【少年野球選手の投球・打撃能力には、どの身体能力が関係するのか?】164人の少年野球選手を調べて分かった「走る・跳ぶ・力を出す能力」と野球パフォーマンスの関係

はじめに
少年野球では、どうしても、
「投げる練習」
「打つ練習」
「守備練習」
といった野球そのものの技術練習が中心になりやすいです。
もちろん、野球技術を高めるには実際に投げる・打つことが必要です。
しかし、
強く投げる選手や、強い打球を打つ選手は、身体能力のどこが優れているのでしょうか?
今回の研究では、
6.4〜15.7歳の少年野球選手164人
を対象に、
・立ち幅跳び
・10mスプリント
・反復横跳び
・腹筋
・柔軟性
・背筋力
・握力
などの基礎身体能力と、
投球・打撃パフォーマンス
との関係を調べました。
その結果、全選手をまとめて分析すると、
投球では、
年齢
BMI
立ち幅跳び
10mスプリント
握力
が有意な予測因子。
打撃では、
年齢
BMI
立ち幅跳び
背筋力
が有意な予測因子として残りました。
特に注目したいのが、
立ち幅跳びが、投球と打撃の両方に関係していた
ことです。
少年期の野球能力を考えるうえで、
「走る」
「跳ぶ」
「全身で力を出す」
といった基礎運動能力を軽視してはいけないことが分かります。
今回の研究は何を調べたのか?
研究の目的は、
小学生〜中学生年代の野球選手において、身体特性や基礎体力が実際の投球・打撃能力とどのように関係するのかを明らかにすること
でした。
これ以前にも、大学・プロ野球選手を対象とした研究では、
・筋力
・パワー
・アジリティ
・スプリント能力
と野球パフォーマンスの関係が調べられていました。
例えば、プロ・マイナーリーグ選手343人を調べた先行研究では、
垂直跳びパワーがホームラン数・長打率の有意な予測因子
となり、
10ヤードスプリントが盗塁数の予測因子になっていました。
しかし、当時は小学生・中学生を含む少年野球選手で、同じように身体能力と野球能力を詳しく調べた研究はほとんどありませんでした。
そこで今回、
少年野球選手164人
をまとめて分析しました。
対象は6歳から15歳までの164人
参加したのは男性野球選手164人です。
年齢:6.4〜15.7歳
野球経験:3〜123か月
身長:115.3〜174.7cm
体重:19.1〜80.0kg
と、かなり幅広い年代・発育段階の選手が含まれていました。
全員が同じ野球スクールに所属し、週1回野球技術の指導を受けていました。
つまり今回の研究は、
ある程度環境を揃えながら、成長段階の異なる少年選手を大量に比較した研究
です。
どんな身体能力を測ったのか?
身体能力テストはかなり幅広く行われました。
測定されたのは、
・身長
・体重
・立ち幅跳び
・反復横跳び
・30秒間の腹筋
・10mスプリント
・長座体前屈
・背筋力
・左右握力
です。
つまり、
身体サイズ
だけでなく、
下半身パワー
加速能力
敏捷性
体幹持久力
柔軟性
背部筋力
握力
まで見ています。
かなり実践的な測定項目です。
立ち幅跳びは何を見ているのか?
立ち幅跳びでは、
両脚でしゃがみ込み、
そこからできるだけ遠くへジャンプします。
2回行い、良い方の記録を採用しました。
立ち幅跳びは単なる「ジャンプ力」ではありません。
大きく跳ぶためには、
・股関節伸展
・膝伸展
・足関節底屈
・全身のタイミング
を短時間で協調させる必要があります。
つまり、
下半身を中心に、全身で爆発的に力を出す能力
を見る簡易テストと考えられます。
この能力が、今回の研究では投球・打撃の両方に関係しました。
10mスプリントは「最高速度」ではなく加速能力
今回測定されたのは50m走ではなく、
10mスプリント
です。
スタートは野球でリードを取るときに近い姿勢から行いました。
10mでは、まだ最高速度には達しません。
主に必要なのは、
最初の数歩で一気に加速する能力
です。
これは野球の、
・走塁
・守備
・投球時の下半身出力
・打撃時の爆発的力発揮
とも共通する身体能力である可能性があります。
投球能力はどう測ったのか?
選手は11m先のネットへ全力投球しました。
ネットには直径10cmのターゲットが設定されていました。
球速はスピードガンで測定し、
5回のうち最も速い球
を採用しています。
ただし、ターゲットを狙うよう指示されていますが、
投球精度そのものは分析対象ではありません。
つまり今回の「投球能力」は主として、
どれだけ速い球を投げられるか
です。
打撃能力はどう測ったのか?
打撃はティー打撃です。
選手自身が、
・足の位置
・ティーの高さ
を最も振りやすい位置に設定しました。
そこからセンター方向へ全力スイング。
打球直後の速度をスピードガンで測定し、
5回の中で最高の打球速度
を採用しました。
つまり、
実投球への対応能力やタイミングではなく、
静止球に対してどれだけ強い打球を生み出せるか
を評価しています。
単純な球速ではなく「運動エネルギー」を分析した
今回の論文では、
投球球速・打球速度だけでなく、
ボールの運動エネルギー
を計算しました。
式は、
運動エネルギー=1/2×ボール質量×速度²
です。
なぜわざわざエネルギーを使ったのでしょうか?
今回の選手は年代によって、
・0.128kgのゴム球
・0.135kgのゴム球
・0.145kgの硬式球
と異なる重量のボールを使っていたからです。
そのため、
球速だけではなく、
ボール重量も含めてパフォーマンスを評価
しています。
年齢が上がると、ほぼすべての身体能力が高くなった
選手を年齢で3グループに分けると、
最年少群
51人
平均112か月=約9.3歳
中間群
56人
平均137か月=約11.4歳
最年長群
57人
平均163か月=約13.6歳
でした。
当然ながら、年齢とともに、
身長
体重
ジャンプ
スプリント
筋力
など、ほぼすべての値が向上しました。
年齢別の立ち幅跳びは大きく伸びていた
平均立ち幅跳びは、
最年少:153±14cm
中間:174±18cm
最年長:206±24cm
でした。
約9歳から約14歳へかけて、
平均で50cm以上伸びています。
一方、10mスプリントは、
最年少:2.49±0.16秒
中間:2.35±0.13秒
最年長:2.17±0.18秒
まで速くなりました。
投球速度も成長とともに大きく上昇
平均投球速度は、
最年少:71±9km/h
中間:86±8km/h
最年長:100±10km/h
でした。
打球速度は、
最年少:79±9km/h
中間:94±9km/h
最年長:107±12km/h
でした。
つまり当然ですが、
成長に伴う身体の発達と、野球パフォーマンスの向上はかなり強く並行している
ことが分かります。
単純相関では、ほぼすべての身体能力が投球・打撃と関係した
相関分析では、
投球・打撃の運動エネルギーと、
今回測定したすべての独立変数との間に、
p<0.01の有意な関係
が確認されました。
例えば投球では、
右握力:r=0.906
左握力:r=0.894
年齢:r=0.880
身長:r=0.870
背筋力:r=0.866
立ち幅跳び:r=0.850
と、かなり強い相関でした。
打撃でも同じように強い相関
打撃では、
右握力:r=0.898
左握力:r=0.877
身長:r=0.877
体重:r=0.865
背筋力:r=0.865
立ち幅跳び:r=0.850
と、こちらもかなり高い相関でした。
これだけを見ると、
「握力が一番重要なのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、ここからが非常に重要です。
少年選手では「成長」が多くの能力を同時に押し上げる
年齢が上がれば、
身長が伸びる。
体重が増える。
握力が強くなる。
背筋力が強くなる。
ジャンプが伸びる。
スプリントも速くなる。
そして球速も上がります。
つまり、
握力と球速に強い相関があったとしても、
握力そのものだけが球速を生み出しているとは限りません。
年齢・身体サイズ・他の筋力も同時に成長しているためです。
そこで今回の研究では、
複数の要素を同時に入れた、
重回帰分析
を行いました。
重回帰分析とは?
簡単に言えば、
「年齢や身体サイズなど他の条件も考慮したうえで、それでも独立して投球・打撃と関係するものは何か?」
を見る分析です。
例えば、
握力が強い選手ほど球速が速い。
でもその選手は、
年齢も上で、
身体も大きく、
脚力も高い。
それらをまとめて分析したとき、
最後まで予測因子として残る項目
を見るわけです。
その結果が今回非常に興味深いものでした。
全164人で見た投球能力の予測因子
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