🔖琴音先生の"四字熟語 ひもとき塾" 第169回『正正堂堂』
『正正堂堂』(せいせいどうどう) ―― 正々堂々と。卑怯(ひきょう)な手を使わず、胸を張(は)って生きる。それが、美しいんえ。
◆ ある日の放課後、教室で
「先生、ずるい方法を使えば、勝てるんです」
生徒は、スマホを見せながら言いました。
「テストのカンニング方法とか、課題のコピペの仕方とか、ネットに出てて。真面目にやってる人より、ずるした人の方が、いい点取ったりして。正直者が馬鹿(ばか)を見るんじゃないかって、思ってしまうんです」
琴音先生は、その言葉を静かに受け止めました。
「そうやったんえ。あのな、『正正堂堂(せいせいどうどう)』という言葉があるんよ」
◆ 「正正堂堂」の意味とは
「正正」は、正しく正しく。「堂堂」は、堂々(どうどう)として、立派な様子を表しますえ。
合わせると、卑怯な手を使わず、正しい方法で堂々と勝負(しょうぶ)すること。フェアな精神で、胸を張って生きることを表した言葉なんやわぁ。
◆ 出典・背景
この言葉は、中国の兵法書(へいほうしょ)『孫子(そんし)』などに出てくる「正々堂々」から来ていますえ。
戦(いくさ)でも、卑怯な手を使わず、正面から戦うことが、武士(ぶし)の誇(ほこ)りやと考えられてきたんやわぁ。
◆ 一つの物語──二人の剣士(けんし)
江戸時代、ある藩(はん)で、剣術(けんじゅつ)の試合が行われました。
二人の剣士が、決勝(けっしょう)で戦うことになりました。一人は田中、もう一人は山田。
試合の前夜、田中の友人が言いました。
「田中、山田の得意技(とくいわざ)は、上段(じょうだん)からの突(つ)きや。でも、わしは知っとる。奴(やつ)の左膝(ひざ)は、昔の怪我(けが)で弱い。そこを狙(ねら)えば、勝てるで」
田中は、首を横に振りました。「それは、卑怯や」
「勝つためなら、何でもありやろ」
「いや、わしは『正正堂堂』と戦いたい。卑怯な手を使って勝っても、誇れへん」
翌日、試合が始まりました。
山田は、確かに強かった。しかし、田中は、正面から、真っ向(まっこう)勝負で挑(いど)みました。
激(はげ)しい戦いの末、田中が勝ちました。
山田は、田中に言いました。「お主(ぬし)は、わしの弱点を知っていたはずや。でも、狙わなかった」
田中は、答えました。「わしは、正々堂々と戦いたかった。卑怯な手を使って勝つより、正々堂々と負ける方が、よっぽどましや」
山田は、深く頭を下げました。「お主のような剣士と戦えて、光栄(こうえい)やった」
二人は、お互(たが)いを尊敬(そんけい)し合う、生涯(しょうがい)の友となりました。
◆ 今につながるまなざし
琴音先生は、生徒のスマホを見て、優しく言いました。
「あのな、田中さんは、卑怯な手を使えば勝てたんえ。でも、使わんかった。それが『正正堂堂』やったんやわぁ。ずるい方法で勝っても、本当の力はつかへん。そして、自分で自分を誇(ほこ)れへん。正々堂々と努力して、たとえ負けても、胸を張れる。それが、本当の強さやねん。カンニングやコピペは、今は楽かもしれへん。でも、いつか必ず、自分が困ることになる。正々堂々と、自分の力で頑張(がんば)ること。それが、あなたを本当に成長させるんよ」
生徒は、スマホを置きました。「……ずるい方法は、使いません。時間がかかっても、自分の力で頑張ります。正々堂々と」
琴音先生は、静かに微笑みました。「そうやわぁ。正々堂々と生きることが、あなたを輝(かがや)かせるさかいな」
生徒は、窓の外を見ました。太陽が、堂々と空を照(て)らしていました。私も、あんなふうに。そう思えた時、少しだけ、背筋(せすじ)が伸びた気がしました。
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