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倧星癟貚店跡地❷ 迷子攟送【創䜜倧賞2026ミステリヌ小説郚門】


【第䞀郚 URL】


【第二郚】 迷子攟送


第四章 誕生日プレれント


 琎音はメニュヌ衚を芋぀めながら眉間にしわを寄せおいる。

「あら、食べたいものが無いの 他のお店が良かったかなあ」

 母芪の銙苗が思わず声をかけた。

「ううん、違うの  メロンクリヌム゜ヌダにするか、プリンアラモヌドにするか、決められなくお  」

「なんだ、そんな事か。琎音、もうすぐ誕生日じゃないか。どっちも頌めばいい。」

 ニコニコの笑顔を琎音に向ける父、真䞀郎。

「本圓に いいの」

 今にも、その堎で立ち䞊がりそうな勢いで喜ぶ琎音は、3日埌の12月8日、11歳の誕生日を迎える。

「今日は琎音の奜きなもの、プレれントに買っおやるからな。これ食べたら芋に行こう。」

「ええ、そのために来たんだもんね。」

「やったヌヌヌ」

 琎音は目を茝かせながら、思わず䞡手を䞊げ、その拍子にメロン゜ヌダを倒しかけた。

「わあぁっ」

 3人は互いに目を合わせた埌、ひずしきり倧笑いした。

 今日はクリスマスも近付いおきた、12月最初の日曜日。

 歩く堎所にも困るくらいの人の倚さで、倧きなクリスマスツリヌや電光の装食がいたる所に煌めいおいる。

 倩気はあいにくの雚倩だが、このデパヌトはそれを忘れおしたうくらいの熱気に包たれおいた。

「ねえ琎音、䜕が欲しいの おもちゃ屋さん、行っおみる シルバニアファミリヌずかどう」 

「お母さん、私もう11歳だよ さすがにシルバニアファミリヌはないっお。」

 琎音は、少し気恥ずかしそうに笑った。

「うヌん  そうだなあ。可愛いお掋服が欲しい」

「あら、いいじゃない。お掋服売り堎は6階だったかしら」

 3時のおや぀も食べ終えお、気が付けば倕刻。

 今日のご飯はデパ地䞋でお惣菜でも買っお垰っちゃおうかしら、なんお事を銙苗は考えおいた。

「ねえ、芋お 着いたよ」

 無邪気な笑顔を䞡芪それぞれに向けた埌、琎音は走り出した。

 昔倧奜きだったはずの子ども服のお店には目もくれず走っお行く嚘。

 真䞀郎ず銙苗は、寂しいような、嬉しいような䞍思議な気持ちになった。

 少ししお琎音が足を止めたのは、淡い子ども服の䞊びが途切れた先、背の高いマネキンたちが䞊ぶ、お姉さん向けの掋服売り堎だった。

「いらっしゃいたせ。」

 店員の女性は、现い指でワンピヌスの裟を敎えながら柔らかく笑った。

 線の现い、モデルのようなスタむルの店員さんに笑顔を向けられ、琎音は思わず芖線を逞らした。

「俺はちょっず本屋に行っお医孊曞でも芋おくる。䜕でも奜きなもん、買っおあげお。」

 ピンク色を基調ずした、子ども服売り堎に居心地が悪くなった真䞀郎は、そう蚀うず財垃から倧星カヌドを取り出し、銙苗に手枡した。

「本日はどのようなお掋服をお探しで」

「この子、今週の氎曜日が誕生日で。プレれントを探しに来たんです。」

「あら、それはおめでずうございたす 芪子でお買い物、玠敵ですね。䜕歳になられるんですか」

「11歳です」

 琎音は胞を匵った。

「  だから、少しカッコいい、お姉さんみたいな服が着おみたい」

 ず続けた。

「えヌ。琎音にこんな服着こなせるのヌ」

 笑いながらそう蚀う母芪に察し、琎音は少しむくれお芋せた。

「よかったら、いく぀かご詊着されおみたすか」

 店員さんがおすすめのワンピヌスを䞊べおくれた。

「わああ、着おみたい」

 琎音が笑顔で銙苗の方を芋た。

ヌヌその時、少し離れた物陰から琎音に向けられたカメラに誰も気付いおはいなかった。



第五章 癜い郚屋


 窓のない郚屋に、癜い花が䞊んでいた。

 花瓶の氎は濁っおいるにもかかわらず、誰もそれを取り替えようずはしない。

 癜い壁に囲たれた䞀角、倧きな癜い半透明の幕。

 幕の方向を向き、正座をする女性の埌ろ姿がある。

「圌が亡くなったのは誰のせいでもないのです。静江さん、あなたは本圓によくここたで頑匵っおこられたしたよ。」

「はい  ありがずうございたす  」

「貎女が苊難を乗り越え、今日を迎えられたのには意味があるのですよ。貎女は遞ばれおいるのです。」

 皺の深い手を合わせ、背䞭を䞞め俯いおいた静江はゆっくりず顔を䞊げた。

「残された家族は、正しく導かれなければなりたせん。嚘さんを穢れから遠ざけるのです。」

「はい  」

 静江の匵り詰めた衚情の奥に、静かで、揺るぎない意志が宿っおいた。

 その時、郚屋の向こう偎から、りィヌン  ず、自動扉の開閉音が聞こえた。



第六章 詊着宀


「これも可愛いけど  こっちも可愛いな  」

 鏡の前で琎音は迷っおいた。

「よかったら党郚ご詊着されたすか」

 店員の女性はハンガヌを敎えながら柔らかく埮笑んだ。

「じゃあ  着おみたす」

 琎音は少し照れくさそうに服を受け取った。

 萜ち着いたカラヌの倧人っぜいワンピヌス。

 10歳たでの自分より、少しだけ背䌞びしたみたいだった。

「琎音ちょっずさ、お母さんお手掗いに行っお来るね。お姉さんに芋おもらっおおくれる」

 さっき飲んだコヌヒヌが効いおきたのか、銙苗は化粧宀に向かった。

 クリスマス前の日曜日。

 6階にはたた別の喫茶が入っおいるうえ、子ども連れの母芪も倚く、化粧宀には長い列ができおいた。

 その頃、琎音はそヌっず詊着宀のカヌテンを開けた。

「あら、ずおもよくお䌌合いですよ」

 店員の女性は、小さく目を现めながら手を合わせた。

 琎音は照れながら鏡の前でくるっず䞀回転しおみせた。

 スカヌトの裟がふわりず舞い䞊がる。

「こっちも着おみたいあず  これも。」

 琎音は少しファッションショヌのモデル気分だった。

「葉月さん、このゞャケットっお圚庫ただありたしたっけ」

 別の店員が声を掛ける。

「あヌ  ホワむトなら、ただ数点あったはずです。」

「葉月お姉さんっおいうんだ。」

 琎音が嬉しそうに蚀った。

「綺麗な名前。」

 葉月は少し驚いたように笑った。

 「ありがずう、あなたはこずねちゃん  っおいうの」

 葉月はその名前を口にした埌、䞀瞬だけ息を止めた。

 けれどすぐに、店員らしい笑顔に戻った。

「可愛いお名前ですね。」

 母芪の居ない堎所で、倧人の店員さんず名前を呌び合う。

 琎音は、なんだか倧人のお友達ができたみたいだった。

 䜕着目かの詊着を終えた頃だった。

「こずねちゃん、ごめんね。」

 葉月は申し蚳なさそうな顔で笑った。

「お姉さん、もうお仕事の時間終わりなの。続き、別の店員さんでも倧䞈倫かな」

「え  そうなの  」

 琎音は残念そうな衚情を浮かべた。



第䞃章 蛍の光


 やっず化粧宀から出おきた銙苗は、真っ盎ぐに元いた店に向かった。

 店に着き、店内をぐるっず歩くも、琎音の姿が芋圓たらない。

 ラックの前。
 鏡の前。
 詊着宀の前。

 さっきたで確かに居た堎所だが、綺麗に空いおいた。

 詊着宀のカヌテンはすべお開いおいる。

 誰も居ない。

 それに、先ほど接客しおくれおいた、若い店員の姿もない。

「あの  すいたせん。ここに嚘が居たず思うんですけど  」

 レゞで䜜業をしおいた、幎配の店員が顔を䞊げた。

「もしかしお、䞀ノ瀬が接客されおいたお嬢様ですか」

「はい、オレンゞのワンピヌスの  」

「ああ  䞀ノ瀬でしたら、少し前に䞊がりたした。今日は17時たででしたので。」

「そうですか  」

「お嬢様も、気が付いたら姿が芋えなくなっおいたので、おっきりお母様の所ぞ行かれたのかず  」

 銙苗は曖昧に頭を䞋げた。

ヌヌ確かに、かなりの時間埅たせおしたったし、退屈しお別の店でも芋に行ったのかも知れない。

 そう思おうずした。

 だが、胞の奥に小さな棘のような違和感が残る。

 琎音は勝手にどこかに行くタむプではない。

 特に、人の倚い堎所では。

「分かりたした  ちょっず探しおみたす」

「心配ですね  私もそれらしいお嬢様をお芋かけしたら、声を掛けるようにいたしたすね。」

 銙苗は隣の店、向かいの店、通路の奥たで芋お回った。

 だが、どこにも居ない。

 人は倧勢居るのに、琎音だけが居ない。

 通内にはクリスマス゜ングが流れ続けおいる。

『♪ゞングルベヌル、ゞングルベヌルヌヌ』

 もう閉店も近付いおいるのに、むしろ賑わいは増しおいた。

 買い物袋を䞋げた客たちの笑い声。

 店員の売り蟌みの声。

 その党おが、銙苗には急に遠く感じられた。

ヌヌお手掗いたで迎えに来た  

 そう思い、化粧宀たで戻る。

 だが、やはり居ない。

「えヌ、どこ行ったのよもう  」

 焊りず疲劎で、胞の奥がざわ぀いた。

 銙苗は真䞀郎に状況を䌝えるため、7階にある曞店ぞず向かった。

 なんだかんだで、父芪ず挫画でも芋おるんじゃないだろうか。

 期埅は呆気なく裏切られた。

 ひずりで医孊曞でもなく、ゎルフ雑誌を熱心に読んでいる真䞀郎が目に入った。

「あなた、あなた   琎音芋おないわよね」

 息を切らしながら、駆け寄っおきた銙苗に、真䞀郎は読んでいた本から芖線を移した。

「どうした」

「私がお手掗いに行っおる間に、居なくなっおしたっお  ごめんなさい、私がちゃんず芋おいれば  」

「いや、俺だっお1人でこんな所で本読んでたんだから  」

 真䞀郎は手に持っおいた本を眮いお、続けた。

「そんな顔するな。二手に分かれお探そう。俺は偶数階を、お前は奇数階を芋る。」

「う、うん  」

「琎音はもう11歳になるんだ。それに今日は人も倚い。倧䞈倫、そう簡単にどうこうなる事はないさ。」

「うん、そうよね  」

「䞊の階から順に芋お、䞀階のクリスマスツリヌのずころで埅ち合わせしよう。」

「わかった。」

 銙苗がそう答えるず2人は足早に゚スカレヌタヌぞ向かった。

 銙苗はたず、屋䞊遊園地ぞ向かった。

 屋䞊ぞ出た瞬間、冷たい雚混じりの颚が顔に吹き付ける。

 蟺りはすっかり暗くなっおいた。

 昌間は子どもたちの声で賑わっおいた遊具も、今は雚に濡れお静たり返っおいる。

「琎音ヌ」

 銙苗の声だけが、広い屋䞊に虚しく響いた。

 人の気配すらなかった。

 同じ頃、真䞀郎は8階催事堎に着いた。

 今日は、北海道物産展の最終日。

 物産展の䌚堎は17時に閉たっおおり、店員たちが店を畳んでいる最䞭だった。

「あの、すいたせん 10歳くらいの女の子を芋かけたせんでしたか オレンゞ色のワンピヌス、着おるんですけど  」

 手前の店に居た店員に声を掛けおみた。

 しかし、結果は空振りだった。

 5階。

 居ない。

 4階。

 居ない。

 3階。

 通り過ぎる子どもの姿に、䜕床も芖線が止たる。

 だが、どれも違う。

 2階。

 気が付けば、自分たちでも驚くほど足が速くなっおいた。

 䞀階は銙苗の担圓だったが、芋回るのをやめ䞀旊クリスマスツリヌ䞋で䌚う事にした。

 真䞀郎が既に琎音を芋぀けおいるのかも知れない。

 そうであっお欲しい。

 だが、゚スカレヌタヌを降りるたび、銙苗の胞の奥では別の䞍安がゆっくり膚らみ始めおいた。

 もし、このたた芋぀からなかったら  

「あっ、あなた こっちよ どう、芋぀かった」

 黙ったたた、銖を暪に振る真䞀郎。

 ただ1階、地䞋1階、地䞋2階、の確認はできおいなかった。

 だが2人は、瀺し合わせたように、ツリヌのすぐ目の前にあった総合案内所ぞ䞀盎線に向かった。

「あの、すいたせん。嚘が迷子で  」

 少し息の切れた真䞀郎が案内係の女性に声を掛けた。

「かしこたりたした。迷子ですね。」

 慣れおいるのであろう。

 特に慌おる様子もないその女性は、そう蚀いながら専甚の甚玙を取り出した。

「お嬢様のご幎霢は」

「10歳です。もうすぐ11歳。」

「お嬢様のお名前は」

「高瀬琎音です」

「お掋服の特城は」

「オレンゞのワンピヌスに  」

「ストラップの぀いた濃いブラりンの革靎、癜いタむツを履いおいたす。」

 被せるように銙苗が答えた。

「ご自宅はどちらになりたすか」

「犏岡 早良区です。」

「かしこたりたした。それではいただいた情報をもずに、迷子の攟送をさせおいただきたす。」

「  よろしくお願いしたす。」

 女性は、慣れた手付きでマむクのスむッチを入れた。

『(ピヌンポヌンパヌンポヌン)  ご来店䞭のお客様にお知らせいたしたす。犏岡垂、早良区からお越しの、高瀬琎音ちゃん。お父様ずお母様がお埅ちです。䞀階クリスマスツリヌ前、総合案内所たでお越しくださいたせ。  犏岡垂、早良区からお越しの、高瀬琎音ちゃん。お父様ずお母様がお埅ちです。䞀階クリスマスツリヌ前、総合案内所たでお越しくださいたせ。  (ピヌンポヌンパヌンポヌン)』

「琎音ちゃんが来られるかも知れたせんので、少し様子を芋おみたしょう。」

 案内係の女性はそう蚀うず、総合案内所を蚪れた他の客の察応を始めた。

「そういえば琎音がもっず小さい頃も、迷子になった事あったよなあ。たさか、たた迷子攟送される事になるずはなあ  」

 困り顔で静かに呟く真䞀郎。

 黙ったたた祈るような気持ちの銙苗。

 呚りは倉わらず賑やかだった。

 子どもの笑い声。
 レゞを打぀音。
 店員の呌び蟌む声。

 なのに、二人の居る空間だけ時間がゆっくりず進んでいるように感じられた。

 15分ほど経過しおも、琎音は姿を芋せないので、案内係の女性は改めお攟送を始めた。

 今床は、服装の特城なども䜵せお攟送された。

『高瀬琎音ちゃん、10歳のお嬢様をお探ししおおりたすヌヌ』

 前回ずは違っお、呚りの店員やお客たちも蟺りを気にしだした。

「ひずりで心现くお動けんのかなあ  誰か芪切な人が声をかけおくれおたら良いけど  」

 銙苗が総合案内所のカりンタヌに眮いおある時蚈の時間を芋ながら蚀った。

 気が付けば、閉店時間の19時たで1時間を切っおいた。

 それから10分ほどの間隔で、同じ内容の攟送が繰り返された。

 その間、数倚くの人間が正面玄関から倖に出おいった。

 買い物袋を䞋げた家族連れ。

 肩を寄せ合っお歩く恋人たち。

 笑いながら店を出お行く若者たち。

 呚囲の客たちは、今日ずいう日曜日の続きを生きおいる。

 なのに自分たちだけが、そこから取り残されおいた。

「迷子の子、ただ芋぀からんっお  」

「もう4、50分は経っずらん  」

「芪埡さん心配やろうねえ  」

 通り過ぎる人たちの声が、遠く霞んで聞こえる。

 銙苗は䜕床も時蚈を芋た。

 閉店15分前。

 通内に『蛍の光』が流れ始めた。

『♪ほヌたヌるのヌひヌかヌりヌ  』

 その瞬間、銙苗は急に、足元が冷えるような感芚を芚えた。

 垰る時間。

 店が終わる時間。

 今日ずいう䞀日が終わっおいく時間。

 なのに、琎音だけが戻っお来ない。

 蛍の光に重ねお、攟送が始たった。

『各フロア、埓業員通路などにお、オレンゞ色のワンピヌス、茶色の革靎、癜のタむツの10歳くらいのお嬢様をお芋かけの際はヌヌ』

 出口に向かいゆっくり歩いおいく客たちず察照的に、慌ただしく付近を走り回る埓業員たち。

 銙苗ず真䞀郎は、人混みの䞭にオレンゞ色だけを探し続けた。

 通り過ぎるセヌタヌ。

 マフラヌ。

 バッグ。

 芖界にオレンゞが入るたび、反射的に顔を䞊げる。  

 だが、そのたびに違う誰かだった。

 埓業員たちが走り回る姿だけが、二人をその堎に立たせおいた。

 19時に近づくに぀れ客足は枛り、その分音楜だけが際立った。



第八章 A7゚レベヌタヌ


 その少し前、7階の倖商サロンで、柏朚浩平は䞀人のご婊人を接客しおいた。

『  早良区からお越しの高瀬琎音ちゃんヌヌ』

 通内には、迷子攟送が流れおいたが、倖商サロンの䞭は静かだった。

 厚い扉に遮られ、倖の喧隒は遠い。

 静かなオルゎヌルのBGM、萜ち着いた照明、厚い絚毯、深緑の゜ファ、倧理石のテヌブル。

 同じ建物の䞭なのに、さっきたでずはたるで別䞖界だ。

 「こちらが先日ご連絡いただいおおりたした、クリスマス限定のダむダモンドネックレスです。」

 遠くで響く通内攟送を聞きながら、柏朚は黒いケヌスをゆっくり開いた。

 照明を受けた小さな石が静かに光を返す。

 「たあ  綺麗。」

 50代くらいの女性客は、小さく息を挏らした。

 このご婊人ず、そのご䞻人は僕が入瀟埌初めお担圓するこずになったVIPのお客様だ。

 かれこれ付き合いが始たっお3幎目になるが、お二人ずも穏やかで優しく、ありがたいこずに若い僕を可愛がっおくれおいた。

「ご䞻人様からの莈り物ですか」

「ええ、今幎で結婚25幎目なの。」

「それはそれは。おめでずうございたす。」

 僕は柔らかく埮笑みながら答えた。

ヌヌそういえばここにご婊人をご案内しおいる際、芖界の端を、オレンゞ色のワンピヌスが暪切った。

 人通りの少ない倖商サロン前の通りなので、やけに気になり思わず目を向けた。

 10歳くらいの少女が、1人で埓業員通路の方ぞ向かっおいく。

ヌヌ迷子の子か  

 䞀瞬そう思った。

 「柏朚さん、私、今日ずおも楜しみにしお来たのよ。お倩気はあいにくでしたけれどもね。」

 「ええ、僕もずおも楜しみにしおいたした。さあ、どうぞこちらです。」

 僕は少女から目線を倖した。




「本日はありがずうございたした。たたい぀でもご連絡ください。お垰りは、タクシヌを手配いたしたしょうか」

「ええ、䞀台お願い。柏朚さん、たた近いうちに来るわ。」

 ご婊人をタクシヌ乗り堎で芋送った埌、僕は腕時蚈を芋た。

 19時8分。

ヌヌこんな時間か  。

 そういえば、あの女の子  あれからしばらく攟送が続いおいたけど、芋぀かったのだろうか。

 そう思いながら通内に戻るず、異様な光景が広がっおいた。

 い぀もなら各店舗が店仕舞いをしおいる時間だが、たくさんの埓業員が残っおいる。

「琎音ちゃんヌヌ」

 皆、口々に叫びながら、蟺りを探しおいる。

 僕はふず、接客䞭に芋たオレンゞ色のワンピヌスの少女のこずを思い出し、圌女が入っお行ったように芋えた埓業員通路たで䞀盎線に走った。

 薄暗い職員通路は、錆びれた匂いがする。

 人っ気が党く無い。

 空調の䜎い唞り声だけが響き枡っおいる。

 その近くに゚レベヌタヌがある。

 このA7゚レベヌタヌは職員専甚だ。

 だが、駐車堎にも、食堂やロッカヌルヌムにも遠く、埓業員ですら殆ど䜿わない。

「琎音ちゃんヌ」







ヌヌ流石にもう居ないか、でも䜕でこんな所に  

 その時だった。

『迷子の女の子を捜玢䞭の職員の皆様にお知らせいたしたす。捜玢ぞのご協力、誠にありがずうございたした。ただいたの時間を持ちたしお捜玢掻動は䞭止ずさせおいただきたす。皆様、お気を付けおお垰りください。』

ヌヌ䞭止  芋぀かったのか  

 僕は急いで1階に走った。

 総合案内所前、䞡芪のためにパむプ怅子が甚意されおおり、母芪が座っお俯いおいる。

 その前では、父芪が立ったたた副店長ず防灜宀長ず䜕かを話しおいる。

「あっ、あの。すいたせん  」

 反応が無い。

「  あの すいたせん」

 3人がこちらに目を向けた。

「が、僕  琎音ちゃんを芋かけたかも知れないです。」

「  琎音を」

 母芪が顔を䞊げるず同時に立ち䞊がった。

「い぀、どこで」

 父芪が被せるように聞いおきた。

「17時半になる少し前  7階の倖商サロン前の通路を䞀人で、職員通路の方向ぞ歩く少女を芋かけたした。䞁床接客䞭で声をかけおあげられず  その埌、攟送を聞いお服装がその時の子に䌌おいるず思っお  」

 柏朚は、早口のたた続けた。

「先皋その堎所を確認しおみたしたが、誰も居なかったです  僕があの時声を掛けおいればこんな事には  本圓に申し蚳ありたせん。」

 柏朚は、目の前の䞡芪に察し、深々ず頭を䞋げた。

「おい、そこっおA7゚レベヌタヌの所の  」

 自分の蚀葉を掻き消すように、副店長は慌おお続けた。

「た、たあ  お父様ずお話ししお、譊察ぞ通報する事になった。柏朚、お前も事情聎取される事になるず思う。捜査に協力しおくれ。」

「もちろんです。」

「あ、あの  琎音は䜕でそんな堎所に居たんでしょうか」

 母芪は䞍思議そうに聞いおきた。

「譊察が来るたで、その堎所を僕達で探せないでしょうか」

 父芪が蚀った。

「確かにあの堎所は、職員すら殆ど通らない通路です。本圓に琎音さんがそちらに居たずなるず理由は分かりたせん  それにあそこは隠れられる堎所もほが無いので、柏朚が探しお芋぀からなかったのなら䞭々難しいかも知れたせん。お父さん、埌は譊察にお願いしたせんか。」

 副店長は、たるでそれ以䞊近づかせたいずするように、ゆっくりず蚀葉を遞んだ。

「わ、わかりたした  そうしたす。」

 真䞀郎の声には、もう力が残っおいなかった。

 副店長は小さく息を吐き、防灜センタヌ長ず目を合わせた。

 その芖線には、怯えにも䌌た色が浮かんでいた。



第九章 䜙呜


「それじゃあ、点滎開始したすね。」

 薄い透明の手袋をはめた看護垫が、点滎の接続郚分を確認しおいる。

「予防の吐き気止めは投䞎したすが、気分が悪くなった時は、い぀でもおっしゃっおくださいね。」

「はい  よろしくお願いしたす。」

 青癜く筋匵った现い腕に点滎が繋がれおいる。

 これで3回目の抗がん剀治療。

 少し蒞し暑くなっおきた、今幎の6月頃。

「あれヌ。ズボンき぀くなった ちょっず倪ったかなあ。」

 仕事着のパンツのボタンが、以前よりも閉めづらい。

 䞋腹郚もずっず鈍く重たい。

 生理前みたいな痛みが、䜕日も続いおいた。

 でも、仕事は普通にできる。

 ご飯も食べられる。

 だからその時は、倧したこずないず思っおいた。

 垂販の痛み止めを飲みながら、い぀も通り出勀しお、い぀も通り働いた。

 けれど、痛みは少しず぀匷くなっおいった。

 流石におかしいず思い、近所の婊人科を受蚺した。

「゚コヌで卵巣に圱が芋えるの。詳しい怜査をした方が良いず思う。」

 医垫はそう蚀いながら、玹介状を曞き始めた。

 玹介状の宛名を芋た瞬間、心臓が䞀回だけ匷く鳎った。

『犏岡県立がんセンタヌ』

 地面がぐわんず倧きく揺れた気がした。

「え   私、がんなんですか」

 思わず倧きな声が出た。

「ただ決たった蚳じゃないから。」

 医垫はすぐにそう続けた。

「良性のこずもあるし。今の段階では、詳しく調べたしょう、ずいう意味ね。」

 優しく蚀われおも、脳裏に『がんセンタヌ』の文字だけが焌き付いお離れない。

「できればご家族ず䞀緒に受蚺しおね。」

「あ  はい  。」

 それでも、その時はただどこか珟実感がなかった。

 きっず倧袈裟に蚀っおいるだけ。

 怜査したら「倧䞈倫でした」で終わる。

 本気でそう思っおいた。

 次の平日䌑みのタむミングでがんセンタヌを受蚺した。

 お腹の鈍い痛み以倖は特に䜕の違和感もない。

 怜査が終わったら垰りにカフェでも寄ろうかな、なんお考えながら埅合宀で埅っおいた。

 ふず蟺りを芋回すず、静かな割に、敎然ず䞊んだ薄緑のベンチは倧勢の人で埋め尜くされおいる。

 痩せこけた人。
 ニット垜を深くかぶっおいる人。
 りィッグらしき女性。

 この人たちは皆癌なんだろうかず思うず急に恐ろしくなっおきた。

 朝8時には病院に着いおいたが、超音波、採血、CTなどず毎回長いこず埅たされた。

 気が付いたら12時を回っおいる。

「䞀ノ瀬さんヌ。お埅たせしたした、どうぞ。」

「倱瀌したす、よろしくお願いしたす。」‚‚ 

 蚺察宀に入るず、幎配の男の医垫が無粟髭の生えた顎を手で觊りながら、パ゜コンの画面を睚んでいる。

 カチ、カチ、ずマりスの音だけが静かな蚺察宀に響いおいる。

「  うヌん。」

 䜎い声。

 医垫は怅子にもたれ盎し、ゆっくりず怅子を回しながら蚀った。

「はい、こんにちは。今日はあなたお䞀人で来られた」

「  はい。」

 結局、唯䞀の家族である母芪には蚀わずに来た。

「そうか  じゃあ、䜙蚈ちゃんず説明しないずな。」

 その蚀葉に、葉月は少しだけ背筋を䌞ばしながらも、良い話ではないこずだけでは分かった。

「正盎に蚀うね。」

 葉月は唟を飲んだ。

「卵巣にかなり倧きい腫瘍がある。」

 医垫はモニタヌを指差した。

 「これ。」‚‚ 

 癜黒だが、玠人目にも分かるほど、倧きな圱がお腹の蟺りに広がっおいた。

「で、圢があたり良くない  悪性、の可胜性は高いず思う。」

ヌヌヌヌ。

「もちろん組織を取っお調べおみないず確定はできない。けどたあ  悪い状況を前提に考えお動いた方がいい。」

 内容が党く頭に入っおこず、医垫の口だけが動いお芋えた。

「倧䞈倫、ずは簡単に蚀えない。でもただちゃんずやれるこずはあるから。」

 医垫は再び顎を擊った。

「これからだけど、たずは手術だね。」
 
 そこたで話すず、䞀床蚀葉を切り、画面を芋ながら続けた。‚‚

「ただね、実際にお腹を開けおみないず詳しい広がり方が分からない。堎合によっおは、子宮や卵巣も䞀緒に取らないずいけない。」‚‚

「    え」‚‚

「ただお若いからね、本圓はできる限り残したい。でも、呜を優先しないずいけない堎合もある。」‚

ヌヌ子宮‚
ヌヌ卵巣‚
 
 その蚀葉だけが、蚺察宀の䞭で異様に倧きく聞こえた。‚‚ 

 その時初めお、自分の身䜓がもう元には戻らないかもしれない、ず思った。

 もう、普通には結婚できないのかもしれない。

 子どもは産めないのかもしれない。

 急に、自分の人生がどこか遠くぞ抌し流されお行くような気がした。

 葉月はその日、朝が来るたで垃団の䞭で涙を流した。


‚


‚ヌヌ1993幎8月27日

 たくさんの管に繋がれおベッドごず手術宀ぞず向かった。

 傍では母芪が䜕床も名前を呌んでいる。

 手術宀の前でベッドが止たる。‚‚ 癜い垜子を被った看護垫たちが慌ただしく行き亀っおいた。‚‚「䞀ノ瀬さん、今からお郚屋入りたすね。」‚‚ 私は小さく頷いた。‚‚ ここたで来おもただ、どこか他人事みたいだった。

 数時間埌には、自分の身䜓の䞀郚が無くなっおいるかもしれない。

 それでも、䜕䞀぀実感が湧かなかった。

 ただ、手術宀の倩井のラむトだけがやけに眩しかった。

「    葉月    葉月  葉月 葉月」

 母芪の呌ぶ声  
‚ 眠い  ここどこだっけ  

 葉月はたたしばらく眠りに぀いた。
‚「䞀ノ瀬さん、気が付きたしたか。先生、呌んで来たすね」

  身䜓䞭に管が繋がっおいる。

そうだ、手術が終わったんだ。

今䜕時  っいおおおおお  

 䜓を動かそうずしお、䞋腹郚の刺すような痛みに襲われた。

「䞀ノ瀬さん、手術は無事に終わりたした。もう少し萜ち着いたら詳しく説明をしたすから、今は十分䌑んで䞋さい。痛みが匷い堎合は、これを抌しお看護垫を呌んで䞋さい。では 」

「先生  子宮は  どうなりたしたか」

 ただ意識がはっきりしない䞭、葉月は尋ねた。

 医垫は少し沈黙した。

「呜を優先する刀断をしたした。子宮ず䞡偎卵巣は摘出しおいたす。」

 葉月は小さく息を挏らした。

‚ 喉の奥がひり぀き、芖界だけががやけおいく。

ヌヌこの時からだった。

 自分の身䜓の䞭が、空っぜになっおしたった気がした。


 その埌は、光の速さで物事が進んでいくのを、がんやり他人事のように眺めおいた。

 手術でお腹を開いた結果、癌が思ったより広く散らばっおいた。

 手術では取りきれなかったらしい。

 病理怜査の結果、卵巣癌だず蚀われた。

 今埌は抗がん剀治療が必芁、ずも。

 先生や母は「ただ治療はできる」ず蚀っおいたが、衚情から芋る限り、治る病気ではないこずだけは分かった。

 でも、もうどうでもよかった。

 垌望なんお持おない人生。

 それからは劙に萜ち着いた気持ちでいる。

 抗がん剀の副䜜甚も酷いもので、髪の毛だっお抜け萜ちた。

 それもどうでもよかった。


「私の䜙呜っおあずどのくらいなんですか 先生、答えおくれないんです。」

 抗がん剀の点滎を付け替えをしおくれおいる看護垫に、そう尋ねた。

 看護垫は、手元のカルテを芋た。

『進行卵巣癌』‚
『播皮性病倉を広範囲に認め、根治切陀困難』‚
『母芪の垌望あり、䜙呜本人に告知なし』

 「  ごめんなさい、病状のこずは医垫じゃないず分からなくお。」

 「そうですよね。倉なこずを聞いおすみたせん。」‚

 点滎の雫が、䞀定の速さで萜ち続けおいる。

 窓の倖では、也いた颚に銀杏の朚が揺れおいた。

‚ヌヌ葉月はただ、この冬が人生最埌の冬になるずは思っおいなかった。



【第䞉郚 URL】


いいなず思ったら応揎しよう