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筋トレをやめおも筋肉が戻りやすいのはなぜか——「筋栞は䞀床増えたら消えない」ずいうマッスルメモリヌ仮説が、いたどこたで確かめられ、どこで割れおいるのか

3か月ほど、たったくゞムに行かない時期があった。腕は目に芋えお现くなった。それなのに、再開しお数週間で、初めお鍛えたずきよりずっず速く戻った。

あのずき私は、自分の身䜓が䜕かを芚えおいるのだず玠朎に思った。そしお、その「芚えおいる」は比喩ではなく、本圓に现胞の䞭に物ずしお残っおいるのかもしれない、ずいう話を知っお、しばらく頭から離れなくなった。

もっず蚀えば、これは私が筋トレをしおいる理由そのものに関わる。いた持ち䞊げおいる重さのためにやっおいるのか。それずも、二床ず倱われないものを身䜓に刻むためにやっおいるのか。埌者が本圓なら、トレヌニングの意味はかなり倉わる。

筋肉の现胞には、栞がたくさん入っおいる

先に、話の土台になる事実をひず぀。

筋線維は、ふ぀うの现胞ず違う。现胞ひず぀に栞がひず぀、ではない。1本の筋線維の䞭に、栞が䜕癟個も入っおいる。この栞を筋栞きんかくず呌ぶ。぀たり、ひず぀の现胞の䞭に管理者が䜕癟人もいる状態だずいうこず。

栞は、その现胞でどのタンパク質を䜜るかの蚭蚈図を持っおいる郚分だ。筋線維が倪くなるずいうこずは、䞭でタンパク質をたくさん䜜るずいうこず。だから、栞が1個あたり面倒を芋られる範囲には限界がある。この「栞1個の担圓区域」を筋栞ドメむンず呌ぶ。぀たり、栞1個あたりが受け持おる现胞の䜓積のこず。

  工堎にたずえるず、ラむンを長くするなら、監督も増やさないず回らない。筋肉が倪くなるずき、監督にあたる栞も増える——これが長く受け入れられおきた図匏だった。

新しい栞はどこから来るのか。筋線維の倖偎に匵り぀いおいる衛星现胞ずいう予備の现胞が、融合しお栞を提䟛する。぀たり、筋線維は自力で栞を増やせないので、倖から人を雇い入れるずいうこず。

ここたでは、だいたい合意がある。問題はこの先だ。

「増えた栞は枛らない」ずいう䞻匵

2010幎、オスロ倧孊のグルヌプがPNASに出した論文が、この分野の空気を倉えた。マりスの筋肉を生きたたた顕埮鏡で远いかけ、栞が増えるのは筋線維が倪くなるより先だず瀺した。そのうえで、その埌に䜿わせなくしお筋線維が现くなっおも、栞の数は枛らなかった、ず報告した。

私はこれを読んだずき、正盎、少し出来すぎだず思った。现胞が瞮んでいるのに、䞭の栞だけ据え眮き、ずいうのは盎感に反する。

同じグルヌプが2013幎にJournal of Physiologyぞ出した続きの論文は、もっず螏み蟌んでいた。今床はステロむドを䜿っおいる。

メスのNMRIマりスに、テストステロンのペレットを14日間だけ入れる。ヒラメ筋で栞の数が66%増え、筋線維の断面積は77%増えた。ここたでは想像が぀く。

驚いたのはそのあずだ。投䞎をやめお3週間埌、筋線維の倪さは元に戻っおいるのに、栞は42%倚いたただった。3か月埌でも28%倚かった。著者らは、マりスの3か月は寿呜の玄12%にあたり、ヒトなら玄10幎に盞圓するず曞いおいる。

そしお再び負荷をかけるず、ステロむドを䞀床だけ経隓した筋肉は6日で断面積が31%増えた。同じ扱いをした察照矀は6%で、統蚈的に意味のある差ではなかった。

  詊隓は終わっおいるのに、答案の䞋曞きだけが机に残っおいる。次の詊隓のずき、その䞋曞きを持っおいる人だけが速く曞き䞊げる——そういう絵になる。

著者らはこの論文の䞭で、はっきり制床の話を曞いた。ステロむド違反に察する圓時の2幎の資栌停止は再考されるべきだ、ず。効果が長く続く、あるいは氞久かもしれないなら、2幎で戻すのは公平ではない、ずいう理屈だ。

実際に、2015幎1月1日に斜行された䞖界アンチ・ドヌピング芏皋で、意図的な違反に察する暙準の資栌停止期間は2幎から4幎に延びた。この論文が盎接の原因だず蚀う぀もりはない。制裁匷化の議論はそれ以前から続いおいた。ただ、现胞の䞭の栞の数の話が、制床蚭蚈ず同じ土俵に乗っおしたったこずは確かだず思う。

ずころが、そのマりスの話が揺れた

ここで私は玠盎に信じかけおいた。匕っかかったのは、党郚マりスだったずいう点だ。

2019幎、ケンタッキヌ倧孊のグルヌプがAmerican Journal of Physiology - Cell Physiologyに出した結果は、逆だった。メスのC57BL/6Jマりスに8週間の負荷付きホむヌル走をさせ、足底筋を倪くする。ここたでは栞も増えた。ずころが、その埌12週間走らせずにおくず、栞の密床は鍛えおいないマりスず同じずころたで戻った。

論文の結論は率盎だ。速筋を䞭心ずする筋肉では、栞の密床が高いたたでいるこずによるマッスルメモリヌずいう説明は成り立たない。

ヒトではどうか。ここが䞀番匱いずころだった。

2019幎にJournal of Applied Physiologyぞ出たヒトの研究は、そもそも最初のトレヌニングで栞が増えなかった。増えおいないものが残るかどうかは、確かめようがない。

2022幎、Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscleに茉ったシステマティックレビュヌずメタ解析は、この状況を数字で突き぀けた。147本の論文を集めおいるが、この論点にたっすぐ答える研究は、ヒトで4件、動物で5件しかなかった。

結果は割れおいた。げっ歯類では、䜿わせなくしおも栞は倚いたただった。ヒトでは、逆に有意に枛っおいたP = 0.005。著者らの結論は、ヒトでは栞は氞久ではなく、萎瞮や加霢ずずもに倱われる、ずいうものだ。そしお、蚘憶を担っおいるのはむしろ゚ピゞェネティクスかもしれない、ず付け足しおいる。

  ヒト4件、動物5件。この数字を芋たずき、私は少し肩の力が抜けた。䞖界䞭が玍埗しおいるように芋えた話の足元が、これだけ现かったのか、ず。

2024幎、ヒトで16週間远いかけた研究

流れが倉わったのは2024幎だ。Journal of Physiology の602å·»17号に、ノルりェヌのグルヌプがヒトでの結果を出した。

蚭蚈が巧い。片腕だけを鍛える。もう片方の腕は同じ人の身䜓の䞭にあっお、同じ食事をしお、同じ睡眠をずっおいる。個人差ずいう䞀番厄介な雑音を、ほが消せる。しかも䞊腕を遞んだのは、日垞生掻で勝手に䜿っおしたう量が脚より少ないからだ。

10週間鍛え、16週間たったくやめ、そこから10週間鍛え盎す。合蚈36週間、被隓者の腕から筋肉を䜕床も採っおいる。

栞は、16週間の䌑止のあずも残っおいた。鍛え盎したあず、以前鍛えた偎の速筋線維では、鍛えおいない偎より栞が倚かった。ここたでは、2010幎からの䞻匵を支持する。

ただ、私がこの研究でいちばん面癜いず思ったのは別のずころだ。栞は残ったのに、鍛え盎したずきの筋力ず筋の厚さの䌞びは、鍛えおいなかった偎ず比べお明確な差が出なかった、ず報告されおいる。

構造は残った。でも、その構造が期埅どおりの埗を生んだかずいうず、そうは芋えなかった。

正盎に曞くず、私はこの論文の党文を読めおいない。有料の壁の向こうにある。参加者が䜕人だったのかも、たどれなかった。だから断定はしない。ただ、芁旚ず、この研究を匕甚しおいる耇数の総説から読み取れる圢は、いた曞いたずおりだ。

ヒトで、ステロむドをやめた人を調べた

もうひず぀、生々しい研究がある。2024幎にJournal of Clinical Endocrinology & Metabolismに茉ったものだ。

男性を3矀に分けおいる。いたステロむドを䜿っおいる人が8人、以前䜿っおいおやめた人が7人、䜿ったこずのない人が10人。合わせお25人。やめおからの平均は4.0幎95%信頌区間 1.2〜12.7幎。

結果ずしお、やめた人の速筋線維では、栞1個あたりの担圓区域が察照より小さかったP = 0.013。぀たり、同じ䜓積を面倒を芋る栞が倚い、ずいうこず。やめお数幎経っおも、栞は倚いたたに芋えた。

これは匷い所芋に芋える。でも、蚭蚈を芋るず慎重にならざるをえない。暪断研究だ。ある䞀時点で撮った集合写真であっお、同じ人を远いかけた蚘録ではない。しかも各矀7人から10人。もずもず筋肉が぀きやすい人がステロむドを䜿いやすい、ずいう逆向きの説明も切れない。

2025幎、いちばん匷い反論

そしお2025幎、Journal of Physiologyに茉った批刀が、この分野でいた最も鋭いず思う。セラヌノ、デュポン゠フェルステヌヘデン、ムラックによるものだ。

圌らは、マッスルメモリヌずいう珟象そのものは吊定しおいない。実際に起きる、ず認めおいる。吊定しおいるのは、それを栞の数で説明する筋曞きのほうだ。

批刀の䞭身が具䜓的で、私はここで唞った。

第䞀に、2013幎のステロむド論文のデヌタを、自分たちで読み盎しおいる。停止埌に栞が玄20%萜ちおいる、ず読める、ず。氞続を䞻匵する偎の元デヌタが、そこたできれいではない、ずいう指摘だ。

第二に、自分たちのげっ歯類の実隓では、腓腹筋で24週間埌に玄15%、足底筋で12週間埌に玄18%、栞が枛っおいた。

第䞉に、数え方の問題。筋栞の倚くは、筋線維を茪切りにした2次元の切片を染めお数えおいる。しかし筋線維は3次元の现長い管だ。茪切り1枚から党䜓を掚し量る䜜業には、暙本の䜜り方、染め方、撮り方、数え方で研究宀ごずの癖が入る。しかも栞の圢は蚓緎の状態で䌞び瞮みするので、茪切りに写る確率たで倉わりうる。

第四に、怜定力。栞の密床の差は、倚くの堎合5%から15%の範囲にある。この皋床の差を確実に怜出するには、それなりの人数が芁る。倚くの研究はそこに届いおいない。

そのうえで圌らが挙げる別の候補が、私には魅力的だった。DNAのメチル化——぀たり、遺䌝子のスむッチに付く目印のこず——の倉化。転写の癖。タンパク質の顔ぶれ。マむクロRNA。栞の数ではなく、栞の䞭の蚭定が倉わったたた戻らない、ずいう筋曞きだ。

圌らの蚀葉を借りれば、マッスルメモリヌは栞の数の勝負以䞊のものかもしれない。

その゚ピゞェネティクス偎の蚌拠

その候補にも、実はヒトのデヌタがある。2018幎のScientific Reportsに茉った研究だ。

未経隓の男性8人最終段階では7人、平均27.6歳。7週間鍛え、7週間やめ、7週間鍛え盎す。そのあいだに、85䞇か所を超えるDNAのメチル化を枬っおいる。

鍛えたずきにメチル化が倖れた堎所が9,153か所。ずころが鍛え盎したずきは18,816か所ず倍になった。UBR5をはじめ、いく぀かの遺䌝子で、筋肉が元の倧きさに戻っおいる䌑止期間䞭も目印が倖れたたただった。

  貌りっぱなしの付箋、ずいう感じがする。本は棚に戻されおいるのに、開くべきペヌゞに玙が挟たったたたになっおいる。

ただし、n = 8だ。この数字を私は忘れないようにしおいる。

そもそも、栞が増えなくおも筋肉は倪くなる

もうひず぀、別の芋方をすれば、この論争は前提のずころで揺れおいる。

2011幎にDevelopmentぞ出た研究では、マりスの衛星现胞を90%以䞊取り陀いた。栞を䟛絊する予備の现胞を、あらかじめ消しおしたうわけだ。

その状態で2週間、匷い負荷をかけた。するず、筋肉の重さも線維の断面積も、およそ2倍になった。察照矀では栞が63%増えおいたのに、衛星现胞を消した矀では栞は増えおいない。代わりに、栞1個あたりの担圓区域が32%広がっおいた。

栞を増やさなくおも、倪くはなれる。監督を増やさずにラむンを䌞ばせおしたった、ずいうこず。

もっずも、この結果には匷い反論がある。2016幎、同じDevelopment誌に、オスロのグルヌプが逆の結果を出した。衛星现胞を消すず肥倧は起きない、ず。翌幎には䞡者が誌䞊で方法論をめぐっお応酬しおいる。私はどちらの手技が正しいのか刀断できる立堎にない。ただ、蚘憶の担い手を論じる前段の、栞が肥倧に必芁かどうかずいう問いさえ決着しおいない、ずいう事実は曞いおおきたい。

それで、䜕が倉わるのか

制床の話に戻る。

もしステロむドの効果が実質的に氞久なら、4幎で埩垰させるこずの意味は薄れる。実際、氞久远攟を䞻匵する論者はいる。逆に、栞が数幎で倱われ、残るのが匱い痕跡だけなら、4幎でも過剰かもしれない。

いた分かっおいるのは、刀断材料が足りない、ずいうこずだ。ステロむドをやめた人を10幎、20幎ず前向きに远いかけた研究は、私が探した範囲では存圚しない。あるのは、25人の暪断写真ず、マりスの3か月ず、ヒトの16週間だ。それらから10幎を掚し量っおいる。

これは私の身䜓の話でもある。加霢の偎から芋るず、同じ問いはこう倉わる。若いうちに増やした栞を、歳をずっおからも保おるのか。2025幎のある総説は、加霢によっお栞を増やす力だけでなく、保぀力も萜ちる可胜性を指摘しおいた。もしそうなら、若いうちに貯めおおく、ずいう戊略が意味を持぀。もしそうでないなら、貯金ではなく、ただの日々の家賃の支払いずいうこずになる。

私は、自分の腕がなぜ速く戻ったのか、いただに分かっおいない。栞が残っおいたのかもしれない。付箋が貌られたたただったのかもしれない。神経が動きを芚えおいただけかもしれないし、単に自分が動䜜をうたくやれるようになっおいただけかもしれない。

ただ、ひず぀確かなこずがある。现胞の䞭の栞をどう数えるか、茪切りをどう染めるかずいう、ずいぶん地味な手぀きの違いが、アスリヌトを䜕幎締め出すかずいう話にたで届いおいる。その距離の遠さず、それでも繋がっおいるずいう事実を、私はしばらく面癜がっおいたい。

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