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騙し飯の母

蒸しただけのピーマンにフォークを刺す我が子。
がぶり。
「おいしおいし」
うそだろ。
「ピーマンやだー」じゃないんかい。

2歳半くらいまで息子は本当に食べない子だった。光合成でもしてるのかと思った。それでもインフルエンザなどの感染症はおろか、風邪ひとつ引かず元気に育った。これ以上元気自慢をするとWHOかどこかの研究対象になってしまいそうなので、これくらいにしておく。
そんな我が子だが野菜だけはよく食べた。ほうれん草に、キャベツ、白菜、玉ねぎ…。
ほうれん草は茹でただけ、白菜なんかは生のままシャキシャキ食べていた。
一番好きだったのはきゅうり。ポリッパリッ、と小気味いい音を立てて一本くらい軽々食べる。「ママがつくったきゅうりおいしー」とか言って。作ってないから。
成長曲線の下のラインを這うように育っていた息子。ずっと痩せ型。野菜なんか食べてるから痩せるんじゃ!これ以上食べんでいい!という心境だった。

ある日の献立はご飯、肉じゃが、わかめの味噌汁、キャベツとハムのサラダ。
キャベツだけを綺麗にたべて「おなかいっぱい」という息子。同じ野菜でもにんじん、じゃがいもは食べない。とことんGI値が高い食材を避けるなんて、ダイエットのセンスある。...いや、感心してる場合じゃない。大きくなってほしいのだよ、母は!
スポーツ選手で米と肉しか食べないって人、けっこういるよね?

カラダは米と肉で作られるに違いない。

米と肉。
米とニク…
コメト…
ニク…
タベロ…

いつしか私は、どうにかして炭水化物とタンパク質を摂らせたいモンスターと化していた。

そこから私の騙し飯作りが始まる。

case1「スライスチーズの野菜パウダーがけ」
葉物野菜が好きってことは、もしかして緑色の食べ物ならいけるんじゃないかと考えた。和光堂のほうれん草と小松菜の粉末をサラサラ〜っとスライスチーズに振りかける。はい、ご飯だよ。「……。」全然だめだった。指で絵を描き出す仕末。粉が落ちたら見える黄色っぽい肌色。昔、上司が薄毛隠しにパウダー振りかけてたなぁ。あれも、うっかり擦ると地肌が見える。

くるまの形にしてもダメ

case 2「野菜ハンバーグ」
もちろんハンバーグに野菜を混入するのではない。ハンバーグ感を消さないと食べないから、刻んだキャベツとほうれん草にご飯とひき肉を混ぜる。まとまらないので片栗粉、チーズを入れてラップで包み蒸す。ハンバーグって言うと食べないから黙っておこう。今日はお野菜だんごだよ。「ハンバーグやだ。」キィェェエッ!
残された緑色の物体を食べる私。ただのモンスターじゃん。

肉、入れ過ぎたか…

case 3「ご飯と肉in野菜」
玉ねぎをくり抜いてご飯を詰めて蒸す。息子、もぐもぐ。「…なんだこれ?」綺麗に玉ねぎだけ食べた。
ゴッ、ゴハンノコシタナ…
きゅうりの中心にはしで空洞を作る。中にひき肉やらごはんやらを詰める。「きゅうり!」と喜びながらポリっとかじる。やった!「…ママこれなに?」かじりぐちを睨む息子。…ウッ…バレタ…

奥まで具がたっぷり

ソロソロネタギレ…

case 4「色々入ったスープ」
野菜も肉も細かく刻んで入れる。ミッキー型のパスタを入れて可愛さも演出。片栗粉でとろみをつけた。一口すすっただけで炭水化物が摂取できる。お椀見つめて一言、「いらない。」
野菜だけ拾うことができないと判断したのか、静かにスプーンを置いた。

しんとなる食卓。

「ママ、ほうれんそうちょうだい」

ホウレンソウナンテ、タベテ何ニナル…ママは…

「ママはね、ご飯やお肉も食べてほしいの。大好きなお野菜にご飯隠したりしてごめんね。でもお野菜だけじゃ大きくなれないんだよ。」

「…わかった。ママ、あの、だから、えっとお野菜とごはんやめて。」

えっ

必死に伝えようとする息子の言葉をつなぎ合わせると、どうやらこういうことらしい。

ご飯もお肉も食べるから、
野菜に隠すのはやめてほしい。


…なんか、ごめん。
ママ、ずっと騙そうとしてた。

「今までごめんね。これからはご飯もお肉も隠さずそのまま出す。量が多かったかな。今日はほんのちょっとだけにしてみるね。」
「ありがとうママ。頑張って食べて大きくなる」

シュルシュルシュルシュルーーー
気がつけば、私は普通の母に戻っていた。

白いご飯を茶碗で出す。
お肉も見るからに肉。
元の食卓に戻っただけだ。
でも、騙し飯を経て、想像以上に母の気持ちが伝わったのかもしれない。宣言通り、以前より頑張って食べてくれるようになった。

3歳になり、今では2日に一回くらいは白米を「ママが作ったご飯おいしー!」と言って茶碗いっぱい食べることもある。スイッチ押しただけなのよ。いいの、ありがと食べてくれて。

こんな日が来るとは思わなかった。
モンスターの目にも、涙。

ただ、お肉は相変わらず苦手で鶏肉しか食べない。

でも、もう隠したりしない。
正直に出したご飯の方が
ちゃんと食べてくれるから。

騙し飯じゃ、満たされない。
私も。

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