エッセイ「メイドの土産話」
「メイドカフェへ行きませんか?」
もう15年以上前かね、会社の後輩にこんなことを言われてね、私は面食らったことがある。その頃は、秋葉原のオタク文化が絶頂期でね、後輩もそれに感化されたものの、一人でご帰宅するのには抵抗があったようだ。
私も興味はあったけどね、正直なところ「健全なスナック」だという印象だったね。有名な店に行ったから、後輩は萌え萌えなんとかなんてやってたけどね、私は昼間っからビールを飲んで煙草を吹かしていたんです。
恥ずかしいのもあったけどね、スナックほど一見客に気を遣わなければ、キャバクラほど積極的じゃない。しらけちゃったんだよ、こういう業態なのかってね。
まあ、それでもあとから当時の連れに引っ張られてね、末広町にあった古典的な西欧風のメイドカフェに行った時は感心しましたよ。クラシカルなロングドレスに白エプロンというメイド服に数々の紅茶。置いてある本を静かに読みながらアールグレイをいただいたりね。
日本でメイドというと、まるで家族の一員のように身の回りの世話をしてくれる女性なんてイメージがあるけどね、あちらさんじゃあ、ただの雑用係ですからね、家人とは距離があるんだよ。
英国なんかだと午前中は汚れてもいいような午前服というのを着て、屋内外の掃除や洗濯なんかをするんだ。それでね、夕食が誰かを招いての会食だったり、ちょっとしたパーティーになると、人前でお給仕をしなくちゃいけないからね、清潔なロングドレスにエプロンを備えた午後服に着替える。この服がメイドのイメージなんでしょう。
しかも、分業制だからね、メイド長がバトラーの命令を受けてメイドたちにその日の業務を行わせる。
結局ね、メイドなんて夢も可愛さもない、ただの会社員なんだよ。大きな屋敷だと、主人に顔を覚えられているメイドのほうが少なかっただろうね。
まあ、こういう背景を知っているとね、メイドカフェでメイドさんごっこをしている若い子たちの接客が少しばかり悪かろうが、笑って許せるでしょう。メイドはかくあるべしなんて固定観念は捨てたほうが楽しめるんじゃないかな。
それでも、私は恥ずかしいからね、ケチャップでオムライスに絵を描いてもらったことなんかありませんよ。
「しずきさん」の文字が精一杯だったね。
了
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