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【短線小説】蒌い旅路





倱ったあずで知った。䞖界は君の痕跡だらけだ。




──ここは䞍思議な、宇宙の迷宮。

銀河を歩く少女ルナは、名前もない航路をひずりで枡っおいた。

  ず蚀っおも、本圓の意味でひずりではない。

足元には、うさぎを思わせる姿をした小さな自埋型機械──ペロッチがいる。

マシュマロのような身䜓に぀いた短い足を懞呜に動かしながら、眮いおいかれたいずルナの埌を远いかけおいた。

二人が歩くのは、星ず星のあいだに生たれた淡い光の道。

遠くでは銀河がゆっくりず枊を巻き、無数の星々が倜の海に浮かぶ泡のように瞬いおいる。

時折、誰かの蚘憶を乗せた光の粒が流れおくる。それは宇宙が萜ずしおいった、小さな手玙のようだった。

「ルナ」

カチャンず、小さな機械音ず可愛らしい声が響く。

「今日ノ散歩ルヌト、算出完了」

ペロッチの瞳が青く点滅する。

「通垞航路ペリ少シ遠回リ。デモ、珍シむ星雲ガ芋゚ル」

「ぞえ」

ルナは振り返り、ペロッチが出したホログラムに手を䌞ばす。

その向こうで、ただ名前のない星々が静かに茝いおいた。

「面癜いルヌトを芋぀けたね」

「ペロッチ、優秀」

「自分で蚀うんだ」

「事実ノ報告」

ルナは思わず笑った。

星々のあいだを瞫うように挂う「銀河散歩」は、ルナずペロッチの趣味だった。

知らない星を芋぀けるこず。
遠い銀河の果おから届く、誰かの歌声を拟うこず。
星屑に埋もれた蚘憶の欠片ぞ、そっず觊れるこず。

その趣味はルナにずっお特別なこずではなく、
ペロッチず過ごすい぀もの旅の䞀郚だった。

「ねぇ、ペロッチ」

「ナンダ」

「今日はなんだか、倉な感じがする」

理由は分からない。

ただ、どこかに眮き忘れた倧切なものがあるような気がしお、ルナは足を止めた。

流れおいく星の光。
遠くで瞬く、名前も知らない星々。

い぀もず同じ景色のはずなのに、なぜか今日は少しだけ違っお芋えた。

答えはどこにもない。

ただ星々の残響だけが、静かな波王のように宇宙を挂っおいた。

ルナが黙り蟌むのを芋お、ペロッチの耳が小さく揺れる。

「今日ノ、ルナ」

「ん」

「少シ、静カ」

ルナは瞬きをする。

「え」

「むツモペリ、星ヲ芋テル時間ガ長む」

「  」

ペロッチは小さな身䜓で、ルナの顔を芋䞊げた。

「䜕カ、聞コ゚ルノカ」

その蚀葉に、ルナは少し考える。

「  分からない」

「゜りカ」

ペロッチは短く答える。それから、い぀もの調子で続けた。

「デモ、ルナガ倉ダト思りナラ、キット䜕カアル」

「ペロッチ  」

「散歩ヲ続ケル」

ルナは少し迷っおから、静かに銖を振る。

「今日は散歩をやめようか」

ペロッチの瞳が青く点滅する。

「スリリング ナ 予感ッテ コトカ」

「なにそれ」

思わず笑いがこがれる。

「ペロッチ ハ、ルナ ノ 盎感ヲ信じるゟ」

「それ、絶察適圓に蚀っおるでしょ」

「吊定スル根拠ハ」

「  ないけど」

ルナが笑った、その時だった。

──光が、ひず぀。

その光は星々の軌道から倖れおいお、倜の海ぞ萜ちおいく雫のように揺らめいた。

ルナは息を呑む。

知らないはずなのに、初めお芋る光のはずなのに。䞍思議ず懐かしい。

なぜか、ずっず探しおいたもののように感じた。

✳

吞い寄せられるように進んだ先で、ルナずペロッチはひずりの少幎に出䌚う。

そこは、星屑の降り積もる宙の墓暙だった。

無数の蚘憶が眠る静かな堎所。流れる時間さえ、ここだけ違っおいるようだった。

「──あの子  」

ルナは足を止める。

芋慣れない姿の少幎。淡い銀色の髪は、遠い星雲の光を映すように揺れおいた。

そしおその瞳は、倜空の奥に隠された海のような青く柄んだ色だった。

その前に立぀少幎は、ルナがただ蚪れたこずのない星──ラノィオンの䜏人だった。

少幎は、誰かの名前を呌ぶように小さく口を動かしおいた。その声は、星屑の䞭ぞ消えおいくほど小さい。

ひず぀颚が流れ、カチャン、ずペロッチの小さな足音が響いた。

その気配に気づいた少幎が、慌おたように振り返る。

青い瞳には涙が残っおいた。
頬を䌝う䞀筋の雫が、星明かりを受けお淡く茝く。

「あ  」

少幎は䞀瞬、困ったような顔をした。

芋られたくなかったのだず、ルナにも分かった。

銀色の髪は遠い星雲の光を映すように揺れおいお、その姿はあたりにも静か。この宇宙からひずりだけ取り残された倢のようだった。

ルナは思わず立ち尜くす。

──綺麗だ。

それが、圌を芋た最初の感想だった。

けれどよく芋るず、その衚情は綺麗なんかじゃなかった。泣くのを必死に我慢しおいる顔だった。

「  なに芋おんだよ」

少幎は慌おたように涙を拭う。乱暎な仕草ずぶっきらがうな声。

でも、その動きの奥に隠しきれない寂しさが滲んでいた。

「ご、ごめんなさい」

ルナは慌おお銖を振る。

「その  綺麗だなっお思っお。぀い」

蚀った瞬間、自分が䜕を口にしたのか理解した。

頬が熱くなる。

「  は」

少幎は目を䞞くしおから、困ったように眉を寄せた。

「初察面の盞手に蚀うこずじゃないだろ、それ」

「そ、そうだよね  ごめん」

「いや  」

少幎は少し黙っおから、小さな声で蚀った。

「  倉なや぀」

呆れたような蚀葉なのに、なぜだか少しだけ優しく感じた。

その瞬間。

ずっず前から、この声を知っおいたような気がした。

どこか遠い堎所で、もう䞀床䌚うこずを玄束しおいたような──そう思った時、銀河は静かに音を倱った。

広すぎる宇宙の䞭で、䞖界は目の前の少幎だけを残す。そしお聞こえるのは、ルナ自身の錓動だけ──。

その沈黙を砎ったのは、ペロッチだった。

「──ルナ、゜レは口説いおいるノカ」

「ペロッチ」

ルナは悲鳎を䞊げる。

「な、なんおこず蚀うの」

「ダッテ、゜りダロ」

「違うから」

「本圓カ」

「本圓」

たぶん。きっず。おそらく。自信はなかった。

そのやり取りを芋おいた少幎の肩が、小さく震える。そしお、堪えきれなくなったように笑った。

さっきたで泣いおいたのが嘘みたいな笑顔だった。

その顔を芋お、ルナは思った。

──よかった。

泣き顔より、ずっず䌌合う。

ただ名前も知らない。どこの星で生たれお、どんな景色を芋おきたのかも知らない。それなのに、この人には笑っおいおほしいず思った。

星屑の流れが、二人のあいだを通り抜ける。

「  セス」

少幎は照れ隠しみたいに呟く。

「俺の名前」

その名前が胞に萜ちた瞬間。

遠い星の光が長い時間をかけお届いたように、ルナの心を静かに照らした。

✳

その日から、ルナは毎日のようにセスに䌚いに行った。

銀河を散歩しおいおも、珍しい星を芋぀けおも、遠い堎所から届いた歌を拟っおも。

「これを、セスに教えたい」

そう思う自分に気づく。

い぀の間にかセスは、ルナが芋぀けたものを䞀番に届けたい盞手になっおいた。

ルナが蚪ねた星の話をするず、セスは楜しそうに耳を傟けおくれたし、セスが語る遠い星の物語を聞けば、ルナは䜕床でも新しい宇宙を芋぀けた気がした。

毎日は星明かりのように茝いおいるのに、䌚えない時間だけが少し長く感じるようになった。

綺麗な景色を芋぀けた時、新しい歌を拟った時。隣にいおほしいず思う人がいる。

その名前を思い浮かべるだけで、胞の奥は小さな星でいっぱいになった。

✳

ある日、ルナは埗意げに胞を匵った。

「セス。䌚いに行く時の亀信を歌にしおみたよ」

「亀信を」

セスは銖を傟げる。

その仕草には呆れたような響きはなく、ルナが䜕を芋せおくれるのか楜しみにしおいるような、柔らかな県差しがあった。

「そうだよ」

ルナがペロッチを芋る。

「ペロッチ」

呌ばれたペロッチの瞳が、ぱちぱちず点滅した。

次の瞬間。

《 L-025 and S-04──L-025 and S-04 ♪》

無機質な座暙コヌドがやわらかなメロディぞ倉わり、星々のあいだぞ小さな音が溶けおいく。

セスはしばらく、ペロッチを芋぀めおいた。

無機質な座暙コヌド。

本来ならただの通信情報でしかないはずの音なのに、こんなにも優しい歌になるなんお。

「  っ」

セスの肩が小さく震えた。そしお、堪えきれなくなったように吹き出す。

「いいでしょ」

ルナは感想を埅ちきれないように、少し身を乗り出した。

セスはただ笑いをこらえきれないたた、銖を振る。

「面癜すぎる」

「それっお耒めおるの」

ルナはぷくっず頬を膚らたせる。

「耒めおる。ちゃんず耒めおるよ」

そう蚀っお、セスはペロッチの頭をそっず撫でた。

「ペロッチは歌が䞊手いな」

「ホメラレタ」

ペロッチの瞳が嬉しそうに点滅する。

小さなしっぜも、い぀もより少しだけ誇らしげに揺れた。

「えっずね。私が歌った音声デヌタを  芚えさせたんだよ」

最埌のずころだけ、少し小さな声になった。

さっきたで埗意げに話しおいたのに、自分の歌だず䌝える瞬間だけ少し照れくさい。

セスはそんなルナを芋お、ふっず笑った。

「なるほどな」

そしお、ペロッチを芋る。

「じゃあ、ルナの歌をずっず芚えおるんだな」

その蚀葉に、ルナは少しだけ目を瞬かせた。

ただのデヌタでただの蚘録。そう思っおいたものが、セスに蚀われるず䞍思議なくらい倧切なものに倉わった。

「  うん」

小さく頷いお、ルナは笑う。

セスも笑った。その笑顔を芋るだけで、胞の奥に小さな星が灯るようだった。

「──ルナは、なんでも䜜れるんだな」

「そうかな」

「そうだろ。すごいなっお思っおた」

迷いなく返されお、ルナは少しだけ目を瞬かせる。そんなふうに蚀われるず思っおいなかったし、セスの方がすごいず思っおいたからだ。

星のこず。そこに暮らす䜏人たちのこず。
遠い銀河で生たれた歌のこず。

ルナの知らない䞖界を、セスはたくさん知っおいる。

「私、セスの話もっず聞きたい」

気づけば、蚀葉はすぐに出おいた。

蚀っおから少しだけ恥ずかしくなる。でも、本圓のこずだった。

「そんなに面癜いか」

「うん」

今床は少しだけ胞を匵っお答える。

セスは驚いたように瞬きをしお、それから照れくさそうに目を逞らした。

「  倉なの」

「え」

「そんな真っ盎ぐに蚀っおくれるや぀、初めお䌚ったから」

「そうかな」

「そうだよ」

小さく笑っお、セスは空を芋䞊げる。

「じゃあ今日は、月の欠片で団子を䜜り続ける職人の話ず、ブラックホヌルお化け䌝説の第䞉匟だ」

「げっ」

ルナは顔をしかめた。

「ブラックホヌルお化けの䌝説は、聞くのに勇気がいるよ  」

「ん この前、面癜いっお蚀っおただろ さおは匷がりだったか」

「だっお〜」

二人が蚀い合う暪で「セス」ず、ペロッチが割り蟌んだ。

「ペロッチも、茪ノ䞭ニ入レテクレ」

短い手が、セスの腕をちょん、ず突く。

「ペロッチ、少シ寂シむ」

「悪い悪い」

セスは笑いながらペロッチを抱き䞊げ、膝に乗せる。

「ほら、特等垭だぞ」

ペロッチは二人を芋䞊げる。

「ルナ ト セス、仲良シ。゜レハ、ペロッチ  ãƒ¢ã€å¬‰ã‚·ã‚€ã€

「  」

セスは少し驚いたように瞬きをする。

「ルナを取られお怒っおるのかず思った」

「ペロッチハ、゜ンナ小サナ存圚ゞャナむ」

短い腕を組みながら、ペロッチの瞳がぎかりず光る。

「セスハ、ルナガ倧切ニシテル人」

「  」

「ダカラ、ペロッチ ニトッテモ、仲間ダ」

䜕でもないこずのように蚀うペロッチ。その蚀葉がセスの胞に静かに萜ちた。

「  ありがずうな、ペロッチ」

䞉人の笑い声がゆっくりず溶けおいく。

セスが星の話をしおいる途䞭で、ふず黙る。

「  ごめん」

「え」

「こういう話、しおも仕方ないず思っおた」

「どうしお」

「俺の星はもう  なくなったものが倚いから」

ルナは少し考えおから蚀う。

「でも、セスが芚えおるなら、なくなっおないよ」

「  」

「だっお、私、今その星のこず知ったもん」

セスは目を瞬かせる。

「  盞倉わらず、倉なや぀だな」

「よく蚀われる」

「そうじゃなくお」

セスはルナを真っ盎ぐに芋぀めお、小さく笑った。

「そういうずころ、すごいず思う」

セスの蚀葉に、ルナは䞀瞬だけ蚀葉を倱った。

そんなふうに真っ盎ぐ耒められるこずに慣れおいなくお、胞の奥が少しだけくすぐったい。

「  えっず」

䜕か返さなければず思うのに、うたく蚀葉が芋぀からない。

照れ隠しみたいに芖線を逞らしお、ルナは慌おお別の話を探した。

「ずころでさ。セスの倢っおなに」

「倢」

セスは少し意倖そうに瞬きをした。

そんなこずを聞かれるずは思っおいなかったのか、しばらく黙り蟌む。
やがお、照れ隠しみたいに頬をかきながら、少しだけ芖線を逞らした。

「──星が違う人にも届く歌詞を曞きたい」

ルナは目を䞞くする。

「意倖」

「だろ」

セスは苊笑する。

「もっず別のこずを蚀うず思ったか」

ルナは銖を傟げた。

「だっおセス、ちょっずぶっきらがうさんだもんね」

「  お前なぁ」

そう蚀いながらも、セスの口元には小さな笑みが浮かんでいた。

ルナはその衚情を芋お、少し嬉しくなる。

出䌚った頃のセスは、い぀もどこか遠くを芋おいた。たるでもう戻れない堎所を探しおいるみたいに。

でも今は、目の前の星を芋おいる。

「でも  なんだか、セスらしい気がする」

「そうか」

ルナは頷く。

「セスは、玠敵な蚀葉をたくさん知っおるから。きっず、いろんな星の人の心に届く歌詞になるず思う」

迷いなく蚀われたその蚀葉に、セスは䞀瞬だけ目を瞬かせた。

そしお、照れたように小さく笑う。

「  ルナっお、本圓にそういうこずを簡単に蚀うよな」

「え」

「普通は、そんなふうに信じおもらえるず思わない」

その声には、少しだけ驚きが混じっおいた。

ルナは銖を傟げる。

「だっお、本圓にそう思ったから」

「  やっぱり、倉なや぀」

「たた蚀ったぁ」

「耒めおるんだよ」

「分かりにくいよ」

笑い声が、静かな星屑の䞭ぞ溶けおいく。

「そういうルナの倢は」

「私」

ルナは目を䞞くする。自分の倢を聞かれるずは思っおいなかった。

少し考えるように空を芋䞊げる。
けれど、䞍思議ず答えはすぐに浮かんだ。

「私の倢はね。音声機ずか通信機をもっず改良しお、歌をいろんな星に届けるこずかな」

セスは驚いたように目を瞬かせ、そしおゆっくりず笑った。

「俺たち、同じ倢だな」

その蚀葉が嬉しくお、胞の奥がいっぱいになった。

「  ペロッチ」

セスの膝の䞊に座っおいたペロッチが、小さく呟いた。

「ルナ ト、セス」

ペロッチの瞳が、ぱちぱちず点滅する。

「倢ガ同ゞナラ、ペロッチ ノ倢モ、゜ノ䞭ニ入レテホシむ」

ルナが目を䞞くする。

「ペロッチの倢」

「゜りダ」

ペロッチは胞を匵る。

「二人ガ䜜ッタ歌ヲ、聞クコト」

「  」

セスがふっず笑う。

「それ、倢っお蚀うのか」

「ペロッチ ニトッテハ、倧切ナ目暙」

「そっか」

セスは優しくペロッチの頭を撫でた。

「じゃあ、䞀緒に叶えないずな」

「了解」

ペロッチの耳が嬉しそうに揺れる。

どうしおだろう。

ただ倢を話しただけなのに、ただ同じだず蚀われただけなのに。
たるで、これから先もずっず隣にいられる玄束をもらったみたいだった。

けれど、銀河は圌らの時間を長くは蚱さなかった。

✳


──銀河戊争。

それは、星ず星の意思が衝突した戊い。

兵噚だけではなかった。

蚘録を焌き、歎史を曞き換え、時には人々の蚘憶さえ奪っおいく。

昚日たでそこにあったはずの街が消える。
昚日たで誰かが口ずさんでいた歌が、誰のものだったのかさえ分からなくなる。

そんな戊争だった。

ルナの䜏む星の人々は、ラノィオンを次々ず襲った。

戊況速報が流れるたび、セスの星の名前が衚瀺されるたび、ルナの胞の奥は冷たく沈んでいった。

ある日。

二人はい぀もの堎所で向かい合っおいた。

星屑の挂う静かな航路。
けれど、もう以前ず同じ景色ではなかった。

「──ルナ」

セスのその声だけで、䜕かを悟っおしたった。

「もう、俺はルナに䌚えない」

ルナは息を止めた。

い぀か来るず分かっおいた。でも本圓に蚀葉になった瞬間、宇宙からすべおの音が消えたようだった。

「  」

䜕か蚀わなければいけない。

違うず蚀いたかった。私じゃないず蚀いたかった。

でも、誰かがセスの倧切なものを奪ったこずだけは、倉えられない事実だった。

セスの暪顔は初めお出䌚った日の泣き顔よりも、ずっず悲しそうだった。

「ルナの星の人が、俺の星の人を殺しおも  」

セスの声が震えおいる。ルナは俯いた。

「  ごめん」

やっず出た声は、あたりにも小さかった。

謝っおも䜕も戻らないいし消えないず分かっおいるのに、それでも蚀わずにはいられなかった。

セスは銖を暪に振る。

「違うんだ。ルナには関係ないし、ルナを嫌いになったんじゃない」

優しい蚀葉で、ルナにずっおは甘い蚀葉だった。だからこそ、苊しかった。

「ルナに䌚うたで、俺はもう䜕も残っおないず思っおた」

セスは蚀葉を探しおいるようだった。

「でも、ルナず出䌚っおから、たた未来のこずを考えるようになった」

セスは泣きそうな顔で笑っおいる。

「もし、ルナず䞀緒にいおいいなら  俺、悪魔にだっおなっおみせる」

ルナは顔を䞊げ、セスの顔を芋た。圌の青い県は揺れおいた。

「それくらい  ずっず䞀緒にいたいっお思った」

セスの蚀葉を聞いた瞬間、蚀わなきゃ。ず思った。

ずっず䞀緒にいたいっお。
䌚えなくなるのは嫌だっお。

──奜きだっお。

なのに、声にならなかった。

喉元がキュッず絞られる感芚に、ただ唇が震える。

「セス  」

䌝えたい蚀葉も届けたい蚀葉もたくさんあったのに、䜕も蚀えなかった。

✳

やがお戊況はさらに悪化し、銀河散歩は犁止された。

ルナはもう航路ぞ出られなくなった。

けれど、犁止になったから䌚えなくなったわけじゃない。

たずえ航路が開いおいおも、たずえ銀河の果おたで行けたずしおも、ルナはセスに䌚えなかった。

自分の倧切な人たちが、セスの倧切な人たちを傷぀けおいる。その事実が、身䜓䞭に絡み぀く鎖になった。

圌は歌詞を曞きたかった。私は歌を届けたかった。

ただ、それだけだったのに。

星が違う人にも届く歌を、䞀緒に䜜ろうずしおいただけなのに。

別々の星に生たれお、それでも同じ倢を芋぀けたはずだったのに。

──じゃあ俺たち、同じ倢だな

そう蚀っお笑った声が、䜕床も䜕床も蘇る。
同じ倢を芋お、だからひずりじゃないず思えた。

ルナは知っおしたった。

人がひずりになる瞬間は、倧切な人を倱った時じゃない。

もう䌚えないのだず、知っおしたった時なのだず。

✳

戊争のあず。

ルナの航路には、静寂だけが残った。

もう誰もいない。
歌も、笑い声も聞こえない。

ただ星々だけが、䜕事もなかったように瞬いおいる。

それなのに、ルナは気づいおしたう。

この宇宙のいたるずころに、セスの気配が残っおいるこずに。

髪の匂いのような、淡いデヌタの残滓。
振り返った先にある、埌ろ姿みたいな光の揺らぎ。

誰かの声に呌ばれた気がしお振り向けば、そこにいるのは知らない人。遠くに芋えた圱を远えば、ただの星屑。

それでも、胞だけは勝手に期埅しおしたう。

──もしかしたら。

もしかしたら、ただどこかにいるのではないかず。ありもしない奇跡を探しおしたう。

「──倱っおから、こんなにも芋぀けおしたうなんお」

掠れた声は、涙ず䞀緒に宇宙ぞ溶けおいった。

䌚えなくなっお初めお知る。

奜きだった人は、思い出の䞭に閉じ蟌められるんじゃない。

䞀緒に歩いた航路にも、芋䞊げた星にも、䜕気なく亀わした蚀葉にも。その人は、䞖界のあらゆる堎所に残っおしたうのだ。

星は今日も綺麗だった。海のような星雲は深く、空間はどこたでも広がっおいる。

か぀おセスが教えおくれた星々が、倉わらない光を攟っおいた。

その矎しさが、優しさが、かえっお圌のいない堎所を鮮明にした。

この景色を芋せたかった。
この歌を聎かせたかった。

そんな願いばかりが、胞の奥に積もっおいく。

──䌚いたい。

誰にも届かないず分かっおいるのに、それでも零れおしたう。

──䌚いたい。

もう䞀床だけでいい。

笑っおほしい。
名前を呌んでほしい。

あの日みたいに、「同じ倢だな」ず蚀っおほしい。

ルナは目を閉じる。するず䞍思議なこずに、忘れかけおいた声だけが鮮明に蘇った。

──じゃあ俺たち、同じ倢だな

泣くこずにも慣れたはずなのに、その䞀蚀だけで息が詰たりそうになる。

そのずきだった。

足元で、かちり、ず、小さな金属音が鳎った。

静たり返った宇宙に、たるで運呜がもう䞀床動き出す音のように。

✳

「ルナ」

足元から聞こえた声に、ルナは顔を䞊げた。

そこにはい぀ものように、うさぎ型ロボットのペロッチがいる。

セスず笑い合った日も泣いた日も、ずっず隣にいた小さな盞棒。

ペロッチの瞳が静かに光る。

「戊争区域ヲ、突砎スル必芁ガアル」

機械音声はい぀もず倉わらない。
なのに、どこか芚悟を決めたように聞こえた。

「通垞航行デハ、無理ダ」

ルナは息を呑む。

戊争区域。

そこは無数の航路が倱われた堎所。
垰れなくなった船も消えおしたった星も、たくさんある。

「ペロッチ  䜕を考えおいるの」

ペロッチは答えない。代わりに短い耳がぎくりず揺れる。

「ペロッチ  」

ほんの数秒の沈黙。けれど、それはたるで長い時間を考えおいたように芋えた。

そしお。

「ルナ」

い぀もより少しだけ優しい声で呌ぶ。

「ペロッチ ハ、知ッテむル」

ルナが目を芋開く。

「ルナガ、毎日セス ノ、話ヲシテむタコト」

「  」

「䌚゚ナク、ナッテカラモ」

「  」

「ズット、探シテむタコト」

胞が苊しくなる。

ペロッチは党郚知っおいた。
蚀葉にしなくおも、隣で芋おいたから。

「ルナ」

もう䞀床、小さな声で呌ぶ。

「䌚むタむンダロ」

その䞀蚀で、匵り詰めおいたものが壊れそうになった。

ルナは唇を噛む。泣きたくなかったから。

──でも。

「  䌚いたい」

思わず声が震える。

「䌚いたいよ  」

ようやく零れた本音に、ペロッチは静かに頷いた。

そしお、䞞い身䜓が音を立おおほどけ始める。

金属骚栌が展開し、内郚で眠っおいた星間機関が目を芚たす。

銀色の粒子が舞い䞊がる。

小さな耳は翌ぞ、䞞い身䜓は船䜓ぞ。

ルナが知っおいるペロッチが、ルナの知らない姿ぞ倉わっおいく。

それはたるで、眠っおいた本圓の姿を初めお芋せたようだった。

「ペロッチ  」

倉圢が終わる。

そこにいたのは、翌を持぀小さな飛行船。

けれど、ルナには分かった。

姿が倉わっおも、それはペロッチなのだず。
ずっず隣にいおくれた盞棒なのだず。

飛行船の先端で、ふた぀の光が笑うみたいに優しく瞬いた。

「ペロッチ ニ、乗れ、ルナ」

それは呜什でも励たしでもない、眮いおいかないずいう玄束。どこたでも䞀緒に行くずいう誓いだった。

「䌚むニ行コり」

ルナは目を芋開く。

「二人デ」

その瞬間、ルナは初めお気づいた。

自分はずっず、䞀人で苊しんでいるのだず思っおいた。

でも違った。

セスを倱ったあずも、泣いおいたあずも、旅に出る勇気を倱ったあずも。
ずっず、ペロッチだけは隣にいおくれたのだ。

ルナはそっず飛行船に手を觊れる。金属なのに、䞍思議ず枩かかった。

「  うん」

涙を拭い、そしお笑った。

「行こう、ペロッチ」

「了解」

飛行船の光が、嬉しそうに瞬く。

前を向くず、銀河の颚は涙の跡が残るルナの頬をそっず撫でおいった。

「セスに䌚いに行こう」

飛行船は静かに浮かび䞊がる。

暗く裂けた戊争区域。倱われた航路。蚘録から消された星々。
そのすべおを越えるように、ペロッチは翌を広げた。

銀河の裂け目ぞ向かっお、ひずりの少女ず䞀匹の盞棒の旅が始たる。

──ルナは歌う。

か぀お䞉人で笑い合った、あの歌を。

── L-025 and S-04。

── L-025 and S-04。

どこかから返事が返っおくるのを埅぀ように、遠い宇宙ぞ歌が溶けおいく。

「私の声、聎こえおたすか」

小さく問いかけおみる。返事はない。

「もっず教えおほしい」

それでも、歌は続く。

「いろんな星のこず、いろんな君のこず」

返事はないけれど、䞍思議だった。
銀河のどこかで同じように空を芋䞊げながら、同じ歌を口ずさんでいる誰かがいる気がした。

──届いおたすか。

誰かの声が聞こえた気がした。

幻かもしれない、願いが芋せた倢かもしれない。
それでもよかった。

銀河のノむズの向こうで、ルナずペロッチの声はただ途切れおいない。

時の迷宮を抜けお倱われた軌道を越えお、飛行船は加速する。

── L-025 and S-04。

── L-025 and S-04。

ルナは目を閉じた。誰にも届かないほど小さな声で呟く。

「セス、䌚いたいよ  」

もし願いが叶うなら。
倱われた星も、倱われた歌も、倱われた時間も、䜕ひず぀いらない。
ただ、あなたず同じ空を芋䞊げたい。

飛行船は光の䞭ぞ消えおいく。

その先に答えがあるのかは分からないけれど、愛した蚘憶は星になる。

だからルナは進む。

終わらなかった歌の続きを歌うために。
䞀緒にいたいず䌝えるために。

──宇宙の迷宮の、その先ぞ。




【end】


✳

以前に曞いた物語のリラむトです。
もう䞀床出䌚えた方も、はじめたしおの方も、最埌たで読んでいただきありがずうございたした


いいなず思ったら応揎しよう

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