ペンギンになっおちょっず良かったこず

倜明け前、ふず目をさたすず、䜓がペンギンに倉わっおいた。身長もぐんず瞮み、着おいたパゞャマの袖も裟もたぷたぷに䜙っおいる。
半幎ほど前から、䜓が突然ペンギンに倉わる䞍思議な病通称ペンギン病が巷を隒がせおおり、テレビのワむドショヌやニュヌスの恰奜のネタになっおいる。眹患した堎合、抌さえおおくべきポむントは倧きくふた぀。ひず぀。症状ぱキセントリックだがペンギン病は完治する、慌おないこず。ふた぀。䜓がこれだけ倉わっおしたうず、支揎を受けずに健康ず生掻を維持するのは難しい、各皮支揎はためらわず申請するこず。
支揎を受けるには「ペンギン病サポヌトセンタヌ」に電話をかけお発病を知らせる必芁がある。僕はトテトテず巊右に揺れながら歩き、ダむニングテヌブルに攟眮しおあるスマホにたどり着く。が、そこからが少し倧倉だった。手矜にはスマホが反応しない。液晶画面を傷぀けないようにそうっずクチバシの先端で画面をタッチしたけれどやはり無反応。色々ず詊行錯誀の末、タッチペンを咥えお銖を䞊䞋巊右に動かすずいう方法を線み出しおサポヌトセンタヌの番号を怜玢し、電話をかけるこずに成功した。
「お埅たせしたした。ペンギン病サポヌトセンタヌ、担圓䞊原です」
午前時には䞍䌌合いなくらい健党ではきはきずした女性の声がした。い぀発病するかわからないのでペンギン病サポヌトセンタヌは24時間営業である。
「こんにちは䞊原さん。実はペンギン病を発症したした」
寝起きのかすれた声で報告するず、「ああ」ず女性は䞀瞬気の毒そうな声を出しおから、気を取り盎したようにおきぱきず続けた。
「ご発病ですね、お芋舞い申し䞊げたす。症状の確認のためにいく぀か質問をさせおいただけたすでしょうか」
「もちろん」
「ありがずうございたす。たず姿圢ですが、ペンギンぞの倉化をどの皋床確認できたすか」
「100完党にペンギンです。皮類でいうず皇垝ペンギンですね。元の䜓のパヌツは䞀぀も芋圓たりたせん」
「身長はいかがでしょうか元のご身長ず比べお、倧きくなった、小さくなったなどありたすか」
「ぐっず小さくなりたした。元は175センチですが、今は、1メヌトルあるかないか、動物園でよく芋るペンギンサむズです。あの䞭にたぎれこんでも違和感がないくらいに、姿圢、倧きさ、すべおが皇垝ペンギンです」
「姿圢は100ペンギン化しおいるのですね。承知したした。でも、お話するには支障ないようですね。お食事はいかがですか今日はもうお取りになりたしたか」
「いえ、ただ」
「どんなものを食べられそうですか普段通りのお食事は取れそうですか」
普段の朝食をむメヌゞしおみる。朝は和食だ。ご飯ず味噌汁。それに焌き魚。フルヌツを少し。どれも食べられそうな感じがする。
「承知したした。䞭身はご本人さたのたたのようですね。ご䜓調やご気分はいかがですか」
「問題ありたせん。良奜です」
「それは䜕よりです。私からお䌺いしたいこずは以䞊になりたすが、このあず医垫の蚺察を受けおください。ペンギン病の公認指定医をご玹介したす。蚺察はオンラむンず察面がお遞びいただけたす。オンラむンでの蚺察のほうが早くご案内できたすのでオススメですが、察面をご垌望されたすか」
「オンラむンで結構です」
通院は面倒そうだ。ペンギン病は知れ枡っおいるずはいえ、この姿で街を歩いたら目立ちそうだし、この短い足では歩くスピヌドは栌段に遅そうだ。かずいっおペンギンをタクシヌに乗せおくれる運転手がいるかどうかもわからない。
「わかりたした。オンラむン蚺察でお探ししたす。保険蚌番号ずお名前をお知らせください」
僕は再びトテトテず歩いお財垃たでたどり着き、どうにか保険蚌を取り出しお番号を告げるず午前5時半に予玄が取れた。医垫もコヌルセンタヌず同じく24時間䜓制でシフトを組んでいるそうで、早朝は空いおいるらしい。
「お䌺いした内容は担圓医垫にも匕き継いでおきたす。どうぞお倧事になさっおください。ペンギン病は症状がドラマティックではありたすが、囜内では完治しなかった事䟋はありたせん。少しお時間はかかるかもしれたせんが、蟛抱匷くご療逊ください。お早い回埩を祈っおおりたす」
䞊原さんは枩かみのある声で気遣っおくれ、電話は切れた。
䞀仕事終えるずお腹が空いた。オンラむン蚺察たでの間に䜕か食べおしたおうず慣れないボディで奮闘したが冷蔵庫から食材を取り出しお電子レンゞで枩めたずころたでで時間切れずなった。この䜓では䜕をするにも10倍くらいの時間がかかっおしたう。
「おはようございたす。担圓医の袎田です。あらあら、本圓に100倉化ですね。色々ず䞍䟿でしょう。お察ししたす」
画面䞊に珟れた男性医垫は僕を芋るなり気の毒そうな衚情になった。そういう圌の顔もかなりげっそりしおおり、昚今の忙しさがうかがえる。昚日のワむドショヌではペンギン病の公認指定医は日本には五人だけしかおらず、昚今の患者の増加に䌎いほずんど䌑みなく察応に远われお倚忙を極めおいるず報じられおいた。
「サポヌトセンタヌから問蚺の内容は受け取っおおりたすが ええず、西園寺さんですね倖芋100で䞭身はそのたた、ず。ふむふむ。䜓調は良奜、これは良いサむンです。頭痛やめたいを蚎える方もいらっしゃいたすからねえ」
袎田医垫は別の画面を確認しながらにっこりず笑った。
「眠気はどうですありたすか」
「起きたばかりなので今は特に」
「もしかしたらそのうちものすごく眠くなるかもしれたせん。個人差はありたすが、倧䜓−3時間おきに起きおいられないほどの睡魔に襲われる方が倚いんです。眠ったほうが回埩は早くなるこずが倚いですから、眠くなったら眠れるだけ存分に眠っおください」
「薬、ずいうか治療法はないのでしょうか」
「ペンギン化をどうにかする薬は残念ながらありたせん。時間が解決する病気です。ペンギン病の治療を隙る健康食品やらサプリメントは出おいるようですが、明確な゚ビデンスを持たない、䌌非科孊ですから手を出さないでくださいね。䞉食きちんず食べお、栄逊をきちんずずっお、よく寝お、ほどよい運動をする。そんな生掻を心がけおください」
「どのくらいで元に戻りたすか」
「これも個人差はあるのですが、倧䜓7日から10日くらいですかね。私が蚺た䞭での最短蚘録は日ですが、その方は倉化の床合いも少なかったんですよ、西園寺さんのケヌスだずもう少しかかるんじゃないかな。あくたで掚枬ですが」
「わかりたした」
「蚺断曞はすぐにお送りしたす。で、このあず動画を流したす。7分くらいかな。各皮支揎や保険の申請方法、生掻のアドバむスなどお圹立ち情報満茉だそうですから、みおみおください。では、私はこちらで倱瀌したす。お倧事に。䜓調など䜕か䞍安なこずがありたしたらい぀でもサポヌトセンタヌにご連絡ください」
女子みたいに朗らかに䞡手を振る医垫の映像がぷ぀りず消えるず動画が始たった。各皮支揎の説明を䞀通り聞く。僕の堎合、話すのは支障ない。ケアすべき察象小さな子䟛や高霢者などがいるわけでもない。職堎の有絊䌑暇は䜙っおいるので経枈的にも困らない。今のずころ僕に適甚されるのは食糧支揎だけだった。
動画がおわるず手矜ずクチバシを駆䜿しながら食糧支揎ず保険の申請を枈たせ、勢いで䌚瀟の䞊叞にもペンギン病でしばらく療逊する旚、蚺断曞を添付しおメヌルを送信した。ペンギン病には特別䌑暇が䞎えられるず以前䌚瀟から説明があった。
普段なら10分皋床で枈む䜜業に2時間以䞊を芁した。ずっくに倜は明けおおり、閉じられたカヌテンの隙間からたばゆい光が差し蟌んできおいる。クチバシず手矜でカヌテンを開けるず極䞊の晎倩で空が青くお高い。すでに時蚈は8時半を指しおいた。
「あヌ、西園寺さんもかかっちゃいたしたかあ」
メヌル送信のあず、念のため䌚瀟に電話をするず郚長秘曞の山本さんではなく新人の桂朚くんに぀ながっおしたった。やたら倧きな声で話すのでこういう報告には䞍向きな盞手である。
「隣の郚の本城さんもお䌑みでどうやらペンギンになっちゃったみたいっす。秘曞の山本さんですかなんかただ来おないんすよ。この時間来おないのっおレアっすよね。ただ連絡ないんすけど、山本さんもペンギンっすかねえ。うちの䌚瀟、蔓延っすねえ。えあ、はい、了解っす。郚長、今䌚議䞭なんすけど䌝えたす。お倧事にっす」
電話を切るずずたんに匷烈な睡魔に襲われた。ベッドたで歩いお行くのも億劫で、僕はそのたた゜ファにぱたりず倒れこんだ。
玄関の呌び出し音に起こされた。むンタヌホンの画面では制服姿の男性が倧きめの段ボヌル箱を抱えおいる。
「お荷物です。玄関前でいいですか」
配達員はそっず蚀っおドアの向こうに荷物を眮いおいった。遠ざかっおいく背䞭がむンタヌホンの画面に映り、゚レベヌタヌに乗り蟌んだのを確認するず僕はそっずドアを開け玠早く荷物を家の䞭に蹎り入れた。数時間前に頌んだばかりの支揎食糧がこんなに早く届くずは驚きだ。
ペンギン病は䌝染しない。したがっお眹患者に行動制限は䞀切課されおいない。しかし、ペンギンボディで買い物に出るのは無理でしょうずいう芳点から自治䜓から食糧支揎が行なわれおいるのはありがたい。感謝しながらクチバシにカッタヌナむフを咥えお開封するず、䞻食、おかず、お菓子など調理せずに食べられる垞枩保存の食材のほか、ペンギン生掻を楜にしおくれそうなお圹立ちグッズ類レトルトを開封密封できる機械、咥えやすい倪めのタッチペンなども入っおいた。
せめお家事でもしようかず䞀応トラむしおみたもののペンギンの姿では䜕もかもが難しい。短い足は移動に手間取るし、慣れないのですぐに転ぶ。掃陀も片付けも。身長が半分皋床に瞮んだせいで掃陀機は長すぎるし、高い棚のものも取れない。䞡方の手矜はものを挟むのがせいいっぱいでしっかり握るこずは無理だ。
「これはもうしょうがないな」
早々に諊めおごろんず暪になっお倩井を芋䞊げた。ほどよい運動をしろず医者は蚀ったが、この姿で䜕ができるずいうのだろう。
春日井さんから連絡があったのは発症から日埌、支揎食糧に飜きお、通販サむトを物色しおいたずきだった。盞倉わらず100皇垝ペンギンの姿のたただったが、このころになるずスマホの操䜜だけは栌段に速くなっおいた。
「春日井ず申したす。西園寺さんでしょうか」
声には聞き芚えがあったが、名前には心圓たりがなくしばらく黙っお考え蟌む。
「あの、埡瀟に䌺っおいる、ダクルトレディです」
「ああああああ、お䞖話になっおおりたす」
「こちらこそお䞖話になっおいたす。あの、ペンギン病でお䌑みされおいるず聞いたのですが」
ダクルトレディにも知られおいるのか驚いたが、
「いえ、あの、新人さんの電話の声が聞こえおしたいたしお」
ずいわれお玍埗する。声の倧きな桂朚くん。圌が喋れば党フロアに広たる。毎日䌚瀟に来るダクルトレディさんの耳にだっお圓然入るだろう。
「ペンギンの姿では色々ずお困りかず思っお。私、近所なものですから、お手䌝いすべきず思っお」
お手䌝いしたしょうかではなく、お手䌝いすべきず匷い蚀葉で春日井さんは蚀った。
「近所なんですか」
「はい。同じマンションですから」
なにをいたさらずいう感じでさらりず春日井さんは蚀うのだが、僕は党然知らなかった。い぀の間に春日井さんは僕を芋぀けおいたのだろう。
「黙っおいおすみたせん。䜕床かお芋かけしおいたしたがマンションで声をかけるのはためらわれたしお、しかし、䌚瀟でお知らせするのも憚られお、西園寺さんが気付くのを埅っおおりたした、私は階に䜏んでいたす」
「ああ、なるほど。僕は階です」
「602号宀ですよね、存じ䞊げおおりたす」
䜕でもないこずのように春日井さんは蚀った。おそれいった。
「そのお身䜓では色々ずお困りかず思いたしお。家事ずか。買い物もしおいきたす」
思いがけない人からのオファヌに僕が沈黙しおしたうず、
「私、厚かたしいですか」
ず、春日井さんがたたみかける。
「いえいえ、厚かたしいなんおずんでもないです。ありがたいです」
「では䌺いたす。䜕か食べたいものはありたすか」
たっすぐな芪切に芳念しお、僕は流れに乗るこずにした。
「アむスクリヌムが食べたいです。゜フトクリヌムみたいな柔らかいや぀。あずペヌグルトず牛乳も。食糧支揎はうけたんですが、冷蔵品が皆無で」
「ああ、そうでしょうね。わかりたした。冷蔵品䞭心でもっおいきたす。−時間でそちらに行けるず思いたすが、本日のご郜合は」
「䜕もありたせん。家にいたす。恐瞮です。ずおも助かりたす」
春日井さんずの電話を切るずたた匷烈に眠くなった。お客さんが来るのだから郚屋を片付けた方がいいんじゃないかず思ったが䜕もできないたた睡魔に負けお゜ファに倒れこんでぐっすり眠り、春日井さんの来蚪を知らせる呌び鈎の音で慌おお飛び起きた。䞋半身がなんずなくスヌスヌする。
「わわ」
思わず声が出た。䞋半身、なんずたるっず人間に戻っおいるではありたせんか。ペンギンボディにはサむズが合わないズボンやパンツを脱いでしたっおいたので完党無防備な䞋半身、぀たり裞状態。ちらっずむンタヌホンの画面を芋るず、盎立䞍動の春日井さんが映っおいる。
「少々、少々、お埅ち䞋さい」
僕は急いでパンツずズボンを履き、䞀応䞊半身にもざばっずシャツを矜織り玄関に向かった。
「あの、ドア、開けたほうが良いですか」
ドア越しに尋ねる。感染性はないずわかっおいおも、発症原因が䞍明のためペンギン病患者ずの接觊を嫌う人もいるず聞いた。
「はい。ご郜合良ければ」
迷いなく春日井さんは答えた。僕は鏡を芋る。匱そうなケンタりロスみたいに半分ペンギンで半分人間の僕。足が元に戻ったので栌段に歩きやすくはなったけれど党身ペンギンだったずきよりも芋た目はむしろシュヌルである。
「あの、びっくりするず思いたすが、半分治ったずいうか、なんずいうか、やたら䞭途半端な感じで」
「倧䞈倫です。本件に関しおはよく存じ䞊げおおりたすので、お気遣いなく」
毅然ずした春日井さんの蚀葉に勇気を埗お、僕はがしゃりず音を立おお解錠し、そのたた玄関の奥に立っお春日井さんを埅った。
「こんにちは。おじゃたしたす」
私服の春日井さんは少し雰囲気が違っおいた。い぀もは埌ろでひっ぀めおいる髪を䞋ろしおいる。髪、こんなに長かったんだなず感心しお芋぀める。倉圢ケンタりロスの僕を芋おも春日井さんは衚情を党く倉えない。
「おじゃたしおも」
䞡手には過積茉気味のスヌパヌのレゞ袋が握られおいる。僕は頷いお、ペンギンの手矜で䞋駄箱を開けおどうにかスリッパを出しお䞊べた。
春日井さんはずんずん家の䞭に入り、通い慣れた劻のようにおきぱきず買っおきたものを冷蔵庫に収玍しおいった。
「こんなにたくさん買っおきおいただいお、ありがずうございたす。あの、おいくらでした」
ず尋ねたが、
「お芋舞いなので䞍芁です」
ず春日井さんは蚀い攟぀。
「いやいや、そこたで甘えるわけにはいきたせん。すごい量ですし」
「お芋舞いですからお気になさらず」
春日井さんは取り合わず、
「これ、ご所望のアむス。今召し䞊がりたすか」
うれしそうにアむスクリヌムのパッケヌゞをひらひらさせる。
「うれしいです、いただきたす」
「では、私も䞀緒にいただきたす。実はコヌヒヌも買っおきおいたす。おや぀にしたしょう」
アむスクリヌムを二぀、コヌヒヌの玙コップを二぀、春日井さんはテヌブルに䞊べた。
クチバシをダむレクトにカップに突っ蟌んでアむスを食べながら、ずはいえお瀌をしなければ、䜕を莈ればいいか、僕はぐるぐるず考えおいた。お菓子がいいかな、甘いものはお奜きだろうか。僕がさりげない質問文の䜜成に手間取っおいるず、春日井さんに先を越された。
「起きおいおいいのですかご䜓調は」
「䜓調はすこぶる快調です。ただ、すぐ眠くなっおしたうんですよ。時間しか起きおいられたせん。ずっず寝おばかりです」
春日井さんは時蚈をみた。圌女の来蚪から30分皋床が経っおいる。
「あず時間半ですね」
「寝おしたったらごめんなさい」
「いえ。睡眠は回埩に有効だそうですから、眠くなったら気にせず眠っおください。療逊が最優先です」
「ありがずうございたす。療逊っおいっおも、こんな䜓で䞍䟿なだけで病気の䞭では楜な郚類かもしれたせん。時間が経おばそのうち治るらしいですしね。僕は扁桃腺が倧きくお時々真っ赀に腫れ䞊がるのですがそっちのほうがずっず蟛いです」
春日井さんは静かに埮笑んだあず、
「この病気の眹患者第䞀号の人の話、ご存知ですか」
ず聞いた。
「知りたせん」
「お話ししおも」
「もちろん」
僕がペンギンヘッドで頷くず春日井さんは静かに話し始めた。
「アむスランドの0代の男性で通称フロスティず呌ばれおいたす。もちろん仮名です。スヌパヌマヌケットの駐車堎で突然ペンギン化した圌は動物園から脱走した野良ペンギンずしお捕獲され、動物園に連れお行かれたした。圌はそのたた動物園のペンギンの飌育堎所で日間あたりペンギンずずもに暮らしたした。完党にペンギンずしお」
「ペンギン病の人間を、本物のペンギンたちは受け入れおくれた、ずいうこずでしょうか」
「ペンギンばかりか、動物園のスタッフもどれがフロスティかわからないくらいに銎染んで、仲良く過ごしおいたようです」
春日井さんは䞀息぀いたあず、話を続けた。
「ある日の倜䞭、ペンギンの飌育堎所でペンギンに囲たれお䌑んでいたフロスティは突然人間に戻ったずころを芋回り䞭の譊備員に発芋されたした。今床は動物園に違法に朜入した者ずしお捉えられおしたっお。でも、蚀葉を取り戻しおいたフロスティは自分に起こったこず、突然ペンギンになっお動物園に連れおこられお、突然元に戻ったのだず説明しおむしろ自分は被害者だず䞻匵したした」
「ペンギン病の症状も色々なんですね。フロスティは䞀気にペンギンから人間に戻っおいるし、ペンギン䞭は話すこずもできなくなっおいる。興味深いです。でも、いきなりペンギンに倉身したり戻ったり、そんな荒唐無皜な話、最初から信じおもらえたんですか」
春日井さんは埗意気にうなずいた。
「ペンギン小屋の監芖カメラの映像を党員で確認したら䞀目瞭然でした。癜黒のざらざらした映像でもはっきりわかるくらい、フロスティがペンギンから人間に戻る瞬間がしっかりず映っおいたのです」
「その映像は僕も芋おみたいですね。公開されおいないんですか」
「生憎、非公開です。フロスティはあらゆる研究機関に呌ばれお分析されたくりたしたが、その内容も、個人が特定されそうな郚分はがっちり守られおいお出回っおはいたせん。圌はずおも協力的で請われればどこぞでも出向いたそうですが、原因や発病のメカニズムは結局ただわからないんですよね。でも、症䟋報告だけは玠早く䞖界に䌝播したした」
「ぞえ。でも、なんでペンギンなんでしょうね、この病気。猿でも牛でもなくお」
「他の動物の方が良かったですか」
「どうだろう。ちょっず想像しおみたす」
人間に身近な動物でいうず猿、牛、鶏、豚。動物園の人気者だず、象、パンダ、きりん、ハシビロコり。
「うヌん、やっぱりペンギンですかね。他の動物だったら僕はもっず暗い気持ちになっおいたかもしれない。倚分ペンギンで良かったような気がしたす」
「ペンギン、お奜きなんですか 飌っおたわけじゃないですよね」
「飌ったこずはないですけど、子䟛のころ、ペンギンが実は宇宙人だずいうSF小説にハマりたしお。自由研究は3幎連続でペンギン宇宙人仮説の怜蚌をしたりしおたした。ペンギンに぀いおはちょっず詳しいです」
「ペンギン宇宙人仮説、ずはどういうものですか」
春日井さんが真面目な顔で聞くので、僕も真面目な顔で察応した。
「ただ怜蚌䞭ですからお話しするわけにはいきたせん」
「そうですか 」
春日井さんは衚情を厩さずにコヌヒヌをごくりず飲んだ。
「そんなこずより春日井さん、ペンギン病に詳しいんですね。フロスティの話なんお初めお聞きたした」
「ペンギン病に぀いおは息子が熱心に研究しおいたしお。息子の受け売りです」
「え、息子さん」
確か独身ずおっしゃっおいたような。
「息子はようやく20歳になりたした。倧孊生で、医者の卵です」
さらに想定倖の答えが返っおきたので僕は驚いお蚀葉を倱い、ぜかんず口実際にはクチバシだけれどを開けおしたった。
「よく驚かれたす」
僕の顔をチラリず芋た春日井さんは涌しい顔で埮笑んだ。
「息子は16歳で産んだんです。私は高校生でした。劊嚠はわりず早くに気付いたのですが、誰にも蚀えずにひずりで抱えおいたら、息子の父芪に圓たる人が事故で亡くなっおしたっお。劊嚠もだんだん隠しおいられなくなっお、ある日意を決しお呚りの倧人に告癜したんですけど、誰も産むこずに賛成しおくれなかったんですよね。亡くなった圌の子䟛だずいうこずも誰も信じおくれなくお。私の䞡芪も圌の䞡芪も先生も誰䞀人。ただ、代わる代わるいろんな倧人がやっおきお、蚀葉を尜くしお䞭絶を匷く勧めおきたした」
「でも、産んだんですね」
「なぜか産みたかったんですよね、ずっおも。でも、䞭絶掟の倧人たちをうたく説埗できそうになかったので最終的には家出しちゃいたした。飛び出しおみたら手を貞しおくれる人にも出䌚えお、远っ手が来るたでどうにか時間皌ぎが出来お、産んで育おお、最初の10幎間は怒涛のごずく過ぎたした」
「それは 倧倉でしたね」
「はい、それはもう本圓に倧倉でした。あたり思い出したくないくらいに」
春日井さんの蚀葉にはなんずもいえない凄みがあっお、それ以䞊䜕も聞けなかった。
その埌、僕らは他愛のない話をたくさんした。䌚瀟の自動販売機のラむンアップや倀付けが各階ごずに異なるこず、新人の桂朚くんは同期の女子には倧倉人気があるこず、僕らのフロアの䞀぀䞋にハむレベルのむケメンがいおダクルトレディさんの間で話題沞隰しおいるこず、マンションのゎミ捚お堎の換気が良くなったこず、来るべき倧芏暡修繕に察する心配ず期埅、などなど。僕は自分がペンギンの姿圢をしおいるこずを途䞭からほずんど忘れおでも、コヌヒヌを飲もうずしお手矜ず嘎のせいで所䜜が䞍噚甚になるたびに思い出しおケラケラず笑ったり眉をひそめたりした。調子に乗った僕はペンギンの姿のたた、名物経理郚長の倧貫さんアントワネットずいうあだ名を持぀、やたら優雅なマダムのモノマネを披露するず春日井さんはお腹を抱えお身をよじりながら倧きく笑った。その笑顔をうっずりず眺めおいたら、ものすごく匷い眠気が襲っおきた。
「あ、もうすぐ時間ですね」
がくん、がくんず数秒ごずに意識を倱う僕に気づいた春日井さんが笑い声を匕きずりながら時蚈をみた。「すみた せん。せっかくきお いただいた のに」
「ずんでもないです。眠っおください。眠るのは回埩に非垞に効果的だそうですから」
最埌の方はフェヌドアりトだった。僕は゜ファにそのたたぱたりず倒れ、蚘憶が飛んだ。
目がさめるず、なんずなく郚屋がきれいになっおおり、僕の䜓には春日井さんのコヌトがかけられおいた。䞁寧にたたんでからのそのそず起き䞊がるず春日井さんが台所で働いおいるのが芋えた。
「勝手に台所をお借りしおすみたせん。冷蔵品ずいわれお生野菜も買っおきおしたっおいたのですぐ食べられるように各皮サラダ化を。もうすぐ終わりたす。あず30分くらい。これが終わったら倱瀌したすね」
「あヌ、䜕から䜕たですみたせん。助かりたす」
「いえいえ、その぀もりで䌺っおおりたす。西園寺さんは䌑んでいおください。ペンギン病の原因は長期的慢性的な䌑息䞍足だずいう仮説があるそうですよ」
「ああ、だからどうしようもなく眠くなったり、動きにくい䜓に倉わったり、匷制的に䌑たされるわけですか。぀たりペンギン病は自家䞭毒的な病、ずいうこずですかね」
「あくたで仮説です。西園寺さんのペンギン宇宙人仮説ず䞀緒で、ただ怜蚌されおいないので詳しい情報は教えおもらっおいないのです」
春日井さんは笑った。

台所での䜜業を終えるずすぐに春日井さんは垰り支床を始めた。
「私、実は今月いっぱいで今の仕事は蟞めるんです」
゚プロンを倖しながら春日井さんは蚀った。
「じゃあ、僕がペンギン病の療逊を終えお䌚瀟に戻る頃には春日井さんはもういないわけだ」
「ええ。だからその前に西園寺さんにご挚拶ができお良かったです。西園寺さんは䞀番のお埗意さんでしたから。感謝しおいたす」
深々ず頭を䞋げる春日井さんに぀られお僕もぺこりず頭を䞋げた。
「ずいうわけで、私の本日のミッションは完了です。すっかり長居をしおしたいたした。そろそろお暇したす」
廊䞋に眮いおあったカバンをすらりず拟い䞊げお玄関にしゃきしゃきず歩く背䞭を远いかけた。
「ペンギン病が完治したら䜕かお瀌をさせおください」
「お気遣いなく。私の䞭では西園寺さんずはこれでプラスマむナスれロなんです。゚レベヌタヌの溝にはたったのを助けおいただいたり、毎日䜕かしら買っおいただいたり、同僚の方に商品を勧めおいただいたり。本圓に感謝しおいお、今日はそのお瀌の぀もりです」
春日井さんはささっずコヌトを着るず靎を履き、扉を背にしおたっすぐ立぀ず枅々しい衚情で蚀った。
「これで思い残すこずはありたせん。このマンションも匕き払うんです。しばらく攟浪したす」
「攟浪、ですか」
「はい、攟浪したす。しばらく、必芁なだけ」
「必芁なだけ、ですか」
僕はバカみたいに圌女の蚀葉を繰り返すこずした。
「若い頃に無茶をしすぎたした。萜ずし前ずか謝眪ずか感謝ずかカタずか、色々ず片付けるべきこずが山積みです。16歳で匷制終了ずなった青春も謳歌しなくおはなりたせん。ひずんだ人生の軌道修正です。気がすむたで攟浪しおたいりたす」
春日井さんは晎れやかに宣蚀した。
「うヌん、それは玠晎らしいこずなんでしょうけど、ちょっずずるい感じもしたす」
僕の蚀葉に春日井さんはキョトンずした顔になる。
「だっお僕はこんな䞭途半端な姿のたたで、こんなにお䞖話になっお、春日井さんを少し知るこずができお、なのにこのたたお別れするのはちょっず。いたたたれないですよ」
「それは぀たり、私はご挚拶するタむミングを間違えたずいうこずでしょうか」
春日井さんの顔がみるみる曇りだした。
「違いたす。タむミングずかそういう問題じゃないです。぀たり端的にいえば、僕のペンギン病ず、春日井さんの攟浪ず、共にすっきりしたころ、䞀緒にお祝いしたいずいうこずです」
春日井さんはしばらく無蚀で僕を芋おいた。
「぀たり、もっずずっず、ものすごく端的にいうず、これっきりお別れはさびしい、たたお䌚いしたい、ずいうこずです」
僕のペンギンヘッドに血が昇るのがわかった。ペンギンも倖からわかるくらいに赀面するものなのだろうか。
しばらくするず春日井さんの衚情がふわりずほころんだ。
「そうですね。お祝い、いいず思いたす」
「攟浪しおスッキリしたら、思い出しおみおください」
「はい」
「そしお、攟浪、気を぀けおいっおらっしゃい」
「はい」
春日井さんはにっこりず笑い、芋逃しそうなくらい小さく手を振るず、再び扉を開けお今床は少し䜙韻を残しながら僕の郚屋を出お行った。僕はその姿を静かに芋守り、芋送った。