【村の風景】今度、呑みに誘ってよ
ピンポーン!
インターフォンの画像には、近所の女子大生が笑顔で手を振ってます。
「どした?」
「兄さ~ん。開けて~~」
よく鍵を忘れて、家に入れなくなって、我が家に避難してた子です。
鍵を忘れたにしては、明るい笑顔。
なんだろ?
玄関を開けると、紙袋を差し出します。
え?
「友達と旅行行ったの。はい、これ、お土産!」
「……」
フリーズしました。
「ん? どした?」
悪戯っぽい笑顔の彼女。
「い、いや。キミからお土産貰うようになるとは、って驚いてた」
ふ、ふーん。得意気な笑顔に変わります。
「わたし、出来るオンナなんで」
「何々?」
声を聞き付けて、妻も出て来ました。
「お土産、貰っちゃったよ」
えっ!?
妻も固まりました。
そりゃそうです。
鍵を忘れるたびに泣きそうな顔で我が家へ駆け込んできた子が、旅行のお土産を持って立っているんですから。
「姉さんも、今度は絶対気に入ってくれると思うよ」
え?
目を丸くする妻に、彼女は、ニヤリと笑います。
「お酒のお供、だ・か・ら」
高校の修学旅行のお土産は、確か甘いクッキーでした。
私達の事を思って選んでくれたんだ……。
ちょっと感動。
「あ、姉さんもいるなら、お願いしちゃおっかな。上がっていい?」
自分の家のように、上がり込む彼女。
この辺りは、子供の頃から変わりません。
ね? と彼女は瞳を輝かします。
そうそう。
彼女が、私達を、兄さん、姉さんと呼ぶのは、彼女のママさんが、そう呼んでるから。
「兄さんんちの梅酒、美味しいんでしょ? 吞んでみたい」
えっ!?
一瞬、それは流石に……って思ったのが顔に出たんでしょうね。
「あー! 今、子供扱いした! わたし、二十歳だよ!」
ちょっとふくれっ面。
そっか……。
子供の頃から知ってるのと、彼女は小柄だし、童顔なんです。
どう見たって、高校1年とか2年生。
「二十歳!?」
驚く妻に、ほれほれ、と得意気に運転免許証を見せています。
ま、まぁ、そういう事なら……。
「吞み方どうする?」
「炭酸割り。ママが美味しそうに吞んでたヤツ」
「とりあえず薄めにする?」
「いや、ママと同じで」
大丈夫か?
しかも昼酒。
ま、家は近いから、おぶってでも行けるか。
グラスを差し出すと、くんくん、子犬みたく匂いを嗅ぎます。
「そうこれ! 兄さんの梅酒、甘酸っぱい良い香りがするの!」
とっても嬉しそう。
私達夫婦は、とっても不安。
「いっただきま~す!」
……ごくっ。……ごくっ。……ごくっ。
おいおい。結構吞むな。
ふぅー……。
満足そうに笑う彼女。
「思った通り! やっぱ美味しい!」
なんだかこの子、お酒強そうだな。
「お返しに、梅酒、分けようか?」
「やった! ママが喜ぶ」
「柴漬けとかいる?」
「いるいる!」
この辺りは子供の頃と変わりません。
でも帰り際、彼女は言ったんです。
「ね。今度、呑みに誘ってよ」
ちょっと感動。
あっと言う間に、中学生、高校生って思ってたけど、もう大人なセリフ。
にしても、彼女の童顔は、ちょっとチグハグで、苦笑いしちゃいました。
「つまみは何系?」
ニコッと笑って即答。
「もつ煮込み!」
玄関を閉めてリビングへ戻ると、梅酒の残り香が漂っていました。
彼女が座っていたダイニングの椅子。
昔は、足が床に届かなかったっけ。
……もつ煮込みか。
その渋いチョイスに、兄さん、泣きそうです。
