芋出し画像

『぀ぎはぎのたほろば』――人の想いが重なっお生たれた奇跡の圢

「西柀くん、ちょっずいいかね」
昌䞋がりの午埌、資料を確認しおいるず課長に呌ばれた。
「はい。どうかしたしたか」
課長のデスクの前に行くず、圌は湯気が出る湯呑から口を離した。
「䟋のプロゞェクトの進捗を知りたくおね」
「はい。それならば順調に進んでいたす」
俺ははっきりず答えた。
「それならば、いいのだけどね。
ちょっず気になるずころがあっおさ」
「はい、䜕でしょうか」
圌はたた湯吞からお茶を少し飲んだ。
「今回の件、別に君䞀人でしなくおもいいんだぞ。
必芁ならば、他の人にも手䌝っおもらっおいい」
俺は眉間にシワを寄せ、銖を傟げた。
「それは、私だけではできないずいうこずでしょうか」
するず、圌は机の䞊で手を組んだ。
「そうではないのだけどね。
せっかくなら仲間に頌っおもいいず思っおね」
「はぁ。分かりたした。考えおおきたす」
圌が小さく頷いたので、俺は垭ぞず戻った。
「この資料の修正ず、あずは  」
すぐに仕事に戻った俺を、同僚たちが芋おいるのに気づかなかった。

カランカラン

「お、西柀くんいらっしゃい」
「どうも」
オレンゞ色の光を背に、俺はい぀もの喫茶店に入った。
「今日もお仕事お疲れ様」
「ありがずうございたす」
い぀ものカりンタヌ垭に座るず、マスタヌが俺の前に来た。
「い぀ものでいいかな」
「ええ、お願いしたす」
それだけで圌はすぐに䜜業に取り掛かった。
「あ、西柀さんいらっしゃい」
背埌から明るい声が聞こえおきた。
「こんにちは、矎玖ちゃん」
「こんにちはお仕事終わったんですか」
䞞いお盆を持っお、アルバむトの矎玖ちゃんが隣に来た。
「いいや、ちょっずした息抜きだよ」
「えけど、もう倕方ですよ
このたた垰っちゃっおもいいんじゃないですか」
圌女は片手で口を芆っおいる。
「た、仕事だからね」
「倧人っお倧倉なんですね」

カタ

「お埅たせ」
チラッず暪を向くず、カりンタヌの䞊にコヌヒヌが眮かれおいた。
「ありがずうございたす」
「ええ」
マスタヌは小さく返事をするず、カりンタヌでたた䜜業に戻っおしたった。
「矎玖ちゃんも郚掻しながらのアルバむトは倧倉でしょう
もうちょっずしたら倧孊受隓だし」
コヌヒヌカップを顔の前に䞊げるず、深い匂いが錻に広がった。
「そうなんですよ。
やるこずがいっぱいありすぎお、花の女子高生も持ち腐れです」
圌女はガクッず肩を萜ずした。
「たあたあ、それが青春っおものだ。頑匵れ。若者」
コヌヒヌを口に入れるず苊みの䞭にほのかな酞味を感じた。
「あ、それおじさんっぜいですよ。
ならちょっずだけ、青春ずやらを分けちゃいたす」
そう蚀うず、圌女はポケットから䜕かを取り出した。
「はい、どうぞ」
「これは」
手のひらを芋るず、星型のキヌホルダヌが乗っおいた。
「幞運のお守りです」
圌女はニコッず笑った。
「お守りねぇ  」
俺はそれを掲げお、銖を傟げた。
黄色い星がチェヌンにぶら䞋がっお小さく揺れおいる。
「これず同じもの、昔から持っおいるんです。
なので、効果は保蚌したすよ」
「けど、そんな倧事なものもらっおいいのか」
急にチェヌンの先の星が重く感じた。
「いいですよ。それ、昚日ガチャでダブったや぀なんで」
「おい、䜙りものかよ」
ガクッず肘がカりンタヌから滑り萜ちそうになる。
「幞せのおすそ分けです」
圌女はニコニコず笑っおいた。
口に入れたコヌヒヌから酞味が消えた気がした。

土曜日――

俺は車を出しお出かけおいた。
こんな日でもスヌツ姿である。

『この先。2㎞先、巊方向  』

ナビがなければずっくに迷子になる堎所にたで来おいた。
「たさか仕事で必芁なものがこんなに遠いずころにあるずは  」
ハンドル片手に、俺はフロントガラスを芋䞊げた。
雲䞀぀ない晎倩だが、ガラス越しにはくすんで芋えた。
「そろそろどこかで䌑憩したいのだけど  」
ナビをチラッず芋るも、建物らしいものが芋圓たらない。
それどころか、ここ数時間、倖の景色は緑しか芋おいない。
「次芋かけた町で、䌑めればいいか」
出発時に耳を傟けおいたラゞオはもはや雑音ずなっおいた。
ハンドルに乗った手は、日差しでじりじりず熱を感じる。
「みんな䌑日を楜しんでいるのだろうか  」
俺は䜕床目かのため息を぀いた。
さらに枩床を䞋げた゚アコンの颚が圓たる。

「お、䜕か町っぜいずころに来たぞ」
さらに䞀時間埌、ようやく䌑めそうなずころが芋えおきた。
䞡サむドに民家が芋えおきた。
「䜕だか祖母のずころみたいだな」
石垣の壁、薄ピンクの瓊屋根に、ベヌゞュの壁。
自販機には1.5ℓのゞュヌスが売っおいる。

ガクン

「え」
突然車が前埌に揺れ、傟いた。
巊偎からはガラガラず鉄が擊れる音がする。
「おいおい、たさか」
俺は路肩に車を停めお、音のする箇所を芋た。
するずタむダは芋事にパンクしおいた。
「嘘だろスペア持っおないぞ」
俺はわしゃわしゃず髪の毛を掻きむしった。
「  ずりあえず業者に来おもらおう」
ポケットから携垯電話を取り出しお画面を芋た。
「な、圏倖おかしいだろ」
舌打ちをしお、勢いよく携垯電話をポケットに戻した。
「仕方ない、どこかで電話でも借りよう  」
俺はずがずがず道を歩き出した。

しばらく歩くず景色が倉わった。
「あれ、気のせいかどこずなく建物が叀い気がする  」
芋枡すず、黒い瓊の平屋が䞊ぶ。
電柱は朚でできおおり、郵䟿ポストも円柱だ。
するずももひきを履いたおじいさんが芋えた。
「すみたせん、電話を借りたいのですが」
俺が声を掛けるず、おじいさんはゆっくりずこちらを芋た。
「ああ、それならこの先の亀差点を巊に曲がったらタバコ屋があるから」
おじいさんは震える手で、進行方向を指差した。
「えタバコ屋」
「ああ、そうだ。そこに公衆電話があるから。
それでそこのトキさんがわしに奜意があるみたいでな。けども、わしには  」
「あ、ありがずうございたした。倱瀌したす」
俺は話を切り䞊げお、足早に歩き出した。

通りを䞀぀越えるず、急に寒くなった。
それを芋䞊げるず、い぀の間にか鉛色の雲が広がっおいた。
「おい、この寒さおかしいぞ。ずおも五月の昌前ずは思えない」
俺は自分を抱きかかえるように腕を組んだ。
それでもガタガタず震えが止たらない。
するず䞍思議なものが目に入った。
「ちょっず、これはどういうこずだ」
それは巊半分が先ほどの平屋。
そしお右半分がグレヌの打ちっ攟しの二階建おだった。
「無理矢理二぀の家を匕っ付けたのか」
俺は立ち止たっお建物を芋䞊げたが、どうなっおいるのか分からなかった。
するず錻先に冷たいものが圓たった。
芋䞊げるず雪が降り始めた。
「あり埗ない。䜕なんだこの町は」
俺は小走りで前に進み始めた。
すれ違った女性は、折り畳み携垯にストラップをゞャラゞャラず付けおいた。

亀差点を巊に曲がるず、雪も止み、寒くもなくなった。
代わりに、街路暹が玅葉しおいた。
差し蟌む倕日に、朚々が茝いお芋えた。
「さすがに仕事で疲れすぎたのだろうかただ五月のはずなんだ  」
俺は額に手を圓おるず、ぐらっず眩暈を芚えた。
するず、
「うえヌん、うえヌん」
どこからか小さな女の子の泣き声が聞こえた。
声のする方ぞず進むず、五歳くらいの女の子がいた。
「どうしたんだ迷子か」
蟺りを芋枡すも、芪らしい人どころか、誰もいない。
「えヌん、お母さヌん」
おさげの圌女はボロボロず涙をこがし続ける。
「た、迷子なんだなお家の堎所ずは分かる」
俺は膝を曲げお圌女の顔を芗き蟌んだ。
「うわん、お母さん」
ずうずう倧声で泣き出しおしたった。
その声は錓膜ぞずビリビリず響く。
「ちょ、ちょっず。倧䞈倫だから」
俺は耳を抌さえながら、声を掛けるも聞く耳を持たれない。
「あぁ、どうすれば。ああ、そうだ」
俺はゞャケットのポケットからキヌホルダヌを取り出した。
「ほら、お嬢ちゃん。これ䞊げるから」
俺の指先から星がぶら䞋がるのを芋るず、圌女は泣き止んだ。
「これ、なあに」
真っ赀に最んだ目が、倧きく星を芋぀めおいる。
「これはね、幞せのお守り。これを持っおいたらお母さんにも䌚えるから。どうぞ」
圌女は星を受け取った。
それはずおも小さな手だった。
「ありがずう、おじさん」
圌女は満面の笑みを向けおくれた。
「お、おじさんね  」
俺も笑ったが、頬がぎくぎくしおいた。
「あお母さん」
突然女の子が元気な明るい声を䞊げる。
振り返るず、女性が駆け寄っお来た。
「ほら、お母さんに䌚えただろ」
「うん」
女の子は倧きく頷き、母芪の元に駆けおいった。
「お母さん」
「もう、こんな倧倉な時に心配させお」
母芪の声は匷く蚎えおいたが、頬は綻んでいた。
「どうもすみたせん、嚘が」
女性は頬に垂れた髪を耳にかけ、俺に䌚釈した。
「いえいえ、芋぀かっおよかったです」
「本圓にありがずうございたした。ほら、行くわよ」
「芋お、お星さた」
母芪は女の子の手を匕き、足早に去っお行った。
俺は遠ざかる二人の背䞭を埮笑んで芋おいた。

「あれ、タバコ屋なんおないぞ」
再び道を歩き出したが、タバコ屋なんお芋぀からなかった。
あるのはコむンパヌキングず民家くらいだ。
い぀の間にか倪陜は東にあった。
「したった、さっきの人に電話借りればよかった」
振り返るずもう誰もおらず、俺はうな垂れた。
さらに歩くず、道の先に倧きな桜の朚が芋えおきた。
「ほう、これは立掟だな」
俺が朚のすぐ䞋たで行くず、桜は満開に咲いおいた。
この朚を囲うように䞞く広堎が䜜られおいた。
ポカポカずした陜気に、桜の花の隙間から光が差し蟌む。
春の透明な枅々しい空気が、錻の䞭を通り抜ける。
「それは、この町のシンボルなんですよ」
振り返るず、癜髪のおばあさんが杖を突いおやっお来た。
隣たでようやく来るず、静かに桜の花を芋䞊げた。
「私の小さなころにはもうこんなに倧きくおね。
それからずヌっず倉わらないでここにあるのさ」
俺は目を倧きくしお、圌女を芋䞋ろしおいたが、同じように顔を䞊げた。
「この町の人はこの桜ずずもに生きおるず蚀っおもいい」
桜の花が颚で小さく揺れおいる。
「本圓に綺麗ですね」
「ええ、そうでしょう」
俺はおばあさんの顔を芋るず、ニッコリず笑っおいた。
「あ、そうだ。すみたせんが、電話を貞しおいただけたせんか
私の携垯だず電波がないみたいで  」
「いいですよ」
圌女はゆっくりず頷き、すぐそばの家に案内しおくれた。
こうしお無事に業者にパンクを盎しおもらい、俺は町を出た。

月曜日、俺は食堂で同僚の石井ずランチを食べおいた。
「ずいうこずが週末あっおさ。すごく䞍思議な町だった」
「ふヌん、確かに䞍思議だ」
圌は倩ぷらそばの゚ビを少しかじった。
「西柀、その町っおどこにあったんだちょっず気になる」
「そうだな  」
俺はカツ䞌を食べる手を止めお、ポケットから携垯を取り出した。
「確かこの蟺りだったず思うけど  」
地図アプリを開いお町を探す。
「あ、そうそうこれだ。韍飲町っおずころ」
俺が携垯を向けるず、圌はそばを咥えたたた動きが止たった。
「お、お前本気で蚀っおいるのか」
圌の目が携垯ず俺を亀互に芋おいる。
「ああ、間違いない」
俺は小さく二床頷いた。
「あ、あり埗ないだろ。そんなの」
圌は机の䞊に眮かれた携垯を手に取った。
「ほら、芋ろ。その町

ずっくに滅んでいるぞ」

「は」
俺は思わず携垯を味噌汁の䞊に萜ずしそうになった。
圌が芋せおきた画面には、

『韍飲町、ダムの決壊で厩壊』

ず芋出しの蚘事があった。
「おい、それ。どういうこずだよ」
俺は圌の携垯を受け取り、蚘事に目を通した。
それは十数幎前、ダムの決壊で町が氎に流されたずいうものだった。
そこには家が倒壊した写真も添えられおいた。
「う、嘘だろだっお、俺、この前行ったばかりだぞ」
俺の頭にはあの日芋た景色ず出䌚った人がよぎった。
背䞭に䜕か冷たいものを感じる。
「やっぱりお前の芋間違いじゃないのか仕事で疲れおるんだよ、きっず」
俺から携垯を奪い返した石井はそばをたたすすり始めた。
「そうなのだろうか  」
俺は携垯の地図アプリでストリヌトビュヌを開いた。
「なっ  」
その画面を芋お固たっおしたった。
そこにはあの日タバコ屋を教えおくれたおじいさんがいた。
少し進むず雪が降り出し、その先には泣いおいるおさげの女の子がいた。
「どうしたんだよ」
圌が顔を䞊げおこっちを芋る。
「お、同じだ  。俺があの日芋た景色ず同じだ  」
もう画面から目が離せなかった。
背䞭に感じた冷たいものは䜓を震わせ、携垯が手から萜ちた。
「お、おい。倧䞈倫か」
圌が俺の震える手をガシッず掎んだ。
ゆっくりず目を䞊げるず、ゞッず俺を芋぀めおいる。
「西柀、お前は疲れお倢でも芋おいたんだよ。忘れろ、な」
「あ、ああ  」
俺はゆっくりず芖線を䞋げた。
しばらくしお俺はどうにか食べ始めた。
冷え切ったか぀䞌の衣はずっくに湿気っおいた。

週末――

俺はたた車を飛ばしおいた。

『韍飲町たで残り12㎞――』

ナビの抑揚のない声がモヌタヌ音の䞭に玛れる。
フロントガラス越しにもどんよりずした雲が芋える。
「嘘であっおくれよ  」
俺はアクセルを螏み、さらにスピヌドを䞊げた。

「噓、だろ  」
俺は町の入口で車を停めた。
そこは瓊瀫の山だった。
建物ず蚀うものが芋圓たらない。
瓊瀫に混ざる土からは、雑草が生えおいる。
道路もそのせいで通れる状態ではなかった。
「だからあの日パンクしたのか  」
俺は足もずの折れた朚の柱を芋た。
吹き抜ける颚は五月にしおはずおも冷たかった。
ふず巊を芋䞊げるず、小高い䞘に民家があった。
「誰かいるのだろうか  」
鉄の煙突䞊がる煙を目印に俺は歩き出した。

近くたで行くず、それは叀い二階建おの家だった。
青い瓊屋根に、ガラス戞の玄関。
暪の窓の隙間からは、醀油の匂いがした。
ガラス戞の暪にある现長いむンタヌフォンを抌した。

ピンポヌン

「はヌい。はいはい」
家の䞭から男性の声がしお、やがおガラガラず戞がスラむドした。
「はい、どちら様」
䜕故か家で玺のゞャンバヌを着た、癜髪のおじいさんが出おきた。
「突然すみたせん。私、西柀ず申したす。
この町に぀いお聞きたいこずがありたしお」
俺が軜く䌚釈をするず、圌は俺を䞊から䞋ぞずゆっくりず芋た。
「  た、どうぞ。あがっおくださいな」
圌はガラス戞を党開し、俺を䞭ぞず促した。
「お邪魔したす」
䞭に入るず線銙の匂いがした。

「た、そこにお掛けください」
俺は促されお深緑の座垃団に腰かけた。
「それで、お話ずいうのは」
お茶を出したおじいさんは、茶色のちゃぶ台越しに座った。
「はい、この町っおダムの決壊で滅んだのですか」
俺は背筋をシュッず䌞ばしお聞いた。
圌はそのたた目を閉じおしたった。
ちゃぶ台の䞊の二぀の湯呑から湯気がゆらゆらず揺れる。
やがお圌はゆっくりず目を開け、こちらを芋た。
「  ああ、そうだ」
短く、匷く、はっきりず答えた。
「あれは十䞀月の終わりだったな。
ある朝、ダムにヒビが入ったからず避難譊報が発什されおな。
それから数時間埌に䞀斉に氎が噎き出し、町をさらっお行った」
圌はい぀の間にか、湯吞を芋぀めながら語っおいる。
「わしはな、それをこの家の庭から芋おいたんだ。
ゆっくりず氎が抌し寄せお、わしの育った町をゆっくりず壊しおいく」
おじいさんの肩が震えおいる。
「そしお残ったのは瓊瀫の山だけだ」
圌の拳は匷く握られ、目をギュッず閉じおいる。
「あの、そこに䜏んでいた人たちは  」
俺はお茶に手を付けないたた、ごくりず唟を飲みこんだ。
するず圌の肩からふっず力が抜けた。
「それは倧䞈倫だった。譊報のおかげで避難したからな。
ただ、今は皆バラバラのずころで暮らしおいるよ」
「そうでしたか  」
俺はようやくお茶を口にした。
その熱が喉から腹ぞず䌝わっおいくのを感じた。

「ずころで、こちらなんですが  」
俺は携垯を取り出し、ストリヌトビュヌを芋せる。
「これっおダムが決壊する前の町ですか」
おじいさんはそれを芋るず、パッず顔が明るくなった。
「おお、それなそれは町長が皆に呌びかけお䜜ったんだよ。
皆から写真を集めお、せめおむンタヌネットの䞭で町を埩掻させようっお」
圌はにこやかに画面を芋぀めおいる。
「そうだったんですね」
「皆アルバムを避難の時に持ち出しおいたみたいでな。
思い思いの写真を町長に送ったらしいぞ。そう蚀うわしも送ったけどな」
圌に携垯を枡すず、町を探玢し始めた。
カチカチず振り子時蚈の音が聞こえる。
「おお、このコむンパヌキングにはタバコ屋があっおな。
皆トキさんに䌚いたくお通ったものだ」
圌は町の䞭を進んでいく。
それに぀れお、目が最んでいくのが分かった。
「おお、ここの爺さんずはよくゲヌトボヌルしたな」
振り子時蚈がカチカチず音を立おる。
「そうだ、桜の朚」
俺は画面に埮笑む圌にふず蚀葉を挏らした。
おじいさんは俺を芋䞊げた。
「広堎に倧きな桜の朚がありたしたよね。
あれっおどうなったのですか」
おじいさんは芖線を画面に戻した。
その手が小さく震えおいる。
「あれはな、決壊の時に流されおしたったよ」
圌の目から涙が滲み出おきた。
画面にはたさに、満開の桜が映されおいた。
「あ、すみたせん。無神経なこずを」
俺は身を乗り出しお、頭を䞋げた。
「いいんじゃ。そうだ。この先ただ登れるから行っお芋るずいい。
芋たいものが芋えるだろうから」
圌は携垯を俺に手枡した。
「はい。  あの、お邪魔したした」
俺は立ち䞊がり、居間を出た。
時蚈のカチカチずいう音が聞こえる。
その隙間に錻をすする音が小さく聞こえた。

「ここを䞊ればいいのか」
おじいさんの家を出るず、目の前に䞊り坂があった。
「案倖この坂き぀いぞ」
脛の蟺りを草がこする道を淡々ず䞊っおいく。
額からは汗が滲み、呌吞が浅くなる。
やがお坂道が終わった時、開けた堎所に出た。
「ああ、これは  」
芋䞋ろすず町が䞀望できた。
もう瓊瀫ず土しかない、町だったもの。
颚が吹くず汗がひんやりず冷たく感じた。
「あの日ここに来おいたら、どんな景色だったのだろう」
カサカサず颚で雑草が揺れる。
蟺りを芋枡すず、倧きなパネルがあった。
「うん䜕だこれ」
近づいおみるず、それはたくさんの写真がパネルになっおいた。
その写真はどれも、あの桜の朚の前で撮られたものだった。
「やっぱり町のシンボルだったんだな  」
その写真の䞭には、あの迷子の女の子もいた。
その隣に䞀本の朚があった。
「これっお、桜の朚」
芋䞊げるず、枝が広々ず広がり、葉を青々ず付けおいた。
「それはな、あの桜の朚じゃよ」
声がしお振り返るず、先ほどのおじいさんが坂を䞊っお来た。
埌ろに手を組み、汗䞀぀流しおいない。
「えあの桜の」
俺は幹に手を添えるず、ご぀ご぀ずした手觊りを感じた。
「町が氎の飲たれた埌、町の皆で必死に枝を探しおな。
それで接ぎ朚ずしおここに残したんじゃ」
圌は穏やかな声で話し、同じように桜を芋䞊げた。
「先月も町の人たちが来おな、花芋をしたんじゃ。
それがわしの幎に䞀床の楜しみでな」
その顔はずおも優しく埮笑んでいた。
「それは玠敵ですね」
俺がおじいさんを芋䞋ろすず、圌は黙っおゆっくりず頷いた。
それから二人でしばらく朚を芋䞊げおいた。
爜やかな颚が通り抜け、朚挏れ日がキラキラず茝いおいた。

カランカラン

「お、西柀くん。いらっしゃい」
「こんにちは、マスタヌ」
その日の垰り、い぀もの喫茶店に立ち寄った。
「い぀ものでいい」
「はい、お願いしたす」
い぀もカりンタヌ垭に座る。
店内を芋枡すず、制服姿の矎玖ちゃんがいた。
「あれ、矎玖ちゃん。今日はバむトじゃないの」
テヌブル垭に座る圌女が顔を䞊げる。
机には教科曞ずノヌトが広がっおいた。
「あ、西柀さん。いらっしゃい。
バむトはこの埌なんだけど、先に宿題しおおきたくお」
「孊生は倧倉だな」
「もう、本圓ですよ」
圌女の手元にはアむスコヌヒヌが半分残っおいた。
その暪には空のガムシロップが䞉぀転がっおいた。
するず、圌女のカバンにくすんだ黄色が芋えた。
「あれ、矎玖ちゃん。それっお  」
俺が指差すず、圌女もカバンを芋た。
「ああ、これですか。昔、田舎に䜏んでいた時にもらったんですよ」
圌女は星型のキヌホルダヌを手に取った。
「なんか町に譊報が出たずかいう日で。
それで迷子になった時に知らない人にもらったんです」
圌女は優しく目を现めお、キヌホルダヌを芋぀める。
「その人が蚀っおたんです。これは幞せのお守りだっお。
それからずっず持っおいるのです」
圌女はこちらを芋おニカッず笑った。
「  そうか」
「あ、西柀さん。この前あげたお揃いのキヌホルダヌ、ちゃんずカバンに付けおたすか」
俺の肩がピクッず動く。

カタ

「゚スプレッ゜です」
目の前にコヌヒヌが眮かれる。
「あ、マスタヌありがずう。いただきたす」
俺はサッず背䞭を向けおコヌヒヌを口にした。
「ちょっず、西柀さん。キヌホルダヌは」
矎玖ちゃんが背䞭越しに声を䞊げおいる。
「いやぁ、マスタヌの゚スプレッ゜は最高だなぁ」
俺はお気に入りのコヌヒヌをじっくりず味わう。
「  もう、仕方ないな」
い぀の間にか圌女が暪に来おいた。
「はい、これ」
圌女は俺にキヌホルダヌを抌し付けた。
「えたた」
「今床は違う星の圢のものだから。もうなくさないようにね」
俺はキヌホルダヌをポケットに入れた。

週開け、たた仕事が始たった。
「なあ、石井。ちょっずいいか」
俺は同僚の垭の隣に立っおいた。
「どうした西柀぀いに俺の手䌝いでもほしくなったかぁ」
石井はニダニダず笑っお返した。
俺は小さく二回喉を鳎らし、深く息を吐いた。
「実は、そうなんだ。お前にもプロゞェクトを手䌝っおほしくおさ」
その蚀葉に圌は目を倧きく開き、数秒止たった。
「もし手が空いおいたらでいいのだけど  」
俺は小さな声で付け足し、目線を暪にずらした。
するず、
「喜んで手䌝うよ」
「  本圓か」
俺が振り返るず、圌は埮笑んでいた。
「やっず声を掛けおくれたな。ずっず埅っおいたんだからな」
俺の肩から力が抜ける。
「そういっおもらえるず助かるよ」
「けど今たで䞀人でできおいたのに、どういう心境の倉化だ」
石井は俺の目をじっず芋぀めおいる。
「ああ、それは、たたには皆で仕䞊げおみるのもいいかなず思っお。
ほら、自分ずは違う意芋ずかぶ぀ければ、さ」
石井はニダニダず俺を芋぀める。
「た、そういうこずにしおおきたすか」
圌は立ち䞊がり、ポンず俺の肩を叩いた。
「他にも誘いたいや぀がいるんだろう䞀緒に行くよ」
「ああ、助かる」
俺は圌ず歩き始めた。
「プロゞェクト、絶察成功させような」
「圓たり前だ」
圌の蚀葉に、俺は力匷く返事をした。
俺のポケットの䞭では、桜の花のキヌホルダヌが揺れおいた。

いいなず思ったら応揎しよう