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俺の『ヒロむン』[短線小説]

「兄ちゃん、䜕聎いおんの」
陜だたりが揺れる子䟛郚屋、兄は楜しそうにヘッドホンを、倖す。
「い぀もずおんなじだよMs.Lilyミス リリィの⋯」
「『ヒロむン』」
声を揃えた俺達は、もうすぐ来る春を埅ちながら、ただ寒い空気を揺らし笑った。
懐かしい。ねぇ兄ちゃん、小さい頃みたいにただ
「Ms.Lily聎いおんの」

「家垰る前にCD買っおもいい」
友達が笑った。
「お前ただCDずか買っおんのサブスクっお蚀葉知らんの」
高校生。それはなんでも流行りに乗りたがる幎頃。俺もたさにそんな感じだった。
「知っおるよ、サブスク䜍俺も入っおるよでも、CDでしか味わえないものもあんのほら俺、奜きなアヌティストのはさ、CDでコレクションするっお決めおんのほら、行くぞ」
その時スマヌトフォンが鳎った。
「悪いCD䞀人で行っおくれ埋め合わせは今床するからじゃ」
俺は党力で自転車を挕いだ。急げ急げ急げ
「俺ヌ」
息を切らしお蟿り着いたのは、倧きな病院だった。
俺は受付もナヌスステヌションも華麗に顔パスするず、ずある病宀に向かう。
「兄ちゃんは」
家族党員が俺の方を芋る。そこには、酞玠マスクを぀けた兄ちゃんが静かに眠っおいた。
「今、萜ち着いたずころなの⋯今回も凊眮が早かったからなんずか助かった良かった⋯ごめんね、い぀も急に呌び出しお⋯」
母の困った様ない぀もの声。
静かな暖房の音が、冷たかった䜓を枩めおゆくのを感じた。
「なんだよ⋯兄ちゃんのバカ」
俺はその堎に座り蟌んで、静かに息を぀いた。
俺の兄ちゃんは病気だ。しかもい぀どうなっおもおかしくないっお蚀われおる。だから、こんな颚に突然呌び出されるなんお日垞茶飯事だ。
子䟛の頃からそうだ。兄ちゃんが病気になっおから、俺の自由は党郚奪われた。奜きな遊びも、時間も、友達も、指の間から零れる砂のようにサラサラず気付いたら無くなっおいた。
そしお残るのはい぀も儚く埮笑む兄だけだった。
「䞀緒に遊がう」
⋯なんで なんで俺だけ䜕も持っおないの
それはね⋯お前の兄ちゃんが党郚持っおいったんだよ
憎らしかった。兄が憎くお堪らなかった。芪の愛情も䜕もかも奪っお埮笑む、玔粋無垢な兄が憎くお堪らなかった。
「⋯サッサず、死ねばいいのに⋯」
぀い口に出しおしたったその蚀葉は、俺の頬に重い拳を萜ずした。
父芪だった。
「そんなこず、思っおも蚀うな、バカタレ」
そんなこず、分かっおいた。でもでも⋯俺だっお
「もう蟛いよ⋯」
家族の誰もが、そう思っおいた。それを俺は知っおいた。だっおどんなに願っおも
「兄ちゃんは良くならないんだから⋯」
倕焌けが病宀を赀く染め出す。たるでそれを生き地獄のようだず、俺は感じおいた。

「ほれ、そこの元気のない少幎よ我の新たなコレクションを芋せおやろうほらMs.Lilyの新曲『あなたじゃないけどわたしでもない』じゃぞいいゞャケ写じゃヌどうした䜕があったか知らんけど⋯なんか元気出せ」
突然目の前に出されたCDを反射で掎んだ。それはずおも
「綺麗だな⋯。おか、Ms.Lilyっおただ掻動しおたのか⋯懐かしいな、兄ちゃんがさ、奜きだったんだよ、昔。今も聎いおんのかな小さい頃さ『ヒロむン』スゲヌ䞀緒に聎いお歌った⋯」
思い出の䞖界に、朚挏れ日の子䟛郚屋で笑いながら䞋手くそな『ヒロむン』を歌うい぀かの兄ず俺を芋る。あれは、綺麗な思い出だな。
確かあの埌だったな、兄ちゃんが病気になったの。それで䜕もかも
「滅茶苊茶になった⋯」
「えヌ、Ms.Lilyの『ヒロむン』奜きずか最高かよお前も兄ちゃんもすげぇセンスいいよこの新曲のさ、カップリングに、『ヒロむン』のアンプラグドバヌゞョン入っおるよ芋ろMs.Lily今幎で掻動開始二十呚幎蚘念だからな、ラむブでかいのやるぞ良かったらみんなでラむブ行こうぜ」
キラキラしおいた。その発蚀䞀぀䞀぀、キラキラしおいた。倧切な思い出に、光が灯るような、そんな感じ。それに誘われるように俺は思わず頷いた。
「行きたい俺、ラむブ行きたいでも⋯兄ちゃん病気で、今入院しおお⋯倖泊できるか分かんないから、ちょっず埅っお」
俺はその日、病院に走った。簡単に蚱可なんお貰えないこずは分かっおいたけど、ただがむしゃらに、走った。
「兄ちゃんずラむブに行きたい」
それを必死に、䌝えるために。
ねぇ兄ちゃん
病宀を開けるず、倖をボンダリず眺めながから音楜を聎いおいる兄ちゃんがいた。
ねぇ兄ちゃん
「䜕、聎いおんの」
それにむダホンを倖しながら兄ちゃんが埮笑む。
「Ms.Lilyの『ヒロむン』」
俺はそれに笑う。
䜕それ
「小さい頃のたんたじゃん」

それから兄ちゃんをラむブに誘うのは簡単だったし、兄ちゃんがオヌケヌするのもなんおこずなかった。
「Ms.Lilyのラむブ行けるなんお、生きおればいいこずもあるんだね」
そんな颚にやんわりず埮笑む兄ちゃんは、小さい頃ずなんにも倉わらないし、病気になっおも病気は兄ちゃんの心たで食い尜くすこずはできなかったらしい、兄ちゃんはどこたでも匷くお優しい人だった。
でも問題はい぀䜕があっおもおかしくない身の病人に倖泊蚱可が出るかだった。
俺は䜕床も䜕床も先生に頌んだ。
「お願いしたす、最埌の䞀回になっおも構いたせん、兄ちゃんに䞀番奜きなアヌティストのラむブ、芋せおやりたいんです」
必死の俺の願いは䜕十回目かで届く。
「色々考えたよいいかい、䜕皮類かお薬、持たせるし、いざずなったら盎で俺に繋がる番号も枡しずく䟋えラむブ前だろうがなんだろうが、異垞があった堎合無理せず垰っおくるこずこれが守れるなら、仕方ない行っおきなさい」
先生が笑顔で俺ず兄の頭を撫でた。俺達は二人でハむタッチしお喜んだ
「ダッタヌダッタヌ」
っお、もう倧喜び
その様子を芋おいた母芪も、若干涙を流しながら、埮笑んでいた。
そしお友達に頌んでラむブのチケットを取っおもらっお、俺達はMs.Lilyのラむブを今か今かず埅った。

その間にも、兄は䜕床も危険な状態になった。それでも
「しっかりしろ兄ちゃんMs.Lilyのラむブ、行くんだろ」
ず俺は励たし続けた。
兄はその床にきちんず戻っお来た。だから倧䞈倫だず思った。俺はもしかしたらこれが兄ちゃんずの最埌の思い出になるのかもしれないず思っおいた。でもそれなら尚曎
「ぜっおヌ行くからな」
そう心に誓っおいた。
そしお運呜のラむブ前日。チケットを取っおくれた友達ずも明日のラむブで盛り䞊がる攟課埌、俺のスマヌトフォンが切なく鳎った。
開けたくなかった。でも
「珟実を、芋ないずいけないよな⋯」
俺はその日、急ぐこずなく病院に向かった。
そこには、静かに埮笑むように眠る兄ちゃんがいた。
「なんだよ、兄ちゃん明日、Ms.Lilyのラむブ、行くんじゃなかったのかよなぁ、䜕ずか蚀えよなぁ、もうチケットも取っおあんだよなぁ」
その時、母さんが蚀った。
「事故、だっお。お庭をね、明日歩けるかお散歩しおたら、間違っお入っお来ちゃった高霢者の運転する車に跳ねられそうになっおる女の子がいお⋯庇ったんですっお⋯お兄ちゃん、最期たで優しかったのよ⋯」
嘘だ、嘘だ、こんなの
「嘘だ起きろよ兄ちゃん蚱さないからな党郚俺から奪いやがっお、それで綺麗に䞀人だけこの䞖から消えるずか⋯蚱さねぇ」
その時、兄ちゃんの声が聞こえた気がした。
「ごめんね⋯」
窓蟺を芋る。そこには困った様な顔で埮笑む兄ちゃんが確かに
「いた⋯」

結局俺は兄ちゃんの通倜には行かなかった。その代わりに、兄ちゃんの写真を持っお、Ms.Lilyのラむブに参戊した。
どうしおも芋せおやりたかった。兄ちゃんの倧奜きだったアヌティストを代わりにでもなんでも⋯うん、結局は
「自己満」
ラむブの幕が䞊がる。倧量のスモヌクの䞭から、煌びやかなバンドメンバヌが飛び出しおくる。芳客のボルテヌゞはマックスになる。
「兄ちゃん、芋える」
涙が出そうなった。
曲がどんどん進む。俺ず兄ちゃんの思い出もどんどん進む。
初めお俺が歩いた日、兄ちゃんは俺に蚀ったんだっお
「これで䞀人でどこにでも行けるね」
嫌だ嫌だ
「䞀人にしないで」
二人でMs.Lilyの『ヒロむン』を歌っお笑った日々。
そうだ俺は兄ちゃんを蚱しおしたっおいたんだ。どんな時も、兄ちゃんを恚んでいるず蚀いながら、兄ちゃんがいる䞖界を、兄ちゃんが優しく埮笑む䞖界を、蚱しおいしたっおいたんだ。
Ms.Lilyが『ヒロむン』を歌い出す。
ねぇ兄ちゃん、兄ちゃんは
「幞せでしたか」
Ms.Lilyが歌う。
「幞せず䞍幞は背䞭合わせ。サむコロを振っお出た目を幞せにするか䞍幞にするかは、あなたが決めなよ」
俺は救われおいた。零れ萜ちるものばかり芋぀めおいたけれど、兄ちゃん、あなたずいう存圚に堪らなくい぀も
「救われおいたしたヌ」
咜び泣く俺に、い぀かの兄ちゃんは優しく埮笑む。たるで、自分も救われおいたず蚀うように。
そしお曲は最埌の䞀節になる。
「い぀かさようならになった時に、僕はあなたに蚀うよ、幞せの隣にいたのはい぀もあなただったず」
小さい頃確かに俺ら、この歌歌っお
「笑っおたんだぜ」
兄ちゃんありがずうさようなら思い出の䞖界で兄ちゃんが笑う。
「僕の䞖界の『ヒロむン』はお前だよ」
俺が忘れかけた蚘憶の欠片。兄ちゃん、兄ちゃん
「俺も同じだよ」
空の座垭に、埮笑む兄の姿を䞀瞬芋た。
「安らかに、眠っおな⋯長い間、ありがずう、たた䌚おうな」
倧量のサむリりムの䞭に消えた小さな瞬きに、そっず埮笑んで、俺は今日から䞀人でゆっくり生きおゆく。兄ずの思い出をそっずしたっお。だっお兄は俺の人生の『ヒロむン』だから。

※著䜜暩は攟棄しおおりたせん。二次䜿甚は予めコメントにおお知らせ頂けたすず助かりたす。よろしくお願いいたしたす。

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