七パラメータ 第5話 もう一つの点 6 二針無音(ふたはり・むのん) 2026年9月9日 19:16 翌日の夜。直人は食卓でスマホを見ていた。画面には、昨日突然現れた道が表示されている。何度見ても消えない。道の名前。曲がり角。知らない地名。すべて地図に載っている。「父ちゃん、ご飯食べへんの?」吉良に言われ、直人は顔を上げた。「食べとるよ」「ずっと携帯見とるやん」「ちょっと気になることあってな」向かいに座るすずも呆れた顔をする。「最近そればっかりやな」「仕事にも関係あるんや」半分は本当だった。宅配ドライバーにとって、地図にない道が突然現れるなんて普通ではない。だが、それ以上に気になるものがあった。あの道に表示された数字。直人は、最初に撮った鋲の写真を開いた。七本の線。その横に、かすかに写っている数字。昨日地図に現れたものと同じだった。「やっぱり同じや……」そのとき電話が鳴った。明秀だった。「もしもし」『今から来れるか?』「会社?」『そう』「なんか分かった?」少し間があった。『たぶんな』直人は箸を置いた。*三十分後。直人は明秀の会社にいた。「お前な」直人は明秀の顔を見るなり言った。「夜に呼び出すなら、もうちょい楽しそうな顔せえよ」「俺の顔は生まれつきや」「眉毛のせいやろ」「帰れ」「来い言うたんお前や」いつものやり取り。だが明秀は笑わなかった。「これ見て」パソコンの画面に古い資料が表示されている。紙を撮影したものらしい。文字は薄い。端も変色している。「何これ?」「昔の測量関係の資料」「点の記?」「ちゃう」明秀が画面を拡大する。「昨日から、あの場所について調べ直してたんや」「仕事せえよ」「仕事の合間や」「ほんまか?」「黙って見ろ」直人は画面を見る。古い地図。線。数字。直人には何を意味するのか分からない。「これが何なん?」「ここ」明秀が一か所を指した。小さな丸印がある。その横に文字。「読めん」「俺も最初読めんかった」明秀は別の画像を開いた。少し鮮明になっている。そこには、竹城と読める文字があった。直人は画面へ顔を近づけた。「竹城台?」「たぶんな」「たぶん?」「この資料、竹城台ができる前のもんや」「いつ?」「昭和三十年代」直人は眉をひそめた。「竹城台って、まだなかったん?」「今みたいな住宅地になる前や」明秀は地図上の丸印を指した。「位置を今の地図に合わせると、だいたいあの鋲がある場所になる」「ほんなら記録あるやん」「最後まで聞け」明秀が次のページを出した。「この丸印には番号がない」「また?」「点名もない」「点の記も?」「見つからん」直人は腕を組んだ。「じゃあ、この丸は何?」「分からん」「お前、今日そればっかりやな」「分からんもんは分からん」明秀が資料を拡大した。「でも、もっと変なんがある」「まだあるん?」「ここ見て」丸印から細い線が伸びている。直人にはただの汚れにしか見えなかった。「何?」「線」「それが?」「向き」明秀が現在の地図を横に表示した。竹城台。あの鋲。そして昨日現れた道。明秀が古い資料の線と重ねる。直人は黙った。「……同じ?」「ほぼな」古い資料に描かれた線は、昨日長くなった鋲の一本と、同じ方向を向いていた。その先に、地図に現れた新しい道がある。「偶然ちゃう?」「そう思いたい」明秀は言った。「でもな」また別のページを開く。日本地図だった。古い。ところどころ文字が読めない。直人は笑った。「今度は日本全部かい」「ここ」明秀が大阪付近を指した。小さな印がある。「これが竹城台の点やと思う」「うん」「ほんで――」明秀の指が動いた。北へ。さらに北。日本海側。そこで止まった。もう一つ、同じ印があった。直人の顔から笑いが消えた。「……これ何?」「分からん」「同じ丸?」「そう見える」「どこ?」明秀が地図を確認する。「富山県や」「富山?」直人は画面を見る。大阪。富山。離れた二つの場所。「たまたま同じ印なんちゃう?」「俺もそう思った」明秀が画像をさらに拡大する。富山の印の横に、薄い文字があった。ほとんど消えかけている。直人は目を細めた。「何て書いてある?」「読めん」「数字?」「たぶん」明秀は画像を補正したものを表示した。少しだけ文字が浮かぶ。直人は息を止めた。見覚えがあった。「……これ」「気づいた?」直人は自分のスマホを取り出した。鋲の写真を開く。七本の線。その横にある数字。見比べる。「同じや」明秀がうなずいた。大阪の竹城台。富山。まったく離れた二つの場所に、同じ数字。同じ印。直人は椅子にもたれた。「なんでや」「分からん」「この富山の点にも鋲あるん?」「そこまでは分からん」「調べられへんの?」「場所を特定できればな」明秀は古い地図を拡大した。「ただ、この辺までは絞れる」直人が画面を見る。「誰か見に行かんと分からんってこと?」「そうなるな」「富山まで?」「今すぐ行くとは言うてへん」直人はため息をついた。「メルルの散歩から、えらいことになったな」その名前を口にしたとき、直人のスマホが鳴った。すずからだった。「もしもし」『直人?』「何?」すずの声が少し変だった。『メルルがな』直人は椅子から体を起こした。「どうした?」『散歩行こうと思って外出たんやけど』「うん」『動かへんねん』「どこで?」『あの道』直人の背中が冷たくなった。「どの道?」『最近あんたが気にしとるところ』鋲のある道だ。「すず、メルル連れて帰って」『なんで?』「いいから帰って」直人は立ち上がった。そのとき、すずが電話の向こうで言った。『あれ?』「何?」返事がない。「すず?」『直人』「何や?」『こんなん、前からあった?』「何が?」数秒、沈黙した。そしてすずが言った。『鋲』直人は明秀を見る。「鋲なら前から――」『違う』すずが遮った。『いつものやつちゃう』直人は息を止めた。『少し離れたところに――』すずの声が震えた。『もう一個ある』直人と明秀は、同時にパソコンの日本地図を見た。大阪に一つ。富山に一つ。そして今、竹城台に――二つ目の点が現れた。⸻第5話「もう一つの点」了編集後記第5話「もう一つの点」をお読みいただき、ありがとうございます。今回は明秀が見つけた古い測量関係の資料から、謎が一段広がりました。竹城台が現在の住宅地になる前の古い地図。そこには、今の鋲とほぼ同じ位置に、名前も番号もない点が残されていました。さらに古い日本地図には、大阪から遠く離れた富山にも同じような印が。なぜ、離れた場所に同じ印があるのか。そして、それを調べている最中――すずから電話が入ります。「いつものやつちゃう」「少し離れたところに、もう一個ある」富山だけではありませんでした。直人たちのすぐ近くでも、点が増え始めています。まだ、この点が何を意味するのかは分かりません。ただ一つ言えるのは、もう「変な鋲が一つあった」だけの話ではなくなったということです。――二針無音(ふたはり・むのん)ハッシュタグ #七パラメータ #二針無音 #小説 #創作小説 #SF小説 #ミステリー小説 #測量 #測量鋲 #古地図 #現実改変 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #小説 #創作小説 #SF小説 #ミステリー小説 #測量 #古地図 #現実改変 #二針無音 #七パラメータ #測量鋲 6