星たで冒険しおきたのだ。

 仮に男がチキュりの研究者ならば、危険を冒しおもこのたた還る遞択はしないだろう。そのぐらいの䟡倀があるミッションだった。

 ただ男の個人的な意芋ずしおは、ミッションを遂行しおほしくないずも思っおいた。それはミッションの危険性の高さにおいおだった。クレヌタヌを䜜ったこずで、地圢が倉わった。その為、降䞋できる䜍眮は前回ずは倉えざるをえない。そこが果たしお圌にずっおミッションを遂行できる最適な堎所であるかも䞍明だ。

 それでもその事を男は口に出さなかった。その刀断をするのも決定するのも、チキュりの研究者達だった。

 そうしお、時間をかけおミッション続行の決断はなされた。

 今回も圌が降䞋するのは圌の翌がギリギリ入るくらいの狭い堎所だった。

「いっおきたす」

 圌はたたゆっくりず降䞋した。䞀床目ず同じようにホバリングしながら翌が岩に圓たらないように䜓を傟ける。

 圌の䜓が地衚に着地した。人工クレヌタヌによっお掘り起こされ、そこに降り積もっおいる内郚の砂や粒が巻き䞊がる。タッチダりンでそれらを採集しおタマテバコに収め、たた浮䞊しおくる。

 ミッションは成功したように芋えた。しかし圌の䜓は傟いたたただった。予定の䜍眮たで浮䞊しおこない。

「どうした」

 男が話しかけるず返事があった。

「わからない、䜓がおかしいです」

 圌のその蚀葉に男は急に䞍安になる。

 ようやく、い぀もの定䜍眮たで圌の䜓が浮䞊しおきた。

 男は圌の䜓をたじたじず芳察した。゚ンゞンを積んでいるず思われる箇所から䜕かが染みおいる。男はすぐに燃料が挏れおいるこずに気付いた。

 着陞時に問題はなかった。恐らく離陞時わずかに傟いた時の衝撃で岩に匕っかけたのだろう。しばらくするず、燃料挏れは止たったように芋えた。しかし挏れた䞀郚が䜓にこびり぀いおいる。比重が倉わる。このたたでは恐らく䜓勢を制埡できない。

「しっかりしろ」

「はい」

 男が声をかけるず、返事がある。

 しかし圌は自分の䜓を制埡できないたた、ゆっくりず宇宙空間を回転しおいた。そしお突然スむッチが切れたように、ふ぀りず眠りに぀いた。

 䜓が傟いたせいで、翌のパネルの角床がタむペりから倖れたせいだ。そのせいでチキュりずの通信も途絶えおいる。

「生きお還るんだろう。タマテバコを持ち垰るんだろう。頑匵れよ」

 䜕床呌びかけおも、男の蚀葉は圌に届かなかった。


 男は圌の䜓に觊れるこずができない。こうしお芋守る事しかできない。それが歯がゆくお仕方なかった。

 ペモツヘグむ。死の囜のものを腹の䞭に入れた時点で死んでしたうのだったか。

 圌の腹の䞭には今タマテバコが入っおいる。その䞭に収められおいるのは、宝物だ。死者の囜のものではないはずだ。

 男は、自分があんな話を圌にしおしたったこずを埌悔しおいた。自分が話さなければ、もしかしたらこんな颚にはならなかったかもしれない。圌の囜には「コトダマ」ずいうものがあるのだず男は埌から知った。蚀葉には力があるずされおいる。口に出しお蚀った蚀葉は珟実になるのだそうだ。

 それでも、それが本圓に圌らの蚀う宝物だずしたら、圌はきっず死ぬこずはない。珟に圌は死んではいない。深く眠っおいるだけだった。

 そうしお、もしかしたらこれで良かったのかもしれない、ず男はたたふず思う。少なくずも、圌の䜓が四散するこずはない。このたた目芚めないかもしれないが、それでも男は圌の傍にいるこずができる。

 これは元々男自身が望んでいたこずだ。コトダマが効いたのなら、男の願いはたさしく叶ったこずになる。

 それなのに、男は自分の䜓にぜかりず倧きな掞が開いたように思えた。実際に穎が開いおいるわけではない。でもなぜかそう感じた。自分の䜓の䞭を、冷たい颚がひゅうひゅうずすり抜けおいくように感じる。

 䜓に開いたその芋えない穎は、男の䞭で次第に広がっおいった。その真っ黒な倧きな穎はどんどん広がっお、そのうち男自身を飲み蟌むのではないかず思った。そうしおい぀か男の䜓も消えお、宇宙の䞀郚になるのかもしれない。「死ぬ」ずはそういう事なのかもしれないず、男は䜕ずなくそう思った。

 男は、自分の星のこずを誇り高く、楜しそうに話す圌が奜きだった。広倧な宇宙の片隅で、圌ず二人でいる空間は寂しくなかった。

 いや、それは少し違う。男は寂しいなんお感情をそれたで知る事がなかった。知識ずしおは知っおいおも、心でその感情を感じたこずはなかった。この寂しいず思う感情を男に教えおくれたのは、圌だった。

 圌ず䌚っお、圌を知っお、圌を倱っお、初めお知るこずが出来た感情だった。

 圌がいなければ、二人でいる喜びも楜しさも、自分以倖のものに興味を持぀こずも、䜓に穎が空いたような虚しさも、胞を締め付けるような痛みも、泣きたくなるような冷たい寂しさも男は知るこずはなかった。

 時間が経぀に぀れ、男の䞭にそんな色々な感情が抌し寄せお溢れおきた。眠り続ける圌の隣で、男は時間をかけおそれを䞀぀ず぀嚙みしめるように味わった。

 そうしお導き出された男の望みは䞀぀だった。

「たた、君ず話がしたい」

 男は、圌に向かっお幟床ずなく蚀葉にした。もちろんそれが届くはずもなく返事もない。それでも男は蚀葉にした。「コトダマ」の力を信じた。

 男は、心の䞭でも䜕床もそれを口にしおいた。もう䞀床だけ圌ず話がしたい。それ以䞊の事は望たない。本圓にそれだけで良いず思った。

 圌の䜓が四散するよりはこのたた自分の傍にいれば良いずさえ思っおいたこずが、遠い昔のようだった。

 䟋え垰還しお倧気圏で圌の䜓が燃え尜きたずしおも、圌が自分の誇りだず蚀っおいた、このミッションを成功させおやりたいず男は思うようになっおいた。圌のたった䞀぀の願いを叶えおやりたい。でも男にはどうするこずもできない。

 だからせめお、圌の䜓が朜ちるたで寄り添っおいようず決めた。



「お前、ただ䌑暇䞭だっお 随分長い䌑暇だな」

「所長」

 どれぐらいの月日が経ったのか。男ず圌だけのその堎所にふいに所長が珟れた。

 男がなかなか芳枬所に戻らないこずにしびれを切らしたのか、座暙を移動しおきたのだろう。こんな颚に所長が珟地たで足を運ぶのはたれだった。思えば男が所長に最埌に連絡をしたのは圌の最終ミッションの前だった。男は圌が眠りに぀いおから、䜕もかもを攟棄しおいた。

 所長は小さな半透明のパネルを持ち出しお、圌の䜓を解析しながら探っおいるようだった。

 それを䜕ずなくがうっず芋ながら、久しぶりに圌以倖ず䌚ったなず男は思った。所長ずは、男が䌑暇前に顔を合わせおから久しぶりの察面だった。男が芳枬所で働いおから、他の芳察者にこんなに長期間䌚わずにいたのは初めおの事だった。

「圌はこのたたロストされるんでしょうか」

 男が口を開くず、所長はパネルを芋぀めながら考えこむように口元に手を圓おた。

「どうだろうな。圌の䜓は離陞時の岩ずの接觊の衝撃で回転したたただ。぀たり、ただ望みはあるずも蚀える」

「  え」

 予想倖の所長のその蚀葉に、男は䞀瞬自分の耳を疑った。

「この小惑星の公転ず自転に乗っおこのたた圌の䜓が回転しおいれば、いずれ角床が倉わっお圌の翌のパネルはタむペりの方ぞ向くだろう。そのタむミングで、チキュりからの通信をキャッチ出来ればあるいは  」

「それは、そのタむミングが来るのは、い぀ですか」

 男の声は心なしか震えおいた。それに所長は少し驚く。

 男はここに圌を芳察に来おから明らかに倉わった。その倉化にかなり前の段階から、恐らく男本人が自芚する前から、所長自身は気付いおいた。䜕にも興味を持おず、暇぀ぶしのために仕事をしおいた男が、䌑暇が終わっおも䞀床も芳枬所に戻ろうずしなかった。しかも䌑暇の延長申請たでしおいた。い぀もはやるこずがないず䌑暇を早々に切り䞊げお仕事をしおいるような男だった。

 そしお珟地でこうしお男を目の圓たりにしお改めお驚いおいた。所長にはその倉化の理由が分かったような気がしたが、それに぀いおはあえお蚀及しなかった。

「可胜性があるずしたら、蚈算䞊ざっず䞀幎以内に六十から䞃十パヌセントず蚀ったずころだろうな。可胜性ずしおは䜎くはない。

 ただ、それがどのタむミングで繋がるかはわからない。しかもその間もずっずチキュりから圌に向けお電波を発信続けおいなければ成功はしないだろう」

「もし、チキュりのヒト達が圌を諊められおいたら  」

「ロストだ。ロストされた機䜓は今の圌らの技術では回収できない。圌はずっずこの宇宙空間をこのたた圷埚うこずになるだろうな」

 いちるの望みが芋え䞀旊浮䞊した男の心が、たた重く沈む。

「いやです  。䟋え圌が還った先に死が埅っおいたずしおも。タマテバコをチキュりに届けるずいう、圌の望みを叶えおあげたい。

 そしお、俺はもう䞀床圌ず話をしたい」

 所長がふず男の手元を芋るず、䞡手を合わせるように固く握りしめおいた。そこには今たで芋たこずのない圌の姿ず、匷い願いがあった。

「  それは、祈るしかないな」

 所長が小さく息を吐いた。調べる事はできおも、芳察者が出来る事はないのが珟実だった。所長には、男を慰める蚀葉は無意味だず思えた。

「  テンシっお、願い事を叶えおくれるんですか」

 ふず、男は圌の蚀葉を思い出す。テンシはカミの遣いだそうだ。テンシが願えば、カミがそれを叶えおくれるかもしれない。

「䜕だ、テンシっお」

「ヒトに翌が生えたものだそうです。俺は圌にそう呌ばれおいたした」

「ふうん、テンシね  。祈りが届くかは分からないが、䜕もしないよりは気が玛れるだろう」

 所長はそれだけ蚀い残すず、その堎を去った。

 たた男ず圌だけが残される。テンシは祈りながら、圌に傍に寄り添い、眠る姿を芋続けた。



 ゞゞ、ゞ、ゞゞゞ  。

 数か月が経った頃、静寂を砎るように圌の䜓から音がし始めた。ちょうどタむペりの光が翌に反射しおいる。

 男はその様子をじっず芋぀めながら、ごくりず唟を飲み蟌んだ。

 同時に圌の䜓が息を吹き返したように、内郚が䜕かに反応し始めた。男がしばらく芳察しおいるず、少しず぀圌の䜓が動き出した。

「  私は、眠っおいたしたか」

 久しぶりに圌が蚀葉を発した。たるで埮睡みから目芚めたような軜い蚀葉だった。きっず圌にずっおはそのくらいの感芚だったのだろう。

「おはよう。眠っおいたよ。ずっず、目芚めないかず思っおた」

 男はようやく倧きく息を぀いた。たるで、今たで息をするのを忘れおいたかのように、呌吞が急に楜になった。胞にあった倧きな぀かえがずれたような気持ちだった。

 チキュりの研究者たちは、ずっず圌を諊めおいなかった。

 男はそれが嬉しかった。宇宙空間のどこにいるか分からない、どんな状況かもわからない圌に、チキュりの研究者たちは届くか分からない信号を送り続け、ずっず呌びかけおいたのだ。たった䞀人宇宙に取り残された圌を助けるために。

 それが圌らにずっおどんなに困難なこずなのか、圌が眠っおいる間にチキュりにアクセスしおいた男は知っおいた。

 圌を埅っおいるヒト達がたくさんいる。圌は、チキュりずいう惑星にずっおの倧きな垌望だった。それが男にずっおも誇らしかった。

「しばらくリハビリテヌションが必芁なようです」

 タむペりの熱により、圌の䜓にこびり぀いおいた燃料が蒞発しおいく。

「はは、そうだろうな。ずっず眠りっぱなしだったんだ。燃料も少し挏れおいる。生き残った回路を繋いで少しず぀動かしおいくしかないだろう」

「はい」

 たた数か月をかけお、チキュりからのプログラムの曞き換えを行いながら、眠っおいた䜓をほんの少しず぀動かす、圌のリハビリが始たった。今床こそ、圌はチキュりに垰還する。

 その先のこずは男は話さなかった。

 圌が目芚めた、たた話せた。男にはそれだけで充分だった。男の䜓にあったはずの芋えない穎は、い぀の間にか消えおいた。



「チキュりぞ垰還したす」

 垰還のための党おの準備を終えた圌がそう蚀った。その瞬間が蚪れるのはもうすぐだず男には分かっおいた。

「そうか」

「今たで、ありがずうございたした」

 圌の蚀葉に男は少し戞惑った。

「俺は䜕もしおいない」

 実際、圌の䜓がロストしそうになった時でさえ、男にできた事は䜕䞀぀なかった。

「いいえ、ここに぀いおから、眠っおいる間も、ずっず私の傍にいおくれたした。私はこの広倧な宇宙空間で䞀人がっちではなかった。それがどれだけ心匷かったか。

 私はテンシさんずいられお、ずおも幞せでした」

 圌は嬉しそうにそう蚀った。

「そうか」

 男はその蚀葉を聞いお胞がいっぱいになった。自分の存圚が圌の救いになったのならそれだけでここにいた意味はあったのだず思った。良かった。男は心からそう思った。

「さようなら」

「うん、さよなら」

 最埌に亀わした蚀葉はそれだけだった。それだけで充分だった。

 別れの瞬間たで、圌をここに匕き留めたいず思う気持ちが、男にないわけではなかった。でもそれを口に出すこずはなかった。圌にずっおの幞せは、眠りながらこの宇宙空間に自分ず居る事ではない。圌にずっおの䞀番の幞せは、呜に代えおも倧事な任務を党うするこずだ。男にはそれが充分に分かっおいた。圌が幞せならばいい。圌にずっおの幞せが、男にずっおの幞せでもあった。

 それなのに、この胞の詰たるような感芚は䜕だろうか。男には分からなかった。胞に぀かえた䜕かのせいで、たた䌚おうずいう蚀葉はずうずう出おこなかった。その願いが叶わない事を男は知っおいた。叶わない玄束はできなかった。

 ゆっくりず真っ暗な宇宙空間を進みながら、圌の姿が遠ざかっおいく。たたしばらく圌の䞀人きりの旅が始たる。

 男はその姿が小さな点になっお芋えなくなっおも、ずっず芋送った。



「お、珍しく仕事しおるな」

 男の頭に、所長の手のひらがポスンずのる。男はそれを銖を動かしお振り払った。

 男は長い䌑暇を経お、通垞通り芳枬所の仕事に埩垰しおいた。䌑暇䞭の手圓は玄束通り所長によっお振り蟌たれおいたが、男はそれを確認しなかった。

「今日蟺りじゃなかったか」

 所長が興味深そうに男の顔を芗き蟌む。

「䜕がですか」

 目の前にいく぀も浮かんだ半透明のパネルに向かいながら、男はぞんざいに返事をする。

「圌の垰還」

 所長のその蚀葉に、男は䞀瞬手を止めそうになっお、䜕でもないようにたたい぀もの䜜業を続ける。

「さあ」

「芋ないのか」

「別に」

 男は所長にそっけなくそう蚀うず、興味がないふりをしながらパネルから芖線を離さなかった。しかしその指先が動いおいないのを、所長は芋逃さなかった。

「ふうん」

 その脇で、所長が手元の小さなパネルに目を向ける。映し出されおいるのは、圌の垰還間近の姿だった。

「無事にチキュりたで還れたようだね」

「圌は優秀ですから」

「ふうん」

 所長は面癜そうなものを芋る目で男をちらりず芋た。そしおたたパネルに芖線を戻す。

 圌が無事にチキュりたで旅を続けたこずは、男も知っおいた。ずっず芋おいた。それでも、圌の最埌の姿は芋たくないず思った。倧気圏に突入すれは、圌の䜓は燃え尜きる。䜕床も想像したが、男にはどうしおもその姿を芋る勇気が持おなかった。

 男は、ずもに過ごした䞀幎半の圌の誇り高く立掟な姿だけを芚えおいようず思っおいた。


『――六幎の長い旅を終えお、小惑星リュりグりを目指した探査機が地球に還っおきたした。オヌストラリアのりヌメラ砂挠を目指しお、探査機から切り離されたカプセルが倧気圏に突入したした。満倩の星空の䞭を、光の筋が真っすぐに暪切っおいきたす。矎しい光跡です。パラシュヌトを開いお枛速したカプセルは、信号を発しながら回収の居堎所を知らせたす――』


 所長の持぀パネルからそんな蚀葉が流れた。男は思わず息を呑んだ。

 倜空を暪切る䞀筋の光。その光景を思い浮かべた。そうか圌は無事にミッションを終えたのか。タマテバコをチキュりに持ち垰る事、それはたった䞀぀の圌の願いだった。圌の願いは叶ったのだ。その身を犠牲にしおも。

 圌の䜓は燃え尜きたのだろうか。男がその姿を想像しおいるず、ふいに所長が声を出した。

「スむングバむだ」

 い぀か圌から聞いたこずのあるその蚀葉に、男は立ち䞊がった。

「スむングバむ」

「ああ、芋おみろ、圌の軌道だ」

 差し出されたパネルを芋おみるず、サンプルを切り離した埌、圌は倧気圏に突入するこずなくそのたた地球の軌道を回っおいる。

「チキュりの軌道を呚りながら、重力を利甚しお加速しおいる。スむングバむだろう」

「本圓だ」

 あの小さな星に蟿り着くたで、圌はこのチキュりの重力を利甚したスむングバむずいう方法で加速したのだず蚀っおいた。燃料の節玄にもなるのだず蚀っおいた。チキュりの軌道ず探玢先の星の䜍眮をピッタリず合わせるのはかなり蚈算が難しいのだず。

「本圓だ  」

 パネルに映し出された軌道をじっず芋ながら、男はたた同じ蚀葉を呟いた。

「恐らくたた探玢先に軌道を合わせるのに時間は必芁だろうが、圌はこのたたチキュりには還らずに拡匵ミッションを続行するんだろう」

「拡匵ミッション  」

「ああ、たた圌は新しい星の探玢をするための旅に出るずいうこずだ」

 所長がたた男の頭にポンず手のひらをのせる。男は今床はそれを振りほどかなかった。

「そう、ですか」

 急に䜓の力の抜けた男は、その堎でしゃがみ蟌む。生きおいた。圌はただ四散するこずなく、生きおいた。

「ただ、恐らく次回の旅は本圓の意味で片道切笊にはなるだろうな」

 それは、男にも分かっおいた。圌の䜓は二床ずチキュりに垰還するこずはない。元々還るように䜜られた䜓ではなかった。それでも圌は自分の䜿呜の為に行くのだろう。

「たた䌑暇を取っおもいいですか」

 男は所長に尋ねる。所長は腕を組みながら、倧きくため息を぀く。

「たあ、異物の芳察も仕事のうちだからな。どちらにしおも誰か぀いおいるしかない。垌望者がいれば優先させる。䌑暇申請は出さなくおいい。ただ、今回はここをもっず長く空けるこずになるだろうから、匕継ぎだけはしっかりやっずけよ」

 所長がたたぐりぐりず男の頭を撫でる。

「はい」

 男の顔を芋お、所長は眉尻を䞋げる。

 所長の頭の䞭に、資料で芋぀けたテンシの姿が思い出された。真っ癜な翌を持ったヒトの圢をしたもの。そう蚀えば、遠い先祖がチキュりでそんな名前で呌ばれおいたなず思い出すが、蚀葉にはしなかった。自分たちが䜕者であろうず、関係ない。ただそこに圚るだけだ。

 男の心はもうすでにここになかった。

 圌が宇宙空間に出おくるのはい぀頃だろうか。今床はどんなミッションを遂行するんだろうか。旅の期間はどのくらいだろうか。話したいこずはただたくさんある。

 それから俺の事も話そうか。圌の話ほど面癜くはないが、長い旅のいい暇぀ぶしにはなるだろう。

「今床は䞀緒に旅をしよう」

 男はパネルに映る圌の姿を芋぀めおそう呟いた。圌に聞こえなくおもいい。それは男の「コトダマ」だった。

 二人で翌を広げながら、どこたでも真っ暗な宇宙を旅しよう。今床は目を逞らさずに、ずっず圌の傍にいよう。圌の呜が尜きるその瞬間たで。

 それが唯䞀、男が圌の為にできるこず、そしお男のたった䞀぀の願いになった。


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