手芸の神に忌み嫌われた子、そして敗北する。
小さいグラニーバッグで、必要以上の自信を取り戻した私は、考えた。
なるほど。
この説明書の目数を、倍にしてみよう。
私は、カレーでも豚汁でもおでんでも、レシピ通りに作ると「少ない」と思ってしまう節がある。
レシピは、等倍にしたがる女なのだ。
だからグラニーバッグも、同じことをすればいい。
もちろん、一回勝ったくらいで調子に乗ってはいけないことくらい、私だってわかっている。
今回は慎重にいこう。
まずは、2倍。
毛糸の量も2倍にして、説明書通りに、丁寧に編んでみた。
そして、完成。
なんてことでしょう。
今度のグラニーバッグは、ちょうどいい。
私の愛用している長財布も入る。
スマホも入る。
キーケースも入る。
ちょっとしたお出かけなら、これひとつで十分だ。
かわいい。
しかも、ちゃんと使える。
私は満足げにバッグを眺めた。
これは……。
ハンドメイド作家さんに、仲間入りしちゃうね。
完全に調子に乗っていた。
だが、そこで終わらなかった。
バッグを手に持って、もう一度眺める。
うん。
でも、もうちょっと大きくてもいいな。
そういえば私は、小さいバッグをあまり持たない。
こんなに才能があるんだったら、肩から掛けられるくらいの大きなグラニーバッグのほうが、私には向いているんじゃないか。
そう思った。
ここで、私の悪癖が顔を出す。
なんでも、大きさで解決しようとする癖だ。
2倍でうまくいった。
ならば、4倍でもいける。
今思えば、なぜそうなるのかは、まったくわからない。
でも、そのときの私は、手芸の神に一度勝利している。
自信が違った。
そして私は、今度は説明書の目数を4倍にした。
編んだ。
ひたすら編んだ。
編んでも、編んでも、終わらない。
それでも編んだ。
そして、完成した。
大きい。
とにかく大きい。
大きいのだが、もう「かわいいグラニーバッグ」と呼んでいいのかどうか、私にもよくわからない。
バッグというより、何かの装備品に近い。
そして、重い。
毛糸というものは、みっちり編むと、意外と重い。
私はそれを知らなかった。
いや。
知っていたのかもしれない。
でも、見ないことにしていた。
試しに肩から掛けてみたら、体がぐらりと持っていかれた。
米五キロを、突然渡されたときの感覚に近い。
家族に見せた。
「どう?」
感想を待った。
家族はバッグを持った。
そして言った。
「重い」
別の家族にも見せた。
「どう?」
「重い」
全員、重い。
かわいい、でもない。
大きいね、でもない。
すごいね、でもない。
重い。
私は、バッグを見つめた。
確かに、大きい。
私が望んだ通りの大きさだ。
だが、持ち歩くには、あまりにも重い。
私は今回も、手芸の神に敗北した。
しかも今回は、神に負けたというより、
勝ったと思って調子に乗った自分に負けた。
手芸の神は、何もしていない。
ただ、そこにいた。
私が勝手に2倍にし、勝手に4倍にし、勝手に重いバッグを作っただけだ。
手芸に、腕力は関係ない。
今、心の底からそう思う。
ちなみに、あの4倍グラニーバッグは、今も家にある。
もちろん、ほとんど使っていない。
たまにダンベル代わりに持ち上げている。
