お星様のお砂糖をコーヒーに[短編小説]note1周年記念!
「おばあちゃん、お星様のお砂糖サラサラして!」
笑顔のおばあちゃんは、幼い私のマグカップを受け取ると、ひと匙キラキラとお砂糖を掬って
「はい!お星様入れたよ!」
と私に渡した。
懐かしいな。あのお星のお砂糖
「甘くて美味しかったなー⋯」
「ねぇふうちゃん?おばあちゃん魔法使いなのよ!って言ったら驚く?」
高校生になって久しぶりに来たおばあちゃんの家。そこでおばあちゃんったら
「また変なこと言って!?それに、私全然ふうちゃんじゃないよ?名前、いい加減本名で呼んでよ?」
呆れたように言う私に、おばあちゃんは可愛らしく舌を出した。
「あら、ごめんなさいね?でも⋯ふうちゃんはふうちゃんだから⋯許して?ほら、ふうちゃんの好きなお星様のお砂糖、あるから、一緒にコーヒー、飲みましょ?」
風に風鈴が揺れる。風見鶏がクルクル回る。夏が駆け巡る。
「もう、仕方ないなー!夏だから冷たいもの飲みたいけど⋯お星様のお砂糖には負ける!あれ、美味しいんだもん!」
私は笑っておばあちゃんの後を着いて、少し古い西洋風の家の中を駆けていく。
おばあちゃんの家は不思議なものでいっぱい。古いオルゴールとか、何かのおまじない?の本とか⋯綺麗な絵とか⋯
「美術館でもできそうよね?おばあちゃんの家って?」
私の言葉におばあちゃんは楽しそうにお喋りする。
「全部おじいちゃんのコレクションよ!おじいちゃん、面白いものがあるとなんでも買ってきちゃう人だったから⋯このお星様のお砂糖もそうよ?展望台の街で見かけて一目惚れしてたーくさん買ってきちゃったんだから!でもそのおかげでおじいちゃんが死んじゃった今でも、おじいちゃんのこと、近くに感じられるから⋯幸せよ!」
そう言って微笑んだおばあちゃんが、少し寂しそうに見えたのは、多分
「気のせい、だよね?」
その後すぐにおばあちゃんが淹れたてのコーヒーを出してくれた。
「さ、お星様のお砂糖、たくさん入れて召し上がれ!」
私は世にも不思議なそのお星様のお砂糖をひと匙掬うと、キラキラ、サラサラとコーヒーに入れた。
「うん!今日も甘くて美味しい!」
小さい頃は無邪気にこれを本当のお星様だって信じてたっけなって、ふと懐かしくなる。でも今はもう分かるんだ。これはただの上質な砂糖。おじいちゃんはお金でロマンを買ったんだって。
でもおばあちゃんにはそのことは言ってない。私はいつまでもこれを本物のお星様だって信じてる純粋な女の子のふうちゃんのままでいてあげるって決めてるんだ。
「さて、ふうちゃん!おばあちゃん、この本を読んでお勉強したの!だから本当に魔法使いよ!」
おばあちゃんが見せてきたのは古い分厚い本。
はいはい
「おじいちゃんのコレクションね?で、どんな魔法を勉強したの?」
それにおばあちゃんは子供のように笑う。
「それはね⋯内緒!」
「ケチ!」
ヒグラシが鳴き出す。ステンドグラス越しに夕日が差し込むおばあちゃんの家は、とてもとても
「綺麗ね⋯」
私の夏休みは、ゆっくり綺麗に彩られていた。愉快なおばあちゃんと、おじいちゃんの遺した素敵なガラクタ達に⋯。
夏休みが終わる頃、おばあちゃんとその夏最後のコーヒーを飲んだ。
「ねぇふうちゃん、このお星様のお砂糖、ふうちゃんが持って行ってくれない?」
おばあちゃんが綺麗な瓶に詰めたお星様のお砂糖を私に笑顔で差し出した。
え、そんなの
「嫌だよ?」
なんか、凄い胸がザワザワした。これ受け取ったら
「おばあちゃん、どこか行っちゃう気がするから嫌!」
一生懸命首を振る私をよそに、おばあちゃんは優しく微笑んで、私の腕の中にお星様のお砂糖の瓶を握らせた。
「嫌、嫌、嫌だよ!返す!おばあちゃんのバカ!」
けれどおばあちゃんはもうお星様のお砂糖の瓶を受け取ってはくれなかった。
「ふうちゃん、人はね、順番こなのよ?みんなみんな、順番こに空に還るの⋯次はねおばあちゃんの番なの?だから⋯ね?これ、大切にして?」
悲しかった。悲しくて悲しくて堪らなかった。
だから私はしてはいけないことをしてしまった。
お星様のお砂糖の瓶、おばあちゃんの大切にしているおじいちゃんからの贈り物のお星様のお砂糖の瓶を
「こんなの、なくなっちゃえばいいんだ!」
パリンッ!
勢いよく地面に叩きつけて割ってしまった。
たくさんの星が空を舞った。キラキラとして綺麗だった。でも
心がとても痛かった。
おばあちゃんは怒らなかった。ただ静かに、散らばった星屑を拾い集めていた。それは確かに人生を共に歩んだおじいちゃんとの思い出を拾い集める姿だった。
私は泣きながらその場から走って逃げた。
その夏を最後に、私はおばあちゃんに会いに行かなくなった。
本当に最後におばあちゃんに会いに行ったのは、高校を卒業する歳。いよいよおばあちゃんの命の灯火が消えそうだという時に、家族でおばあちゃんの入院する病院に向かった。
おばあちゃんは数年前から病気を隠していたのだと、母親からその時教えられた。
「だからあの時、おばあちゃん、お星様のお砂糖、私に渡そうとしたんだ⋯」
素直に受け取れなかったことを今更悔やんだ。
病院に着くと、おばあちゃんは私の知っている姿ではなかった。あんなに艶の良かった肌はシワシワになって、今にも枯れそうに必死に息をしていた。
「おばあちゃん!」
私の必死の呼びかけに、おばあちゃんは目の端に涙を溜めて微笑んだ。
苦しそうにしながらも、何かを私に伝えようとしているおばあちゃんの声に、私も必死に耳を澄ます。
「ふう、ちゃん⋯ありがとう⋯」
それがおばあちゃん最期の言葉だった。
私は眠るおばあちゃんを抱きしめて大泣きした。
「おばあちゃん、おばあちゃん、ありがとうー! 」
こうして私のふうちゃんとしての人生は幕を閉じた。
おばあちゃんの家は取り壊しが決まった。それまでに最後の思い出にと私はおばあちゃんの家を訪れた。そしてそこで
「おばあちゃんが私に遺した手紙を読んでいます⋯」
ふうちゃんへ
ふうちゃん、私もう死んでるんでしょ?
じゃあふうちゃん、最後の魔法をかけてあげるね!それはね⋯いつか幸せに死ぬ魔法よ!これは最強の魔法よ!いつか全て終わるわ!そう思えば大概のこと、ちっぽけに思えるでしょ?死ぬのも悪くないわ?ねぇふうちゃん、おばあちゃん、死ぬのは怖くないの。でもね、ふうちゃんに会えなくなるのは寂しい。だから⋯やっぱり最後のワガママ聞いて?お星様のお砂糖はふうちゃんが持って行って?そしたらおばあちゃん、ずっとふうちゃんの傍に居られる気がするから!
風の強い日に生まれたからふうちゃんってずっと呼んでたあなた⋯おばあちゃん、あなたのこと大好きよ!死んでもずっと、大好き!化けて出たらごめんね!
おばあちゃんより
今日も風鈴は朝から鳴りっぱなしだし、風見鶏はクルクル回っている。そんな私は
「ふうちゃんのまんまだ⋯!」
涙が風に飛ばされる。
おばあちゃんの愛したこの家で、この場所で、私は今日もそっとコーヒーを淹れる。勿論、二人分。
ねぇおばあちゃん
「お星様のお砂糖、ふた匙入れてもいい?」
あの日割ってしまった瓶。おばあちゃんは一生懸命お砂糖をかき集めて、また新しい瓶に閉じ込めてくれた。私はこれを
「ちゃんと守るよ!二人の、おばあちゃんとおじいちゃんの大切な思い出!」
夕日に煌めくお星様のお砂糖がキラキラ、サラサラと美しい。
それはまがいものでもなんでもなく、本当に星の詰まったお砂糖なんだろうね?おじいちゃん?
本当はコーヒーはもうブラックでも飲めるけど⋯
「もう少しお砂糖、入れることにするよ?このお星様のお砂糖が残っている限りは⋯」
星を沈めたコーヒーを一口口に含んで、いつか私も空に登る時に大切なものを誰かに託せる人間になりたいと、そっと微笑んだ。____________
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
実は先日14日で何気にnote活動1周年を迎えました、藤咲です!照
1年も続けてこられたこと、驚きと共に、随分とこのアカウントも頑張ってるなーと感動しているところでございます。それもひとえに、いつも温かい応援のお言葉をくださる皆様や、スキをくださる皆様、マガジンに追加してくださる皆様⋯何かしら反応をくださる全ての皆様あってのものだと思っております⟡.·この場でまとめてになりますが大きな感謝をお伝えさせて下さい!本当にいつも、ありがとうございます( ´,,•ω•,,`)♡そして、これからもよろしくお願いいたします!
中々上達しない私の文章ですが、どうぞまた見つけたら足を止めて覗いて頂けますと幸いですꕤ︎︎

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