花の世界を変える 持続可能な業界構造を目指してー私たちの取り組みー
◆ はじめに
前回までは、花卉業界外の方々も含めてより多くの人に「花卉業界の問題」を知ってもらいたいと思い、親しみやすい形で書きました。
でも、今回は出来るだけ多くの花卉業界の方々に、わたしたちが始めたこの取り組みをより深く知って欲しいと思い書きます。
これまで10年以上にわたり花卉業界に関わり続ける中で、業界全体が抱えるいくつもの問題が、複雑に重なり合っているように感じていました。
産地との距離、価格の歪み、増え続けるコスト……。
ひとつひとつは別の出来事のように見えても、たどっていくと、二つの流れに集約されていくように、わたしには思えてきました。
ひとつは、「人と人との距離」の変化。
産地と市場、仲卸と花屋。その間にあった関係性が、少しずつ薄れてきているように感じています。結局のところ、市場の機能不全も、価格の不合理も、「誰と誰がどう向き合っているか」という、関係性の問題に行き着くのかもしれません。
もうひとつは、「外部要因への依存」という構造。
地政学や為替、国際情勢といった、生産者さん自身にはどうにもできないはずの出来事が、コストというかたちで、そのまま生産者さんの元へ跳ね返ってきてしまう。がんばってもがんばらなくても、自分の力の及ばないところで、負担だけが重くなっていく。そんな仕組みが、たしかにあるように思うのです。
この二つが重なり合うことで、「生産者さんの努力が、正当に報われにくい」という状況が、生まれ続けているのかもしれません。
大きな仕組みを、わたし一人で変えることはできません。
でも、コスモファーム 野口さんとの取り組みをきっかけに、小さな見直しを、一つずつ積み重ねていくことなら始められるように思い、
2026年7月1日。この取り組みが、正式にはじまりました。
パッケージのこと。リユース資材のこと。コールドチェーンの温度管理のこと。そして、生産者さんへの、安定した、公正な価格のこと。
どれも地味な一歩かもしれません。それでも、その先に、生産者さんの努力がちゃんと届く場所があると信じています。
◆まずは、花卉業界がいま抱えている問題を、一つずつ見つめ直すところから。

◆ ① 産地との関係性の希薄化
以前は、市場の担当者や仲卸が、実際に産地へ足を運び、生産者さんと顔を合わせながら花を仕入れることが、当たり前のようにありました。
でも、今ではWebセリなどの普及により、パソコンの画面越しに競り落とすことができるようになり、わざわざ現地へ行かなくても、仕事が成り立つようになってきています。
便利になった一方で、「この花は、どんな人が、どんな想いで育てたのか」という背景が、見えにくくなってしまったように思います。
顔が見えないまま値段だけが決まっていく。そのことが、少しずつ、産地との距離を広げてしまっているのかもしれません。
▶ 取り組み:コスモファーム野口さんとの取り組みを通じて、定期的に産地へ足を運び、顔の見える関係を積み重ねていく。
▶ つながる未来:生産者さんの想いや品目のこだわりを直接聞くことができ、それを花屋さんへ伝える言葉に厚みが生まれるように思います。
◆ ② 生活者の声が生産者に届いていない
花屋さんの店先に立つお客さまの声、SNSでの反応、季節ごとの人気の移り変わり。そうした「今、求められているもの」の情報は、実は生産者さんのところまで、なかなか届いていないように思います。
生活者と生産者の間に市場や仲卸が入ることで、情報が何段階も経由していくうちに、少しずつ薄まってしまう。
生産者さんからすると、「今、何をつくれば喜んでもらえるのか」が見えにくいまま、これまでの経験や勘を頼りに、品目を選ばざるを得ない場面もあるのではないかと思います。
せっかく良いものを育てても、求められているものとずれてしまえば、それは生産者さんにとっても、生活者にとっても、もったいないことのように感じています。
▶ 取り組み:花屋さんの店頭やお客さまの声を、できるだけそのままのかたちで、産地へフィードバックしていく。
▶ つながる未来:生産者さんが「何を、誰のためにつくっているのか」を実感しやすくなり、品目選びや栽培計画にも、納得感が生まれてくるように思います。
◆ ③ 価格構造の歪み
花の値段は、その日の需要と供給によって、前売りとセリで決まっていきます。これが「変動相場制」と呼ばれる仕組みです。
天候や季節、行事の有無などによって、同じ花でも日によって値段が大きく変わってしまいます。
生産者さんは、毎日同じように手間をかけて花を育てているのに、売れ残ってしまった日は、二束三文で買われてしまうこともあります。
丹精込めて育てた分だけ、正当な対価が返ってくるとは限らない。そんな仕組みの中で、生産者さんの努力が、正しく報われにくくなっているように感じています。
▶ 取り組み:安定・公正な生産者価格の仕組みづくりを、コスモファームとの取り組みの柱の一つとして進めていく。
▶ つながる未来:生産者さんが季節や相場に左右されずに収入の見通しを立てやすくなり、長期的な品質向上や新しい挑戦にもつながっていくように思います。
◆ ④ 商物分離の構造とコスト転嫁
花の流通は、これまで「もの」と「取引」がひとつに重なったまま、動いてきました。市場を経由し、仲卸を経由し、そのたびに、荷物も、伝票も、同じ経路をたどっていく……。
でも、本当に必要なのは、荷物がまっすぐ届くことと、取引が正しく成立することの、両方であって、必ずしもそれが同じ経路である必要はないのかもしれません。
物の流れ(物流)と、取引の流れ(商流)を、あえて分けて考えてみる。「商物分離」と呼ばれる、そんな仕組みです。
これまでのように、荷物も伝票も同じ経路を通ることで、どうしても、間に入る分だけ、時間もコストも積み重なっていってしまいます。
その積み重なりが、結局は「中抜き」というかたちで、生産者さんの手取りを、少しずつ、削っていってしまっているように感じています。
ここで私たちが向き合わなければならないのは、「生産者さんにとっての適正価格とは何か」ということです。
それは決して、単に「高く売る」ということではありません。花を育てるためにかかった苗代や肥料代、毎日の労働に見合う対価がちゃんと安定して手元に残り、明日も、来年も、安心して花を育て続けられる。
そんな「持続可能な循環が生まれる価格」こそが、本当の適正価格なのだと思います。
産地から花屋さんまで、荷物はできるだけ最短で。取引の記録や決済だけを、必要なところで、必要なかたちに整えていく。そうすることで、間に重なっていた、本来なくてもよかったはずのコストを、少しずつ、取り除いていけるのではないかと思っています。
▶ 取り組み:コスモファーム 野口さん、久留米花市場との取り組みの中で、物流と商流を分けて設計し直し、市場手数料などの見直しも含めて、荷物は産地から花屋さんへできるだけ直接届く経路をつくりながら、取引や決済の部分は市場・仲卸が責任を持って整えていく。
▶ つながる未来:経由するたびに積み重なっていた中抜きの部分を減らせることで、生産者さんの手取りを増やしながら、花屋さんの仕入れ値を抑えることにもつながっていくように思います。荷物にかかる時間が短くなる分、鮮度も守られやすくなるのかもしれません。
◆ ⑤ 構造的摩擦と不均衡
生産者さんも、仲卸や市場で働く人たちも、今の暮らしを守るために、日々の判断をしています。「この品目は手間がかかりすぎるから、作りやすいものに変えよう」「この仕事は負担が大きいから、もっと働きやすい場所に移ろう」。
一つひとつの選択は、決して間違っていません。
でも、そうした選択が業界全体で積み重なっていくと、結果として、業界を支えてきた土台そのものが、少しずつ痩せていってしまう。誰も悪くないのに、全体としては良くない方向へ進んでしまう。そんな構造が、産地にも流通にも共通してあるように思います。
▶ 取り組み:産地・市場・仲卸の間で情報や課題を共有できる場を、小さくても継続的につくっていく。
▶ つながる未来:目先の判断だけでなく、業界全体としての長い時間軸で物事を考えられるようになるのかもしれません。
◆ ⑥ 労働環境・人材の定着
花の仕事は、早朝からの作業や、力仕事、季節を問わない忙しさなど、体力的にも精神的にも負担が大きい面があります。それでいて、長年その働き方が「当たり前」とされてきたために、なかなか見直されてきませんでした。
結果として、若い人たちが入ってきても、長く続けにくい。生産者さんの中にも、「もう続けられない」と感じて、別の品目や仕事へ移っていく方がいます。これは、業界からの人の流出という意味で、産地でも流通でも、実は同じことが起きているように思います。
▶ 取り組み:パッケージ改革や生産規格の見直しなど、現場の負担を減らす具体的な工夫を一つずつ積み重ねていく
▶ つながる未来:地味な改善であっても、日々の作業の負担が軽くなることで、続けやすい環境に少しずつ近づいていくように思います
◆ ⑦ コストの上昇(肥料・燃料・資材)
花を育てるために欠かせない肥料の原料は、日本ではほとんど採れず、そのほとんどを海外からの輸入に頼っています。
ところが近年、原料を多く産出する国での輸出規制や、国際情勢の緊張、それに円安が重なり、肥料の価格が大きく上がってしまいました。
これは生産者さんの努力とはまったく関係のないところで起きていることですが、それでもコストとして、生産者さんの肩に重くのしかかってきます。
ハウス栽培に使う燃料、輸送にかかるコスト、も同じような事情で値上がりしており、育てれば育てるほど、経費がかさんでいくという厳しい状況が続いています。
▶ 取り組み:リユース資材の導入による段ボール輸送からバケット輸送への変更や、コールドチェーンの温度管理を見直すことで、資材や輸送にかかる無駄なコストを減らしていく。
▶ つながる未来:外部要因によるコスト上昇をすべて吸収することは難しくても、適切な温度管理によってクレームによるロスを減らし、輸送の無駄を省く。自分たちの手の届く部分の無駄を減らすことで、生産者さんへの還元を少しでも守れるようにと思います。
◆ ⑧ 種苗の入手困難
花の種や苗も、実は多くを海外からの輸入に頼っています。輸入する際には、病害虫が入り込まないよう、検疫という厳しい手続きが必要で、品種によっては、隔離された場所でしばらく育てて安全を確認する期間も設けられています。
こうした手続きに時間がかかることに加えて、世界的な需要の高まりや円安の影響も重なり、「欲しい品種が、欲しいタイミングで、思うような価格で手に入らない」ということが、少しずつ起きやすくなっているように感じています。
▶ 取り組み:産地と密に情報交換をしながら、必要な品目や時期の見通しを早めに共有していき、二人三脚で確実な調達ルートを確保していく体制をつくります。
▶ つながる未来:余裕を持った準備ができることで、産地・仲卸双方の負担が軽くなるように感じています。
生活者のみなさまへ「欲しい花を、欲しいときにお届けできる」という当たり前の安定供給を守り、持続可能な生産の循環をつないでいけると考えています。
◆ ⑨ 環境への取り組みの遅れ
花は、育てる過程でも、運ぶ過程でも、少なからず環境への負荷がかかっています。輸送に使うトラックの燃料、資材として使われるビニールや発泡スチロールやダンボールなど、当たり前のように使われてきたものが、実は積み重なると、決して小さくない負担になっています。
他の産業に比べると、花卉業界はまだ、こうした資源問題や自然エネルギー、CO2問題などの環境課題への取り組みが、まだ十分に進んでいないのが現状ではないでしょうか。
▶ 取り組み:セロハンやダンボール梱包の見直しを通じて、使用ゼロを目指した「バケット輸送」をもちいながら、リユース資材の活用を進め、環境負荷を少しずつでも減らしていく。
▶ つながる未来:小さな取り組みでも積み重なれば、業界全体の意識が変わっていくきっかけになるのかもしれません。
◆ 最後に
産地との距離、届かない生活者の声、価格の歪み、そしてコストの上昇や労働環境の課題……。
一見すると、これらは別々の問題のように思えます。
しかし、その根底にあるのは、とてもシンプルです。「人と人との距離」が離れてしまったこと、そして「外部要因への依存」から抜け出せないこと。すべての課題は、この二つの本質に集約されます。
コスモファーム野口さんとの取り組みは、この二つの根本的な課題に、一歩ずつ手を伸ばそうとする試みです。
パッケージ改革、バケットなどのリユース資材の活用、コールドチェーンの温度管理、そして生産者さんへの安定した公正な価格の実現など……。

私たちが目指すのは、その先の未来まで、
花と思いが人の手に渡り続けられる「持続可能な循環構造」をつくること。
それこそが、新しい業界構造から生まれる本当の価値だと信じています。
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