幼馴染の家 第十五話|最大の問題
一級建築士、700棟引渡。
800フォロワーのぱにがれです。
土曜連載中の「幼馴染の家」。
第十四話です。
私は住宅のクレーム業界にいる。
クレームそのものは、十分すぎるほど分かっている。
住宅は工業製品ではない。
人がつくるものだから、何かしらの不具合が出ることもある。
しかし、
幼馴染の家からクレームが来る。
これは普通のクレームとは違った。
相手は友人であり、
同時に、
お客様でもある。
そのことが、私には重かった。
そして、引き渡しから一年。
この家で、最大の問題が発生した。
【伏線④回収】
以前紹介した、肉厚の無垢調フローリング。
ウォールナットの美しい床。
その床から、
床鳴りが発生した。
まずはカスタマーセンターが対応した。
しかし、すぐに私にも直接連絡が入った。
私は現場へ急行する。
場所を確認すると、確かに鳴る。
しかも場所が悪い。
150万円のソファーの足元。
そして、家族が毎日歩く生活動線。
体重をかける。
「ギュ……」
確かに音がする。
私は床鳴りの経験がある。
すぐに工務店と大工を手配した。
床下へ潜り、鋼製束を調整する。
しかし、
音は止まらない。
どうやら床下ではない。
フローリング同士の「サネ」が鳴っているようだ。
原因として考えられるのは、
接着剤やステープル。
となれば、床材そのものに手を入れなければならない。
しかし、ここで大きな問題があった。
床暖房である。
この家のフローリングの下には、床暖房パネルが敷き詰められている。
しかも全面接着。
つまり、
フローリングを剥がすということは、
床暖房パネルまで剥がすことになる。
「床を剥がして調べましょう。」
そんな簡単な話ではない。
そこで、床暖房パネルの割り付けを確認した。
鳴っている箇所と照合する。
すると幸いなことに、
床鳴りが発生している場所は、
床暖房パネルのジョイント部分だった。
床暖房の配管そのものが通っている場所ではない。
これなら、まだ手がある。
そこで一つの施工方法が提案された。
フローリングを剥がさず、
床の上から頭の小さいビスを打つ。
鳴っている部分を上から固定してしまう。
うまくいけば、
床を剥がさずに済む。
もちろん、失敗すれば終わりではない。
フローリングを剥がすしかない。
その場合は、
リビング全面張り替え。
いくらかかるのか。
正確な金額は分からない。
そして、何より生活への影響が大きい。
家具を移動する。
床を剥がす。
床暖房を確認する。
新しい床を施工する。
乾燥させる。
仕上げる。
完成から一年しか経っていない家を、
一度工事現場に戻してしまうことになる。
選択肢は一つしかなかった。
まずは、
ビスで止める。
数日後。
私は大工を連れて、再び幼馴染の家へ向かった。
現場で施工方法を説明する。
どこに、どのようにビスを打つのか。
床暖房パネルの位置も確認する。
そして慎重に施工を開始した。
ビスを打つ。
一本。
また一本。
施工後、今度はビス頭が見えないようにする。
専門業者に補修を依頼し、床の仕上げまで整える。
そして、
確認。
体重をかける。
歩いてみる。
もう一度、その場所を踏む。
……
鳴らない。
もう一度。
……
鳴らない。
床鳴りが止まった。
私は、
ほっとした。
本当にほっとした。
全面張り替えにはならなかった。
幼馴染の生活を壊さずに済んだ。
費用も工事期間も最小限で収まった。
すべてが、
うまくいった。
私はそう思っていた。
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