男性脱衣所だけ監視カメラ?――セミライブなら「防犯」と「プライバシー」を両立できないか
Xで、かなり気になる投稿を見かけた。
投稿者によると、極楽湯の
・横浜芹が谷店
・羽生温泉
・柏店
の3店舗へ電話で問い合わせたところ、男性脱衣所には監視カメラが設置されている一方、女性脱衣所には設置されておらず、
「なぜ女性脱衣所には設置しないのか」
と尋ねると、その理由として「プライバシーの保護」と説明されたという。
元の投稿はこちら。
極楽湯
— 若葉(サブ) (@hsktct) August 29, 2026
・横浜芹が谷店
・羽生温泉
・柏店に電話で問い合わせ。
男性脱衣所のみに監視カメラが設置されて女性脱衣所には設置されていない理由を問うたところ
「プライバシーの保護」が理由とのこと。重大な言質が取れました。
監視カメラの件を運営へ報告することで一致しました。
最初に重要なことを書いておく。
僕自身が3店舗へ電話して、この回答を聞いたわけではない。
極楽湯本社が公式サイトで、
「男性脱衣所だけにカメラを置いている。女性側に置かない理由はプライバシー保護である」
と発表しているわけでもない。
だから、Xの投稿に書かれている電話回答まで含めて、僕から「これは確認済みの事実です」と断言するつもりはない。
ただ、少し調べてみると、
「極楽湯の男性脱衣所にカメラがある」
という話そのものは、今回突然出てきたものでもなさそうだった。
2025年5月には、今回のX投稿とは別の利用者が、Yahoo!知恵袋で「極楽湯三島店の男性脱衣所に監視カメラがあって驚いた」と投稿している。今回の騒動より1年以上前の書き込みだ。
また、スーパー銭湯全般についても、2021年に「過去にスーパー銭湯に勤めていた」という回答者が、十数店舗を見た経験として、女性脱衣所ではカメラを見たことがない一方、男性脱衣所には複数設置されていた、と回答している。
もちろん匿名のネット投稿なので、これだけで業界全体の実態を証明できるわけではない。
ただ少なくとも、
「男性脱衣所にはカメラを置くが、女性脱衣所には置かない」
という運用そのものが、完全な作り話だと片付けられる状況でもなさそうだ。
なお、ネット上には逆に、女性側にもカメラがあったという古い極楽湯利用者の報告も存在する。
したがって、「極楽湯では全店舗、常に男性だけが撮影されている」とまで一般化することもできない。
店舗や時期によって運用が違う可能性は残る。
そのうえで。
今回のX投稿がもし正確なのだとしたら、僕にはかなり引っかかる。
女性にプライバシーがあるなら、男性にもある
女性脱衣所にカメラを置かない理由が、
「プライバシーの保護」
なのだとしたら、その判断自体はものすごくよく分かる。
脱衣所なのだから。
裸になる場所なのだから。
むしろ、プライバシーに配慮するのは当然だと思う。
では。
男性のプライバシーは?
女性が裸を撮影されたくないように、男性だって裸を撮影されたくない。
女性の身体に性的プライバシーが存在するなら、男性の身体にも当然存在する。
僕が今回の投稿で一番引っかかったのは、まさにここだった。
ただ、ここで、
「じゃあ男性脱衣所のカメラも全部外せ」
と言うだけなら簡単だ。
でも施設側にも、カメラを置きたくなる事情はあるのだと思う。
盗難。
器物損壊。
利用者同士のトラブル。
何か事件が起きたとき、映像が残っていれば解決に役立つことはある。
つまりこの問題、
実はかなり難しい。
防犯のためには記録したい。
でも、
プライバシーのためには撮られたくない。
この2つが衝突している。
だったら。
「撮るか、撮らないか」の2択そのものを、やめられないだろうか。
セミライブを使えないか
僕は以前、
『セミライブセックス』
という小説を書いた。
簡単に説明すると、
セックスを映像として記録するが、撮影された映像をそのまま誰かが見ることはできない
という仕組みを扱ったSF小説だ。
撮影と同時に映像を暗号化して、ネット上へ流す。
ネット上に存在するのは、誰にも意味の分からない暗号文だけ。
撮影した本人でさえ、好き勝手に復号することはできない。
そして後から不同意性交などの事件が発生した場合に限って、独立した第三者機関が審査し、必要と認められれば復号する。
つまり、
証拠は残す。
しかし、
普段は誰にも見せない。
という仕組みだ。
小説はこちら。
これ。
脱衣所の監視カメラにも使えないだろうか。
「誰にも見られない監視カメラ」
たとえば、男女両方の脱衣所にカメラを設置する。
ただし、映像は撮影された瞬間に暗号化する。
店員は見られない。
店長も見られない。
本社の社員も見られない。
管理画面にログインしたら裸の映像がズラッと出てくる、なんてことはできない。
映像は一定期間だけ保存され、何も事件がなければ自動的に消える。
そして、
「ロッカーから財布が盗まれた」
「暴行事件が起きた」
など、具体的な事件が発生したときだけ復号を申請する。
しかも、店長1人の判断では開けられない。
施設とは独立した第三者を含む複数人の承認を必要にする。
復号できる時間帯も、
「○月○日14時20分から14時35分まで」
のように必要最小限に限定する。
さらに、
誰が復号を申請したのか。
なぜ申請したのか。
誰が許可したのか。
いつ映像を開いたのか。
全部ログとして残す。
これなら、
防犯カメラは存在するのに、日常的に人間を監視することはできない。
という、一見矛盾した状態を作れる。
僕はこれを、
「誰にも見られない監視カメラ」
と呼びたい。
「記録される」と「見られる」は同じではない
ここが、セミライブというアイデアで僕が一番面白いと思っているところだ。
僕たちは普通、
「カメラで撮影されている」
と聞いたら、
「誰かに見られている」
と考える。
今までの監視カメラでは、その2つがほとんどセットだったからだ。
でも、本来は別の話だ。
コンピューターにデータを記録することと、
人間にその中身を見せることは、
技術的には分離できる。
だったら、
証拠だけは残したい。でも監視はされたくない。
という要求も成立する。
これは脱衣所とものすごく相性がいいと思う。
そして、この仕組みにするなら、男女で扱いを変える必要もない。
男性も女性も同じカメラ。
同じ暗号方式。
同じ保存期間。
同じ復号条件。
同じ審査。
同じプライバシー。
もし、
「女性の裸はプライバシーだから撮影・閲覧には最大限慎重でなければならない」
のであれば、
その考え方を、そのまま男性にも適用すればいい。
もちろん「暗号化すれば何を撮ってもいい」わけではない
誤解されたくないので、ここも書いておく。
僕は、
「暗号化さえすれば脱衣所を撮影しまくっていい」
と言いたいわけではない。
カメラそのものがハッキングされる可能性もある。
暗号鍵が盗まれる可能性もある。
設計や実装が杜撰なら、結局映像が漏れる。
そして何より、
「誰にも見られないとしても、自分の裸そのものを記録されたくない」
という人も当然いるだろう。
それも正当な感覚だと思う。
だから実際に導入するなら、設置場所、保存期間、復号条件、利用者への告知、セキュリティ監査など、相当慎重な制度設計が必要になる。
セミライブは魔法ではない。
ただ、
「犯罪対策のために裸を撮る」か、
「プライバシーのために証拠を一切残さない」か。
本当にその2択しかないのだろうか。
そこに第三の選択肢を作れる可能性はあると思う。
セミライブは、セックスだけの話ではないのかもしれない
『セミライブセックス』は、もともと性的同意の問題から始まった小説だ。
性行為を録画すれば、後から何が起きたのか確認できる。
でも、セックスの映像なんて他人に見られたくない。
だったら、
記録はする。でも見られなくする。
という発想から始まった。
でも小説を書いているうちに思った。
これって、セックスだけの話じゃないんじゃないか。
学校。
介護施設。
医療。
警察。
職場。
そして、今回のような脱衣所。
世の中には、
「何かあったときのために記録は欲しい。でも普段から誰かに見られていたくはない」
場所がたくさんある。
今の監視カメラは、
「記録すること」と「監視すること」をほとんど同じものとして扱っている。
でも未来の監視カメラは、そうでなくてもいいのかもしれない。
僕が欲しいのは、
記録されている社会ではあっても、誰かに見られている社会ではない。
そんな社会だ。
今回の極楽湯をめぐる投稿を見て、
セミライブという仕組みは、もしかするとこういうところでも役に立つのではないかと思った。
そのアイデアの出発点になった小説が、
『セミライブセックス』である。
性行為の同意をめぐるSFとして書き始めた作品だけれど、
よければ、
「監視と記録は、本当に同じものでなければならないのか」
という視点でも読んでみてほしい。
