アラフィフ|銀座のネオン✨私の知らない父の顔
「えっ!それ、私の父です。」
会社の給湯室で、ビックリしてコップを落としそうになった。
私が高校生の頃、父は東京に転勤になり単身赴任をしていた。
私が東京の短大を選んだのは、父がいるということも大きかった。
母と一緒に上京し、父の住むマンションで暮らし始めた。
けれど3ヶ月後、父は地元に戻ることになった。
そこから、私の一人暮らしが始まった。
短大を卒業し、東京の会社に就職した。
でも会社がブラック過ぎて、24才で今の会社に転職した。
会社には、私より15才ほど年上の先輩Hさんがいた。
彼女は独身だった。
グルメで美味しいものが大好き。
お芝居や歌舞伎を見たり、独身生活を謳歌されていた。
ズバズバ物を言うし、機嫌が悪いと八つ当たりされるので、若い人たちは彼女を恐れていた。
キャビネットの扉を勢いよく「バンッ!」と閉めるので、跳ね返って開いていることもしばしばあった。
そんなHさんと、洗い物の当番で一緒になった。
私はちょっと緊張しながら、給湯室でHさんとコップを洗っていた。
Hさん 「もちさんは、どこ出身なの?」
私 「◯◯県です。」
Hさん 「へー。私、前に◯◯県の△△っていう会社の人と、銀座で飲み友達だったんだよ。」
私 「え…。父もその会社です。」
Hさん 「え!そういえば、もちさんと同じ名字!
もう一人、Kさんていう人と、私の友達と4人でよく銀座で飲んだよ!」
私 「Kさんも知ってます。」
Kさんは家に遊びに来たこともある、面白いおじさんだった。
たまたま同じ時期に、東京に配属になっていたのだ。
バブルの頃だった。
父の会社は銀座にあった。
華やかなネオンに誘われて、銀座の街に吸い込まれて行ったのだろう。
しかし、「父が銀座で女性二人と飲み歩いていた」、という話に、少し胸がザワついた。
私の知らない父の一面。
こんな偶然が、本当にあるのだろうか…。
後日、実家に電話をして確認した。
父 「Hさんと同じ会社なの!?えー、そんなことがあるんだねー。いやー、驚きだねぇ。」
母も彼女たちのことを知っていた。
それからしばらくして、Hさんが友達と二人で、私の地元に遊びに行き、父とKさんと4人で飲みに行く予定だと教えてくれた。
ーー母はどんな気持ちなのだろうか?
電話で話すと、母は言った。
「そうそう、わざわざ来るみたいねえ。」
ーーその「わざわざ」に、少し引っ掛かりを感じた。
「実はね…」
とHさんが少し声を落として言った。
「Kさんのこと、気になってるの。
話も面白いし、素敵よね。」
「えー!結婚してますけど…。」
しかしKさんに、そういう気持ちは無かった。
幸い、楽しい飲み友達で終わった。
Hさんに初めて話を聞いたとき、私の中でモヤモヤがあった。
別に、女性の飲み友達がいるくらいいいじゃないかと思う。
それでも、どこか落ち着かない。
娘は、そういうものかもしれない。
父はもう他界し、Hさんも数年前に退職された。
あの偶然の意味を、今もときどき考える。
みんなに厳しいHさんが、私には少し優しかった。
――銀座のネオンの向こうで、
父と私は、どこかでつながっていたのかもしれない
🍷✨
