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七パラメータ 第5話 もう一つの点

翌日の夜。

直人は食卓でスマホを見ていた。

画面には、昨日突然現れた道が表示されている。

何度見ても消えない。

道の名前。

曲がり角。

知らない地名。

すべて地図に載っている。

「父ちゃん、ご飯食べへんの?」

吉良に言われ、直人は顔を上げた。

「食べとるよ」

「ずっと携帯見とるやん」

「ちょっと気になることあってな」

向かいに座るすずも呆れた顔をする。

「最近そればっかりやな」

「仕事にも関係あるんや」

半分は本当だった。

宅配ドライバーにとって、地図にない道が突然現れるなんて普通ではない。

だが、それ以上に気になるものがあった。

あの道に表示された数字。

直人は、最初に撮った鋲の写真を開いた。

七本の線。

その横に、かすかに写っている数字。

昨日地図に現れたものと同じだった。

「やっぱり同じや……」

そのとき電話が鳴った。

明秀だった。

「もしもし」

『今から来れるか?』

「会社?」

『そう』

「なんか分かった?」

少し間があった。

『たぶんな』

直人は箸を置いた。



三十分後。

直人は明秀の会社にいた。

「お前な」

直人は明秀の顔を見るなり言った。

「夜に呼び出すなら、もうちょい楽しそうな顔せえよ」

「俺の顔は生まれつきや」

「眉毛のせいやろ」

「帰れ」

「来い言うたんお前や」

いつものやり取り。

だが明秀は笑わなかった。

「これ見て」

パソコンの画面に古い資料が表示されている。

紙を撮影したものらしい。

文字は薄い。

端も変色している。

「何これ?」

「昔の測量関係の資料」

「点の記?」

「ちゃう」

明秀が画面を拡大する。

「昨日から、あの場所について調べ直してたんや」

「仕事せえよ」

「仕事の合間や」

「ほんまか?」

「黙って見ろ」

直人は画面を見る。

古い地図。

線。

数字。

直人には何を意味するのか分からない。

「これが何なん?」

「ここ」

明秀が一か所を指した。

小さな丸印がある。

その横に文字。

「読めん」

「俺も最初読めんかった」

明秀は別の画像を開いた。

少し鮮明になっている。

そこには、

竹城

と読める文字があった。

直人は画面へ顔を近づけた。

「竹城台?」

「たぶんな」

「たぶん?」

「この資料、竹城台ができる前のもんや」

「いつ?」

「昭和三十年代」

直人は眉をひそめた。

「竹城台って、まだなかったん?」

「今みたいな住宅地になる前や」

明秀は地図上の丸印を指した。

「位置を今の地図に合わせると、だいたいあの鋲がある場所になる」

「ほんなら記録あるやん」

「最後まで聞け」

明秀が次のページを出した。

「この丸印には番号がない」

「また?」

「点名もない」

「点の記も?」

「見つからん」

直人は腕を組んだ。

「じゃあ、この丸は何?」

「分からん」

「お前、今日そればっかりやな」

「分からんもんは分からん」

明秀が資料を拡大した。

「でも、もっと変なんがある」

「まだあるん?」

「ここ見て」

丸印から細い線が伸びている。

直人にはただの汚れにしか見えなかった。

「何?」

「線」

「それが?」

「向き」

明秀が現在の地図を横に表示した。

竹城台。

あの鋲。

そして昨日現れた道。

明秀が古い資料の線と重ねる。

直人は黙った。

「……同じ?」

「ほぼな」

古い資料に描かれた線は、

昨日長くなった鋲の一本と、

同じ方向を向いていた。

その先に、

地図に現れた新しい道がある。

「偶然ちゃう?」

「そう思いたい」

明秀は言った。

「でもな」

また別のページを開く。

日本地図だった。

古い。

ところどころ文字が読めない。

直人は笑った。

「今度は日本全部かい」

「ここ」

明秀が大阪付近を指した。

小さな印がある。

「これが竹城台の点やと思う」

「うん」

「ほんで――」

明秀の指が動いた。

北へ。

さらに北。

日本海側。

そこで止まった。

もう一つ、

同じ印があった。

直人の顔から笑いが消えた。

「……これ何?」

「分からん」

「同じ丸?」

「そう見える」

「どこ?」

明秀が地図を確認する。

「富山県や」

「富山?」

直人は画面を見る。

大阪。

富山。

離れた二つの場所。

「たまたま同じ印なんちゃう?」

「俺もそう思った」

明秀が画像をさらに拡大する。

富山の印の横に、

薄い文字があった。

ほとんど消えかけている。

直人は目を細めた。

「何て書いてある?」

「読めん」

「数字?」

「たぶん」

明秀は画像を補正したものを表示した。

少しだけ文字が浮かぶ。

直人は息を止めた。

見覚えがあった。

「……これ」

「気づいた?」

直人は自分のスマホを取り出した。

鋲の写真を開く。

七本の線。

その横にある数字。

見比べる。

「同じや」

明秀がうなずいた。

大阪の竹城台。

富山。

まったく離れた二つの場所に、

同じ数字。

同じ印。

直人は椅子にもたれた。

「なんでや」

「分からん」

「この富山の点にも鋲あるん?」

「そこまでは分からん」

「調べられへんの?」

「場所を特定できればな」

明秀は古い地図を拡大した。

「ただ、この辺までは絞れる」

直人が画面を見る。

「誰か見に行かんと分からんってこと?」

「そうなるな」

「富山まで?」

「今すぐ行くとは言うてへん」

直人はため息をついた。

「メルルの散歩から、えらいことになったな」

その名前を口にしたとき、

直人のスマホが鳴った。

すずからだった。

「もしもし」

『直人?』

「何?」

すずの声が少し変だった。

『メルルがな』

直人は椅子から体を起こした。

「どうした?」

『散歩行こうと思って外出たんやけど』

「うん」

『動かへんねん』

「どこで?」

『あの道』

直人の背中が冷たくなった。

「どの道?」

『最近あんたが気にしとるところ』

鋲のある道だ。

「すず、メルル連れて帰って」

『なんで?』

「いいから帰って」

直人は立ち上がった。

そのとき、

すずが電話の向こうで言った。

『あれ?』

「何?」

返事がない。

「すず?」

『直人』

「何や?」

『こんなん、前からあった?』

「何が?」

数秒、

沈黙した。

そしてすずが言った。

『鋲』

直人は明秀を見る。

「鋲なら前から――」

『違う』

すずが遮った。

『いつものやつちゃう』

直人は息を止めた。

『少し離れたところに――』

すずの声が震えた。

『もう一個ある』

直人と明秀は、

同時にパソコンの日本地図を見た。

大阪に一つ。

富山に一つ。

そして今、

竹城台に――

二つ目の点が現れた。



第5話「もう一つの点」了

編集後記

第5話「もう一つの点」をお読みいただき、ありがとうございます。

今回は明秀が見つけた古い測量関係の資料から、謎が一段広がりました。

竹城台が現在の住宅地になる前の古い地図。

そこには、今の鋲とほぼ同じ位置に、名前も番号もない点が残されていました。

さらに古い日本地図には、

大阪から遠く離れた富山にも同じような印が。

なぜ、離れた場所に同じ印があるのか。

そして、それを調べている最中――

すずから電話が入ります。

「いつものやつちゃう」

「少し離れたところに、もう一個ある」

富山だけではありませんでした。

直人たちのすぐ近くでも、

点が増え始めています。

まだ、この点が何を意味するのかは分かりません。

ただ一つ言えるのは、

もう「変な鋲が一つあった」だけの話ではなくなったということです。

――二針無音(ふたはり・むのん)

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