【村の風景】村の防衛システム、発動!
何年か前、村に空き巣事件が起きたんです。
普段は、平穏な村なのですが……。
「恐いねぇ」
「窓、割られたって 」
「出掛ける時は、雨戸閉めなきゃ」
そんなヒソヒソ声が、村のお年寄り達から聞こえていました。
そんな中、いつもの村の床屋へ。
「物騒ですね」
「まぁ、怪我人が出なかったのが、不幸中の幸いじゃない?」
そう。
空き巣は、留守中に入ったようです。
「だけど、お年寄り、怖がってますよ」
鏡越しに、奥さんも、うんうん、って頷いています。
カショカショカショ。
お店の奥のクッションから、元保護犬のワンちゃんが近付いてきました。
かつて怯えた目をしていたワンちゃんも、もうすっかり看板犬です。
こしょこしょ。
頭を撫でながら言ったんです。
「キミも強いんだろうけど、そんな訳の分からない奴らと戦っちゃいけないよ」
床屋さん、苦笑い。
でもさ、と表情を引き締めたんです。
「村の長老達をナメちゃいけないよ」
「え?」
「すぐ分かるよ」
床屋さんからの帰り道、ふと思ったんです。
もし、昼間じゃなくて、夜中だったら――。
もし、在宅中だったら――。
……いや、やめやめ。
そういう想像は、ロクな方向に行きませんから。
とりあえず、その日はちゃんと鍵を確認してから寝ました。
急に防犯意識が高まるのは、仕方ないですよね。
月曜日、仕事帰りで改札を出ると……。
なんだ……これ?
皆さん、ギョッとしています。
見たこともない赤色灯の群れ。
もの凄い数の警察車両。
何十人いるんだ!? って規模の警察官達。
映画の撮影? って思ったほど。
パトロールなんてレベルじゃない、超厳戒態勢。
なのに駅前は妙に静かで、警察官の無線だけが聞こえるような……。
頭の中で、エヴァンゲリオンのヤバい時の曲が流れるほどです。
なのに、誰も騒いでいないのが、余計に不気味。
床屋さんの、声が蘇りました。
「長老達をナメちゃいけないよ」
二日後、空き巣犯は、捕まったそうです。
次に床屋に行った時に、聞いたんです。
長老達は、複数の自治会長を動かし、自治会長達は、地元選出の県会議員を動かしたようです。
県会議員としても、自分の得票に直結するお年寄り達の声は、無視できるはずがありません。
自治会長達と県会議員は、連名で県警幹部へ捩じ込みます。
「住民が極度に不安がっている。なんとかしてくれ!」
警察としても、予算と人事を握る県議会への配慮から、
「しっかりやってます!」
というポーズを最大級に見せる必要があったのでしょう。
それが、厳戒態勢にも見えた、見せる警戒の極致。
空き巣事件が、県警の最重要事件へ格上げ。
自分たちの身は、自分たちの政治力で守る。
あれは、「村の防衛システム」が発動した瞬間だったようです。
静かな村の、静かじゃない一面。
「村のお年寄りは、大切にしないといけないよ」
って床屋さん。
この村には、お裾分け文化が残っています。
お年寄り達は、畑で採れた野菜とかお裾分けしてくれるんです。
食べ切れないのは、煮物やら炒め物、お漬物にして、お返ししてるんですが……。
あの人達、野菜の量がちょっとバグってるんですよね。
夫婦ふたり暮らしの量じゃない。
完全に「家族が5人くらいいる前提」の量。
だけど、ご好意ですからね。断りづらい。
なので料理して、お返ししてるんです。
このやり取りも、ある意味、村のシステムの一部なのかもな、って。
食でつながる、防衛ラインか……。
朝――。
曇り。
今日は休日です。
カーテンを開けると、畑が見えます。
静けさを取り戻した村で、お年寄りが畑仕事をしていました。
たまには、ちょっと凝った料理で返そうかな。
……ラタトゥイユ――。
野菜いっぱい使えるし。
パンにも合うし。
お年寄りたち、パン、好きですからね。
村の防衛システムには、ちゃんと参加しなきゃ。
守られているだけじゃ、いけませんからね。
