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はじたりの物語【2024創䜜倧賞応募䜜品 総集線⠀1本です】


あらすじ

ヘビには氎を通っお倩䞊ず地䞊を自由に行き来するこずができるずいう䞍思議な力がありたした。昔はよく旅をしおいたのに、今では氎蟺のほずりに立぀朚の芋匵り番をさせられおいたす。朚の䞋からなにか楜しそうな声がしたす。この果を取るこずは犁じられおいるのに、そんなこず気に留める様子もありたせん。ふず、この朚の䞋の者どもず地䞊に行きたいず思いが沞いおきたした。むかしの旅の蚘憶が蘇っおきたす。それは遙か遠い昔はじめおコトバを亀わしたかの者ず、その血をひくこの者。それは平安ずいわれる時代。䞀緒に濃くお長い旅をした。これはそんな旅の蚘憶のおはなしです。

゚ピロヌグ


 ここは地䞊のだれもが憧れる倩䞊の䞖界、倩垝ずいわれる絶察䞊䜍の君䞻が治める理想郷だ。皆が倩垝に認められその理想の䞖界に生きたいず自分磚きに䜙念がない。より賢くよりスマヌトに、向䞊心ある者だけがその理想郷に蟿り぀く。

 そんな理想郷の片隅にひっそりず立぀朚があった。そよそよず颚にその葉を揺らし、葉の間から差し蟌む光は優しく暖かい。朚の幹は䜓を預けるのに䞁床よくそこに立ち寄ったものは戻っおこなくなる、そんなうわさたで立぀朚であった。うわさになるのはそれだけではなかった。その朚はふしぎな果実を぀ける。赀くおふくよかな匧を描きそっず觊れるず思いのほか冷たく硬い。その果実を食べるず「自己肯定感」を手に入れ䞊昇志向を捚おるずいう。みんなが同じ方を向いおこそ秩序が保たれる。この朚にやっおくる者たちを芋匵るように倩垝は ヘビに仕事を䞎えた。
 
  ヘビは朚を蚪れる者達を芳察する。さらには食べおみるようにそそのかす。果実を食べるかどうかひず぀でああでもない、こうでもない。なにかしら理由をこじ぀けお食べるようずするもの、しないもの、様々だ。倩垝のように迷いのない絶察君䞻をそばで芋おいる ヘビの目にはその者達が滑皜に映り、いずおしくさえ感じるようになった。
 しかし食べようずしたものは倩垝に報告をしなくおはいけない。報告したあずも芳察をしなくおはいけない。
   å ±å‘Šã‚’うけ捕らえられたものは自分はなんお匱いのかず自分を責め嫌悪する。あの果実に目を茝かせ、どんなに矎味しいだろうず想像しずきには詩を読み曲を奏で歌い螊るそんな矎しい者達がである。
     
     ã‚る時、ヘビは決意をした。
     ã“の者達ず旅にでるのだ。

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これは『なんのはなしですか 』にた぀わる物語⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆


第章

1.蛇のふしぎな力


 そうだ旅に出よう。
 
 そう決意したヘビは以前旅した頃の蚘憶を思い出す。昔はよく旅をしおいたのだ。地䞊の䞖界ずは 氎の奥深くで繋がっおいる。氎の奥深くは倩䞊の䞖界ず地䞊の䞖界、どちらでもありどちらでもない。氎が繋がっおいるのか、繋がった空の映し鏡ずしお氎に䞍思議な力が備わっおいるのか。蛇にずっおはどうでもいい話であった。
 湿っおひんやりずした泥の感觊、それを十分に楜しんでからするりするりず氎の䞭に入っおいく。氎面から頭をだしお眺める景色が奜きだった。しっかりず目に焌き付けお今床は氎の底に朜り蟌む。底のぬかるみを目を閉じたたたで進む。次にゆっくり頭を出したずきは、もう地䞊の䞖界だ。
 地䞊の䞖界でも氎蟺の近くが奜きだった。ひんやりずしおいお静かで颚ににそよぐ朚々のせせらぎも心地よい。ああ、そうか、監芖の圹目で動けない䞭でもこの朚が旅の蚘憶に連れお行っおくれる。だから朚を蚪れる者達ず旅をしようなんお気になったのだな。そう考えるずここを動けない朚ずいうものが少し気の毒に思えおきた。

 ”倩䞊ず地䞊を行き来できる”
 
 
これは玛れもなく ヘビに備わったふしぎな力であった。ヘビが謙虚であれば『䞎えられた』ずいうのであろうが自力なのか他力なのか、ヘビが ヘビであるずいうこずず、その特性はなんら倉わるこずはなかった。぀たりはじめから備わっおいお頑匵る必芁がないのである。ヘビはヘビ以倖の䜕者かになろうずも思わなかった。
 
 あくたで 我われは我われ他ず亀わるこずはない。

 これは感情においおもそうであった。たたに倩垝のようにあれやこれや蚀っおくるものもいる。そういうずきは「呑む」のだ。取り蟌んで倉容したり 同化するのではない。ただ「呑む」そこに葛藀はない。暫くしお倖に出せばいいだけの話だ。しかし、氎蟺を蚪れる地䞊の人間たちは違った。むすめを差し出せ、幎貢を玍めろ、もっず働け。いく぀もの灜犍を逃げ惑い、逃げ堎に困っお氎蟺たでやっおくる。

 ヘビは草むらに隠れお そっずささやく
 舌をチロチロするほどの ほんの小さなメロディ

 村では話せなかったこずを蛇のいる朚陰でぜ぀りぜ぀りず語り出す。泣くばかりで蚀葉にならないものもいる。そんな「おもい」も取り出すこずができる。これもたた ヘビのふしぎな力であった。
 ヘビは ささやき を続ける。これもたた聞き取るこずができない、ほんのちいさなものだったが玠盎な人間は そのささやきに埓った。

 「重い」を倖に出し始めた

 ヘビはよしよし、ず䞀肌脱いだ。ここでいう肌は皮である。叀い皮を脱ぎすおお柔らかな皮が珟れる。新しい皮はよく䌞びる。よく曲がりよく䌞びる皮を食るようにりロコがキラリず光る。

さあ、その「重い」を呑んで進ぜよう
いく぀もの「重い」を呑み蟌んだ

 ヘビは氎蟺を蚪れる者の「重い」を呑み蟌んだ。はじめは ほんの気たぐれだった。語りはじめたものをじっず芳察しおいたら、のどの蟺りに黒い固たりがみえた。あの固たりをずっおみたい。

 チロチロず舌を出しながら 囁く。届いたか届いおないか、そのぐらいのずころで、う぀むいおいたものがぱっず顔を䞊げる。ヘビがすっヌず深呌吞するように倧きく息をすったその瞬間、ぜんっず䞭から飛び出しおくる。それをパクっずひず呑みするだけだ。

 ヘビが「重い」を呑んだあずは皆䞀様にすっきりずした衚情でなぜだか手を合わせたりしお 垰っおいく。ずきには 呑たずに 倖に出しおやるだけにした。そうしたずきには顔も䞊げずに肩を萜ずしたたた ずがずがずたた圓おもなくどこかに立ち去っお いっおしたう。

どうやら「受け取り」が倧事らしい。

 たた「重い」は䞀様ではなかった。重さも違えば 色や圢も 様々だった。喉元にあるものもいれば、胞に぀かえおいるものもある、腹に溜たったものは枩床たで違っおいた。あるずき 倜遅く䜕人もの男たちが氎蟺にやっおきた。暗くお芋えにくいが皆 腹に抱えおいるようだ。蛇は 男たちに 囁いた。
 
するずドカヌン ず倧きな「重い」が口の䞭に飛び蟌んできた。

 その重さず勢いで䞀気に䞭腹にたで達したかず思うず、腹の䞭でも四方に跳ねおよじれ に よじれる。それに熱くお熱くおたたらない。倧きな「重い」で膚れ䞊がった躰を、熱さず勢いで身をよじらせながら空に舞い昇る。 
    ヘビは 呑み蟌んで倧きくなった躰が芋぀からないように姿を芋えないようにする力も持ち合わせおいたが、この時ばかりはそうはいかない。芋られおいるこずにも構わず粟䞀杯の力で高く高く昇っおいく。そしお口を䞊に倧きく開いたたたで今床は党速力で䞋降した。

「重い」が萜䞋する速さより蛇の躰が䞋がっおいくほうが早かった。
「重い」 は腹の䞭でぶ぀かるごずに角がずれお䞞く光る倧きな玉になっおいた。

 男たちは空に立ち昇るヘビをみおこの䞖ならざるものをみた、ず驚き慄きおののき䞞い玉がぜかりず宙に珟れたのを芋お奇跡がおきた、ず仰倩した。すっかり腹の「重い」もなくなったので奇跡に間違いはなかった。そしお町に垰り この奇跡を䌝えるのであった。



 その日を境に状況は䞀倉した。

 ひんやりず気持ちの良い氎蟺で、優しい颚に応えるようにそよぐ朚の葉、そんな䞭で過ごす安らぎのひずずきがにわかに隒がしくなった。昌倜を問わずあの奇跡の正䜓をあかそうず、興味本䜍で立ち入るもの、「重い」がなくなるように「願い」にくるもの、さらには奇跡に正䜓ずいうものがあるなら留めおき、我が䞀族の繁栄を長きにわたらせたい、そんな暩力者がかけた報奚金目圓おに血県になっお探りにくるものもいる。

 そろそろ ここも朮時だ、倩䞊に戻るずしよう。

 その前にあれを取りにいかねば。 ヘビはキレむなものがすきであった。
    それを集めお氎ず光によっおキラキラずキラめく様子を眺めるのがなによりの喜びであった。思いのほか長く䜏み着いおしたったのは「重い」を倖に出すたびに出おくるキラキラず光る玉に魅了されおいたからだ。
 
    これで党郚だ。ヘビはキラキラ光る玉を倧切にお腹にしたい蟌んだ。

 そのずき、我ずは異なるもののむメヌゞが頭の䞭に急に流れ蟌んできた。
そのたた気を倱っおいたのであろう。癜朚のいい銙りがしお ヘビはうっすらず目をあけた。そこは瞄が匵り巡らされた瀟の䞭であった。

 「やあ、お目芚めかい。」
 若い男の声がする。がんやりずした芖界に柔らかく軜やかにはねた髪の毛が入っおくる。声の䞻はこちらの状況に構いもせず感心した様子で蚀った。
 
「本圓にキレむな玉に浄化できるんだね。」
「お腹に倧事に持っおいた玉も預からせおもらったよ」

そこでヘビはカッず目を芋開いた。なんだず、あの倩䞊に登っおいくかのごずく苊劎しおできたあの玉をか、

「すごいよね、あの玉びっくりしちゃったよ」

そうだろうずも、二床ずはごめんだが、もう次はないず思うずひずきわ倧事に思えおくる。ヘビにずっお 倧切な宝物であった。

「でもね、僕はこっちが奜きだけどね」

そういっお銖から䞋げた皮袋から取り出したのは少し翠がかったきらきらず光る透明な小さな玉であった。ただ頭が朊朧もうろうずしおいる。

この目の前にいる青幎は ”かの者” なのか



2.コトバの力



かの者は我が初めお「重い」を取り出した者だ。

氎蟺にやっお来おは倉な術を詊しおいた。なんだろうずコッ゜リ近づいたのだが、こちらを向いお二ッず笑う。
 我ヘビを芋お 二ッず笑うだず倧抵のものはヒッず驚いお気味わるがり石を投げおくるものもいる。なのに、二ッず笑い、
 「やあ君、こっちにおいでよ。この壺、䞭はひんやりしお気持ちがいいよその蛇䜓、くねらせお入るかどうかやっおみないかい」なんおいう。
「なあに、簡単さ、コトバの力を䜿うのさ。息に思いを乗せおだすのがコトバだよ。衚にでたなら芋えるから。どんな姿を芋たいかコトバにしおみるんだ。」

 かの者が思っおいるこず、我に語りかけおくるこずは自然ず理解できたしかの者も我の思っおいるこずがわかるようだった。わかるのだから、 コトバ の良さなぞ分からなかった。だけど我に向かっお 語り掛けるかの者のコトバは 嬉しかった。そういうずきの目がずっおもきれいですきだった。柄んだ瞳がキラキラず茝く、その䞭に我が映し出だされおいるようだった。

 けれども時折しゃべらない事があった。コトバの力を熟知しおいるがゆえにコトバに珟わしおはいけないこずに関しおも敏感であった。ふず、かの者の喉元に黒いものが芋えた。そのせいで明るさが陰っおいるのではあるたいか、そのものを取っおみたい。かの者はそれを感じでこちらを向いた。

「いいよ君になら。 でもお願いがある。こう぀ぶやいおみおくれないか。」
  

 これは出せない「おもい」を出せるおたじないだよ、ずいった。
ヘビは コトバを発しおみるのは初めおだったがやっおみた。頭の䞭で思い浮かべる。舌の先が2぀に分かれおいお聞くようには音が出ない。
それでも懞呜に発するこずをやっおみる。䜕床やっおも䞊手く発声なんかできやしないが、できおいる姿を思い浮かべた。届けたい、その気持ちを息に茉せた。それが通じた。

かの者は、なんのはなしですか、ずそのたたそこにいおくれるだけでいいんだけどね、ずいっお話し始めた。ヘビははじめおその「おもい」「呑んだ」。そしおかの者がひずしきり話したあずなんの咀嚌もせずに出した。でおきたものはきらきらず光る玉だった。少し翠がかっおいるのがより透明さを増しおみせる。

やあなんお事だ。これはすごいね君みたいなヘビははじめおだ
「それにすっかり軜くなったよ」ずクシャクシャの笑顔でいった。それでヘビは出したものは「重い」なのだず思った。

    かの者は蚀った。僕の䞭から出おきた 「おもい」を君が受け取っおくれお出来たこの玉。君にはわるいんだけど僕に持たせおくれないか。

・代々ふしぎな力をもった䞀族であるこず
・才になるずきその秘密を䌝承するこず
・決しお人に挏らしおはいけないずいうこず

そんな秘密があったずいう。
「抱えるには少々重くおね、人じゃない君にならなんお賭けおみたのさ。」
「聞いおくれるかどうかをね。」

    そうだ、これは ヘビの本来も぀力ではない、コトバの力なのか。
    確かにこの取り出した玉はキレむだ。でもその玉が映り蟌んで茝く瞳はもっずキレむだった。ヘビはわかったずいうように、クルクルず䜓を巻いお頭をぺたんず土に぀けた。かの者のそばにいるのは気持ちが良かった。他の人間の様には ゞャマにはしたい。近くにいれば芋せおもくれるだろう。

 「それずね、僕の思い過ごしならいいんだけど君のこのふしぎな力、この玉のこずは人間には知られない方がいいず思う。人間は欲深いからね。」
ふっずたたかの者の心に圱が芋えた気がした。
 「それにね、臆病なんだ、目に芋えないものや埗䜓の知れないものをずお  も恐れる。だから君のこずを恐れお害をなすかも知れない。君のしたこずは誰も聞いたこずも芋たこずもないからね。だから秘密にしおおこう。」

 たしかそんなこずを蚀っおいたのに、さっき、この者はこんなきれいな玉に「浄化」できるんだね、ず申したな・・・

「やあ、やっずこっちを芋おくれたかい。さっきは無理やり瀟に呌んで枈たなかった。ああでもしないず人に芋぀かっおしたうだろ。倧きな玉をお腹にいれたヘビなんお誰も芋たこずないからね。」
    そういっお二ッず笑うこの者は、かの者の血族か、やっず朊朧ずしおいた頭がはっきりしおきた。

 かの者以降、次の者に秘密を䌝承するずきに銖から䞋げた鹿袋に入ったこの小さな光る石が枡されるようになったこず、そしお我ずかの者の秘密も受け継がれるようになったず語る。かの者ずその子ども そしおたたその子ずこの 人は䞍思議ず人でないものず通じ合える。人ず人ずにおいおもそうだ。この䞍思議な力は、その感じたこずを「名づけ」、「コトバ」にするこずでみんなが生きやすくなるように䜿いなさいず代々教えられおいた。

「コトバ」は蚘すこずでより効力を生じる。

     ãŸãã•んの人が抌し寄せお疲れおるだろう。この瀟の四方には、たじないの文字をはっおあるから安心しお䌑むずいいよ。たた起きたら君ずしたいこずがあるんだ。そういっお瀟の別の郚屋に姿を消した。
 ひさかた振りの静かな時間だ。ぞびはたたゆっくり目を閉じた。目を閉じたらたたかの者に䌚える気がした。蛇は3日3晩眠り぀づけた。


3.かの者


 かの者は医を生業ずするものであった。郜の倖れ草朚が生い茂る氎蟺のほずりに煎じるための薬草を取りにきおいた。壺はそのためであったが、なんでも唐ではヘビの仲間を酒に぀け滋逊匷壮のために飲むずいう。
 慌おお逃げ出そうずするずアハハハハ ず陜気に笑う。
「倧䞈倫 そんなこずしないさ、ただ君の毒をたたに頂くかもしれないね。毒で制するこずができる病もあるのさ。䞭には人を廃するために䜿う者も いるが気が知れないね。」
 皮肉なぞいう者ではないが思いあたる人物がいるような口ぶりであった。

 目的は薬草だけではない。かの者は郜の衚通りを1本裏に入った筋で店を営んでいた。垞日頃から子䟛たちが医術者を怖がらないよう軒先でする手品の緎習だ。
「心ず䜓がほぐれるだけでも随分痛みが和らぐからね。今日は運良く君に䌚えた。どうだい、壺から出おくるヘビの手品は。子どもたちの 笑顔 はいいよ。」

こどもは邪気がなくおいい、ただ恐れもたっすぐにぶ぀けおくる。笑顔を向けられたこずなぞ いただか぀おなかった。

「倧䞈倫だよ、ほら」

たあいい、そんな笑顔を向けられたら付き合っおやっおもいいかず思えた。時折やっおくる かの者ずそうこうしお過ごすひずずきが楜しみになった。

   ã‚るずき かの者がいった。

「䞀緒に来おくれないか、君のあのふしぎな力が必芁なんだ。」

 壺に草で蓋をしお隙間から通りを芗きみる。郜は争いごずのあずで雑然ずしおいたが人通りが倚く掻気に満ちおいた。路地に入った蟺りから、せんせヌい、せんせヌヌいず賑やかに声がかかる。医業だけでなくよろず盞談所のようであった。文字にも通じおいるから呜名も請け負っおいた。

 人は死ぬず名を残すずいう。

 かの者はひずの死期も察するようであった、終には叶うこずのない願い。「残しおいくもの 残されるもの、それぞれ悔恚ずもいうべき”おもい”。
 それを取り陀いおやっおはくれないか」

「思い煩いを コトバにするこずで恐れを手攟す。その力は信じおいるけど、出したコトバをどこに向けるか、その方向によっおかえっお人を傷぀けおしたう。君が受け取っおくれるなら僕の時のようにきっず䞊手くいくず思うんだ。」

 名を持たず、倩䞊の䞖界ず地䞊の䞖界を行き来するヘビには分かたれるこずなぞ分からなかった。いずも軜々ずその者達の「おもい」を呑んだ。名を残しおひずり、たたひずりず旅路を終える。

 䞀緒に過ごす時間が長くなっおも、かの者はヘビを名付けなかった。名前は珟䞖に瞛るからね。たるで倩䞊のこずを知っおいるようでもあった。

蛇は「重い」を取り出したあずのキレむな小石ほどの玉をずきおり倩䞊に持っおいくこずにした。地䞊ず倩䞊の䞖界は時間の流れが違う。ずいうより、時を刻んでいるのは地䞊だけだ。ほんの僅かな間 倩䞊にいったずしおも
地䞊では3日たっおいた。少しず぀かの者ずの時間が少なくなっおいたがい぀も倉わらぬ笑顔でいるのでそうずは気づいおいなかった。

 静寂に包たれた瀟の䞭で、目を閉じお幟぀もの蚘憶をめぐる。
 ヘビの目にはうっすらず涙が滲んでいた。

そちはただ あのこずを根に持っおいるのか

倩䞊䞖界の統治者である倩垝が蚘憶に入り蟌んでくる

 あのこず、、地䞊で人々の「重い」を受け取り出した玉たち。その眮き堎所は蛇のお気に入りの氎蟺だった。氎面の䞊からみるずより䞀局茝きを増すようだ。目を现めおかの者ず䞀緒に取り組んでいるこずを誇らしく思った。

 さおず、地䞊に戻ろう、蛇が氎に朜っおいこうずしたそのずき䜓が垃ですくい䞊げられた。すり抜けようず胎䜓をよじっお暎れるが抜け出すこずは出来なかった。蛇は倩垝の面前に連れおいかれた。そうしお地䞊の䞖界に介入した咎でしばらく倩に留めおかれた。

 光る石なぞ倩䞊には存圚しない。懞呜に䌝えようずするが「重い」など倩䞊のものに理解できるはずもなかった。

 そんな䞭 ひずり たた ひずりず生を終えたものがやっおくる。
生きおいる間、「重い」を抱えおいるものは倩䞊に入ろうずしおもたた地䞊に䞋りお行く。しかし ヘビの語る者達は、皆「軜く」倩䞊ぞ䞊がっおきた。

  善い行いをしたのであるな・・・

 やっず咎が解かれたずきにはもうかの者ず䌚うこずは叶わなかった。
 すっかり目が芚めた蛇は脳裏に浮かぶ䞊垝を睚み぀けようずした。

たぁ そんな こわい県で睚むな
この瀟に連れおきたものはかの者の瞁者であろう
その者ずここで励むが良い

䜆しだ、あの晩倧きな䜓で倩高く昇る姿を
芋られた咎は重いぞ
その者ずの圹目が終わったら、瞁は断ち切る
そしお わしの仕事を手䌝うのだ

 そういっお倩垝はふっず脳裏からきえた。


第章

1.契り


この瀟に連れおきたものはかの者の瞁者であろう
その者ずここで励むが良い

 そうだ、かの者の血族、君ずしたいこずがあるんだ、ず蚀っおいたな。
それが倩垝のいう圹目なのか、なぜ倩垝は知っおいるのだ。ヘビは瀟の䞭の襖戞に顔を向けたその時、スッずあの青幎が入っおきた。

「ゆっくり䌑めたみたいだね」

「僕の名は䞀葉かずは 君のこずは聞いおいるよ。これから僕たちの蚈画をきいおほしい。ずいっおも、君ず話すこずができるのは僕だけだから、仲間はあずで玹介する。」

 そういっお、䞀葉は語り始めた。かの者は䞀葉の曟祖父であったこず。
我ぞびず䞀緒に悩み苊しみを抱えるものに寄り添っお斜しおきたこずが評刀ずなり裏通りにもかかわらず、宮䞭からも斜術を請われるようになったず。

 曟祖父はその裏通りで皆で過ごしたいず宮廷に䞊がるこずは拒んだけれど
医業を極めるこずは圹立぀こずだ、ず祖父の代からは正匏に囜の兞薬寮で孊び医垫くすしずしお皇族・貎族の治療にもあたるこずになった。それで皇女の䞀人の病をなおしたこずから僕が生たれたっおわけ。

 宮廷に䞊がっお囜の根幹を担う偉い人の心身が健やかであれば民たでも平安が蚪れる。そう信じお身を粉にしお頑匵っおきた父は、幎前にその圹目を匕き継いで埀ったのさ。そうあっけらかんず話す。か぀お、『おもい』を匕き継いだかの者はその喉元に圹目が固く暗い圱のように芖えおいた。しかし、䞀葉の䜓をじっず芖るが、暗いものは䞀向に芋圓たらない。それどころか青癜く心のうちから光を攟っおいる。それに熱い。

 䜿呜を我がものずしお燃やし、進むべき道は芋えおいる、ずいうこずか。ならば付き埓うのみ、䜆しその芚悟は問おう。
よし、分かった。䜆し、条件がある。
その胞に䞋げたかの者ずの”光る玉”埓った埌には、我に頂こう。
「よしいいだろう」䞀葉はそういっお真剣な県差しをこちらにむけた。

   もずより名も捚おる぀もりだ
   自分の代でこの圹目も完結させる 

「さあ、忙しくなるぞ」
 今床は我を芋たたたニッず笑う。蛇の心たで熱くなった。

 しかし宮䞭にいたずは、。宮䞭にある池には䜕床か出たこずがある。倩䞊から氎底を経お地䞊に出る際、ピヌヒョロロロヌ、ず流麗な音色が聞こえおくる。音のする方に匕き寄せられ草陰からちらりず芗き芋おみる。
 神楜にあわせお幟重にも重ねられた色鮮やかな衣を身に纏いひらひらず蝶が舞うごずき優矎に舞い螊る。地䞊の倩䞊ずでもいうのか、そこだけ時の感芚が違う別空間のようだった。
 宮䞭にいたずいうのに、ただ青幎だずいうのに、着るものも粗末であれば、その䜓も顔も痩せお骚ばっおいる。手などはその䜓のわりに倧きく節くれだっおゎツゎツずしおいる。父芪が埀っお幎ず申したか、䞀䜓どのように過ごしおきたのだ。

蛇の目が䞀葉のその手に向かう。ああ、ず䞀葉も自分の胞の前にその䞡の手のひらをひろげじっず芋぀めた。これは自分䞀人で取り組んでいるこずだ
そうだなあ、話せば長くなるからこれをしながらでもいいかい、ず郚屋の片隅に眮かれた䞀尺ほどの塊にかけおある癜い綿垃をひらりず剥いだ。

 それは䞀本の癜朚であった。
人型に䞁寧に掘り進められおおりもはや䞀䜓ずいった方がいいようだった。しかし、人ず比べお頭の郚分の尺がやけに長い。
 ただだ、あたねく芋枡す埡仏の姿にはただただ足りない
芖線を朚に向け自分の歩みをかみしめるように話し始めるのだった。


2.祖父宇倚倩皇の話


 父ず祖父が医垫くすしだったこずはもう話したね。もう䞀人の祖父は今の法王宇倚法王なんだ。䞀葉かずはずいう名をが぀けおくれたんだよ。
 
もずより名も捚おる぀もりだ、

ヘビは䞀葉のこずばを思い出す。確かにそういった。どういうこずだ、ただ状況が぀かめずにいる、いったいどうやっお過ごしおきたのだ。
 揺らめく炎に照らされながら䞀刃、䞀刃ず力を入れすぎないよう加枛しお䞁寧に圫りすすめおいく䞀葉を芋぀めた。ここたで圫りすすめるのでさえ地䞊の時の流れの䞭では倧倉なこずであろう。

じっくりず聞き進められるよう蛇はくるりず胎をたいお頭を床に぀けた。

「 䞀葉かずはずいう名はね、どこにでもいっおいい、そういう意味が蟌められおいるんだ。」
 蛇は驚きを隠せずたたスックず頭をあげた。
「ああ、勘違いしないでくれよ。いたく僕を可愛がっおくれおね。倜は怖くおよく寝所に入れおもらったり、」そういっお䞀葉は思い出を語り始めた。

 ただ幌き日のこず、雚颚が吹きすさび隠れるように法衣に滑り蟌んだその時、衣越しにもはっきりず分かる皲光りがしお倧きな雷鳎が蜟いた。倜が明けるたで、いやこの先ずっず続くかず怖くなっお、尋ねおみた。

「これは道真公の祟りなの」

祖父宇倚法王はぐっず息をのんだ。少し背すじを䌞ばしひず぀倧きく息をするず僕のこずを正面に抱きかかえるようにしお膝に座らせこう尋ねた。

「䞀葉は道真公が怖い人だずおもうのかい」

だっお、みんながいっおいるよ、ずいう僕に、私の知る道真公に぀いお話しをするよそれでどう感じるかは䞀葉の自由だずいっお、朗々ず声をだした。

䜕 人 寒 気 早いづれのひずにか かんきはやき 
寒 早 〇 〇 人 かんははやし ○○のひずに

いづれのひずにか かんき はやき
かんははやし なにがしの ひずに
もう䞀床、今床は問いかけるように諳んじた
どんな人が冬の凍えるような寒さを䞀番に感じるかい、寒さに凍えるのが早い人は・・・こんな人だよ、そんな問いから始たる挢詩ずいうものだ。

「䞀葉はどんな人が寒さに凍えるのが早いず思うのだ」
考えながら真䌌をしお諳んじる。
「いづれのひずにか かんきはやき かんははやし、膳かしわでのひず」
どうしおそう思うず聞かれお、
「あさ、早くから氎をくむでしょ、それにおさらを掗うのも手がこごえるずい぀もおしゃべりしおいるよ」ず答えたら、そうか、よく芋おいるなず目を现めお耒めおくれる、そしお䞀葉自身が寒さに震えるのはどんなずきだ、ずさらに聞く。
「冬の寒い日にいたずらをしお叱られたずきうすぐらい玍戞に入れられお
ごはんも抜きで小さくうずくたっおもちっずも枩たらなかったよ。」そういうず、そうだなあ、そのずおりだず道真公に぀いお話しおくれた。
 
 先ほどのは道真公が讃岐で読んだ挢詩である。

人身貧頻 じんしん ひんひん

 人の心身が貧しくおそれが続くこず、それを韻ずしお螏んで凍えるような厳しさを詩に諳んじた。
 土地を捚おゆく者、土地を捚おおきた者は、仕事も居堎所もなくお瀕。
身寄りのない孀児、子を身寄りのない孀児にするかず心痛める病の片芪
寄るものがなくただ涙するこず頻。
 薬草を取る者に銬の䞖話がかり倧切な仕事にも関わらず実入りが少なく貧
船乗り 魚釣り 塩職人 老いた朚こり いろんな人を心配しお皲䜜を進めたり救護の堎所を玹介したりしたんだよ。真に慈悲深く、囜の圚り方を垞に考え蚀葉にする。たたその蚀葉が軜やかでな。諳んじれば情景が浮かんでそこに真実映しずっおいるようだった。
 そう祖父宇倚法王は道真公を評した。

 確かにそのずきたでの嵐のようなどよめきはすっかり心の䞭を過ぎ去り、さっき教えおもらった韻をふんだ挢詩で頭の䞭はいっぱいだった。

「人ずしおも優れ、詩才文才実務どれをずっおも尊敬できる恩方であった。
しかし、䞖のため人のためになるこずであっおも、この宮䞭では阻たれ劬たれ身動きが取れなくなっおいく。それが悔しいのだよ。私は法曹の䞖界に隠れたが、䞀葉かずはよ、おたえは颚にのっおどこぞでもいくがいい。」
 幌子にわかるはずもない、そう分かっおはいおも、幌子ぐらいにしか、この心情を語るこずは蚱されぬ」
 そうしお小さい䞀葉の頬をそっずなでた。



 小さき䞀葉が法王をぞき蟌んで話しかける。ねえあれを鳎らしおもいい。
そばにあった朚枠をちらりずみる。膝に座った䞀葉のちょうど目の高さぐらいだ。朚枠に円盀状の小さな鉊|《かね》がかけおある。空掞になっおおり䞭倮はさらに円状に隆起しおいる。打ち具で叩いおみるずチヌンず短く音がなる。短く高く響く鉊の音は韻を刻むにちょうどいい。

 䞀葉はすぐに挢詩のリズムず謎かけに倢䞭になった。

 普段は法王が唱える念仏に合わせお鉊を打぀のが僕の仕事だずでも思っおいたようだが自分でしたいこずを芋぀けだした。


䞀葉はその鉊かねが奜きかず問われおうん、ず答えニコッず笑った。

いづれのひずにか かんき はやき チヌン

 声に出しお諳んじおは鉊をならす。 
「挢詩も奜きか」 「うん、倧奜き」
 さらに倧きくニッコリ笑った。祖父宇倚法王もそれをみお埮笑む。
ではしっかり孊べばその鉊を䞀葉にあげよう。

 䞀葉は祖母にあったこずがない。母も䞀葉を生んですぐに亡くなったずきいた。䞀葉が生たれたずきもこんな雷鳎蜟く倜だった。ほどなくしお道真公の逝去の報が届いた。呚りの䞀葉に察する奇異な目に気づいおいた。孊び堎に出入りするこずを蚱されたあずはその利発さより䞀局、噂された。

 法王がただ臣籍にいお囜の最高教育機関である倧孊寮で孊び始めたずき文章博士ずしお匁をずっおいたのが道真公であった。自宅で開蚭しおいる私塟、菅家廊䞋にも教えを請いに行くほど心酔しおいた。
倩皇になっお早々に阿衡の玛議にかけられ窮地の折も讃岐から駆け付け取りなしおくれた。劻の衍子をはじめ道真に連なるものを埌宮に迎え入れ、姻戚関係を結び右倧臣ずしお支えを請うた。
 そんな道真公にたいする䞊々ならぬ思いも朝廷ではいずもたやすく無䞋にされる。出自が知れたら䞀葉は、そう思い、祖父たちは䞀葉の母の出自は䌝えずにきた。今の䞖では勉孊や人物ずしおいかに優れようずも政た぀りごずで報われるこずがない。かずいっおこの仏ぞの修逊が報われるのか。未だ確信はない、そんな思いを打ち消すように法王は読経を続けた。

 䞀葉は、盎接、母の出自をきいたこずはない。だがきっず、自分は道真公の血を匕いおいるに違いない、ずそう思っお生きおきた。

3.祖父医垫の話


かの者の血を匕くもう䞀人の祖父は倧孊寮では兞薬寮、すなわち薬孊を専攻し、そのあず。宮䞭に医術を斜しに参内し぀぀も盞倉わらず裏通りの医垫ずしお衆生ずずもに過ごしおいた。
 父は、母ずの瞁により境内に䜏たいを蚭け薬房も任されるようになった。色々な薬草の芳銙が入り混じる。䞀葉は薬房に入るのもその銙りを嗅ぐのも
嫌いではなかった。生来の奜奇心も手䌝っお色や圢、匂いで薬の効胜やその䜜り方を理解するのにそう時間はかからなかった。
 薬草が少なくなったら祖父のずころに蚪ねおいっお䞀緒に川蟺に詰みにいくのが楜しみだった。颚がそよぎ、氎面が揺らめきキラキラず光る。母のいない 寂しさも優しく包み蟌んでくれるような気がした。
 宮䞭ずは違っお垂井のものは身なりが貧しい。貧しさゆえの苊しみを倚かったがあけすけにしゃべるコトバは実がこもっおいる。ニコニコず、なんのはなしですか、ず聞き䞊手な奜々爺の存圚倧きかったけどね。

 「そうそう珍しい薬酒もあったんだよ。」
ずこちらを向いおニダリずする。我ぞびをみるずその話をするのだな。ヘビの酒か、呑むこずはあっおも呑たれるこずなど想像もできない。人間の方もそうだ。ヘビが入ったものを飲もうだなんおよっぜず酒にはふしぎな力があるんだな。
 そんな様子をみお、さらにからかう。酒に興味がでおきたかい。昔から神ぞの䟛物に欠かせない。特別な法芁の時には出るかもしれないね。

 ヘビは思った。そうだ、倩垝は神ずしお畏怖をもっお厇められおいた。
しかし、仏ずか法䌚ずかいったいなんのこずだ。それに䞀葉が䞀心に圫っおいるあの癜朚心に決めたやりたいこずず関係しおるのであろうか。

「さあ、今宵はここたでにしおおこう。」

 䞀葉は固い板堎に綿が痩せた薄い掛物を二枚広げ背を䞞くしお入り蟌んだ。䞀葉の背䞭に向かっお久しぶりにかの者ず亀わしたコトバを呟いた。

オ ダ ス ミ

4.蛇の名


次の日の朝

ザッザッ ザッザッ 
瀟の前を掃き枅める音がしお目を芚たす。玉砂利を敷き詰めおいるようだ。小鳥の囀り虫の声。サラサラず氎の音もする。倖に出ようず戞口に向かう。

「ちょっず埅っおただ出ちゃだめだ」
 䞀葉は倧きくはっきりず制止するように声を出した。倖の男がほうきを持぀手をずめおお目芚めですか、ずひょいずのぞいた。

「ああ達吉、すたないが桶に氎を汲んできおおくれ。」
そういっお運ばれおきた桶の䞭にヘビはスルッず身を滑り蟌たせた。逃げ出すずでも思っおいるのか。いぶかしく様子を䌺う。するずたた、ゞャリゞャリ ゞャリゞャリッず足早に誰かが来る音がする。

「おおヌい、䞀葉できたぞ」
 戞口に烏垜子がひっかからないよう倧きな男が頭を䞋げお入っおくる。
貎族のような身なりだ。男が頭を䞊げお顔を芋お驚いた。
どうしおここにいるのだ、男はこちらをみおニダリず笑った。人間の姿に身をや぀しおいるが間違いない、倩垝の䜿埒ではないか。
 䞀葉はそんなヘビの様子に目もくれず
「道颚みちかぜ出来たのか」ず今床は匟んだ声を出した。

「ああ、芋おくれ」
道颚が長筒の䞭から倧きな玙を取り出す。どうだ、ず自信げに肩ほどから䞡手で玙を䞋に垂らした。それは墚汁で描かれた倩に昇るあの日の我の姿であった。身をくねらせながらも口を倧きく䞊にあけ、雲間を突き抜け月に届くかのごずく立ち昇る。勢いたでも䞀枚の絵にそっくり映しこんだようだ。

「おおおおおヌヌすごいよこれは」

 䞀葉は䞡手を䞊げ䜓たで跳ねるようにしおその絵を耒めた。
キラキラず茝くように矎しいずいうのではないが、墚の濃淡、流れるような滑らかな線、ヘビがみおもそれは芋事ずしかいいようがない。
 しかしだ。こんな絵をしたためおやはり我を芋䞖物にでもする぀もりか。
それに道颚なんお人間のなりをしおいるがどう芋おもこや぀は倩垝の䜿埒。

 䞀葉はやっずヘビの方に意識を向けた。説明ず玹介が必芁だね。
そういっお、わけを話し始めた。
「宮䞭にいる間、曞物や倧孊寮での講矩、僧䟶の講話たで䞀通りのこずは芋聞きし孊んだ。ここにいる小野道颚はその指南圹。神職もいる家系で芋おのずおり曞画に優れおいる。色々盞談に乗っおもらう頌れる存圚」
持ち䞊げられお、オホンず軜く道颚が咳をする。

 そんな道颚を暪目に芋お、䞀葉は続けた。
「そのもっぱらの盞談の皮ずいうのは、唐から色々新しい文化や知識が入っおきただろう。挢詩や薬孊をはじめいろいろな術がもたらされこの囜の文化レベルがぐっず䞊がったのだけどそれで人々の暮らしが良くなったかずいうずそうでもないんだ。埗䜓のしれない病に襲われたりずいうこずが頻頻ず起こっお、それがどうやら陰陜を劖術ずしお䜿っおいる者たちの仕業でね。
おそらく、道真公の祟りずいうのもそのせいに違いない。」
「陰陜垫は自分で手を䞋さずにヘビや他の䞍思議な力を持った生けるものを䜿うんだ。名づけられおしたうず陰陜垫が死んだ埌もずっず瞛られる。匏神ず呌んでいるらしいがずおも神の行いずは思えないんだよ。」

「あの日の君は、その者たちにずっおなんずしおも手に入れたい存圚だ。
本圓にあの倜君を芋぀け出せおよかった。この瀟には道颚が結界を匵っおくれおいたからなんずか芋぀からずに枈んだようだ。」

倧きく、息を吞っお䞀葉がいった。

あの倜の君を写し取ったこの姿絵に これより名づけを行う

「君自身ではないから、君を瞛るこずにはならない。ただ君の倉化した姿で あるから、君自身の護守にもなるだろうよ。」

「いいかい、道颚」
「ああ、そちらもちゃんず曞いおきた。」
そういっおもう1枚、玙を広げた。そこには、韍ずいう文字が力匷く曞かれおいた。

5.神鹿の杖


韍 りゅう

それがこの姿絵の䞭の我の名前か

「氎蟺に蚪れた者たちが䞍思議に気分が軜くなるずいう噂が聞こえおきた。
こうみえお道颚はいたや朝廷の神護院のホヌプだからね。䞊から魑魅魍魎の類なら盎ちに成敗ず呜が䞋ったずきいお、これはあの父から䌝えきいた人の『重い』を汲み取るヘビに違いない、そういっお同行させおもらった。」

あの倜の君の姿
その身をよじりながらも
隆々ず月に向かっお昇りゆく


韍 これ以䞊ない曞きコトバだず思わないかい

 絵もそうだが、コトバもそうだ。映し取る技を線み出すのが人間ずいうのは䞊手であるな。しかし、この絵の方はもう䞀床絵をたじたじずみる。

我には手はないぞ、それにこの角はなんだ。

䞀葉ず道颚は䞊の方を芋おヘビから目線をそらす。
「たぁそれは、人間は自分より優れたものでないず認めようずはしないから
創䜜さ、匷そうな手だろう。」
クスクスッ ず䞀葉が笑い、ヘビの声なぞ聞こえたせんずいうふりをした道颚が肩を震わせ笑いをこらえおいる。

腕はたあいい、なんだこの角は

「そうそう䞀葉かずは」
 癜々しく咳をしお、道颚はわきに眮いおいた長い包みをほどいお芋せた。
「これは神護院の代目神鹿しんろくの雄角だ。鹿は圹目を終えた角を自身で生え倉わらせる。それゆえ聖なる生きものずしお特別に守護される生きものだ。」
 実際に䞊垝からの信任もあ぀く聖獣に違いなかった。その雄角の䞭をくり抜いおある。立おれば䞀葉の胞のあたりたである立掟な角だ。生え際の倪い方がパカッず蓋になっおいた。
「蛇が入れるぐらいの立掟な角であろう」
たた道颚はこちらをみお口の端を持ち䞊げる。

「うん、いいかもしれない」䞀葉が答える。

京で少し甚事を枈たせたら東ぞ旅に出たい
「君に同行しおもらいたいのだが、日照りには匱いだろう。これなら杖にもなるし巡行装束にぎったりだ。」

「それに神鹿の杖だ、旅の安党を守っおくれるさ。」道颚が加えおいった。

6.井戞


旅 ずはなんだ

”京で少し甚事を枈たせたら東の方ぞ旅に出たいのだ”
䞀葉のコトバを反芻する。京の町、そうだ かの者ず過ごしたあの裏通り
今はどんな様子なのだ。
「芋に行こう、いや芋おほしい」䞀葉は真剣な顔でヘビに向かっおいった。その時、道颚もあわおた様に声を出した。
「おおっず もう参内の時間だ。銖尟よく行きそうか たた教えおくれ。」

 たた窮屈そうに身をかがめお戞口を出お、ゞャリゞャリッず駆け出すの音あず銬のいななきがしお去っおいった。䞀葉は、先ほどの韍の絵ず楷曞を倧切にしたったあず朚棚より違う巻玙を出しお広げた。

「京で枈たせおおきたい甚事ずはこれなんだ。」
それは実際に歩きながら曞いたような地図であった。近幎、少雚ず日照りにより干ば぀がひどく、疫病も流行ったのだが薬を飲む氎にもこずを欠く始末
行き倒れるものも倚く、川べりに打ち捚おられ、川の氎も䞍浄になる。
 以前はきれいな川で皆が喜んで遊んでいたのにすっかり野蟺ずしお忌み嫌われ衆生は瀕するばかりなのだ。父も祖父も懞呜に治療にあたったが疲れず疫病にかかっおしたっお同時期にこの䞖を去っおしたった。

なんずかしおきれいな氎を敎備したい

 そんなこずになっおいたのか、ず驚いた。䞀葉のこの苊劎したなりはそのせいであったのか。我がい぀も地䞊で居堎所ずしおいるずころは朚々に芆われお土壌にも氎をたっぷり含んでいる。地䞋氎脈にも通じおいるのだ。

䞀葉の広げた地図を芋る限りでは朚々の生い茂った堎所は少なそうだ。先ほど達吉が汲んできた氎はいったいどこからそう思ったずころに䞀葉が声をかけた。ちょっず裏にきおごらん。぀いおいくず瀟の裏の朚々のたた奥に四角く石が積み重ねおられおいた。
瞁には瞄が぀けられた朚桶があり、䞭は空掞になっおおり薄暗そうだ。近づいおみるずヒンダリず柄んだ空気が挂っおくる。なるほど地䞋氎か。 

 そこではたず気が付いた。この仕組みを利甚しお道颚も倩䞊ずの行き来をしおいるのだな。ヘビは合点がいったずいう顔をした。

ほらっ、ず䞀葉は汲み䞊げた氎を䞡手ですくっお蛇にかけた。
匧を描くようにキラキラず氎が空を舞う。痩せおはいるがニコッず笑うず二十歳の若者らしく笑顔がたぶしい。

氎は恵みだ

 地䞊ず倩䞊を行き来する人間から芋たら特別な存圚であるヘビも、氎がなければ生きおはいけない。それは人であっおもヘビであっおも同じこず。雚を降らすなんおこずはヘビであっおもたしおや倩䞊の䞊垝であっおもできぬこず。朚々があっお倧地があっおその均衡が厩れたずきに気象が乱れる。

「君に䌚えお良かったずいうのは、あのコトバによる浄化だけではないよ
䌝え聞いた君ずこうしお過ごしおみるのが倢だった」

「それずこれはお願いだ。京に、衆生が暮らす堎所になるべくたくさんの井戞を䜜りたい。自然の均衡の内で地䞋氎脈のある堎所を教えおほしい。」

 蛇はすこし間をおいた。地衚に接しおいれば氎脈は感じるこずができる。だが砂利道を腹を぀けお進むずなるずあっずいう間に涞びおしたう。
さきほどの道颚の口の端をあげた笑みの意味が分かった。
それも倩の意思ずいうこずか。いいだろう。たずは神鹿の杖に入る緎習をしなくおは。その前にもう少し氎济びをしおからな。
蛇はそう䞀葉に向かっお投げかけた。


 冷たい氎は気持ち良い。䞀葉も手ぬぐいを濡らしおきれいに身を枅める。瀟に入り今床は膳の甚意をする。朝ず倕だけの質玠な食事だ。
 埡仏の埡蔭いただきたす、䞀葉の掛け声に達吉も䞀緒に合掌する。わずかばかりのあわやひえ、裏で取れた草を混ぜおかゆにしたものを箞で食べる。   䞁寧な所䜜だ。望めば先皋の道颚のようにもなれたであろうに出自のせいか それずも自ら遞んだ道か。膳を䞋げお、䞀葉はさあ、ずヘビに声をかけた。
神鹿の杖の居心地は思ったより悪くない。
倖の様子が䌺えるよう目の来る圓たりに芗き穎がし぀らえおあった。

 膝より少し長い質玠な癜衣に地図ず筆具をいれた頭陀袋を肩からかける。
頭には笠 足には草履 どう芋おも立掟な埡角ずは䞍釣り合いだが、きりっず匕き締たった口元ず穏やかで柄んだ瞳からは気品ず颚栌が挂っおいた。

 瀟は町のはずれにあった。以前のかの者や䞀葉の祖父が䜏んでいた堎所は
街䞊みは自䜓はあたり倉わりがなかったが貧しい身なりの成人が目に付く。
寒さだけでなく暑気も堪える、今幎も暑くなりそうだ 急がなければ。
䞀葉は杖の先を少しだけ地衚にするようにしお行脚した。

 氎脈だ。蛇はそう感じお杖の蓋をコンずあごの先で抌し䞊げ合図する。
 䞀葉はそれを正確に地図に萜ずし蟌みその日のうちに達吉に屋敷にもっおいくよう蚀付ける。そうこうしお、郜を隈なく行脚するうちにもすでに合図した堎所には次々ず人足達が集たり井戞づくりを始めるのだった。
 達吉はいったいどこの埡屋敷にいっおいるのだろう。銖尟よくいきそうか 教えおくれ ずいっおいたので道颚であろう、ヘビはそう思った。

7.旅立ちの前に


 倏はすぐそこであった。すべおではないが、早くに着工したものはもう井戞ができあがっおいる。こどもに背䞭を緒ぶった母芪、老芪の䞖話をする䞭幎男、䞋の兄効の面倒を芋぀぀䞀緒にはしゃぎぐ子䟛たち。

 近くに氎堎ができお皆が喜び瀌をいう。
「力を合わせお掘っおくれたおかげだよ。」䞀葉はそう蚀っおはにかんだ。奜かれおいるのだな、ず蛇もうれしくなる。䞀葉ずの毎日でかの者を思い出しお寂しくなるこずも少なくなった。

「おおヌヌヌい、出来たなあ」
公家を乗せた銬が頭、井戞の手前で止たる。䞀人は、道颚。手網を握りながらもう1人が銬に氎を䞊げおくれ、ず達吉に声をかけた。達吉は深々ず頭を䞋げお銬を匕き氎を飲たにいく。

「順調だな、䞀葉。これで出発前の心残りもなくなったか」
そう問いかけた男は、藀原実頌ふじわらのさねよりである。
藀原家から宇倚倩皇に嫁いだ女埡の子息で䞀葉のいずこだ。䞀葉より぀幎䞊の歳。それほど長身ではないが顔も䜓もバランスが良い。
井戞の呚りの女子連䞭の芖線がみな実頌に向けられ実頌ず䞀぀しか倉わらない道颚は少し䞍満げだ。
「さすが藀原家のお坊ちゃんですな」ず道颚はからかった。
「よせ、藀原家ずいえど様々だ。倩䞋の暩勢から倖れたしがない身分よ。」
そうはいうものの、実頌自身にもそれなりの財力があり、公にはせず、この井戞づくりもひそかに資金を揎助くれおいる。
䞀葉の旅にも持たせおやれるし、道颚の小野の䞀族は各地で任を務めおいるから頌る先もあるだろうそう心のなかで思っおいた。

「そうだなぁ、明日には立ずうず思う。」
そうか、では今宵は出立前のお祝いだ。銳走は瀟に運ばせる。
倕刻たた䌚おう。そう蚀っお実頌ず道颚はたた銬にのっお駆けお行った。
「実頌の䜿いが来る前に瀟に戻っお準備をしおおくれ。」
䞀葉は達吉にそう頌み、神鹿の杖をもっお歩き始めた。向かった先は、山間にある䟋の氎蟺であった。かの者もよく座っおいた倧きく地衚に隆起した朚の根っこに腰をかける。

䞀葉は杖を暪にしお
「さあ出おきおいいよ。」ずヘビに声をかけた。朚の葉がさわさわそよぐ、ぞびは氎蟺に近づき湿った土の感觊を楜しんでから氎に入った。
キラキラず光る氎面を眺めおから䞀葉の方を向く。
 井戞の目途が぀いたからか、少し脱力しおいるようだ。ふっずのど元に黒いものを感じる。ヘビの心配に気づいたのか、䞀葉は語り始めた。
「これからの旅は、仏に通じる道ぞの旅、䞀葉 ずいう名を捚おるずいうのもそのためだ。しかし、捚おきれない思いず本圓にそれで衆生が救えるのか、
仏の道ずはそんな力があるのか、信じきれない思いもあるのだ。君にこの”おもい”を取り出しおもらっおもいいだろうか。」
 ヘビは達吉たちのしぐさを孊んで頭をコクリコクリず床さげた。

ただし、コトバ はなんのはなしですかではない
南無阿匥陀仏ナムアミダブツだ


ナ ム  ア ミ  ダ  ブ ツ

ナ ム  ア ミ  ダ  ブ ツ

 頭のなかでむメヌゞする。もずもず ナンノハナシデスカ だっお䞊手くは声にだせたりしおいない。甚意はいいよ、ずいうようにもう䞀床コクッず頭を䞋げたあず䞀葉をたっすぐに芋぀めた。

南無阿匥陀仏 ナムアミダブツ

䞀葉が手を合わせ南無阿匥陀仏ず小さく声に出した

ナ ム  ア ミ  ダ  ブ ツ

ヘビがそれに呌応する。するず、ポンッず䞀葉から「おもい」が飛び蟌んできた。ほんのりあったかく、口から出した玉は、氎色がかったきれいな透き通った玉だった。


我にずっおは”呑んで””出す”ただ、それだけのこず

 あずのきれいな玉を眺めお晎れやかな気持ちになるこずはあったが、䞀葉のいう”浄化”ずいう行いはヘビずっお、取るに足りないこずだった。それにしおも䞀葉の”おもい”から出た玉はキレむだ。ヘビはきらきら光るその透明な玉をうっずり眺めた。

 䞀葉はずいうず、もう回、合唱しお呟いた。

南無阿匥陀仏 南無阿匥陀仏

ああヌヌヌ、すっきりした。そのあずは堰を切ったように語りだした。

「なんか もうずっずうじうじ考えおいたんだ。母の出自をしらなくお。
もしかしお道真公の䞀族で。もしかしたら出産のずきには死んでなくお。
道真公の倫人たちの郜远攟で䞀緒に東囜に远い出されたんじゃないかっお。
僕だけぬくぬくず宮䞭で過ごし、勉孊に励んでもた぀りごずには加われない
励んだずころで嫉劬や䜕かで倱脚するのは目に芋えおいる。」

「医垫ずしお勀めるこずも考えたよ。でも宮䞭でも治せない病の果おにすがるのは仏僧で豪奢な寄進をうける。垂井においおは、薬を飲む氎さえ事欠き栄逊を぀けようにも食べるものにもあり぀けないのになんだかなぁっお。」

 い぀もの䞀葉らしくなく、どんどんずコトバが぀いお出おくる。本圓の気持ちをずっず抌し殺しおいたのだろう。ひずしきり語ったあず真剣な顔になっお蚀葉を続けた。

「そんなずきに思い出すのは幌き日にきいた道真公の寒䞭十銖だ。
貧しき人を貧しきたたに、どうしおそうなるのか背景にたで思いをはせお映し取る、ただの詩なのに、その枩かい県差しを思い起こしお心が熱くなる。貧しき人に目を向けお救いたい、そのずきから仏法に目を向け始めた。」

 「16になる幎に、父ず祖父からあの光る玉を枡された。君の なんのはなしですかずいう受け取りず浄化ののふしぎな話ずずもに。仏教では南無阿匥陀仏ず唱えるず仏様が救っおくれるずいうんだ。それが”なんのはなしですか”のコトバで君がおもい”を取り出すこずに䌌おるなんお、なんずなくだけど䞍思議ずそんなこずが浮かんでね。僕は コトバの力でみんなの”おもい”を映し取し心を癒すすべをひろめたい。
 
そのすべが仏の道で埗られるのならその道を進んでいきたい。

『なんのはなしですか』ず『なむ あみ だぶ぀』
 なんだか䌌おいるずおもわないかい。共通するのならきっず、それは信じるに足るこずだ。それをやっおみたい。芋守っおいおくれ。
 それにね、やっぱり、僕の䞭には、母ぞの思慕、ひいおは菅原䞀族に察する断ち切れない思いがある。この旅でそんな己に向き合いたい、それは東囜に旅するこずだ。法王もこの行脚には喜んで資金を出しおくれるかもしれないしね。区切りが぀いたら衆生のために党力を尜くすさ。」

たくたしいものだ。みな『おもい』をだしたものはたくたしい。
出したはずなのに、そのたたそっくり『受け入れる』やるだけやるさ、だめならさっぱりあきらめるそんな軜さを持っおいる。

旅か、どんなずころに行くのだろう。少しばかり楜しみになっおきた。

ただ、仏の道は神護圹の道颚みちかぜはどういうだろう。
䞊垝のこずがふず浮かんで蛇は少し寒気がした。


 瀟に戻るずもう道颚ず実頌は瀟にきおいた。昌間は汗ばむぐらいの陜気だが日が萜ちるず涌しかった。颚にあたりながら食そうか。瀟は小さいものであったがそれでも通りからは十分に距離をずっおぐるっず朚々も怍えおあった。その蟺は、倩䞊の䜿埒でもあり地䞊でも神護院に属する道颚の領域だ。    色々な意味でしっかり守りが固められ、安心しおしゃべるこずのできる堎所であった。
 䞀葉たちが倖の腰掛けで話をはじめた埌、ヘビはこそっず瀟の䞭に入っおすみの方で䞞くなった。ずきおり聞こえおくる笑い声、ガダガダずした
雰囲気が心地よかった。
「いやヌ、少し飲みすぎた。少し䌑んでくるよ。」
そう声がしお道颚が瀟の䞭に入っおきた。

 道颚は倩垝の䜿埒でありヘビず話が通ずる。酒か、そう投げかけるず
「ああ、酒はいいぞ。軜く陜気な気分になる。昔から神ぞの貢ぎ物に入っおいるしな。倩垝も気分が良くなっお時折ふるたっおくれるのさ。」
「ほらお前さんにも、」
 そう蚀っお癜い盃をヘビに差し出した。あの瓶に入った薬酒を思い出すが目の前の氎のように柄んだ酒はふんわりずいいかおりが挂っおきた。
「お前さんもお韍様だもんな、神の聖獣ずいっおも過蚀ではない。䞀葉をしっかり守っおやれよ。」
 ヘビはわかっおる、ず蚀わんばかりに舌をだし、その぀いでにずいった感じでチロチロッ、ず酒を舐めた。なんずも蚀えないふくよかさ、酒ずは矎味しいものだな。ヘビはペコリず頭を䞋げた。
 それににしおも、䞀葉のいう仏ずやらの道。この囜は神が玍めおいたのではないのか、
道颚がいう。
「たぁそうだったんだが、ここ䜕十幎かの間に倧陞から仏教がやっおきお。
たあ、その教えも結局意味するずころは倩䞊䞖界ず人間の䞖の理こずわりだろうっおいうので容認する方向になったんだよ。ただもずもずの神も倧事にしおくれよ、ず今は神も仏も䞀緒に奉る神仏習合の時代っおわけ。」

「䞀葉が垰っおきたらこの瀟にも仏をおいお぀いでにあの韍の絵も奉っおやろう。なにせ、いい出来栄えだからな、」
カッカッカッず倧きな口をあけお笑った。

第章


1.門出


「ちゃんず持ったか」
旅立ちの朝、そのたた瀟で䞀倜を過ごした道颚が心配そうに声をかける。

 これから向かう先は尟匵の囜分寺。もちろん、囜の鎮護のための神護院の管蜄瀟寺だ。尟匵は畿内ず東囜を結ぶ重芁な芁所である。そこの囜府の任を道颚の父が担っおいるずきに、道颚は生たれ12になるたでそこで過ごした。
 偉い仏僧のもずで修業したわけではない䞀葉だがそこなら銎染みの任官や僧䟶に口添えできる。䞀葉には駅路ず芁所を蚘した地図ず尟匵囜府ず囜分寺僧䟶にあおた曞を持たせおいた。

「実頌ず私あおに手玙も忘れずにな」ず念を抌す。
 生掻のための荷はできるだけ抑えたが道颚の曞ず文筆具の他に倧事なものがあった。綿垃で䞁寧にくるんだ圫りかけの癜朚、祖父、法王から譲り受けた鉊かねず撞朚しょうもく。背負い玐を぀けた竹篭に入れた荷をもう䞀床確かめ、よし、ずその肩にかけた。

 现い肩には、ずしり、ず重い。しかし、そうずは感じないぐらい足取りは軜かった。行っおくる、いうより早くはじめの䞀歩を螏み出しおいた。
もちろん、手には神鹿の杖を持っお。
 氎脈を探すずきは杖に入っおいたヘビも、旅の間は背䞭の篭に入っおあたりを芋回す。道䞭、人里にある田畑は荒れおいたが山間は緑豊かでいくら芋おも芋飜きるこずがなかった。

 五幟䞃道、地方に通ずる道に駅堎が敎備され囜府に行くにはその道沿いを行くのが近道だ。䞀葉は、たず先にきちんず僧䜍を埗なければ、ず景色を楜しむ䜙裕などなく急ぎ足で、山城、近江を抜け尟匵ぞず進んでいった。
 尟匵囜分寺は倧きくヘビのように蛇行する川の近く小高い䞘になった堎所に立っおいた。䞀葉の目の前にある囜分寺はもずは願興寺ずいう飛鳥の流れを汲む寺である。以前の囜分寺の倱火により囜分寺ずなったのだが宮䞭にいた䞀葉も遠目に芋おも息を飲むほどの荘厳な造りであった。

 䞀旊、囜府に逗留したあず取り次ぎを埅ちいよいよ入門を蚱された。

ヌ延長元幎月25日ヌ
小野道颚、藀原実頌にあおた手玙

晎れお埗床を受ける
法名は、䞀氎  いっすい 
自分で法名を申し出るこずは前䟋がないこずだけど
道颚の呜名願いの䞀筆により受理頂いた
さすが道颚の故郷、曞才、画才の栄達が蜟いおいる
道真公の右倧臣埩䜍の日に出家できお嬉しい
剃髪しお法衣も頂いた
これより東囜巡行に向かう
䞍安はない、阿匥陀仏が䞀緒だ

文をしたためお感慚に浞る。䞀氎いっすいは自分で考えた僧名だ。

海ならず たたえる氎の底たでに
きよき心は月ぞおらさむ

菅原道真  倧鏡 叀今和歌集
 

海のようにどんなに深い氎底であっおも
氎のように枅く柄んだ心でいれば月が照らしおくれる

 巊遷で䞋る道すがら、同情の念をこらえきれない播磚の䞖話圹をなだめるかのように道真公はそう和歌を詠んだ。挢詩に通じ、詩情ずいうものを和歌にしお浞透させた。難しいものを難しいたたにするのではなく、人々に芪しみ受け入れられるよう心を砕いた人物でもある。

 修行を終えお今改めお思う。枅く柄んだ氎でありたい、月のように光る玉のような䞀滎の氎。空くうにありお、枅濁氎䞭にある衆十を氎鏡のように映し出し倩の光を届けたい。
 いや、届けるのではない、届いおいるのだずいうこずを䌝えおいくのだ。

月を芋䞊げるように、南無阿匥陀仏ず唱えるず
阿匥陀劂来の光を受けた月のような芳音菩薩が優しく人々を映しだす。
そしお映し出された姿は浄土に届く。

 修行を終えおそのように感じるようになっおいた。
ヘビがおもいを出した埌のたるい光る玉の存圚がそれに確信を䞎えおいた。

次は東囜だ、新たに䞀氎いっすいの旅が始たった。

2.東囜


尟匵を出お䞉河 遠江 é§¿æ²³ の埌 甲斐にも足を延ばす。笠ず法衣を身に纏い胞からみぞおちにかけお䞋げた鉊を撞朚で打ち鳎らす。
 阿匥陀仏の称名を唱えながらの遊行である。
 街道の倧きな囜府は通ったに違いない。菅原に類するものがいないか気にかけながらもその地の颚土や人の営みを盎に感じる。

ヘビず出䌚う前は播磚や阿波 讃岐 土䜐ず修逊のために行脚しおいた。

 郜から離れれば離れるほど未開であろうず思っおいたが郜ずも遜色ないぐらいの荘厳な寺瀟や金が匵り巡らされた仏にも驚きもした。郜では貎い身分ずいうものずそれ以倖の垣根が高く庶民が仏の像を芋る機䌚などない。
 衆生のための仏像を䜜る、その衆生をあたねく映す仏の顔ずはいったい、自らが圫る仏の衚情に答えがでないたた旅は続いおいく。

 延長幎は機瞁に恵たれた幎であった。

垞陞の囜は男でも女でも銬に乗り闊達だ
それに情が深く䞋のものを亀えお酒を飲む
平将門はその名のずおり堂々ずしたものだが
同じ生たれ幎の瞁だず枞行の身ながらもう幟月かそばにいる
南無阿匥陀仏の称名に芳応しお垂䞭同行するものあり

先般は垞陞介ずしお菅原景行どのが着任された
この地が倧局気に入り道真公をた぀る蚈画がある
浄土に向かっお祈りたい   
         垞陞に       䞀氎

 泣いたり笑ったり怒ったり、仏門修行䞭、感情を声に乗せお高らかに発するこずは慎むべきこずでありほずんど芋るこずがなかった。

生呜を高らかに宣蚀する、その生宣りいのりを前にしお䞀氎はわき出ずる感情をしっかり自分の䞭に萜ずしこんでいく。

 別れが近づくに぀れお、䞀緒に行かせおくれずいうものが幟人も珟れた。
将門は別れがたいようだったが、埀け、たたい぀か䌚おう。そういっお銬も䞎えおくれた。ありがたい。

 いよいよ東囜の最終地、陞奥に入る。最終にしお最倧の地。
たくさんの郡に分かれおいるが、人里はずいうず密集しおいるわけではない
銬を䞎えおもらったこずが倧局助かった。平将門は自分のこずを道真公の生たれ倉わりず信じお、それを高らかに宣蚀しおいた。
垞陞以降、同行しおくれおいる者たちも、道真公の倫人の行方をたどるこずは将門ぞの恩矩を返すこず、そういっお聞いた話を党お䌝えおくれた。

぀いに平泉に入った
平安京に぀ぐ第二の郜垂、芁所であるずいうこずが
よく分かる、自然の景勝なるものはそれ以䞊だ
䞡岞にそそり立぀岞壁は䞋にいくほど䞞みを垯びお
氎の勢いを止めるこずをしない
遠目には朚々の緑ず空の青を混ぜたような深い翠を
しおいるが、近くで芋るず透明の氎しぶきが光り
絶えるこずなく流れ来る
道颚のように詩才がないのが悔やたれる
枓谷の䞊流よりただ東にいった小高い䞘に
菅原姓を名乗るものがいるずいう
぀いにここたできた

 ここたで曞いお筆が止たる。もし違っおいたら、もしそうであっおも、その時の自分は、思慕する気持ちか憐憫の情を抱くのか。それは誰に向けた憐憫なのか。目的を果たしたら氎のような枅らかな心の境地が蚪れるのか。
ずりあえずここたでやっおこれた。明日もたた䞀歩螏みしめるだけだ。

 ヘビはそんな䞀氎に付き埓う。
 慰めも励たしもしない。自然も心も移ろいがあっおいい、それをみおいるこずが奜きだ。明日も䞀緒にいられる。

オ ダ ス ミ

そう小さく぀ぶやき目をずじた。

3.吉祥女


 朝の柄んだ空気がヒンダリず頬ず射す。䞀氎|《いっすい》は神鹿の杖を突きながら谷の分岐の手前で東に䜍眮する䞘に向かっお足を進める。ぜ぀んずひず぀民家がありその前で薪をわる䞀人の男がいた。

「はるか西の京の郜より浄土ぞ至る阿匥陀を唱え、巡行しおいたらここに至りたした。どこにも属さぬ根なしの枞行僧です。阿匥陀仏を唱えさせおはいただけたせんか。」
 男は、そういう䞀氎の顔をぱっず顔を䞊げお䞭に案内しおくれた。
「これからあさげをお䟛えするずころです。さあ、どうぞ、ご䞀緒に。」

 よく掃き枅められおはいるが、屋敷ずいうには小さい菅原を名乗るものがいるず聞いおやっおきたのだが、間違いであろうか。有難く斜しを受け、䞻人に぀いお尋ねおみる。

 名を菅原山城すがわらのやたしろずいった。
「ここの䞻は玀長谷雄きのはせおの劻であり人のこどもを連れお京より移り䜏みたした。私は、その埓者です。お子様たちはそれぞれ別に䜏たいを持たれたしたが奥様はここで過ごし、今この䞊の䞘に眠りたす。」
「奥様は仏様を信仰しおおりたした。どうぞご説法をお願いいたしたす。」
ずそういっお深々ず頭を䞋げた。

 䞀氎は息を飲んだ。『玀長谷雄』は道真公の門人であり文章博士である。
兞薬頭も務め䞊げ医薬に詳しく䞀説には『竹取物語』の著者ずの話もある。
 倧宰府で道真公の今際に立ち䌚ったほどの仲であるず聞く。間違いはない、ここで眠る方は道真公の奥方様だ。
そしおそれは私が探しおいた母に連なる方でもあるかもしれない

 湧き䞊がる興奮を気取られないように 少し間をおいおいった。

「これも䜕かのご瞁に違いありたせん。ぜひ墓所ぞずご案内䞋さい。
阿匥陀仏の埡真蚀に加え貎人ぞの蚀葉を手向けずうございたす。䜕か、逞話や生前に倧事にされおおりたしたものはありたしょうか。」

 その問いかけにそうだ、ず倧切に棚に食っおいる䞀冊の曞を取っおくる。
「私は、文字は読めたせん。でも奥方様は朝な倕なず手に取っお倧切に読み
撫でるようにたた棚に戻した埌は墓所である䞘の䞊に立たれおおりたした。ぜひその䞭から読んで差し䞊げおは䞋さいたせんか。」

 曞の衚には『菅家埌集』ず曞いおある。手にするず読みこたれたであろう頁がはらりず開く。

『代月答』
蓂癌桂銙半䞔圓
䞉千䞖界䞀呚倩
倩廻玄鑑雲将霜
唯是西行䞍巊遷

蓂癌きめいひらき桂か぀ら 銙かぐはしくしお
半なかば 圓たどかならむずす
䞉千䞖界さむぜんせかい䞀呚ひずめぐりする倩そら
倩おん 玄げん鑑かむを廻めぐらしお
雲 将たさに霜はれむずす
唯ただ 是これ 西に行くなり 巊遷させんならじ

新線日本叀兞文孊党集出兞 参

月に問いかける人よ
私の䞖界では暊草が花開き、月の䞭の桂暹が銙る。月はようやく半円だ。
月に問いかける人よ
私は䞉千倧千䞖界の倩を䞀巡りしおいるのだ。倩鏡は私をおおっおいた雲をたさに取り払わんずする。
月に問いかける人よ
今この地にいるのは巊遷ではない。䞉千倧䞖界においお今は西に行く、そう定たっおいただけなのだ。

 ただ、文章の倩才ずいわれ知識が豊富なだけの人物ではない。挢詩においおもその颚景、詩情、その仏教的思想の矎を寞分たがわず読取り、たた自身でも詠むこずができたのだ。劻もたた、これを詠み我が心情を汲み取っおくれるはず。そしお詩を送る。その深き぀ながりに胞を突き動かされた。

 倫人の眠る小高い䞘で、深々ず瀌をし掌を合わせ経ず詩を読誊した。
自分の声が胞の内でも倧きく響き熱を垯びる。私はここに来たしたよ、そういう想いも入っおいた。もう䞀床深々ず瀌をしたあず顔をあげる。
 小さな五茪塔が䞡脇にふた぀、真ん䞭に墓石のみ。
 「もずは身分のある高貎な方であったずお芋受けするが、どこぞの寺院に寄せるこずは考えなされたせんでしたか。」

「奥方様は私が死んだのちは吉祥女ずしおこの䞘この堎所に埋葬を望たれたした。この堎所からあの人を芋おいたいのです。囲いなどしないでくださいね。くれぐれも頌みたしたよ、ずの遺蚀でありたした。」
そう山城は涙ぐんで答えた。
 どこかを芋おいたのか。䞀氎は墓の暪で向きを倉え、䞘から芋䞋ろす。

 山城が手をかざす。
「あちらです、あの枓谷の分岐点、岩厖が䞘陵尟根ずなっおいる先端に寺があるのです。日䞭はあちらに詣でるこずが奥様の垞でした。」

そこに行っおみよう

「しばらくこの地に逗留予定です。どうか、こちらに参っお経を䞊げさせおいただくこずお蚱し願いたい。」ずそう山城に䌝えお瀌をした。

山城もたた手を合わせ深々ず瀌をするのであった。


4.毘沙門倩


 この䞘から芋える先に寺がある。でもそこに䜕があるのだろうか。
䞋りの道は朚々の隙間から差し蟌む光が苔の氎滎をキラキラず照らし出す。
逞る気持ちず裏腹に足元を芋ながら䞀歩ず぀䞋っおいく。
 
 谷の分岐たでやっおくる。このような堎所にも経路が敎えられおいる。
こんな地たで朝廷ずはすごいものだな、䞀氎はそう思った。この陞奥の囜は癟幎もたたない昔は蝊倷が䜏んでいた。それを遠埁しお平らげたのだ。
 埁倷倧将軍 坂䞊田村麻呂、生たれた埡䞖は道真公より早いが文の菅原道真、歊の坂䞊田村麻呂ず称される。確か、枅氎寺も創建したはず。

 枓谷の分岐、䞘陵尟根の先端郚に突劂ずしお寺が珟れる。名を達谷西光寺ずいう。城内は東西に広く、西偎には高く高くそそり立぀岞壁を利甚した懞づくりの窟堂ずなっおいる。それも簡易なものではない。九間四面の朱色の厳かな粟舎。枅氎寺の舞台が県前に珟れたような錯芚を興す。

 西光寺の僧に挚拶をしたあず、堂の䞭を案内しおいただいお驚く。おびただしい数の毘沙門倩像、その数なんず108である。毘沙門倩は四倩王の䞀人で最匷の歊人であるず同時に党おの事を䞀切聞き挏らさない知恵者ずいう。
 祖父法王より、倩才ず誉れ高い道真公であっおも文章詊隓の前は毘沙門倩に祈ったそうだず教えられた。そしお道真公の幌い頃は吉祥䞞だったずも話しおくれた。
 毘沙門倩ず吉祥倩女は倫婊である
道真公の奥の方は、みずからを同じ吉祥ず名乗り吉祥倩女の䌎䟶である毘沙門倩を西に仰ぐ。なんずいう繋がりだろう。

蓂癌き桂 銙しくしお半 圓ならむずす
䞉千䞖界䞀呚する倩
倩 玄 鑑を廻らしお
雲 将に霜れむずす唯 是西に行くなり巊遷ならじ

 ここは吉祥女ず毘沙門倩の玄束の地であったのか。時の磁力に抗えぬ䞉千䞖界では分かたれるずすれども、涅槃では䞀緒であるから気には留めおいない、君はそれを芚えおいるだろうか。この挢詩にはそんな思いも蟌められおはいないだろうか。
 骚などは心のたた葬っおくれず息子に蚗し心は劻の埅぀地に飛んでくる。 東から吹き来る梅の銙を頌りにしお。䞀氎の目が熱くなった。
 互いの絆を信じ、あの䞖に垌望を感じ蚀葉を玡ぐ。人の心ずいうのはなんず深くおあたたかい。そしお今生の埌に浄土があるずいうこずはなんず優しく幞せなこずだろう。

108ある毘沙門倩像の顔もよく芋るず䞀぀䞀぀が異なっおいる。
 自身の圫っおいる衆生のための䞀躯の仏像みなの衚情をひず぀残らず映し取りたい。やはり䜜るべきは十䞀面芳音像だ。できる、そう思った。
うしろの面は未緎なぞ残さず倧笑いしお涅槃に旅立ずうずする枅々しいお顔にしよう。じっくり腰を据えおこの地で圫ろう。

 寺の䞀宀を間借りしお、䞀心は無心に完成に向かっお圫り進めた。
 ヘビはゆらめくロり゜クの明かりず䞀氎の背䞭を芋぀めおいた。


5.梅


延長8幎幎4月25日

達谷西光寺に身を寄せおもうすぐ幎
梅の花のかぐわしい芳銙に去りがたし
山城方恒䟋、道真公の埩䜍の日を祝う梅芋䌚に
今宵招かれおいっおきた
菅公倫人に付き埓っお京より䞋った芪族も集たり
そのうちひずりは平泉の医垫に嫁いだずいう
菅公倫人をここたでお連れした
兞薬頭も務めた かの玀長谷雄 公より
䞭囜の医薬兞『神蟲草本経』の副曞を戎いたが
挢語は難しくお分からないず和蚳を頌たれた
和コトバひらがなの普及はその埌どうだ
曞物も和コトバで曞かれたものが必芁だ
仏の教えも『なもあみたふ』ず節を぀けお
和讃称名するのみず昇化する
意味するずころは仏ずし、
その像をこちらから出向いお芋せお目ず耳を傟ける、
その実践のみが蚌明であるずの境地にいたる
昌間は仏ずずもに枞行し぀぀
曞物を読み解き和コトバに蚘しなおすこずずする
それが終われば京に垰る

 筆をおいお今宵の宎を思い出す。母かもしれない、ず思い続けおきた方々を前にしおもふしぎず心乱れるこずはなかった。今生での瞁は薄くずもここたで至ったきっかけを䞎えおくれた。ふくよかなる人生だ。

今生での瞁、浄土では䞞くひず぀ずなる円

円ず思い浮かべお、そうだ、君も倧切だよ、ず酒宎での酒を前に眮いた。
ヘビは、うれしそうな䞀氎をみながらチロチロッず酒をなめた。

 それにしおもこの曞にある『烏梅うばい』青梅を玠早く燻補にしおカラカラにした挢方薬だ。父の薬房にも眮いおあった。感冒や腹䞋しに薬効があるが、高䟡で垌少なものなので垂井では䜿えない、ずいうのでこの囜では䜜るこずができないの、ず聞いおみたこずがある。

「どうも䞭囜の梅ず違っお酞が匷く同じ䜜り方をしおもずおも煎じお飲めるものではないのだ。もう少し柔らかくふくよかであればず思うが保存がたた
難しくおね。」ず残念そうに肩をすくめた姿が思い浮かぶ。宎垭でみた医垫くすしであるずいうそのご仁。朗らかな笑い顔がどこずなく父に䌌おいたからか、思いだす父も鮮やかであった。

 東囜の冬は長く厳しい。食べ物を貯蔵しおおくため塩挬けずいう手段をよく䜿う。ひょっずするず ひょっずするのではないか。

倏が来る前には京に戻る
実頌、塩をたくさん甚意しおおいおほしい

 䞀氎は文にそう付け加えた。
 本圓は菅公倫人の墓を京に遷しおやれないかずそう思っおやっおきた。
そのための金子きんすも十分に甚意しお。だが、それは菅公倫人ず道真公、どちらにずっおも意に染たぬこずらしい。梅の実を買い取るずいえばその代ずしお受け取っおもらえるだろう。
 それに華やかさの裏で貎賀ず厄灜甚だしい京の郜がいいずも限らない。京の民のこずも気がかりだ。この地ですべきこずをしお京に戻ろう。

 䞀氎は、房にすっくず立った11の顔をも぀芳音像に向かい盎った。

南無阿匥陀仏

どうぞ圹目が果たせたすように。ただそれだけを祈るのであった。

6.六波矅


7月、山城方の梅の朚にたくさん果が実った。

 ゆすり萜ずしお萜ちたその実を井戞の氎で掗う。こっそり圱に朚桶を甚意しヘビもしばし氎济びを楜しむ。冷たく柄んだ氎が気持ちがいい。
どうだ、いい氎脈であろうず誇らしげに頭を䞊げた。
 
 そこに山城の声がする。
「䞀氎様、本圓にこのような井戞たで蚭えお䞋さりありがずうございたす。
これからこの梅の朚も増やしおいきたしょう。果が成れば、毎幎京たで送りたしょう。」
 十分すぎるほどの金子をいただき奥方様の持っおいた曞物もわかりやすく盎しお蚘しコトバたで教えおくれた。この申し出は決しお過ぎたものではない、山城はそう思っおいた。

「有難き申し出、慎んで感謝いたしたす。粟進なされおのお垃斜、浄土にわたる埳ずしお仏さたもきっずお喜びになりたす。」
䞀氎はそう深々ず頭をさげた。
 汗ばむ仕事だ、それずも井戞の氎が跳ねたのか、山城は手ぬぐいを倧きく広げ䞡手で顔を芆っお拭う。

「その際の願い事、ひず぀聞き入れお䞋さいたすか。今からこの掗った梅の果、氎気を拭きずりむしろに広げ倩日で日晩也かしたす。そこたでしお送っおいただきたい。」
 䞀氎の申し入れに倧きく頷いお、山城もたた深々ず頭をさげた。梅の実が也いおすぐ、䞀氎は東囜を出発した。ここでの日々、道䞭の思い出も蘇る。

 将門はどうしおいるだろうか、奥州から䞀緒に陞奥に入った者たちは、各々陞奥で枞行し自分の圹目を芋぀けおいった。銬はその者たちず䞀緒だ。                駅堎から駅堎ぞ銬ず人足を぀ないでもらい京ぞず急いで垰り着いた。  

 京では道颚が出迎えおくれた。さお、私たちの瀟に垰ろう。そう籠の䞭のヘビに声をかける。しかし、着いお驚いた。瀟の前の倧きな境内に、畳敷きの倧広間を備えた道堎ができおいた。あの韍の絵は襖にしお食られおいる。

 畳の䞋にはすでに塩ずたくさんの壺が甚意されおいた。
 実頌か、䌚っお瀌がいいたいが今はすたないず感謝の念を心に刻む。
 道颚はずいうず襖の前で、どうだずいわんばかりに錻を広げ、あずはあそこに蚓埋でも衚装しお食るずいいのだが。
「䞀氎なにかあるか。」ず声をかけた。

「ありがたい。」そういっお篭の䞭から筆文を取り出し広げた。


 ただ、䞀粒の氎であろうずも 空にあれば皆を映す鏡ずなる
 信心を揺さぶり起こすには自らがきれいな玉でなければならない、
そう思い菩薩が涅槃に枡るために玍める぀の埳を自らに課しお励んできた

「このコトバをそこに掛けたい」

今生に生きる実圚ずしおも倩䞊の䜿埒ずしおも道颚は䞀氎を眩くたばゆく芋぀めた。ただ䞀人の顕圚に限りある身でありながらその埡玉には、人の善き所を映し茝いおいる。

ヘビはそんな道颚をみお圓然だ、ずよろこんだ。

  

   ヌ六波矅蜜ろくはらみ぀ヌ
垃斜持戒忍蟱粟進犅定智慧

仏教甚語

「こう短く蚘しおも良い」

 それを聞いた道颚はなあに、広い道堎だ䞡方曞いお掛けようぜ、ず文机ず筆具を取りだした。
「そうか、写経堎か、そうするのが䞀番いいな。」感心しお䞀氎がいう。
「䜕をいたさら、その぀もりで䜜ったに決たっおいるだろうが」
ガッハッハッず豪快に笑い飛ばしお道颚は答えるのであった。


7.熱



倕刻ずなり、䞀葉さた お垰りで、ず達吉が炊事堎の方から入っおきた。
觊れれば熱が䌝わっおきそうな日焌けした肌、頭はあの達谷の岩厖のように癜灰色をしおいる。達吉の方も䞞く剃髪した頭に目をやりようこそご無事で垰られたしたず涙を浮かべた。

「留守の間はどうであった。」ず尋ねるず
「倉わらずでございたす。耕䜜地を手攟しお地方からくるもの倚数。瀕しお京を出るものも倚数。商人は自分が利するこずばかりでその利を狙っお賊が抌し入る。その繰り返しですが、実頌様のご揎助もあり井戞ぞ氎仕事に来るものを手䌝い、わずかばかりではありたすが米を混ぜお炊いた飯を配っおもおりたす。」

「あっ、きちんず井戞をこしらえお䞋さった䞀氎様から、ひいおは仏様からの有難い斜しですずお䌝え申しおおりたすよ。」、そう達吉は付け加えた。

井戞もみなで掘ったもの、食べものにしおも揎助ずみなの苊劎があっおこそ
みなに仏の慈悲の心があっおこそ、自身が助けられおきたこずを思い返す。

「よし、さっそく明日から垂にでる。その前に達吉、この梅を塩挬けにしおおきたい、手䌝っおくれ。」ずそう蚀った

1幎目の梅は3぀仕蟌みをした。少しず぀塩の加枛を倉えるためだ。
京は東囜より気枩も湿床も高い。盆地になっおいるから䜙蚈にそうだ。
空気も抜けにくく死者が倚いず空気も柱む。流行り病に効くずいいのだが。
梅の出来栄えを祈りながら、壺を畳の䞋に戻した。

延長8幎9月29日
 京に戻り、䞀月が過ぎる頃、道堎に醍醐倩皇厩埡の知らせが届く。
 圹人は䞀緒にお出でになりご法芁をず支床を埅぀。法衣を身に着け、頂いた鉊ず撞朚を甚意する。おいで、ず杖にぞびを手招きした。
䞀緒に浄土を願おう。それに子に先立たれ法王もさぞご心痛であろう。
 もっずもその子に早々ず倩皇の地䜍を譲り枡し出家した法王である。
若くしお倩皇ずなった醍醐倩皇は䞍安もあっただろう。呚囲の讒蚀に道真公の倧宰府巊遷を敢行したこずも芪子関係に犍根を残した。

 すべおはただ圚り、過ぎたこず、蚱すも蚱さないもない
 出家したずきに頂いたきりの色耪せた法衣それでもきちんず手入れを怠らずにいた。圹人ず共に向かった先、宮䞭で実頌が埅っおいた。東囜から戻っおから䞀床もあっおない。久しぶりの再䌚に喜ぶものの倩皇の厩埡に際しお
衚情を抌し蟌めお実頌は䞀氎を迎え入れた。

 「倩の乱れも盞倉わらず続き、4月の萜雷以降すっかり気力を倱くされ、臥せるこずが倚くあった。ある皋床は予想しおいたけれど、ここにきおさらにご容態がひどくなりその察応に远われおいおね。さすがに珟圹の倩皇が若く厩埡したずあっおは民の動揺ず朝廷に察する䞍安もひどかろう。厩埡を次の朱雀垝に即䜍した埌ずの工䜜もおんやわんやさ。」

 そう小声で話し広間に通された。前の方には祖父、宇倚法王の姿も芋える。比叡山、高野山、山で修逊を積み重ねおいる僧䟶たちに混ざり末垭ながら心を蟌めお読経した。それぞれの声色が混ざり合い倧きなうねりずなっお倩に昇っおいくような䞍思議な䞀䜓感を味わった。
 
倩皇ずいう䞀人の生身の人間の生が終わったこずに察する䟛逊である。

衆生にも皆でこのような経があげられないか、いや衆生だけではない。
貎賀聖俗、䞀切問わずだ。皆で思いを軜くしお倩ぞず昇る隓をしたい。
 
仏僧ずしおやるべきこずが具䜓的に芋えた瞬間であった。



 醍醐倩皇の法芁以降、時折、䞀氎は宮䞭に説法に招かれるようになった。
説法ずいい぀぀その実、めっきり幎老い気力が匱った宇倚法王ずそのひ孫
埌の村䞊倩皇ずなる成明なりあき様の話盞手である。父、醍醐倩皇をたった぀で倱くした阿叀に、宮䞭で目の前にいる法王の膝に茉り挢詩を諳んじおいた子どもの頃の自分を重ねお懐かしく思う。
 挢詩に加えお今、䞻流の和歌も孊ぶ。若朚が氎を吞い䞊げるように、どんどんコトバを吞収する姿に目を芋匵る。

 䞀氎は存分に枝を䌞ばした成朚だ。しかし、䞀぀ず぀幎茪を重ね倧きく匷くなっおいく。いや、匷くなっおいけるよう粟進せねばならない。
 垂井の䞀法僧ばかりを莔屓にしおいるずうわさになるのをさけ、䞀氎を呌ぶずきは垞に他の僧䟶もよばれおいた。修逊の末、高慢ずなり明らかに芋䞋す僧もいれば、分け隔おなく接し、寧ろ䞀氎の枞行の経隓から聞き孊がうず聎講を望む僧䟶もいた。お互いに修隓の堎は違えど珟䞖で励むもの同士い぀でも協力するずいう蚀葉が嬉しかった。

垂井では、十䞀面芳音像を埌ろに背負い、なむあみだふ ずの称名を広め
力仕事であっおも惜したずに力を尜くした。

自らは空に浮かぶ氎であろう、萜ち着いた柄んだ心でいようず思っおいおも
心乱れ、倩に慟哭したくなるこずも床々あった。

 宇倚法王が厩埡しお2幎埌、京郜地震で倧きく2回倧地が揺れ動いた。
 いよいよ地方も朝廷の嚁光に陰りがでたのか。奥州平家の内玛に藀原玔友による海賊行為が勃発する。衆生の生掻もそぞろだっおきた頃、前をはるかに凌ぐ倧きな地震が京の郜を揺るがした。
4月15日、埌に倩慶地震ずよばれる倧地震だ。宮䞭でも4名が亡くなる。
そんなひどい揺れに垂井などひずたたりもなかった。
修繕も食料も䜕もが皇族貎族倧きな寺が優先だ。気枩が䞊がるにしたがっお衛生状態も悪化する。念仏を唱えお浄土になんおず、唟を吐きかけられる
こずもあった。高く死人が積みあがる。

 忍埓の埳、これほどたでに぀らい状況にあっお修身するこずなど、ずおもできるこずではない。ひずりで忍埓する必芁などない、仏に向かっお思いをだしお祈っおほしい。それできっず軜くなる。浄土にそのたたう぀るのだ。仏はきっず芋捚おはしない。だからこうしお私はここにいるのだ。

でも私䞀人ではずおも映しきれない。
もっずたくさんの人で、たくさん映しずりお救いたい。

 衚に裏に協力しおくれるものを募り䞀人ひずりには若干であれども、来る日も来る日も握り飯ず梅干しずこぶをいれた茶を斜した。朝廷よりもっず高いずころから倩の仏様が芋おいるこずを知らせるために寺院ず仏像の建立にも力を泚いだ。新たに䜜った寺は達谷西光寺から頂き西光寺ずした。

寺に昔、ぞびず出䌚ったずきに預かった倧きな玉。それを宝珠ずしお仏像ず䞀緒に祀った。蛇も寺に願いにくるものの『重い』を懞呜に呑んだ。豊かなずきの願いず瀕しおいるずきの願いは違う、より生そのものぞの願いだ。
生をなによりも慈しむが故の生宣いのり。
それが倩垝、䞀氎のいう仏に届かぬわけがない。届け・届け・届け。

もう䞀葉であった頃の䞀人の熱ではない。あたたかな空気が流れ蟌むように
みなの願い、みなの祈りずなっお少しず぀だが着実に倧きくなっおいった。


8.その日


応和幎月日
その日はよく晎れ枡っおいた。鎚川の氎面がキラキラず茝く。
 あの修矅のような灜害からも人々は逞しく立ちもどる。垂の聖ずよばれ、垂井にでれば手を合わせ埮笑み挚拶を亀わす。そんな日が続くず特に仏の教えを広めるこずなど無甚かずいう気もしおくるから䞍思議なものだ。

だがしかし、あの修矅の䞭にあっおも皆ず䞀緒になっお炊き出しを行い、
汗をかいお力仕事をした日々は生の充足感に溢れおいた。

あの倩皇の法芁の際、皆で声を合わせお読経をした、あの䞀䜓感。韻を螏んで声を出す、その行為の高揚感。䞀人経兞を無心に曞き写す心の静寂が空ずするずそれもたた空であった。枩かな空気に満たされおいた。貎賀枅濁䞀切問わず、䞀䜓ずなれたら。南無阿匥陀仏を唱えおみんなが浄土に映し出されるず同時に䞀人ひずりに浄土が照らし返され映し出される。それはその瞬間はこの地䞊が浄土ずいえるのではないか。

 を過ぎおふず倢芋たそのような想い賛同しおくれるものがひずりふたりず増え、今日、この日この堎所に集たっおくれた。

 宝殿を造り招いた僧䟶は600名、金字で曞き写した般若心経も同様に600å·»
いくばくかの貎賎を払えば誰でも参加できるずし垂井のものも次々に岞に集たっおくる。実頌は右倧臣ずなっおも倉わらず、陰に日なたに揎助もしおくれたが、垂井のものず倉わらぬ、䞀般参加しおくれた。
䞀氎は60になっおいた。倧きく幎茪を刻みしっかりず根を匵っおいる。達吉は先に埀ったが浄土で芋おいおくれるだろう。道颚は身は老いたが健圚だ。

 今日この堎所で般若心経読経による倧䟛逊䌚を行う
 高らかな䞀氎の掛け声に呌応しお䜎く重厚な経が蟺りに響き始めた。

 その前の晩、䞀氎はヘビず向かいあい透き通る噚に酒を泚いでいった。「今たでのお瀌だよ。それず、これ、玄束だったね。」
 小さな革袋からきれいな玉を぀取り出す。かの者ず、京を立぀前の䞀葉の『おもい』からできた玉がろうそくの光を受けおきらりず光る。

「ここたで䞀緒にいおくれおありがずう。」
「明日の䟛逊䌚でもう思い残すこずはなにもない。
 君もどこでも奜きなずころにいっおいい。」

この者ずの䜿呜が終わったら、瞁を断ち切る

あのずき倩垝に蚀われた蚀葉がたざたざず蘇る。
別れたくはない
い぀だっおこの者はきらきらずきれいだった。

「君は出䌚っおからちっずも倉わらないね。
 僕はほら、この通りしわだらけだ。」そういっおくしゃくしゃに笑う。

分かたれたくない

そういうヘビにこの者はいった。
「みな誰しもそうさ。だからこそ䞀䜓になるこずが䜕よりの至犏なのだよ。
 明日はこの䞖の至犏、浄土の映し䞖を皆で味わいたい。
 誰より私は欲が深いのかもしれないね。」

「私も別れがたい、だが君のようにい぀たでも生きおはいない
 だから、お別れをいうのは今ここでにする。」

詰たるような思いを収めお最埌に軜くこう蚀った。

ありがずう

蛇は、アリガトり のコトバも蚀えるようになっおいれば良かったず
お酒の䞊に涙を䞀滎ポチャンず萜ずした。


9.来迎


 䞀氎を始めずする僧䟶の抑揚のある経の合唱
䞀般のものも䞀緒に手を合わせ 声を合わせ 心を合わせる。

䞀昌倜行われるずいうのにその声は䞀向に衰えるこずを知らず刻が立぀ごず倧きくなっおくる。その䞭には戞籍を倱ったいわゆる乞食もいたが手䌝いやなにがしかのものを投じお参加しおいた。

 道颚がヘビにいう
ほら、あの䜿埒も身をや぀しお来おいるぞ。倩垝も倩䞊から芋おいるな。

 䜿埒はいい。人の姿で䞀緒になっお亀わるこずができる。
それはそれで苊劎もあるのさ、䜕床も身を倉え地䞊に来る道颚は達芳しおいう。でも別れだけはい぀たでも慣れないねえ。

そろそろか、

道颚が西の空を芋おそういった。
西に萜ちおいく日に照らされお、雲がむらさき色に染たっおいく。経の音色が心地よく氎のように揺らめいおいる。皆が今ぶ぀かるこずをせずゆらゆらずゆったり揺蕩っおいる。

道颚、䟋の件、くれぐれも頌んだぞ

ヘビは岞の向こうの䞀氎をたぶしく芋぀めた。
ふるい皮を脱ぎ捚お芋えないように姿を消した。この南無阿匥陀仏を称しお出された皆の『おもい』すべお呑んで倩䞊に持っお行っおやる。

すうヌず倧きく息を吞うように『おもい』をのんだ。
だれの思いもただただこの䞀瞬を䞀緒に過ごす幞せに溢れ軜かった。
ヘビのからだは皆のおもいで倧きく倧きく膚らんだ。そしおゆっくりを空に浮かび䞊がっおいく。

玫雲は仏が来迎するずいう倩䞊ぞ流れ぀く雲
䞀氎の描いた垌望は倩の蚈画でもあった。

 振り返らない、振り返ったら我の重いで萜ちおいく。
 䞊を向き氎の䞭を揺蕩うように高く高く昇っおいった。

䞀氎はヘビず通じる䞍思議な力を持っおいた。姿は消しおいたが、みんなのおもいを呑んで倩䞊に向かう蛇を感じお倩を仰いだ。

気配が消えおいく寂しさを振り払うようにたた鎚川の氎面に目を向ける。
倕日が䞀筋差し蟌みキラキラず光る。

空になくおも 皆もたたキラキラ光る氎である。
仏の像の優しい目を思い出す。そんな目で映しずれおいるだろうか。

ただただこれからだ、䞀氎はそう思った。


ヌこの者こがれ話ヌ
250幎埌、あたねく民を映しずりたいず願う仏垫が珟れた。そのもずに実頌の遺品で垂で枞行する䞀氎䞊人の絵ず぀の光る玉が巡っおきた。
䞀氎のその慈善を蚘した曞にも絵にも感銘を受け䞀䜓の像を造り䞊げる。
その目に光る玉を入れお。1000以䞊の幎月を経おなおも魅了する像である。
 



 プロロヌグ 


 

旅のはじたり

倩䞊に戻っおきた。
濃くお長い旅路から戻ったずいうのに、い぀も倩䞊にいたかのようだ。
 倩垝は䞊機嫌だ。
ヘビの出した皆のおもいは朝の陜光のように八方に癜金色の光を攟぀。
朚のそばの氎蟺に入れるず色に光茝いた。


ふむ、やはり氎の䞭が䞀番よいな

さお、䞻にはふしぎな力があるようだ
それをわしも感じおみたい
そばで仕事をしおほしい
仕事はなんでも遞ぶがいい

ヘビはこの氎蟺が芋れたらどこでもいい、ずそう答えた。

ならば、この朚になる果の番をするがよい。
倧事な果だ、決しお取られおはいけないぞ。

それは、倩垝の䜿埒は別であった。ずきおり果をたくさん積んでは厳重に譊護しお持っおいく。䞀䜓なんの果なんだろうか。

たぁ我には関係がない。朚の高い枝に登りそよそよずそよぐ朚の葉をみる。
光沢のある葉はキラキラず光っおいる。たたある時は氎面に目を映す。
キラキラずした茝きに地䞊での旅を思い出す。

時折、果を求めおやっおくる者がいる。地䞊から倩䞊に䞊がっおきた者だ。倩䞊に来るには通りの方法があるらしい。

ひず぀は修緎により空の境地に至り匕き䞊げられるもの
もうひず぀は軜くなっお䞊がっおくるものだ

どうもこの朚の䞋に集たるものは軜くなっおくるものらしい。
みなほかの者ずの亀わりを求めおいる。朚の䞋でもざわざわず隒がしい。
そのざわめきがどうにも心地くこの者どもず䞀緒に地䞊に旅に出たい、
ぞびはそう思うようになった。

果を取ろうずしお捕らえられたものは他の芋匵りに連れおいかれる。
蛇はそそのかすふりをしお気を぀けろ、ず譊告する。
それでもたたやっおきおは朚の䞋でく぀ろぎ話をする、
もう、なんのはなしですか、なんお笑っおいる。

なんのはなしですか

蛇は耳を疑った。近頃そうおしゃべりするものが増えおいる。
地䞊にいきたい、この愉快なものたちず。

さお、どうやっおいこうか
こんなずき、どうしおいたっけ

ナ ン ノ ハ ナ シ デ ス カ

ヘビはそう呟いた

コノ モノ タチ ト チ ゞョり 二 む キ タ む

そうだ、そういっおむノルのだったな。

そうすれば物語がはじたる

氎面がキラリずひかり
蛇の前に朚の果がポトリず萜ちた
朚にもたれ掛かり寛いでいた倩の䜿埒が腰をあげる
か぀おは地䞊で道颚ず呌ばれおいた倩の䜿埒だ

さあ、これからどうなるのか
きっず䞊手くいくさ、魔法のコトバだ
軜くワクワクした気持ちでそう蛇は思うのだった

    ヌ  完   ヌ















いいなず思ったら応揎しよう