「わたし、メリーさん。」
「わたし、メリーさん。いま、あなたのおうちの前にいるのん、、、。」
ーーーは?
三歳の息子カイが突然、メリーさんの都市伝説を仕入れてきた。ここ、ニュージーランドなんだけど。
「わたし、メリーさん。いま、あなたのおうちの中に入ってきたのん、、、。」
語尾が非常に気になる。ちょっと笑いそうになるが、おそらく笑ってはいけない。彼はわたしを怖がらせたいのだ。
「わたし、メリーさん。階段をのぼります、、、。」
なんだか、律儀なメリーさんである。泣けてくる。
「わたし、メリーさん。いまリビングにいるのん、、、。」
ーーーえ?リビングにいるの?!
わざと大袈裟に驚いてみせる。ニヤニヤする、カイ。楽しそうでなによりである。
頑張れよ、オチを失敗するなよ。と、彼の成功を心の中で祈る。そうじゃないと、拗ねてものすごくめんどくさくなりそうな予感しかない。
「わたし、メリーさん。いま、あなたの、、、うしろにいるのん!!!!!」
ーーーえええぇぇえ?!?!
ぐるりと振り向く。もちろん、何もいない。
ーーーいない、、、よかった。なにこれめちゃくちゃ怖いじゃん。やめてよ!こわいよ!!
カイは非常に満足そうである。幼稚園にいる日本人のお友達から教えてもらってきたらしい。どうでもいいことばかり、覚えてくる。
ーーーあれ?ねぇカイ、後ろの窓になんか反射してるね?
外は真っ暗。部屋の中やカイとだらしないわたしの姿が窓に映っている。
ん?と振り返る、カイ。
ーーーあそこにいるの、メリーさんじゃない?
と、わりと「そこにテントウムシいるよ。」くらいのテンションで言ったのだが、これが間違いだった。
「いやだぁぁぁああああああああ!!!!」と顔面蒼白になって、本気で怖がりはじめてしまったのである。
やってしまった。ミイラ取りがミイラになってしまったよ。
ウチにはらーちゃんとちゅらがいるから、メリーさんは来ないよ。ワンがいるおうちには、吠えられるからメリーさんは入って来られないんだよ。と、慰めてもイマイチ腑に落ちていない。
「でも、、、でも、、、。」となんだか不安そうである。厄介なことになった。
ーーーじゃあさ、どうしたらいいと思う?こういうときはね、こわがってても仕方ないから、メリーさんが来ちゃった場合にどうやって帰ってもらうかを考えよっか。
わたしは、三歳児に交渉術を教えることにした。息子よ、生きていると現実にメリーさんみたいにめんどくさい輩に出会うことだってあるのだ。
まず考えるべきは、メリーさんの目的である。なぜ、メリーさんが尋ねてきたのかその背景を最大限に想像する必要がある。メリーさんの立場になるのだ。
おそらく『寂しい』ので、自分のいる死の世界へ引き込みたいのであろう。つまり、我々はこのクライアントの『寂しさ』を解決する提案を受け入れさせる必要がある。
ーーーメリーさんはきっと寂しいんだよ。だから、一人でも寂しくないように、なにかカイのものをあげればいいんじゃないかな?
知らんけど。
「絵本とか、ピカチュウとか、、、?」
ーーーそうだね。ピカチュウと絵本があれば、寂しくないかもね。あと、ぬりえとかもいいんじゃない。きっとメリーさん、ありがとうって嬉しくなって成仏して、天国にもいけるかも。そうなったら、みんなハッピーだね。
「うん!!!!」
一件落着。本当はメリーさんの上に親玉みたいな妖怪がいて、月々の連行人数ノルマを課されている可能性もあるが、今回それは検討しないことにした。
それにしても、子どもとは面白いものである。幼稚園にいるもう一人の日本人、ジュリのママに連絡をする。
ーーーねぇ、カイが今日、メリーさんの都市伝説をジュリから仕入れてきたからびっくりしちゃったよ。今、はまってるの?普通にこわかったw
「え?ジュリそんなの知らないと思うけど。」
わたしは急いでカイを探した。
