イルミネーションの小瓶[短編小説]
「昔ね、ここでイルミネーションと星の詰め合わせを買って貰ったの!」
イルミネーションが煌めくクリスマスマーケットで、娘がもうすぐ旦那さんになる人に言った一言に、ハッとした。そんな昔のこと
「まだ覚えてたんだね?」
娘は小さい頃なんでも父親の僕と一緒にしたがった。
当然結婚も僕とするって聞かなかった。今思うといい思い出だ。
そんな冬のある日、娘を連れてクリスマスマーケットに行った。
「わー、どこもキラキラで素敵!」
はぐれないように繋いでいた手を振りほどいて走ってゆく君が、可愛くて可愛くて、堪らなかった。一生パパと一緒にいるって言ってくれてもいいって思った。
でも知っていた。そのうち君もいい人を見つけてどこかへ行ってしまう。
まるでイルミネーションの光の妖精の様な小さな君が、少し滲んで見えたのは、ちょっぴりセンチメンタルな僕の心のせいだろう。
「よーし、今日は思い切り遊ぶぞ!」
僕は君が幸せに誰かの元へ旅立つその日まで、目いっぱい今を楽しむと決めて、キラキラ煌めくイルミネーションの中を笑顔で君を追いかけた。
「欲しいものは見つかった?」
クリスマスマーケットはたくさんの可愛い雑貨屋さんで賑わっていて、君は目移りするみたいで中々本当に欲しいものを決められない。
「このスノードームも可愛いし、さっきのお店の小さなツリーも可愛かったな⋯迷っちゃうよ⋯どうしよう⋯クリスマスってまるで苦しませにかかってきてるわよね?」
君が白い息でついた小さなジョークに、僕は大笑いした。
「クリスマスと苦しみますか⋯座布団でもあげようか?」
けれど光の妖精はそんな僕の小ボケに何も言わずに、ずっと険しい顔で雑貨を見つめ続けていた。
女の子っていうのは、なんて言うか⋯結構リアリストな所があるよね?
そんな時だった。次のお店で不思議な出会いをしたのは⋯
そのお店には空の小瓶しか置いていなかった。
不思議に思った僕らは、いかにも不思議なものを売ってます!といった風貌の、素敵な白い髭を蓄えたサンタさんの様な見た目の店主に聞いてみた。
「あの、このお店は何を売ってるんですか?」
それにその店主はおおらかな笑顔で答えてくれた。
「よくぞ聞いてくれました!聞いてくださったのは今日はあなたが三人目です!この店は、イルミネーションの煌めきと星を詰めて売っています!」
僕はその答えに頭の上にはてなマークがたくさん浮いた。
けれど娘の君は、真っ先にそれに食いついた!
「まぁ、素敵!パパ、私決めた!このお店の星の小瓶、ひと瓶買って!」
なんて胡散臭いんだろうと思った。でも娘の手前、そんなことは言えなかった。仕方なく
「じゃあ⋯その星の小瓶一つください⋯?」
やや戸惑い気味で言った僕。
ワクワクを隠しきれない娘。
「はい、ありがとうございます!五百になります!それではお嬢さん、協力してくれるかな?まずはここのイルミネーションのキラキラを集めて欲しいんだ⋯こんな風に、キラキラに手をかざして⋯両手で捕まえる!できるかな?」
娘は「はい!」と言って、近くのキラキラ煌めく色とりどりのイルミネーションの光の粒をそっと手の中に集める素振りをすると、それを両手でしっかりと握った。
「はい!キラキラ捕まえたよ!これどうするの?」
するとお店のおじさんは
「よくできました!じゃあそれをこの小瓶の中に入れてくれるかな?」
と娘の前に空の小瓶をそっと置いた。
娘は笑顔でその中に手を広げて、さっき集めたキラキラのイルミネーションを入れてゆく。すると、空だったはずの小瓶に、色とりどりの何かが溜まっていく。
僕は驚いて
「えっ、これって本当にイルミネーションの欠片?」
と目をパチクリさせていると、お店のおじさんがそっとウィンクした。どうやら手品か何からしい。
でも娘は大喜び!
「凄い凄い!私が捕まえたイルミネーションのキラキラ、小瓶にどんどん溜まってくよ!」
それに僕は
「良かったね!凄いね!」
と一緒に微笑んだ。
「よーし、イルミネーションのキラキラは集まったから、最後に今夜のお星様をおじさんが一粒プレゼントするよ!それ三二〜一!はい、これを小瓶の蓋に使うといいよ!」
おじさんが天高く掲げた手には、キラキラのお星様の形をした小瓶の蓋が握られていた。
「わー、綺麗!これ、どうやって取ったの?」
それにおじさんはまたウィンクして
「それは秘密。いつか大きくなったら、君にもできるよ、きっと!」
と笑って、キラキラいっぱいの小瓶を娘に渡した。
「お嬢さん、それね、食べてご覧?甘くて美味しいよ!じゃあまたね!」
その時僕は確信した。イルミネーションのキラキラは金平糖に化けたんだと。
でも娘は勿体ないからとその金平糖を一粒も食べずに、結局飾ってそのまま
「食べずに終わっちゃったんだよねー」
娘の懐かしい思い出話に、胸が温かくなった。
そしていつの間に
「あの子はあれが金平糖だって、気付いてたんだ?」
横を歩く妻が笑う。
「何年かした頃に思い出したように言ってたのよ?あの小瓶の中身って金平糖だよね?って。だから⋯最初から気付いてたのかもしれないわね?」
なんだ、それならそうと
「言ってくれたら良かったのに⋯」
夢を壊さない様に必死になった日々が報われない。
少し先を歩く娘が笑って僕に何かを言っている。
「パパ、またあの小瓶売りさんいたら買っていい?」
それに僕は微笑む。
その娘の手はしっかりと旦那さんになる人の手を握りしめている。
寂しくないと言ったら嘘になる。でも
「君が幸せになるんならそれでいいよ!」
娘が、君が、楽しそうに笑った。
もう繋ぐ人の居なくなった手を、そっと妻が握って微笑む。
「雪が降りそうね?」
妻の優しい声が、煌めくイルミネーションの中に溶けて優しく滲んだ。
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