ゴリねえ、編み物をする。①
昨日は、
「トイレの扉を蹴破ったら、ほんのり好きだった人がいた」
という話を書いた。
今日は、編み物の話をする。
扉を蹴破る女が、細い毛糸をかぎ針で編んでいる。
昨日の話を読んだ人からすれば、たぶん想像もつかない絵面だと思う。
自分でも、振り幅がよくわからない。
でも私は、編み物が好きだ。
その始まりは、小学4年生のときだった。
小学4年生のクラブ活動。
私の第一希望は、映画鑑賞クラブだった。
ところが、見事に落ちた。
そして入ることになったのが、手芸・編み物クラブ。
映画を観るはずだったのに、なぜか毛糸を持っている。
人生、何が起こるかわからない。
私は昔から、針仕事が苦手だった。
「苦手」という言葉では足りない。
前世で何かあったのではないかと思うくらい、針仕事が苦手だった。
そこで母が、
「じゃあ、かぎ針で毛糸を編んでみたら?」
と教えてくれた。
かぎ針なら、なんとかできた。
前世の呪いレベルで何もかも苦手だった私にしては、まさかの一発合格だった。
だから私は、それだけをやることにした。
ここから、私のかぎ針編み人生が始まった。
最初に母がくれたのは、黄色の毛糸。
学校で編み始めたら、これが思いのほか楽しかった。
編む。
ひたすら編む。
気がつけば、黄色の毛糸を6玉も編んでいた。
そして、なくなった。
「毛糸って、こんなになくなるんだ」
というくらい、なくなった。
今度は母に、茶色の毛糸をもらった。
そして、また編む。
黄色の続きに、茶色。
ひたすら編む。
私は昔から、何でも長く、大きく作りたがる。
だから、ひざ掛けを作っていたはずなのに、
気がついたら、
「これ、もう毛布では?」
というサイズになっていた。
黄色と茶色の、巨大な何か。
ひざ掛けなのか、毛布なのか。
もはや自分でもよくわからない。
それを見た男子が言った。
「そぼろごはんみたい」
黄色と茶色。
言われてみれば、確かにそぼろごはん。
私はちょっと傷ついた……かどうかは、忘れた。
でも、
「うまいこと言うなー」
と思った。
小学生男子、侮れない。
そんな巨大な黄色と茶色の何かを見た母が言った。
「これはこれでいいけど、もう少し形のあるものも作ろうか」
母は、私の編み物を否定しなかった。
ただ、そろそろ方向転換したほうがいい、とは思ったらしい。
そして母は、私に一冊の本をくれた。
あみぐるみの本だった。
ここから、私の編み物人生が少し変わる。
あみぐるみの本の最初の3ページに載っていたのは、
うさぎ。
くま。
アルパカ。
私はひとつずつ、作っていった。
うさぎを作る。
完成する。
次は、くま。
その次は、アルパカ。
ひとつずつクリアしていくのが、楽しかった。
そして、当時飼っていた犬に渡す。
うちの犬は、よくできた犬だった。
よくできた犬なので、
うさぎだろうが、
くまだろうが、
アルパカだろうが、
そんなことは一切関係ない。
全部、破壊する。
容赦がない。
作っている過程を見ていたはずなのに、完成した瞬間、目の色が変わる。
せっかく一生懸命作った編みぐるみも、犬にとってはただのおもちゃ。
そこで私は思った。
「あ、これ、何を作っても同じだな」
だったら、他の作り方を覚える必要、なくない?
そうして私は、うさぎ、くま、アルパカの3種類以外の作り方を覚えるのをやめた。
今でも私は、細い糸とかぎ針で編みぐるみを作っている。
うさぎ。
くま。
アルパカ。
ここまで書いておいてなんだが、私が編み物上手だと思ったら大間違いだ。
私は、正真正銘、手芸の神に忌み嫌われた子である。
たいして、うまくない。
なんなら、この間、夏休みの宿題で編みぐるみを作った姪(小学5年生)のほうが、クオリティが高かった。
これが私の実力が低いのか、彼女が編み物の神なのか、実のところはよくわからない。
たまに、別のものも作ってみようかなと思う。
でも、結局いつもの3種類に戻ってくる。
トイレの扉を蹴破る女が、家では細い糸をかぎ針で編んでいる。
蹴破っているときの顔と、編んでいるときの顔は、たぶん別人くらい違う。
我ながら、振り幅がすごい。
でも、どちらも私だ。
困ったら、扉を蹴破る。
疲れたら、編み物をする。
そして、せっかく作った編みぐるみを、犬に破壊される。
それでも、また編む。
ただし、うさぎ、くま、アルパカの3種類だけ。
だって、うちの犬にとっては、何でもいいのだから。
そして私の編み物には、もうひとつ秘密がある。
私は、編みぐるみに――
怨念をまぜる。
そして、その怨念を――
天使に浄化させる。
……何を言っているのかわからないと思う。
私も、たまにわからない。
この話は、また次回。
