食物均等配分の神、すいか13個を配りきる。②
すいか13個を前に、言葉を失った我々家族だったが、いつまでも黙っているわけにはいかない。
翌朝、私は「食物均等配分の神」として動き出した。
まずは妹だ。
血縁だし、車で5分だし、確実に消化してくれるだろう。
「すいか、いる?」
「うち、旦那の実家から2個来てるから間に合ってる。てか、もう1個あげようか」
撃沈である。
配るはずが、増やされそうになった。
丁重にお断りした。
そもそも、このあたりでは、だいたいどこかの親戚が「すいかをもらえる立場」か、「すいかを育てている立場」のどちらかである。
ご近所に配ろうものなら、
「うちも3個あるんだけど」
という顔をされるのが目に見えている。
うかつな配布は、すいかの逆流を招く。
そこで白羽の矢が立ったのが、車で1時間半ほどのところに住む、母の妹、つまり叔母と従妹だった。
高速に乗れば、1時間もかからない。
問題は、
「高速に乗れば」
の部分である。
私は長年のペーパードライバーで、運転を始めたのは今年に入ってから。
ぴかぴかの初心者だ。
自分の生活圏以外を運転した経験は、ゼロ。
高速道路は、まだ見ぬ生物である。
でも、行けるかな。
また、根拠のない自信が顔を出した。
すいかを届けて、ついでにドライビングテクニックも上がる。
一石二鳥。
いや、すいかが7個減るので三鳥である。
素晴らしい。
ただし、高速はやめた。
下道で行く。
安全マージンを取った、と言えば聞こえはいいが、要するに怖かっただけである。
後部座席にすいかを7個積み込み、いざ出発。
混雑した国道に合流した瞬間、車線変更のタイミングが摑めず、ビビり散らかした。
後ろに車が並ぶたび、
「すみません、すみません」
と一人で謝りながら、亀のようなスピードで進む。
運転技術より、謝罪スキルのほうが先に上がっている。
そんな自覚があった。
それでも、なんとか叔母の家に到着。
すいかを5個渡す。
「こんなに! ありがとう」
素直に喜ばれ、初心者ドライバーの緊張が、少しだけ溶けた。
帰り道、今度は家から1時間ほどのところに住む叔父の家にも立ち寄った。
残りは2個。
ここでも、
「多いよ!」
と驚かれながら、無事に配布完了。
慣れない運転で、くたくたになった。
合計7個。
親戚への配布、完了。
ハンドルを握っていた手より、心のほうが疲れていた。
帰宅すると、家に残るすいかは6個。
まだ多い。
食物均等配分の神としては、仕事は終わっていない。
翌日。
私はリュックにすいかを1個、両手にそれぞれ1個ずつ抱えて出社した。
三頭身くらいの謎の生き物になっていた。
すれ違う人に、二度見される。
会社に着くと、
「すいか、いる人〜」
と声をかける前に、すでに2人の同僚が寄ってきた。
「え、それくれるの?」
「うん。あげる。持って帰って」
即座に2個が渡った。
残る1個は、給湯室でみんなに切り分けてもらうことにした。
ランチのあと。
会議室から人がわらわらと集まってきた。
そして、あっという間に1個が消えた。
すいかを切る手が止まらない。
なかなかの人気である。
「なんでこんなに持ってるの?」
正直に、13個から始まった顛末を話した。
みんな笑いながら、
「それは大変だったね」
と言ってくれた。
大変だったのは事実だ。
でも、褒められると悪い気はしない。
こうして、家に残るすいかは3個になった。
想定内の量である。
母が言っていた、
「すいかは転がしておけば長持ちする」
という言葉も、この個数なら、ようやく信じられる。
今年の夏のうちに、きっとおいしく食べ終わるだろう。
13個。
7個を親戚に。
3個を職場で。
3個を自宅で。
誰一人として、すいかを腐らせることなく終えられそうだ。
戦績。
ペーパードライバー1年目。
下道往復3時間。
すいか13個。
完全配布。
食物均等配分の神、無事に大仕事をやりきる。
