文化を守る人へ、山の春を贈る。―― タンポポバームに込めた応援
少し前、以前職場でご一緒していた方へ、タンポポの花でバームを作った。
その方は、素朴な可愛らしさで飾り気のないところが魅力で、それでいて芯がある。博物館で展示や研究、執筆に向き合う姿を見ていると、その静かな強さにいつも感心させられる。
今年に入り、博物館や美術館を取り巻く状況が大きく揺れている。かつて同じ職場で働いていた私も、そのニュースに触れるたびに心を痛めていた。彼女が日々抱えている仕事の重さを思う。だからこそ、何かの形で応援したかった。
それならば、可愛さと、メディカルハーブとしての薬効を併せ持つタンポポが、彼女にぴったりだと思った。しかもそのタンポポは、彼女の研究テーマにも関連する山で摘んだもの。
精油は、パルマローザとラベンダー、そしてローズウッドを選んだ。どれも柔らかさの中に芯の強さを感じる香りで、どこか彼女の印象と重なる気がした。
バームを仕込む少し前、私はその山を歩いていた。春の盛りで、あたりは花の香りに満ちていて、思わず立ち止まり、深呼吸した。一瞬、自分が浄化されるような気持ちになった。
タンポポは花盛りの時期に摘み、一つひとつ状態を見ながら、傷みのない花だけを選んだ。いつ、どこで摘まれたものか、どんな風景の中で育ったものか、自分の目で確かめられるのは、手作りだからこその贅沢だと思っている。みつろうは、対馬の日本ミツバチのものを使った。小さな体で懸命に蜜を集める蜂たちの営みもまた、このバームを支えてくれている。
多忙な彼女にこそ、ふとした瞬間にバームを手に取り、深呼吸する時間を持ってもらえたら。そう思って考えたレシピだった。あの山の春の気配を閉じ込めて、彼女にも追体験してもらえれば、と。
パッケージにもこだわった。山のなだらかな稜線に沿うように、タンポポのイラストを添えた。
結果、パッケージを見た瞬間から喜んでくださり、香りもつけ心地も良かったと感想をいただいた。
研究も展示も、すぐに成果が見える仕事ばかりではない。それでも文化や歴史を未来へ手渡そうとする人たちがいる。その一人である彼女へ、山の春を届けることができたなら嬉しい。
常々、誰かへバームを作るとき、私は植物と精油の組み合わせについてかなり想いを巡らせる。せっかく作るなら、その方のライフスタイルに寄り添って、こんなシーンで使ってもらえたらいいな、と考えながらレシピを組み立てる。そして相手が喜んでくれたとき、やっと完成する気がする。
バームは、肌に塗るものだけれど、私にとってはそれだけではない。山の記憶を、季節の気配を、相手への願いを、小さな器に込めるもの。そうやって誰かの暮らしにそっと入っていけたら、それ以上のことはない。
