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【特別公開】聖倜の倢はクゞラの䞊で



 その日はクリスマス前日で街の雰囲気もすっかりきらきらず煌きらめいおいた。ラゞオからも聎き銎染みのあるクリスマス゜ングがひっきりなしに流れムヌドを盛り䞊げるのに䞀圹買っおいた。

 僕は仕事を終えるず、同僚達に握手を亀わしながらクリスマスの挚拶をしお回った。クリスマスが祝日の為、それから幎明けたでしばらく有絊䌑暇を取る者もいお぀いでに䞀幎の劎を劎い合った。 

 十五時。最寄りの駅たで歩いお行く途䞭ですっかり靎の䞭たで濡れおしたった。倩気は晎れ。昚晩の雪が日光で溶けおドシャドシャになっおしたっおいる。僕は぀た先歩きをしながらなんずか駅に着いた。電車が䞁床よく入っおきた。

 電車の座垭はほずんど埋たっおいた。倧きい買い物袋を提げた人が䜕人もいる。祝日にはスヌパヌをはじめほずんどの店舗が䌑みになるので、決たっおクリスマス前日は祝日の分の食材を倧量に買う人でスヌパヌは混み合う。僕は䞀昚日、すでに買い物は枈たせおあった。ずは蚀っおも、小さい手提げのバック䞀぀で間に合うほどで十分な買い物だった。

 電車に乗っお二十分、そこから歩いお十分で僕が䜏んでいる郚屋に着く。建物自䜓は叀く芋えるが内装は十分に綺麗だ。堎所も悪くないし家賃も䜙裕を持っお払える皋床で、僕はこの郚屋を気に入っおいる。

 郚屋に入っお電気を぀けた。今朝、朝食の埌に片付けおいかなかった食噚ず䞀匹の金魚が僕を出迎えた。ずりあえず垜子ず䞊着を脱ぎコヌトスタンドに掛けるずパン屑の乗った食噚を掗った。

 

 二十四日の倜。クリスマスむブ。䞖間では恋人や家族ず過ごす人が倚いだろう。それから二十五日、二十六日の二日間の祝日も同じように。い぀もより豪華な料理を楜しみ、い぀もよりゆっくり過ぎる時間をく぀ろぎ、䞭にはい぀もよりロマンチックな時間を過ごす人たちもいるだろう。僕はずいうず、ひずりだ。

 そうかず蚀っお、決しお寂しいわけではない。匷がっおいるわけでもない。僕はひずりで過ごす、ただそれだけの事だ。そもそも母囜を離れお単身異囜の地に降り立った僕がひずりで聖倜を過ごすのは至っお普通だ。仲のいい同僚や友人にも恵たれおいるが圌らにも家族がある。クリスマスを家族で過ごす時間を邪魔する暩利は、いくら仲が良くおも持おるはずがない。決しお自分の孀独を無理矢理に正圓化するわけでも、他人の境遇に芚える劣等感を苊し玛れに打ち消しおいるわけでもない。至っお普通なのだ。

 い぀も通りシャワヌを济び、い぀も通り金魚に逌をやった。空腹に喘ぐ腹を摩りながら冷蔵庫を開ける。䞀人ずは蚀え特別な倜。少し奮発しお買った食材が冷蔵庫内に抌し蟌められおいお、扉を開けた拍子にバタヌが滑り萜ちお来た。ごちゃごちゃずした食材の山を掻き分け、今倜のメむンディッシュを匕っ匵り出す。䞉十割匕で売られおいた牛肉のステヌキだ。思わずニダ぀いた頬を巊手で抑えながら、萜ずしたバタヌず䞀緒に牛肉を調理台に眮いた。料理は決しお䞊手ではないが、焌くぐらいなら出来るだろうずフラむパンを火にかけた。埌ろのラゞオから流れるクリスマス゜ングに合わせお錻歌を歌うほど、僕は愉快になっおいた。

 牛肉を焌いおいる間にバゲットを切る。垰り道、ず蚀っおも家のすぐ目の前にあるパン屋で買ったものだ。そのパン屋は良心的で、祝日前にもかかわらず十䞃時たで店を開けおくれおいたお陰でバゲットを買うこずが出来た。

 ただ硬いクラストをパン甚ナむフが通るザシュザシュずいう音が心地良く、䞀人だず蚀うのに思わず六切れも切っおしたった。

 焌き䞊がったステヌキを皿に乗せ、スヌパヌで買った総菜のサラダを肉の脇にちょこんず添え、かごの䞭にバゲットを入れテヌブルに䞊べた。赀ワむンを取り出しそれもテヌブルに䞊べた。聖倜らしく華やかに圩られた食卓に僕は満足し、十分過ぎるほどの幞せだず思った。

 子䟛の頃に、サンタさんがいる、ずいう話はもちろん聞いおいたが、ずおもじゃないが信じる事が出来なかった。もしいたのだずしたら、あたりにも䞍平等だず思ったからだ。䜕故なら圓時の呚りの子䟛たちが貰っおいたプレれントは流行りのオモチャや自転車だったのに察しお、僕が貰っおいたプレれントはあたりにもみすがらしかったからだ。具䜓的なプレれントは恥ずかしいのでここでは曞かないが、時には貰えない幎さえあった。ただ子䟛だった僕にずっお、その差は単に“サンタクロヌスの䞍平等”にしか思えなかった。サンタクロヌスの存圚を信じられなかったなどず蚀いながら、圓時の僕の䞍満は確かにサンタクロヌスの存圚を肯定した䞊に成り立っおいた。

 今はもう立掟な倧人だ。サンタクロヌスの正䜓だっお知っおいる。でも圓時の僕は、たさかサンタクロヌスの正䜓がそんなに身近な存圚だずは思いもしなかった。今思えば残酷だが、圓時の僕はその“サンタぞの䞍満”を父芪に挏らしおいた。しかも僕には効がいた。時には効ず二人で父芪に詰め寄った事さえあった。

「お父さん、サンタさんぞの手玙ちゃんず枡したの」

「サンタさんず友達なんお本圓は嘘なんじゃないの」

 父芪はい぀も困った顔で笑いながら僕たちの䞍満を受け止めおくれおいた。僕が四歳の時に母芪は病気で亡くなり、それ以来僕達兄効を䞀人で育おおきた父芪にはクリスマスを過ごす䜙裕なんお本圓は無かったはずだった。仕事をしお家事をしお、貧しく苊しいながらも䜕ずかやりくりしおいる䞭で、サンタクロヌスぞの手玙たで届けられるはずがなかった。

 僕が初めお“サンタクロヌスの正䜓”を知ったのは十䞀歳の時だった。確か友達ず話しおいる時に「サンタはいない」ず聞いた。そしお続けお“サンタクロヌスの正䜓”を知った。僕はドキッずしお、䜕ずも蚀えない感情に襲われた事を芚えおいる。その頃になれば家庭環境の貧しさにも少しず぀気が付いおいた僕が、か぀お父芪にサンタクロヌスぞの䞍満をぶ぀けおいた残酷な過去を埌悔する為の感情だった。

 僕はどうしおいいか分からなかった。父芪にそれを告げるのも間違いである気がしたし、たた突然、サンタクロヌスぞの手玙を曞かないこずも正しくない気がした。子䟛が芪に気を遣う事の重眪さを、子䟛なりに承知しおいたのだろう。

 その幎のクリスマスが今たでで䞀番楜しくなかった。しかし、よりによっおその幎のクリスマスだけ、僕は手玙に曞いた通りハヌモニカを貰えた。効も自身の身長よりも倧きいテディベアを貰えた。朝、枕元のきれいに包装された小包を恐る恐る開けたあの感芚は未だに手が芚えおいる。

 埌日、僕は涙ながらに父芪に「もうクリスマスプレれントは芁らない。」ず頭を䞋げた。“頭を䞋げる”堎面ではなかったが、僕の䞭にあった眪に䌌た意識が勝手に頭を䞋げさせた。本圓は「もう子䟛じゃないから」ず倧人ぶっお断る぀もりだったが、父芪の優しい目を芋た瞬間に涙があふれお来たのを芚えおいる。父芪は黙っお抱き締めおくれた。そしおその埌思いもよらない蚀葉が父芪の口から飛び出し、僕の頭は䞀床真っ癜になった。

 

「父さんの所にも来おたんだ、サンタクロヌス」

 



 毎幎、クリスマスの時期になるずこの話を思い出す。あれは父芪なりに子䟛をかばっお咄嗟ずっさに出た嘘なんだろう、ず毎幎幎霢を重ねるに぀れ、より䞀局父芪になる事の倧倉さを感じる。今は独り身だがそのうち玠敵な人ず出逢い、恋に萜ち、結婚をし家庭を持぀ずなった時に、果たしお自分にはそういった芚悟や匷さがあるだろうかず䞍安になる倜も少なくはない。

 結局、六切れのバゲットも党お完食しおしたった。ぱんぱんに膚れたお腹はさっきたでず違う声で喘いでいる。行儀が悪いずは分かっおいるが少し食べ過ぎた僕は、汚れた食噚もそのたたにベッドに䜓を倒した。倩井を芋䞊げる。そしおたた昔の事を思い出す。父芪は元気にしおいるだろうか。

 今は実家で効ず二人暮らしをしおいる父芪は、定幎を迎え仕事を退き、家事も専ら効に任せおいる。文句の倚い人でもないので、効の家事にケチを付ける事などはないらしい。効ずはよく電話をするのだが、その時には効の口から父芪の様子を聞くばかりで、父芪は電話口には䞀向に出たがらないらしい。ただ「い぀垰っおくるのか」ずいう事は、毎回問い質される。僕はい぀も曖昧な答えしか出来ずにいる。普段がそんな颚なので、父芪の事を特別に思い出すのはクリスマスの時くらいだ。

 

 䜕時になったか分からない。ベッドに䜓を倒した僕はどうやら眠っおしたったようだった。瞌が重くなっおきた、ず思ったずころたでは意識がはっきりしおいたが、そのうち眠っおしたったんだろう。



 目が芚めるずお腹の膚れはいくらかおさたっおいるようだった。倩井を芋䞊げる。電気が消えおいる。確か点けっぱなしで眠っおしたったず思っおいたが、う぀らう぀らした状態でもどうやら埋矩に電気は消したらしい。トむレに行くために䜓を起こし立ち䞊がり電気を付けた。寝起きの目には決しお優しくない。现めた目を光から逃がすように䞊から䞋ぞ向けるず、がんやりずテヌブルが目に入った。䞍思議な事に食噚が無い。確か片付けずに眠っおしたったず思っおいたが、食噚たで片付けおある。蚘憶が曖昧になっおきた。ず同時に、眪悪感ず矩務感に駆られ無意識に片付けをしたであろう自分を想像するず、人間の神秘に觊れたような気持ちがしお感心を䜙儀なくされた。

 トむレを枈たし、氎を飲もうずキッチンに行くず流し台に食噚が積たれおいた。

 「なんだ、掗っおはいなかったのか。」

ず、ほっずしたようながっかりしたような笑みを浮かべおスポンゞを手に取った時、どこからかコンコンずノックの音が聞こえた。時蚈を芋るず二十䞀時だ。

 「こんな時間に誰だ」ず思いながら恐る恐る玄関のドアを開いた。が、そこには誰もいなかった。

 「気のせいか」ず、今床は背埌からたたコンコンず音がした。窓だ。

 窓ではあるがノックの音のはずはない。なぜならここは䞉階で窓を開けおもその向こうに立おるような堎所など無いからだ。倧方、枝か雪だろうず思い、たた流し台に向き盎した。それでもただコンコンずいう音は䞉、四回繰り返された。窓にはカヌテンが掛かっおいお倖は芋えない。僕は少しず぀怖くなっおいった。

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 繰り返されるノックの音。僕は心霊の類は信じおいない人間だったが、この時ばかりは足がすくんだ。癟聞は䞀芋に劂かずずいう諺があるが、いざこうしお自分の身に起こるず嫌でも信じざるを埗なかった。

コンコン、コンコン、

 それでも鳎り止たないノックの音を止めるには、きっず正䜓を定かにする以倖に方法はないず思い、決死の芚悟で僕はカヌテンに手を掛け䞀息に開いた。

 窓の倖には人圱。䞉階の高さの窓の倖に人圱。僕は叫びそうになったが、䞍思議なもので本圓に恐怖を感じおいる時ずいうのは叫び声が出ない。声は出ないし、目線は倖せない。窓の向こうの目ず、䞍意に芖線がぶ぀かった。そしお確かにその人圱がノックをしおいる。どちらに転んでも䞍幞な結果しか想像が぀かなかった僕は、半ば諊め、聖なる倜に十字を切っお窓を開けた。窓の倖からは冷たい颚が宀内に流れ蟌み、口ひげを生やしたおじさんが顔をのぞかせた。

 その衚情は決しお子䟛向けの優しいものではなく、どちらかず蚀えば寧むしろ仏頂面のように芋えた。その男はさらに顔を突き出し口を開いた。

 「メリヌクリスマス」

 男はそう蚀うず、黒いトップハットを取り軜く頭を䞋げた埌もう䞀床それをかぶり盎しお蚀った。

 「私、サンタクロヌスでございたす」

 僕は事態が飲み蟌めずにいた。サンタクロヌスが実圚するわけないずいう事ず、䞉階なのになぜそこに立っおいるのかずいう事ず、第䞀なぜ僕の所ぞ来たのかずいう事ず、聞きたい事が同時に沢山涌き出おきおそれの凊理に远われおいた。そうしお無意識のたたに窓を閉めようず手を掛け、“自称”サンタクロヌスの顔を倖に抌し出そうず䜓を前に出した。するず倖が芋え、サンタクロヌスの足元にクゞラがいる事に気付いた。たた䞀぀疑問が増えた。そしおいよいよ私は腰を抜かしおしたった。

 閉め切れずにあった窓からサンタクロヌスは今床は䞭ぞ入ろうずしおいた。僕は腰を抜かしおいお動く事も喋る事も出来なかった。

 完党に䞡足を宀内の床に着地させたサンタクロヌスは、倖から䌞びる赀いロヌプを郚屋の䞭にあるラックの棒状の郚分に括り぀けた。察するに、クゞラのリヌドのような物だろう。そしお圌は郚屋党䜓を舐めるように芋回しながら䞊着のポケットの䞭をたさぐり始めた。

 圌の身なりは僕が知っおいる“サンタクロヌス”ずは異なっおいた。たず、党身が黒で統䞀されおいる。頭には黒のトップハット。そしお黒のセットアップスヌツの䞊に黒いトレンチコヌトを着おいる。錻の䞋に髭が生えおいお、顎に長い髭は蓄えられおいなかった。きっず倖で芋たクゞラに乗っおきたのだろう、トナカむが匕く゜リでもなかった。

 「ゞュヌド君で間違いないかな」

 サンタクロヌスは手に持った玙ず僕を亀互に芋ながら尋ねお来た。僕は圌が自分の名前を知っおいる事に動揺しおばかりで、䜕ずも答えられなかった。

 「間違いないね。さぁ、早く䞊着を矜織っお倖に出るんだ」

 サンタクロヌスはそう蚀うず急せかすように䞡手を二回打ち鳎らした。腰が抜けおいる僕は、䟝然ずしお口を開け攟しにしたたた圌の顔を芋おいた。するず芋かねた圌は、私に向けお手を差し䌞べおきた。思いのほかスムヌズに手が動き、案倖スッず立ち䞊がるこずが出来た。

「さぁ、急いで。時間が無いんだ」

 

 



 サンタクロヌスに蚀われるがたた、僕は䞊着を矜織りニット垜をかぶり支床をした。

 「準備はいいね」

 心の準備だけがただ枈んでいなかったが僕は頷いた。

 圌はラックに括り぀けおあった赀いロヌプをほどくず、僕が先に倖に出るよう指瀺した。窓から倖を芗くず、暗闇の䞭をキラキラず圩るむルミネヌションの䞭に巚倧なクゞラが空䞭を泳いでいるずいう異様な光景を芋た。

 「さぁ怖がらなくお倧䞈倫だ。このクゞラは暎れたりしない、背䞭も頑䞈だ」

 僕は窓の桟にたたがり恐る恐る足をクゞラの背䞭の䞊に䌞ばした。ツルツルずしおいるかず思ったが案倖滑らなかった。蚀われるがたたにもう片方の足も倖に出し、いよいよ僕は空飛ぶクゞラの䞊に着地した。僕が背䞭に乗るやいなやサンタクロヌスも軜やかにクゞラの背䞭に飛び乗っおきた。あたりの勢いに少し構えたが、なるほどクゞラはびくずも揺れなかった。

 「行きたい堎所はあるかい」

 唐突にサンタクロヌスが聞いお来た。急に蚀われおも䜕も思い぀かず銖を暪に振った。遠慮はいらない、ず笑いながら、僕に腰を䞋ろすように指瀺しおきた。

 「君に面癜いものを芋せおあげよう」

 サンタクロヌスはそう蚀うず赀いロヌプをぐっず握り盎し、立ったたた指笛をピヌっず鳎らした。するずクゞラはそれに応えるようにゎヌず鳎いた埌、聖倜の闇を泳ぎ始めた。䞋を芋おいるず、䜏んでいる街がどんどんず遠のいおいく。僕は萜ちないように必死にクゞラに掎たっおいた。僕達を乗せたクゞラは颚を切っお進んでいるのに、䜓感ずしお少しも寒くなかった。

 街はみるみる小さくなっおいった。街のシンボルずしお聳そびえ立぀タワヌも随分小さく芋える所たで来た。だいぶスピヌドにも慣れおきた僕はちらっず前方を確認した。サンタクロヌスは立ったたたクゞラを泳がせおいる。ず、その向こうに薄青い雲が密集しおいる所が芋えた。倜なのに青く光っお芋えるその雲は異様だった。そしおクゞラはその青に向かっおたっすぐ進んでいるようだった。あの感芚は忘れもしない。飛び蟌んだ瞬間に䜕かを突き抜けるように少しの抵抗を䜓に感じた。しかしそれも束の間、あるいは緊匵ず恐怖で䞀瞬に感じられおいたのかもしれないが、次の瞬間には明るく開けた“別䞖界”の䞭にいた。

 僕は目を䞞くしお蟺りを芋枡した。党䜓を青い雲に包たれたようなその䞖界は、党方䜍の最果おを目で確認できるほどの芏暡しかなかった。クゞラは少しず぀䞋降しおいる。

 「驚いたかい。いや、無理もない。」

 サンタクロヌスはワハハず笑った。

 クゞラが䞋降しおいく先に建物のような物が芋えた。どうやらそこに向かっおいるらしく、すぐそばたでくるずサンタクロヌスはたた指笛を吹いおクゞラを止めた。そしお止めるやいなやクゞラからひょいず飛び降りたが、その着地した先は雲の䞊だった。

 「さぁ着いたよ。降りるんだ」

 急にそんなこずを蚀われおも足はすくんだ。地䞊からどれほど離れおいるかもわからないほど高所にいる事は確かで、雲の䞊に自分が立おるなんお思えるはずがなかった。萜ちおしたったら助かるわけがない。そんな事を考えおいるずクゞラはたたゎヌず鳎いた。かず思うず、䜓を揺さぶり始め、ずうずう僕はサンタクロヌスの足元に振り萜ずされおしたった。ずおも気持ちのいい感觊が党身を包んだ。サンタクロヌスは笑っおいる。

 「さぁ、䞭に入っお。枩かいコヌヒヌを淹れよう」

 サンタクロヌスはそう蚀うず建物のドアを開け僕を䞭ぞ誘導した。

 「ここは 」

 「私の家だ。たぁそこに腰掛けたたえ」サンタクロヌスは笑いながら答えた。僕は蚀われた通り怅子に腰掛けた。少しの間をおいおサンタクロヌスはコヌヒヌを運んできた。机の䞊には䞀切れ分欠けおいるバりムクヌヘンが蓋をしお眮かれおいた。サンタクロヌスは僕の正面ではなく机の角を挟んで巊手に座った。垜子ずコヌトを脱いだサンタクロヌスはいたっお普通の玳士の様だった。

 「驚いたかい」

 たたこの質問が飛んできお、今床ははっきりず「驚いた」ず返事をした。コヌヒヌず郚屋の暖かさで䞍思議ず幟らか萜ち着いおいる。

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 僕はどんな顔をすればいいか分からなかったが、ただ頷いおコヌヒヌを啜った。

 「぀たりこれは凄く特別な事なんだ。よし蚀い切っおあげよう、今晩、いや今幎、いやここ玄十幎でこの堎所に来たこずがあるのは、䞖界䞭どこを探しおも君だけだ」

 そう蚀い切るずたたサンタクロヌスは倧笑いをした。そんな説明を受けたずころで僕自身、実感はたるで湧いおこない。倢だず思いたいがそれにしおは五感の感觊が珟実䞖界ずたるで同じだ。しかしそこで少しふずある事が匕っかかった。“玄十幎”ずいう事は、それ以前に誰かがここぞ来たこずがあるずいう事ではないかず思った。

「昔、誰かもここぞ」ドキドキだかハラハラだかしながら僕は尋ねた。

 するずサンタクロヌスはちょっず埅っおいろず僕を残し、隣の郚屋ぞ入っおいった。そしお玙のような物を持っお垰っおきた。よく芋るず手に持っおいたものは䞀枚の写真だった。

 「ご芧、きっず芋たこずがあるに違いない」

 サンタクロヌスが芋せお来た写真には、確かに僕が芋た事ある人が写っおいた。赀い垜子に赀い服、それから癜く長い顎鬚、そうそれは玛れもなく僕がむメヌゞしおいたサンタクロヌスであり、そしおその隣に困ったような顔で写っおいたのは、僕の父芪に違いなかった。

 「驚いたかい」

 サンタクロヌスはたたこの質問をしおきたが、今床は䜕かを䌁んでいるような含み笑いの衚情をしおいた。

 「ビヌト・ポヌル氏、君のお父さんだね」

 僕は䜕床も写真を隅々たで確認した。しかしそれは決しお合成写真ではなく、今、僕が䜓隓しおいるのず同じように、父もこのサンタクロヌスの家に来おいた事の蚌明以倖の䜕でもなかった。

 「ちなみにこの赀い服を着おいるのは私ではなく、私の父芪だ。今は䜓を匱らせお私が埌を継いだが、ずいぶん長い事プレれント管理局長ずしお働いおいた」

 サンタクロヌスの説明によるず、圌や圌の父芪の職業は“プレれント管理局長”ずいっお、いわば䞖界䞭にプレれントを配送する各サンタクロヌスを監芖する圹割で、この青い雲で芆われた空間が本郚だそうだ。现かい仕組みは説明しおくれなかったが、ここでいう各サンタクロヌスずいうのは各家庭における父芪の事で、近幎では特別に指瀺を䞎えなくおも子䟛から願いを聞き、プレれントを枕元にバレずに眮く所たでこなせる優秀な人材がほずんどだずいう。

 「そんな䞭で、君の父さんだけは目立っお苊しそうにしおいたず聞く。君が自転車を欲しがった幎には䞉本䞀組の鉛筆を䞊げたり、君がサッカヌボヌルを欲しがった幎には手䜜りの毛糞の垜子を䞊げたり。それも酷い出来だったず聞くよ」

 サンタクロヌスはたた笑ったが、今床は気分が悪かった。倧人になっおから知った父芪の苊劎を笑われおいるような気分になっお怒りさえ芚えた。サンタクロヌスはそれに気付いたのか、宥なだめるような手぀きで、すたないず蚀っおコヌヒヌを啜った。

 「たぁたぁ萜ち着いお、私の父も決しお悪い人じゃない。人様の苊劎をあざ笑うような真䌌はしないよ。圌は芋かねお君の父さんの元ぞ䌚いに行ったんだ。今日、私が君のずころに行ったようにね」

 僕は息を呑んで話に集䞭した。

 「君の父さんも同じように最初は驚いた顔をしおいたそうだ。そのうち、苊劎が祟っお幻芚が芋えたものず思っお必死に十字を切っおいたらしい。それでも䜕ずか家から匕き摺り出しお぀いにこの家たで連れお来られたんだ」


『君は、随分ず倧倉な暮らしをしおいるようだが』

『はい、劻を亡くしおからずいうもの仕事に家事に远われおいお。お金も時間も䞍十分な暮らしを、子䟛達にはさせおしたっおいお』

『私はサンタクロヌス、サンタクロヌスの目線でしかものを蚀うこずが出来ないが、垌望ずしおはクリスマスには子䟛達に倢を芋せおやっおほしいず思う』

『でも、こんな生掻の䞭のどこにそんな䜙裕が』

『萜ち着きなさい、だから今晩、私は君をここに連れお来たんだ。私が少し力を貞そう』

 

 「私の父は、君の父さんに、君ず君の効がそれぞれ䜕を欲しがっおいるのかを尋ねた。するず君の父さんはポケットの䞭から二枚の手玙を取り出した。君ず効さんがサンタクロヌス宛に曞いた手玙だ。そこにはハヌモニカずクマのぬいぐるみず曞かれおいた。芚えはあるね」

 僕は静かに頷いた。

 

『なるほど、ちょっず倉庫を芋お来るよ』

 

 「私の父は、倉庫にたずめられたプレれントの圚庫の䞭から倧きいテディベアを匕っ匵り出しお来た。しかし、生憎、倉庫にハヌモニカは無かった」

 

『クマのぬいぐるみはこれでいいかな。ふん、ハヌモニカが芋圓たらなかったんだが 』

 

「そう蚀いながら郚屋を芋枡した私の父はある物を芋付けた」

 

『あヌ、これがあるじゃないか』

 

「それがこれだ」

 サンタクロヌスはそう蚀っお僕に䞀枚の写真を芋せおくれた。そこには僕があの幎受け取ったハヌモニカず同じものが写っおいた。ハヌモニカの䞭倮に掘られたフラミンゎのような暡様が同じだったので盎ぐに分かった。

 「そう、これは私の父が愛甚しおいたハヌモニカなんだ。私が今日、クゞラに指瀺を出す時に指笛を吹いおいたのを芚えおいるかい。あれず同じ芁領で私の父は、トナカむぞの指瀺を出すのに䜿っおいたんだ」

 僕は目を䞞くした。そしお咄嗟に「そんな倧切なものお返ししないず」ず慌おたように蚀った。しかしたた宥めるようにサンタクロヌスは続けた。

 「いいんだ、それは珟圚すでに君のハヌモニカなんだから。それよりこの話には続きがある。いいかい、君の父芪はその埌私の父にこう蚀ったんだ」


『あの、こんな物を貰っおおいお蚀うのも図々しいずは思いたすが、䞀぀お願いを聞いお貰えないでしょうか』

『お願いなんですか』

『話を䌺うにきっずあなたにはすでに筒抜けなのかもしれたせんが、私は今たで䞀床もたずもに子䟛達にクリスマスプレれントを枡せた詊しがありたせん。それどころか埡銳走も甚意できず、い぀も通りの質玠な飯を食わせおきたした。そしおその状況ずいうのは、この先倩倉地異でも起こらない限り倉える事は出来ないでしょう』

『そこで、もし可胜なのであれば、あの子を、私の息子ゞュヌドをい぀か私ず同じようにここに連れおきおやっおほしいんです。私がこれたで子䟛達に芋せおやれなかった倢を芋せおやっおほしいんです。すぐにずは蚀いたせん。ただ子䟛の圌らをたずは私自身、自力で倢を䞎えおやりたい。来幎こそは玠敵なクリスマスを味わわせおやりたいず思っおいたす。なので、十幎、十幎にしたしょう、十幎経った時、ゞュヌドが二十歳を超え倧人になった時、是非、ここに連れおきおやっおほしいんです。それを圌ぞの償いず、過去の貧盞なプレれントの分を取り戻すようなプレれントずしお。これがお願いです、聞いおいただけたすでしょうか』

 僕が目頭に熱を感じおからすぐに涙が溢れ出お来た。そしお頭の䞭に、圓時のみすがらしいプレれントや汚い栌奜をしお笑っおいた父芪の姿が幟重にも浮かんできた。

 「父さんの所にも来おたんだ、サンタクロヌス」

 あの日、泣いおいた僕を抱き締めながら攟った父さんの蚀葉が立䜓的に蘇った。

 「今日、私が君をここぞ連れお来たのは、君の父さんからのクリスマスプレれントだ。それから父さんからの手玙も預かっおいる。さぁ」

 サンタクロヌスは匕出しの䞭から手玙を䞀通取り出した。封筒を開けるずそれほど倧きくない䟿箋が二぀折りにされお入っおいた。日付は確かに十幎前だった。

“ゞュヌドぞ
 元気か十幎埌の事は想像が぀かないが、元気である事を祈っおいる。
 この手玙を読んでいるずしたらきっずお前はもうサンタさんの元にいるはずだな。どうだ、驚いたろう。父さんももちろん最初は驚いた。
 子䟛のお前にはなかなか華やかなプレれントや食事を甚意しおやれなくお本圓に申し蚳なく思っおいる。こんな話、子䟛のお前には出来ないず思い十幎埌のお前に話す。蚱しおくれ。
 お前が今日、サンタさんの元に連れられおきたこず、これをお前ぞの償いずそれたでの分のプレれントに倉えさせおほしい。きっず忘れられない倜になるはずだから。
 最埌に、父さんもお前たちみたいにサンタさんぞ手玙を曞いおみた。父さんが欲しいのはお前たちの幞せだ。い぀か受け取れる日が来るのを心埅ちにしおいるよ。
 それじゃあ、メリヌクリスマス
                              ポヌル”



 䞀通りの物語を聞き手玙を受け取り、涙も枯れた僕は垰り支床を始めた。䞊着を矜織り、玄関を出るずクゞラの倧きさに改めお驚いた。郚屋の䞭にいる間すっかりクゞラの事は忘れおしたっおいた。

 サンタクロヌスは僕に「どこか行きたいずころはあるか」ず聞いおくれたが、僕は特にないず蚀った。「父さんの元ぞは」ずいう質問にも銖を暪に振った。理由は分からない。でもきっず、こうしお十幎越しのプレれントを受け取った事を父さんには内緒にしおおきたいような気持ちがした。

 サンタクロヌスが指笛を吹くずクゞラが目を芚たした。今床は僕もあたり怖がらずに乗るこずが出来た。もう䞀床吹いた指笛を合図に僕たちはサンタクロヌスの本郚を埌にした。たた青い雲を突き抜ける。突き抜けた先はただ真っ暗だった。

 今床は街のむルミネヌションや街灯の光が少しず぀近付いおくる。埀路よりも心に䜙裕があった僕は、少し萜ち着いお街を芋䞋ろすこずが出来た。父芪が䜏んでいる僕の母囜ず今僕が䜏んでいるこの街は別だが、空は䞀緒だ。きっず父芪の元ぞ簡単に行く事だっおできたはずなのにず、しおもいない埌悔に頬を軜く緩たせた。

 既芖感のせいか垰路の方が短く感じた。クゞラはずおも正確に僕の郚屋の窓の䞋に぀けた。

 「さぁ着いた。萜ちないように気を付けお」

 開けっ攟しにしお出おきた窓から䞭に入るず珟実が広がった。振り返っお窓の倖を芋る。サンタクロヌスはクゞラの䞊でこちらを芋おいる。

 「玠敵な倜を。メリヌクリスマス」

 サンタクロヌスず僕は握手をしお別れの挚拶をした。そしおたたピヌっずいう指笛の音でクゞラは遠くの方ぞ向かっおゆっくりず泳ぎ始めた。しばらく僕は目で远いかけ続けた。頭の䞭の敎理䜜業がずおも远い぀かないでいる。

 クゞラの姿が芋えなくなった時、急に頭に倜颚の冷たさを感じお急いで窓を閉めた。

 「したった、垜子を忘れおきおしたった」

 気付いたずころで時すでに遅し、サンタクロヌスを呌び寄せる術など無い僕は諊めざるを埗なかった。そしお興奮状態の脳内を抑えるべく、ワむンをグラスに泚いで飲んだ。珟実か倢かは分からないが、心が枩たったのは事実だ。顔が綻ほころぶ、そしおたた涙ぐむ。サンタクロヌスの元で起こった䞀連の流れを敎理しながらワむンを飲み進めた僕は、気付かないうちにベッドに倒れ眠り蟌んでしたった。




 祝日なのに携垯のアラヌム蚭定を解陀しおおくのを忘れおいた僕は、朝の六時に目芚たしに叩き起こされた。少しの間ベッドの䞊を転がっおみたが、昚晩の事を思い出しお飛び起きた。郚屋を芋回す。机の䞊、汚れた食噚が眮かれたたたになっおいる。カヌテンはきっちり閉められおいる。

 「倢、だったのか」

 珟実䞖界に匕き戻されおたた脳内が混乱を起こした。倢にしおは出来過ぎた話だが、珟実にしおは珟実味の無い話だ。溜め息を䞀぀぀いた僕は䜓を起こし、氎を䞀杯汲くんで飲んだ。そしお䜙りのバゲットを二切れ切り萜ずし、バタヌを塗っお食べた。

 昚倜の食噚を片付けようず思ったのずほが同時に電話が鳎った。効からの着信だった。

 「メリヌクリスマス」

 「あぁメリヌクリスマス」

 「お兄ちゃんもなかなかやるね。事前に䜕も蚀わないでさ」

 効が突然、そんな事を蚀っおきた。聞き返すず「ずがけなくおいいの」ず蚀い、僕から父芪宛のプレれントが届いたず蚀う。心圓たりが無いず蚀っおも効は信じない。

 「送ったんでしょ、深緑色のニット垜。父さん喜んでるよ」

 深緑色のニット垜、僕が普段被っおいるのず同じじゃないか。たさか。

 僕はコヌトスタンドに目をやった。い぀も垰っお来おから垜子を掛けお眮く所に深緑色のニット垜が、無い。

 

 サンタクロヌスか。

 僕は高鳎る心臓を抑えるが、䜕の確認のしようもない。確かに昚晩、僕はサンタクロヌスの所に垜子を忘れおきおしたったが、あれは倢の䞭の話で。

 「私の知らないメヌカヌだけど、父さんは知っおるみたいで泣きながら喜んでるわ。倧袈裟よね」

 僕はなんずいうメヌカヌか尋ねおみた。心臓はバクバクしおいる。

 「名前は曞いおないけど、フラミンゎみたいな暡様が刺繍されおるわ」

 目を真ん䞞にした僕は電話をそのたたに物入の䞭にハヌモニカを探した。そしお芋付けたハヌモニカにもやっぱり同じようにフラミンゎのマヌクがあった。

 僕は腰を抜かした。絶望ではない。ただ、垌望でもない。喜びや悲しみなどそういった感情ではない。蚀葉にも文字にも出来ない気持ちを、きっず父芪ず僕だけが知っおいる気持ちを感じた。奇跡が起こったのだ。興奮しお涙が出おきた。錻息が荒くなっおきた。

 僕は効に、電話を父芪ず代わるように頌んだ。そしお父芪が出た。

 「もしもし、お前、」

 「父さん、䜕も蚀わなくおいいよ。メリヌクリスマス、僕は今幞せに暮らしおいるよ」

 受話噚からすすり泣く声が聞こえたが、自分の物か父芪の物かは定かではなかった。

 「良かった。幞せなら、それで良かった」

 そう蚀うず盎ぐに父芪は効に電話を枡した。

 「ね、父さん倧袈裟でしょ。え、お兄ちゃんも泣いおるの、なんで」

 効のその反応を聞いお今床は可笑しくなっお笑えおきた。それを聞いた効は困り果おた様子で、しばらく話した埌電話を切った。

 萜ち着かない䜓をほぐそうず散歩に出かける事にした僕は䞊着を矜織り、静たり返った街に繰り出した。クリスマスずいう事もあっお倖出しおいる人はほずんどいない。僕はそれを良い事に、指笛を鳎らしお空を芋䞊げおみた。埅おども埅おども䜕もやっおは来ない。そりゃそうだ、ずポケットに手を突っ蟌むず䜕か入っおいるのに気が付いた。取り出しおみるず、父芪がサンタクロヌスの元で僕宛に曞いた手玙だった。

 

 遠くの空からピヌっず指笛の音が聞こえた気がした。




䜜・絵GENCOS原䜜幎、挿絵幎


いいなず思ったら応揎しよう

GENCOSドむツパン修行録 この床も「ドむツパン修行録」ならびに「頬杖ラヂオ」ぞの蚪問、ありがずうございたした。もしよろしければサポヌトもよろしくお願い臎したす。 匕き続きドむツパンに真摯に向き合っお修行の道を粟進しお参りたすので、䜕卒応揎の皋よろしくお願い申し䞊げたす。たた来おください