神楽坂の水ようかんと、漱石の猫
昨晩の阿波踊りの余韻が残る神楽坂。
いつもは賑わいのある毘沙門天も、祭りの後の寂しい雰囲気を感じさせる。
朝のうちは幾らか過ごしやすかったが、日が差し始めるとジンジンと熱さが肌を刺す。
木陰で野良猫が「ここは俺の場所だ」と言わんばかりに伸びている。
こんな日は冷たいお菓子でも買って帰ろうと、毘沙門天そばの和菓子屋「五十鈴」に入った。
店に入ると、すぐに涼しげな水ようかんが目に入った。
それをひとつ頼むと、店の女性は愛想よく水ようかんを包んでくれた。
神楽坂から早稲田のあたりは、『吾輩は猫である』などの著者・夏目漱石の生誕の地であり、終焉の地でもある。
そのため、漱石ゆかりの地が多い。
「五十鈴」の向かいにある文具店「相馬屋」も、漱石が便箋を買い求めに足を運んでいた店だ。
また、漱石は無類の甘党で、特に羊羹が好きだったらしい。
そこでひとつ名案が浮かんだ。
せっかくの水ようかん、漱石に見せびらかしてやろうではないか。
漱石の終の住処となった漱石山房。
今は漱石公園となり開放されている。
公園内には漱石山房のベランダ風の回廊が再現されている。
漱石はよくベランダから庭を眺め、くつろいでいたそうだ。
公園に入ると陽射しで緑が眩しい。
芝生は瑞々しく、熱さを和らげている。
すぐ左手に白いベランダがある。ここに座り、ようかんを食べている漱石を想像して私は腰掛けた。
袋から水ようかんを出すと、一匹の野良猫がゆっくりと私の前を通り過ぎる。
少しばかり離れたところでふと振り返り、こちらをまじまじと見ている。
私を見ているのか、それとも水ようかんを見ているのかどちらか分からぬが、物欲しげな顔を残して公園の奥へと消えていった。
あの猫はもしや漱石?
いや。。。こう言い返されたのかもしれない。
「吾輩は猫である」
