【日めくり】醍醐の花見で、私は「毒」を「徳」に変えた【4月20日】
ビニールシートに落ちる桜の花びらが、
まるで行く手を阻む障害物のように見えた。
社会人一年目、22歳の春。
私の初仕事は、この広大な公園での「完璧な場所取り」だった。
「ねえ、本当に新人がやらなきゃいけないの?」
同期の美咲が、スマホで将来の資産形成の画面を見せながら愚痴をこぼす。
彼女の悩みは「将来のお金」。
私はといえば、隣で「日焼けは美容の敵よ」と入念に日傘を差す先輩、
加奈子さんの美意識に圧倒されていた。
加奈子さんの悩みは「健康と美容」。
そして私の悩みは、間違いなく「職場の人間関係」だった。
「おい、新入り!今日は4月20日、あの豊臣秀吉がやった『醍醐の花見』の日だぞ!」
缶ビールを片手に、部長が千鳥足で近づいてきた。
「歴史にあやかって、今日の宴会テーマは『だいご』だ!3人のダイゴの物まね、全員分やるまで帰さねえぞ!」
最悪だ。パワハラ一歩手前の無茶振り。
私は一瞬、自分のキャリアパスが霧に包まれるのを感じた。
だが、ここで折れるわけにはいかない。
私は隣で「投資信託が……」と呟いている美咲の肩を叩いた。
「美咲、チャンスだよ。部長は頑張りを見るタイプ。ここで目立てば、希望の部署への道が開けるかも」
「えっ、マジ!?」
キャリア志向の強い美咲の目が変わった。
私は彼女に耳打ちをした。
「まずは『ウィッシュ』。次は早口で論破するメンタリスト。最後は、部長のその千鳥足にひっかけて、芸人の千鳥・大悟さん。全部全力でやって!」
美咲は吹っ切れたように立ち上がった。
「ウィッシュ!」から始まり、
最後は「桜が多すぎて、シンプルに口ん中入るわ!」と叫ぶ彼女。
部長は大爆笑し、私は拍手を送りながら、そっとお酌役に徹した。
「立ち回り」という名の処世術が、見事に決まった瞬間だった。
宴も終盤。
美咲は「一皮むけたわ」と満足げに焼き鳥を頬張っている。
私は、カバンの中に忍ばせていた4月20日の誕生石、
ジェダイト(翡翠)のストラップに触れた。
石言葉は「徳」。
豊臣は最終的に「徳」川に負けたけれど、組織で生き残るには自分なりの「徳」の積み方がある。
出し抜いた形にはなったけれど、
私は美咲の承認欲求も満たしてあげたのだ。
「明日からは、もうちょっとうまくやれそう」
夜桜を見上げ、私は小さく息を吐いた。
少しだけ重かった会社への足取りが、今は春風のように軽くなっていた。
〜あとがき〜
今日という日が、あなたにとって、
しなやかな処世術で「徳」を積み、
春風のように軽やかな足取りで歩める一日となりますように♥

翌日の物語はこちら:
※本記事は個人の創作によるショートショート小説であり、実在の人物・団体・施設等とは一切関係ありません。
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