三回だけのタイムトラベラー[短編小説]
「人生で三回だけ、タイムトラベルできるのよ」
ばあちゃんが昔、教えてくれたこと。
ばあちゃんはその後続けて、その力は本当に必要な時に使いなさいと、やや厳しい声で言った。
それから程なくして、ばあちゃんは空の星になった。
僕はばあちゃんを生き返らすためにタイムトラベルの力を使おうとした。でも、ばあちゃんが遺した手紙に、ばあちゃんを生き返らすために、タイムトラベルすんじゃないよ!生きているものはいつか必ず死ぬんだから、それでいいんだよ。と書いてあった。
ばあちゃんの言うことは絶対だったから、力は使わず、僕はばあちゃんの死を受け入れた。
確かあれは僕がまだ小学校に入学する前の話だったと思う。
それから時は流れ、僕は小学生になった。
毎日遊びに、勉強にと楽しい日々を過ごしていた。
そんなある日、学校で飼っていたうさぎのミィちゃんが死んだ。よく世話をしていた女の子に聞いたら、病気でもう長くないと言われていたらしい。
「ミィちゃん、可哀想⋯」
泣きじゃくる女の子をみんなで励ました。
お墓に可愛い花も供えた。
仕方がないのをみんな知っていた。
生きているものはみんないつか死んでしまうから。
でも⋯それでも僕は何かに抗いたかった。
そして僕は生まれて初めて、タイムトラベルの力を使った。
それは案外あっさりしたもので、もっとSFチックなものを予想していたのだけど⋯気付いたら、僕は似たような景色の中にいて⋯
「ん?ここ、もう戻ってるの?」
うさぎの飼育小屋を覗くと、なんと死んだはずのミィちゃんがいた!
「わっ、凄い!本当に戻ってる!」
僕はタイムトラベルが本当に成功したことをこっそり喜んだ。
でも、まだまだ喜ぶのには気が早い!ミィちゃんを
「助け出さないと!」
僕は職員室に向かって、まだ元気なミィちゃんが病気なことを伝えた。
でも先生達は言うことをサッパリきいてくれなかった。
「あんなに元気なんだから、病気なわけないだろ?何言ってるんだか?獣医さんの番組でも見ちゃった?」
結局相手にされず、時間だけが過ぎ、ミィちゃんの病気が見つかった時はもう手遅れだった。
タイムトラベルの力を使っても、僕は何も変えらはしなかった。
二回目のミィちゃんの死に、みんなまた同じ様に悲しんだ。それが辛く、やりきれなかった。
一回目よりも、もっとやりきれなかった。
「何がタイムトラベルだよ!」
僕は自分で自分の力を呪うように、泣きながら足を叩いた。
その出来事から、僕は一度もその力を使うことはなく大人になった。
だってタイムトラベルしたって、何も変えらやしないんだもん。
大人になった僕は、商社に勤務する所謂サラリーマンになった。
同じことの連続の毎日は、どこにタイムトラベルしても、最早同じ様なことばかりできっと面白味も何も無いだろう。
そんな日々の中で、僕はある日数合わせで参加した合コンで運命の出会いをした。
とても素敵な女性だった。所謂一番目立つタイプの女性ではなかったのだけど、服装や、髪型、何もかもが僕の好みにピッタリだった!
僕は彼女にすぐに恋に落ちた。幸い相手も僕に好ましい印象を持っていてくれた様で、関係は順調に進んだ。
彼女は笑うと、そこら中に花が咲いたように可愛らしかった。満開の桜の下で見る彼女は、特に可愛かった。
僕らは順調に関係を育み、やがて恋人同士になった。
そんなある日、僕らは一緒に行ったレストランで火事に遭う。
その時僕はタイムトラベルの力を思い出して、燃え盛る炎の中、その力でタイムトラベルした。
気が付くと、僕は昼間彼女とショッピングモールを歩いていた時間に戻っていた。
「あっ、ちゃんと戻った⋯」
僕の独り言に彼女は
「何?」
と不思議そうに首を傾げた。
「いや、なんでもないよ!あっ、君の好みはこっちでしょ?」
二色持っていたワンピースのうち、昼間彼女が買った方を指さすと、彼女は益々不思議そうにしていた。
「変なの、普段私の趣味なんて分かったことないのに⋯」
それからその晩のレストランを決める時に、僕は火事になるあのレストランは避けて、違うレストランを選んだ。
違うレストランを選んだおかげで、火事にならずに安心して食事を終えられた!
僕は安心して、彼女と歩いて家に向かう。
「荷物持ってあげるよ!」
その時だった。
暴走したトラックがこちらに向けて走ってくる!
僕は慌ててまた、タイムトラベルの力を使った。
今度戻ったのは⋯買い物を終えて野原でシロツメクサの花かんむりを作っている時だ!
「見てー可愛い?」
無邪気な彼女の笑顔に、涙が溢れた。
思わず強く、彼女を抱きしめた。もう二度と離したくない。でも僕のタイムトラベルの力はもう使い切ってしまった。
「何よー、なんで泣くの?」
小さい子みたいにシロツメクサの花かんむりを被った彼女が、僕を優しく撫でてくれた。
ばあちゃんが昔言っていたこと思い出す。人はいつか必ず死んでしまう。
でも、彼女のそれは今ではいけない。
「あのさ、君に聞いて欲しいことがあるんだ。僕ね、タイムトラベルの力を持ってるんだ。時間を自在に行き来することができるんだ。それでね⋯」
「知ってる!知ってるよ!と言うか⋯実は私も、似たような力を持ってたの!もう使い切っちゃったけど⋯最初にあなたに会った時、凄く素敵な人だったから、どうしても私の方に振り向いて欲しくて⋯エンドレスの能力で時間を巻き戻して、あなたがその時にタイプだって言った女の子になりきってもう一度合コン、やり直したの!騙してごめんなさい!」
僕はびっくりする!僕以外にもこの力、いや、似た力を持った人がいたなんて!しかもこんな近くに。
彼女は尚も続ける。
「さっきから何回も同じ時を繰り返してるのは、私も同じなの!だって何回やっても、ディナーのお店で強盗に入られて人質にされたり、お店から出られたと思っても、君が建築資材の下敷きになりそうになったり⋯兎に角命が危ないの!もしかして君もそう?実は私はもうエンドレスの能力を使い切っちゃった。この後同じことがあったらどうしよう⋯」
その時僕はハッキリ分かった。不幸の元凶が僕なこと。だってトラックも建築資材も
「僕めがけて落ちてきたり、つっこんで来てるよね⋯建築資材もトラックも。だから、簡単な話だ!ここでさよならしよう!そうすれば君は安全だ!ううん、そうさせて、未来を知ってるのに、君を巻き込む訳にはいかないよ!」
君もどうやら同じことを考えていたようで、でも実際そうなると嫌だ嫌だと泣いて縋った。
でも仕方がないだろ?
「生きているものはね、いつか必ず死んでしまうんだから」
彼女の頭をそっと撫でた。
今日買ったワンピースを着た彼女が見られないのが、少し残念だった。
そうして春の野に、泣きじゃくる彼女を残して、僕は一人歩き出した。
一人きり、もうすぐなくなる命を抱えて。
そして一人で迎えたその晩、僕は通り魔に襲われた。
ほらね?やっぱり僕の言った通りでしょ?死ぬのは僕一人で良かったんだよ?
激しく痛む体で、なんとなく試してみた。タイムトラベル。もう昔教えられた能力の回数は終わってしまった。
でも、目を覚ますと、そこはなんと
「合コン⋯?」
そう、彼女と出会った合コン会場だった!
そこには僕好みにめかしこんだ彼女がチラチラと僕の方を見て微笑んでいる。
走馬灯かとも思ったけど、きっとこれはあれだ、ばあちゃんが昔からなんでもあればあるだけ使っちゃう僕の性格を見越して、一回少なく能力の回数を教えていたんだということにした。
あー、懐かしいな、これから僕らは恋人になるんだ。
でも僕は微笑む彼女にわざと冷たくした。
うん、それがいいよ。だってね、僕ら運命に引き裂かれちゃうから、最初から
「なかったことにしよう⋯」
彼女が寂しそうに下を向く。
心がちょっと痛かった。でもね
「安心してね、君の分も、僕がちゃんと全部覚えておくから⋯!だから⋯幸せになってね!」
合コン終わり、最後に見た彼女の顔はあまり晴れやかではなかったけれど、最後のタイムトラベルで、君にもう一度会えて本当に
「幸せだったよ」
君があの春の日にもう泣くことがないと思うと、僕はそれだけで十分幸せです。
ふと心によぎったあの日のシロツメクサの花かんむりの少女の様な君は永遠に
「僕だけが知っている」
どんなにタイムトラベルしたって忘れない。あの日の君を永遠に
「忘れない」
もうすぐ来る春の中に消える君に、もう二度とすることはないだろう、小さく手を振った。
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