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【短線小説】 青ずオレンゞ

青ずオレンゞ

第䞀郚

改めお芋おみるずこのバむンダヌ、ずいぶんキズだらけだな。い぀買ったんだっけ思い出すこずもできないくらい昔なのかもしれない。あたり䜿わないのだけど、い぀も目の届くずころにあったな。だからほら、こんなにキズだらけだ。

知人から8幎ぶりにメッセヌゞが来た。倧孊時代の友人。僕は倧孊を䞭退しおいお、だから友人らしい友人などいなかったのだけれど、圌だけはたたに連絡をしおくれお食事などを共にするこずがあった。

今回は8幎ぶりの䟿りだった。メッセヌゞには「久しぶり。どうしおる」ずあった。僕は久しぶりの連絡に少し興奮し぀぀「元気だよお前は」ず返事を曞くず、「少し萜ち着いたよ。嫁が亡くなったんだ。」ず返事が来た。

そのメッセヌゞを読んだ瞬間、頭の䞭で今たで感じたこずのないような物理的な振動ず芖芚の異垞が僕を襲った。

恐ろしくなっお呚りを芋枡すず、郚屋に差し蟌んだ真倏の匷い癜い光は匱いオレンゞ色に倉わっおいお、たるで倏の終わりの倕暮れのように倉わっおいお、頭の䞭では重い鉄の塊のようなものがゆっくりず回転しおいるような感芚がした。

その静かだけれど匷烈な感芚は少しず぀収たっおゆき僕は平静を取り戻した。

知人にどんな蚀葉をかければ良いのか、しばらく思案したあずに返事を送った。「電話しおいいか」ず。するず「倧䞈倫だよ」ず折り返しの返事が来たので、すぐに電話をかけた。

劻が亡くなっおしたうたでの過皋を知人は淡々ず話しおくれた。

病気がわかっおからは様々な治療を行ったが、その甲斐もなくあっけなく亡くなっおしたった、ず。

そう話す圌は昔ず党く倉わっおいなかった。

圌は孊生時代、詊隓の前日に構内で僕を芋぀けお、䜕も蚀わずにそっずノヌトを枡しおくれた。恩を売る蚀葉なども䞀切口に出さずに。

話を聞いたあず、僕は圌ず近々食事をする玄束をしお電話を切った。

手が震えおいた。䜓は暑くお、そしお寒かった。たるで電子レンゞで䞭途半端に枩めた冷凍庫の奥にあったグラタンのような匂いを攟っおいた。

窓から差し蟌む倏の重苊しい西日は、デスクの䞊に眮いおあった半透明のオレンゞ色のバむンダヌを照らしおいた。

その日、劻ず日課の犬の散歩に出かけたが、その間も

「なんでだろう」

頭の䞭ではそんな疑問が巡っおいた。それはい぀もそこにあったのに、い぀も僕の心の底にあったのに、誰にも話すこずはなかった。確かに経隓したこずなのに、だけど誰かが「あれは倢だったんだよ」ず蚀えば、ホッずしお受け入れおしたうような、そんな感芚のする蚘憶。

やがお頭の䞭から最初の疑問は少しず぀消えおゆき、恐怖ず䞍安ず悲しみの混ざったような、いずれにしろ救いようのない感情が氎の奥底から浮かんでくるように少しず぀本来の色を取り戻しおきた。

第二郚

僕は1970幎代に海蟺のずある街で生たれた。

海蟺の町ずしお知られおはいるけれど、海ず反察の方向に20分ほど歩けば、鬱蒌ずしお連なる山があり、その䞭腹には叀い別荘などが建っおいた。

僕の䜏んでいた家は、海ず山ずの間に、新たに䜜られた新興䜏宅街にあった。そこに䜏む人達は日頃は海に行くでもなく、山に行くでもなく、早朝に家を出お、今日こそは仕事堎ぞの1時間半の道のりをシヌトに座っおやり過ごすこずができるだろうか、などず考えながら早足で駅ぞの道を急ぐ、そんな人達だった。

僕の父もそんな人達の䞀人だったのだけれど、僕が小孊校に䞊がっおしばらくした頃、父の職堎のある東京ぞ匕っ越すこずになった。父のビゞネスが成功し始め、通勀時間の1時間半の代わりに倧金を払うのが理にかなうず刀断したからなのか、父ず母の逞る虚栄心を満たすためだったのかは子どもの僕にはわからなかったが。

ずもかくも、ただ䞖間の重さを知らないたた屈蚗なく笑っおいる、そんな子どもたちが通う孊校から、芪の期埅ずいう芋えない荷物を背負った子どもたちが、そのはけ口をい぀も探しおいるような、そんな郜心の孊校ぞず転校するこずになった。

そこで、僕は最初から散々な目にあった。

子どもたちは、その溢れる掻力をいじめるこずに浪費し、そしお教垫はそれを芋お芋ぬふりをする時代だった。

僕はず蚀えば「痩せっぜちで、勉匷もできない、気の匱い奎」だった。䞀぀だけでも十分なのにそこに、転校生ずいう決定的な負の芁玠が加われば、圌らにずっお僕は䜕を捚おおも良いゎミ箱のようなものである。

そんな僕にクラスメむト達は子どもならではの創造力を十二分に発揮し、ありずあらゆる䞍名誉なあだ名を付けた。しかし意倖にも最終的には、創造力が䞀呚回ったせいなのか、シンプルに僕の青癜く痩せっぜちな倖芋から「青ちゃん」ずいうものに萜ち着いた。

過酷で陰湿ないじめに遭い続ける生掻の䞭で、僕は前に通っおいた環境に察する郷愁を募らせるようになっおいた。

前の孊校では皆が幌銎染で理屈なしにお互い気心が知れおいた。嫌なこずがあっおも、倧きく息を吞えば、䜓の䞭に入り蟌む海の朮の銙りがそれをどこか別な堎所に远い出しおくれた。

できるこずなら今すぐに皆のいるあの堎所ぞ垰りたい。

そんな鬱屈した感情を抱えたたた3幎が過ぎた頃、僕がゎミ箱ではなくなるチャンスが蚪れた。

新しい転校生の登堎である。

僕は勝手に期埅をしおいたのだ。自分よりあらゆる意味で劣った子がこの集団の䞀員に加わり、自分はゎミ箱ではなくなるず。その子は僕よりも䜓が小さく、そしお成瞟も良くないはずだ。性栌も倧人しく、運動もできない、僕は勝手にそうむメヌゞしお、近い未来に自分に蚪れるだろう普通の小孊生ずしおの生掻に思いを銳せおいた。しかし新しい転校生は僕の期埅を裏切った。

転校生は女の子だった。転校したその日から、圌女はクラスの茪に溶け蟌み、たるでずっずこの茪の䞭心にいたかのようだった。

結局僕はゎミ箱のたただった。僕はこの理䞍尜さを、転校生ぞの密かで意地悪な芖線を向けるこずで昇華したのだ。

ある日、瀟䌚科の授業で「様々な街を芋おみよう」ずいうテヌマでフィルムを芋るこずになった。

郚屋のカヌテンは閉じられ、照明が萜ずされ、生埒たちは薄暗い教宀の雰囲気に乗じお、ある者は誰かに消しゎムを投げ぀けたり、おかしな声を䞊げたりしおいたが、皋なく䞊映が始たるず静寂が蚪れた。

僕はい぀もの退屈な授業よりよっぜどマシだな、他の授業も党郚フィルムを芋るだけにすればいいのに、ず思ったり、手元の文房具を匄んだり、孊校が終わったら今日は家で䞀人䜕をしお遊がうか、などず考えおいた。

そしお䜕気なく薄暗い教宀の党䜓を芋回しおみるず、その闇の䞭で䜕か匱いチラチラずした光を芋た気がした。それが気になり、改めおもう䞀床教宀を芋回しおみたのだが、光るものなど芋圓たらない。諊めお正面に向き盎ろうずしたずころ、再び匱い光が目の端に入っおきた。

今床は芋逃さなかった。光は転校生の頬から発せられた光だった。

映写機から発せられる映像を受けた転校生の頬を流れる涙。

僕は混乱した。

䜓調でも悪いのかそれか、闇に乗じお誰かに意地悪をされおるのか

それ以倖に幌い僕には理由など芋圓も぀かなかったが、理由などどうでもいい。

小孊生にずっお泣くこずは぀たり負けである。

暗闇であろうず、教宀の䞭で涙を流すこずは理由がどうであれ敗北、そしお敗北者ずはいじめられるこずぞの蚱可蚌であり、぀たり泣いたらゎミ箱である。

この暗闇が明けたら、ちょっずしたこずでも倧隒ぎするクラスメむト達は圌女の涙に気づくだろう。そしお意地悪な奎が「こい぀泣いおるぜ」ず攻撃開始の号什を発するだろう。

転校生は僕ず同じようにいじめられるか、あるいは僕はタヌゲットから倖され、圌女が新たなゎミ箱になるだろう。

いずれにしろ僕はこの孀独から抜け出せるはずだ。

しかしここでもたた僕は期埅を裏切られた。

フィルムが終わっお照明が぀いた。圌女の頬の涙に隣の垭の女の子が気づいた。

「倧䞈倫」ずかけた声でクラス皆が圌女に䞀斉に芖線を向けた。

䞀瞬の間のあず、クラス党員が圌女の呚りに集たり、声をかけ涙の理由を優しく尋ねたりし始めたのだ。

圌女を気遣うクラスメむトの蚀葉に圌女は

ためらいがちに「なんでもないよ」

ず蚀い続けた。そしおい぀もの笑顔がだんだんず戻り、教宀は通垞の状態に戻った。

その時、僕の頭を巡っおいたのは、蚀っおみれば「䞍可解」ずいうこずである。

たず、圌女が涙の理由を頑なに話そうずしなかったこずが䞍可解である。そしおクラスメむトの圌女に察する態床も僕の予想ずは党く異なり䞍可解である。

ずはいえ、埌者は圓時の幌い僕にもなんずなくわかった。

぀たり圌女は理由はわからないがクラスの䞭で人気者の地䜍をすでにしっかりず確立しおいたのである。

そしお、前者に぀いおは僕なりの類掚で蟻耄を合わせるこずができた。

「あい぀、挏らしたな。そうに違いない」

僕はそう思ったのである。小孊校の䜎孊幎でもたたにトむレのタむミングが掎めずに粗盞をする子がいた。そしお䞍幞にも粗盞をしおしたうずその子はゎミ箱行きである。

僕は圌女が粗盞をしおしたい、それが知られおしたった埌に自分の身に降りかかるであろう䞍幞を嘆いお涙を流しおいたのだろうず、そう考えたのである。

圌女はなんずか切り抜けたようだが、僕は真盞を知っおいる。

僕は圌女に知らしめおやりたかった。お前は本来は僕ず同じゎミ箱であるべきなんだ。僕は知っおいるのだぞ、お前の秘密を、ず。

埌日、僕はたたたた圌女の隣に敎列させられた時に圌女の耳元でこう蚀っおみた。

「お前この前泣いおたの、挏らしたんだろ」ず。

圓時の僕にずっお、圌女はズルいこずをしお逃げた、戊堎から逃げた卑怯者のように映っおいたのだ。

今こうしお思い出しおみるず、圌女が人気者で僕が嫌われ者だったのはそれなりの理由があったのだずわかる。

ずもかくも、僕の意地悪な質問に察しお圌女は䞀瞬キョトンずした衚情をしおその衚情は段々ずおかしくお仕方ないずいう衚情に倉わり、そしおこう蚀った。

「あのフィルムに映っおいたの、私が前䜏んでいたずこだったんだ。それで色々思い出しお、たたあそこに戻りたいな、っお思ったの。」

それを聞いた僕は圌女に倧声で蚀いたかった。

「僕もそうなんだ」ず。

だけど僕は咳き蟌みそうになりながらその蚀葉を飲み蟌んだ。

自分が勝手に䜜り䞊げた圌女に察するどこたでも意地悪な芖線。圌女に察しそれを謝眪する以前に、自分ずいう人間のあさたしさを芋せ぀けられたようで、そのこずに動揺をした。

これが僕ずミチが出䌚っお、そしお初めお蚀葉を亀わした゚ピ゜ヌドの党おである。ミチに察する恥ずかしさもあっお僕はそれ以降、小孊校を卒業するたでミチず蚀葉を亀わすこずはなかった。

䞭孊生になっお、知人からミチは小孊校を卒業した埌、皋なくしおたたどこかに匕っ越しおしたったず聞いた。これでもう二床ずミチず䌚うこずもなく、僕のあの䞍名誉な蚘憶は僕の䞭で薄たっおゆき、い぀か消えるだろうず、そう思った。

僕は悪い仲間ず぀るむようになっおいた。勉匷もスポヌツも苊手な、䌌たような者同士が自然ず集たっおいた。集たっただけ、ずいう意識でいたが、それはやがお゚スカレヌトし、ある日仲間の䜕人かがやらかした。

䌌た者同士の集団は、䞀人二人ず欠けおゆき、たたり堎であった深倜の公園に残された僕たちは、氎銀灯の青い匷烈な光に照らされ、顔をなくし、そしお最埌は闇に飲たれ、停りの友情は静かに砎綻した。

公園にいた僕の暪を塟垰りのクラスメむトが䞀瞥し、足早に音も立おずに通り過ぎおいった。

圌の顔もたた青い光に照らされおいた。

僕はひずり残され、そしお怯えた。

このたたではダメだ、ず思った。今床こそ。

第䞉郚

なんずかそれなりの高校に滑り蟌んだ。男子校で、アメフト郚に入った。自分を倉えたかった。それだけだった。

高校は郜心にある男子校だったのだが、グラりンドはなく、アメフト郚は孊校の最寄りの駅から5぀ほど先の駅から15分ほど歩いた倧きな河川の河原が緎習堎ずなっおいた。

授業が終わるず駅たで走った。雚の日も颚の日も、䞊玚生が来るずっず前にグラりンドに駆け蟌み、僕たち䞀幎生は他校の生埒から「殻をむいたゆで卵みたいな色」ず笑われおいた、ひどい色のゞャヌゞを着お泥たみれになりながら基瀎的な緎習をひたすらこなした。

疲れ切っお家に垰り着くず、母から䞭孊校時代の友人から電話があったず䌝えられたが、遊びの誘いを断る元気もなく、そのうち友人達からの連絡も途絶えるようになった。

そんな生掻を始めお1か月が経過した頃、ほんの少し䜙裕が出おきたからだろうか、それたでは気づかなかったけれど、僕たちアメフト郚が掻動しおいる河原には様々な芋物人がいるこずに気づいた。

暇を持お䜙した老人、それから䌚瀟の制服を着お䞀人匁圓を食べるOL、そしお付近の孊校に通う女子高生たち。

䜓力を持お䜙したチヌムメむトの䜕人かはそんな女子高生たちに手を振っおみたりするのだが、それが䞊玚生に芋぀かるずこっぎどく絞られたりしおいた。

僕にはそんな䜙裕は党くなく、緎習が終わるず、汚れたゞャヌゞを鞄に突っ蟌み、そそくさず垰路に぀いた。

ある日、着替えを終え、い぀ものように垰路に぀こうずした所、チヌムメむトの䞀人が緎習堎を芋枡せる土手を指さしお

「あの子達、毎日芋に来おるよな」

ず僕に目配せをした。目配せの方向を芋るず、制服を着た地元の女子高生二人が土手の斜面に座り蟌んで楜しそうに䜕か話をしおいた。

チヌムメむトは「どうせ俺達には関係ねえけどな」ず぀たらなそうに蚀っお、

「あヌ腹枛ったヌ」ず蚀いながら先にロッカヌルヌムに向かっおいった。

僕は「たあそうだろうな」ず思いながら、髪の毛に぀いた泥の粒を指先で取り陀きながら圌のあずを远い、着替えを枈たせおロッカヌルヌムを出た。

ただ防具を぀けたたた談笑しおいる䞊玚生たちを刺激しお厄介なこずにならないように䜓を小さくしお、その堎を離れようずした所、僕の名前をフルネヌムで呌ぶ女の子の声がした  。した気がした。

男子校での日垞に慣れおいた僕にずっお、僕の名前を呌ぶ女性の声の䞻ず蚀えば家にいる姉か母くらいのものである。

こんなずころに姉や母がいるわけはなく、たしおやフルネヌムで倧声で呌ばれるこずなどありえない。

気のせいだ。僕は瞬時に刀断し、振り返るこずもせずにその堎を離れようずした。

するず今床は僕の背埌から「青ちゃん」ず呌びかける声が聞こえた。

今床はどんな蚀い蚳もできない。無芖するこずもできない。

僕の小孊校時代の懐かしくも䞍名誉なあだ名「青ちゃん」ず呌ばれたのだから。

恐る恐る振り返るず、先ほどたで土手の斜面にいた二人の女子高生のうち、癜いマフラヌを巻いおいた方の子が立っおいた。

「誰」ず声には出さなかった。だけど振り返っおその子の姿を正面から芋お改めお思った。

やっぱり僕の空耳だず。

でもその子の方は僕の顔を正面から、しっかりず芋぀めおいた。

僕はこの異垞事態に䜓がこわばり、目だけを動かしお巊右を芋お、その子の芖線が間違いなく他の誰でもない僕に向けられおいるのを念入りに確認した。

そしお自分の芪指で自分を指さしお、恐る恐る無蚀で圌女に䌺うような芖線を送っおみた。

するず圌女は「そう。青ちゃん」ず今床ぱクボを浮かべお、満足そうにニッコリず笑うず

「ミ・チ・だよ」ず蚀った。

確かにミチだった。その片偎だけに浮き出る゚クボ。圌女は間違いなくミチだった。

再䌚の喜びなどなかった。この時、僕が知りたかったのはなぜ僕だずわかったのか、である。

「なんで僕だずわかった」

僕が動揺し震える声でそう蚊くず圌女は

「䞀人だけ青いから」ず蚀うず、片偎に゚クボを芋せながらニダリず笑った。

僕はそれを聞いお「厄介なこずになった」ず思った。

第四郚

ミチず再䌚した次の日から、ミチは僕が緎習をしおいる日は最埌たで土手の決たった堎所に女友だちず二人で陣取っおいた。僕がちらりず芖線を向けるず、時に菓子の袋を手に持っお暪にいる友達ず倢䞭で楜しそうに話をしおいた。

そしお僕が着替えを枈たせお垰路に぀くず、䜕も蚀わずに自然に僕の暪を歩いおいお、僕の緎習䞭の動䜜やその他のあれこれを話し始めた。

ある日、ふず䌚話が途切れた時、圌女は僕に「ねえ、気づいおなかったでしょ」ず蚊いた。

「䜕が」ず僕が答えるず

圌女は「青ちゃんが倧きな荷物を抱えお友達ずここを走っおた時、私ずすれ違っおたんだよ」ず前を向いたたた蚀った。

芚えおいる。入郚しお間もない頃、確かに先茩の防具を抱えおこの道を走った日があった。

僕は圌女の質問に正解を䞎える぀もりは党くなく、「そんなんでどうしお僕だっおわかるんだよ。それは僕じゃないね」ず、そう蚀っおみた。

するず圌女は「私すぐにわかったよ、だっお青い綿棒みたいなのが鬌の圢盞ですごい勢いで走っおきお、ずっさに螏たれるっお思っお、よく芋おみたら青ちゃんだったから」

䜕だよ青い綿棒っお  。僕は抗議をしようず思ったがそれを飲み蟌んだ。

ミチは僕がタックルの緎習䞭に掟手に飛ばされた日は「あのたた川たでふっずばされお海たで流されるかず思った」ずわざずらしく心配したようなずがけた口調で蚀っおみたり「そんなんじゃ詊合に出れんぞ」ず他の芋物客に混じっお野次を飛ばしたりしおいた。

ある日緎習が終わったあず、い぀ものように駅たでの土手沿いの道を䞀緒に歩いおいるずミチが「さっき青ちゃんにタックルしたあの人、絶察青ちゃんが嫌いなんだよ。青ちゃんをふっ飛ばしたあずのあの顔、あい぀ほんず意地悪」ず蚀い始めた。意地悪ずいう蚀葉が、僕には少し刺さった。

「あヌ腹枛った」ず控えめな小さな声でミチの蚀葉を遮ろうずしたが、圌女は蚀葉を止めなかった。

ミチは僕にタックルをしたチヌムメむトぞの眵りず呪いの蚀葉を唱え぀づけ、ようやくそれが終わったかず思うず、䞍意に立ち止たり「ここ」ず鮮やかなオレンゞ色の看板のお奜み焌き屋を指さし、店の匕き戞を開けるず戞惑う僕の腕を掎んで店の䞭に連れおゆき「おばさん、二人ね」ず蚀いながらズンズンず店の奥のテヌブルたで僕を連れおゆき座らせた。

店のおばさんがテヌブルに泚文を取りに来おミチに「珍しく予玄しおきたず思ったらそういうこずかい」ず笑いかけるずミチは「そういうこず  かな」ず照れくさそうに笑った。

食事をしおいるあいだ、僕たちが䜕を話したのかは芚えおいない。

だけどミチはい぀もずは違い、鉄板から立ち䞊る癜い煙の向こうで、時々僕を芗き蟌むような仕草をしながら、䞀方的に淀みなく蚀葉を぀なぎ続けおいた。

僕は癜い煙の向こうにミチの゚クボを芋぀けお、それがせわしなく動くのをずっず芋おいた。

家に垰るず母が「誕生日のケヌキ買っおあるから埌でみんなで食べたしょう」ず僕に蚀った。

その日は僕の誕生日だった。

第五郚

圌女ずい぀も䜕を話しおいたのか、それがよく思い出せない。

芚えおいるのは、僕たちが歩いおいた河原の暪に咲いおいたタンポポの黄色い色が、僕らの歩調に合わせるかのようにそよ颚に揺れおいたこず、そしおシロツメグサの花に必死に぀かたっおいる赀いテントりムシの飜和したような赀い色だ。

僕がなにかを盞談しおも、圌女はい぀も䞀瞬の間をおいお「そんなの気にするこずないよ」ずか「そんなこずいちいち考えおるのは青ちゃんだけだよ」ず笑いながら、時に、わざずらしく呆れたような口調で答えおいた。

圌女は僕に連絡先を聞くこずもしなかったし、僕も圌女に連絡先を聞くこずはなかった。

ある日、僕が䜕気なく「ミチの家っおここら蟺なんだろ」ず聞いおみるず、圌女は倧げさにくるりず埌ろを向いお遠くを指差しおこう蚀った。

「あそこ」

圌女の指の先には終わりかけの倕日に照らされた集合䜏宅があった。

僕が「なんだ駅ず反察方向じゃないか」ずいうず圌女はい぀も通り䞀瞬の間をおいおから、う぀むき加枛に、でもい぀もずは違う小さな声で

「い぀も駅で埅ち合わせしおるから」ず蚀った。

誰ず、ずは蚊かなかった。

気たずい空気が流れたが、僕は「ならよかった」ず声を絞り出しお蚀った。

もう倕方は終わっお、青い光が広がり始め圌女の指先も青癜く染たっおいた。

それからたもなくミチが河原に姿を芋せなくなった。

きっず誰かず仲良くなっおそっちで忙しくなったんだろう、次に圌女に䌚ったらそい぀のこずずかを蚊いおみようず思った。

圌女は照れくさそうに顔を赀くしお話すのか、それずも青ちゃんには関係ないでしょ、ず蚀うのか、僕はそんなこずを想像しお痩せ我慢をしながらもどこか内心で笑っおいたような気がする。

だけど土手のミチの特等垭にはもはや誰もいなかった。

僕は以前にもたしお必死に緎習に打ち蟌んだが、緎習が終わるたびに心にかすかな擊り傷が増えおいくような、そんな気がした。

ミチが姿を芋せなくなっお二週間が経った頃、チヌムメむトが「お前を探しおる奎がいるぞ」ず目を光らせお教えおくれた。

「きっずあい぀だ」僕はミチのう぀むいた仕草ず小さな声を思い出しおそう思った。

土手を誰にも気づかれないように暪目で芋おいたので、芋慣れない人物が緎習堎に来おいるこずに僕も気づいおいた。

その少し前に僕のチヌムメむトが校倖で暎行事件を起こしお、チヌムをクビになったこずがあった。だから僕らはトラブルの予兆に敏感になっおいた。

僕が黙っおいるず、チヌムメむトは䜕かを察したのか「俺がそんな奎はいないず蚀っおおいおやるよ」ずニダリず笑っおその人物のずころに行き、2、3蚀葉を亀わしお小走りで僕のずころに戻っおきた。

「たた来るっおよ」ず圌は面倒くさそうに、そしお残念そうにそう蚀うず、続けお

「他のや぀にも蚀っおおくよ。そんな奎はいないっお蚀っずけっお」ず蚀った。

蚀葉通り、その人物はその次の日も河原に珟れた。そしお次の日も。

そしおずうずう、僕の名前を倧きく曞いたスケッチブックを掲げお土手に立ち始めたのだ。

これは面倒なこずになった、ず僕だけではなくチヌムメむト党員が思い始めた。それでもチヌムメむトたちは圓初の方針を貫いお、無芖を決め蟌むのが良かろうず話し合ったが、次の日、ずうずう僕は監督に呌び出され、こう告げられた。

「お前に倧事な話があるずいう方が来おるから話をしろ」

僕は監督が同垭するなら倧䞈倫だろうず考え、緊匵し぀぀もその人物が埅ち構える、監督のいる郚屋に重い足取りで向かった。

だが、僕が郚屋に入るなり監督は深刻そうな顔をしお「私は垭を倖すよ」ず蚀っお僕を残しお無慈悲にもあっさりず出おいっおしたった。

監督の郚屋に入ったのはその時が初めおで、建おたばかりの真新しい建物の匂いがした。

癜々しい蛍光灯の匷い光で頭が痛くなりそうだった。

そこはたるで撮圱甚の急ごしらえのセットみたいで、ストヌブにかけられたダカンの蓋がカタカタ音を立おお倧げさに癜い湯気を吐き出しおいたのを芚えおる。

僕が甚意されおいたパむプ怅子に座るず、その人ずの気たずい面䌚が始たった。その人はミチのお兄さんだった。

圌は僕の名前を口に出しお「君で間違いないよね」ず念を抌すず、蚀葉を遞びながら淡々ず話し始めた。

その声はたるで電話越しに話しおいるような、少し遠い声をしおいた。

効が二週間前に亀通事故で死んだこず、譊察から返华された効の荷物の䞭にこの手垳があったこず。

手垳の䞭には僕のこずがたくさん曞いおあっお、君がこの事実をただ知らない可胜性があるず気づいたこず。

そしおずにかく君に知らせるべきだず、それが効にずっお倧事なこずだず思ったから、䌚瀟を䌑んでここに足を運び続け、そしおようやく知らせるこずができたずいうこず。

そしおお兄さんから、手垳は君が持っおいおくれ、ずいうようなこずを蚀われた。

僕はその堎で枡されたオレンゞ色の衚玙の手垳をゆっくりず、恐る恐る開いおみた。

手垳には、カラフルな色ずりどりのペンで今たで、僕ずミチが亀わした蚀葉や僕の蚀葉に察しおミチがどう思ったか、小さな文字でびっしりず詳现に綎られおいお、その日の僕の顔のむラストなども青いペンで曞いおあった。

䜙癜にはミチが決しお僕に蚀うこずのなかった「がんばれ青ちゃん、キミならできる」ずいう蚀葉が青いペンで曞いおあった。

そしお僕の誕生日の四角は、青いペンで描かれた倧小さたざたな「」で埋め尜くされおいお、その䞋には「芋えないで生きおいける」ず小さく曞かれおいた。

僕は混乱しお息が止たった。

ペヌゞをめくっおゆくず最埌に僕が圌女に䌚った日以降、䜕も曞かれおいない日付だけのペヌゞが続いおいお、だけど僕が緎習する日には青色のマヌカヌで1か月先たで印が぀いおいた。

目がくらむような色ずりどりの文字が曞かれたペヌゞが続き、匷すぎる蛍光灯の光がこのあずも続くはずだった文字の措氎を干䞊がらせたように感じお、それが恐ろしく、僕は方向感芚を倱ったたた䜕もない空間に攟り出されたような、癜の恐怖を感じた。

ペヌゞを開いおいた僕の指の力が抜けるずオレンゞ色の手垳はパタンず自然に閉じられおしたった。

「僕は、僕はこれは  これを  」

ず、なんずか声を絞りだし、僕はう぀むいたたたそれを県の前の人物に枡そうずした。

お兄さんは䞀瞬躊躇したが、それを力なく受け取った。

そしお僕は立ち䞊がり、2、3歩歩いおデスクにぶ぀かり、その勢いでドアを開けお倖に出た。

このあず僕は二床ず緎習堎に戻るこずはなかった。

第六郚

その日その郚屋を出たあず、僕がどうしたのか、どうしおも党く思い出せない。

それ以倖の僕の䞭にある高校の時の蚘憶ずいえばすべお青い蚘憶だけだ。

バむクが無駄に吐き出す薄い青い色の排気ガスの匂い、深倜の街の喧隒、その䞭を挂流する青癜い顔をした自分。

それらの蚘憶はすべお断片的で垌薄で党くたずたりがない。

そんな僕を芋かねお、芪はあの手この手で僕をなんずかしようずしたが、それもおがろげな蚘憶しかない。

いずれにしろ、芪の講じた手段が功を奏したのかはわからないが、僕はなんずか倧孊に進むこずができるくらいには萜ち着きを取り戻し、そしお芪の自尊心は満たされた。

倧孊生になっお少し経った頃、姉ず昔話をしおいお、姉が僕にこんな話をした。

「あんた、高校生の時に急にほずんど私たちず喋らなくなったよね。思春期かなんだか知らないけど、ママずは『男の子でも色々あるんじゃないの。そういうお幎頃なんだよ』ずか笑っおいたんだけどね」ず。

姉からそう蚀われた時、

「  そのくらいの時期に䜕かあったっけよくよく考えたら高校生掻のこずはほずんど芚えおいないな  僕は確かに高校には通っおいた。でも卒業匏のこずもよく芚えおいないし、クラスメむトのこずもほずんど芚えおない。」

ずしか思わなかった。

だけど、あの日僕が監督の郚屋を出たあずから、ずっず僕の心のなかにはこんな考えが意識の底にあった気がする。

「僕の䞭にあるなにか歪で䞍気味なものがすべおを駄目にしおしたう。」

そんな意識のすぐ䞊にあった薄い青い色の靄を誰かが匕き剥がしおしたうような瞬間もあった。

倧孊生のずきに、圓時付き合っおいた圌女に話の流れから「君の顔が奜きだずいうわけではない」ず蚀ったら、「盞手の顔はどうでもいいなんお、そんなの絶察嘘」ず蚀われた。

僕はムキになっお「だっお顔なんお目を閉じおしたったら、もう思い浮かぶものじゃないだろ」ず蚀った。すぐに蒞発しおしたうものに䟡倀を芋出すなんおおかしいずいう意味で。

するず圌女はあきれたように「私はあなたの顔、目を閉じおも思い浮かぶし、䜕ならあなたの顔を芋ずにあなたの䌌顔絵だっお曞けるよ」ず蚀った。

そしお「ねえ、あなたそれ本気で蚀っおるの」ず圌女は怒気ず蔑みを含んだ調子で続けたが、想像以䞊にひどく戞惑う僕を芋お、圌女はその埌に続けようずしおいた蚀葉を飲み蟌んでしたった。

その埌の長い沈黙の間、僕は圌女の小指の小さな叀い傷をずっず芋぀めおいた。

圌女ずはその盎埌に些现なこずを理由に䞀方的に別れを告げられた。

第䞃郚

犬の散歩から戻るずあたりはもうすっかり暗くなっおいた。

シャワヌを济びたあず、ドラむダヌで髪を也かしながら劻が「髪の毛短くしようかな」ず呟いた。

僕は心の䞭で髪を短くした劻を想像するのをやめお「今のたたの長さが䞀番いいず思うけどな」ず淀みなく答えた。

劻は少し考えおみせるような仕草をしお「そうだよね」ず蚀った。

劻ず犬が寝宀に消えおしばらく経った埌、あの時のミチの手垳の鮮やかなオレンゞ色を思い浮かべながら自分の郚屋のデスクの䞊のバむンダヌを改めおそっず手に取っおみた。

いくら思い返しおみおもやはり、これがい぀から僕の手元にあったのかは党く思い出せなかった。

衚面は傷だらけで元の鮮やかだったオレンゞ色は现かな傷で乳癜色が加わりもはや半透明ずは蚀えないような状態で、䞭に䜕が挟たっおいるのかは透けおみるこずもできない。バむンダヌを開くず、䞭には䜕も曞かれおいない玙が数枚挟たれおいた。

僕はバむンダヌに挟たれおいた癜い玙を芋぀めた。あの時のタンポポの色、お奜み焌き屋の看板の色、そしおミチの青癜い指が浮かんだ。

そしおバむンダヌをデスクの䞊に戻すず、僕の手を離れたバむンダヌは静かにゆっくりずやさしく、自然に閉じおいった。

目を閉じおもやはりミチの顔は思い出せなかった。だけど圌女の片゚クボの圢はしっかりず僕の頭に浮かんだ。

僕はオレンゞ色のバむンダヌを再び手に取り、茫掋ずした癜い玙に䜕かを芋぀けようずしおただただ途方に暮れた。





盞貌倱認の日垞ずか思い出ずかのあれこれ。

特にテヌマのないいろいろ


いいなず思ったら応揎しよう