ドミノには300通り以上の恋愛がある
【#dal_THE_DOMINO――Human Bug Report】
人類は、ルールが一つしかないと思いたがる。
麻雀。
私は麻雀が嫌いだ。
会社の上司とはやりたくない。
勝ちすぎると空気が悪くなる。
ちょうど良く負けることが求められる。
それはゲームだろうか。
私には接待にしか思えない。
勝負をしているようで、実際には人間関係を遊んでいる。
だから好きになれない。
私の周囲では最近、ドミノが流行っている。
海外ドラマでも、時々ドミノ牌が映り込む。
日本では「牌を並べて倒す遊び」という印象が強い。
だが、それはドミノのほんの一部だ。
本来のドミノは、世界中で親しまれているテーブルゲームである。
しかもルールは三百種類以上あると言われている。
一人で遊ぶパズル。
二人で駆け引きを楽しむゲーム。
四人でペアを組むゲーム。
大人数で盛り上がるローカルルール。
同じ二十八枚の牌なのに、遊び方が変わるだけで、まったく別のゲームになる。
面白いと思った。
人間は「ルール」が違うだけで、世界の見え方まで変わる。
配られる牌は選べない。
運で決まる。
だが、その牌をどう使うかは自分で決められる。
だから運だけでもない。
実力だけでもない。
人生に少し似ている。
そんなことを考えていたら、昔から受けてきた恋愛相談を思い出した。
私はなぜか女性から恋愛相談を受けることが多い。
相談内容は毎回違う。
浮気。
結婚。
遠距離。
価値観。
親との関係。
だが、最後に残る問いは驚くほど似ている。
今日は、その話を書こうと思う。
■恋愛相談で一番多い言葉
「先生。」
そう呼ばれることがある。
少し照れくさい。
私は心理学者でもないし、恋愛カウンセラーでもない。
ただ、人の話を聞く機会が多かっただけだ。
その中で、一番よく聞いた言葉がある。
「私の考えすぎでしょうか。」
「何となく違和感があるんです。」
「嫌いじゃないんです。でも……。」
相談は、いつもここから始まる。
不思議だった。
「彼は浮気していますか。」
ではない。
「この人と結婚していいですか。」
でもない。
まず、自分の感覚を確かめようとする。
一方、男性から相談を受ける時は違う。
「どうすれば付き合えますか。」
「返信が来るLINEはありますか。」
「告白は三回目ですか。」
正解を探している。
もちろん逆の人もいる。
これは男女をきれいに分けられる話ではない。
それでも長く話を聞いていると、一つだけ共通する癖が見えてくる。
■人類は攻略本が好きである
ゲームには攻略本がある。
受験には参考書がある。
料理にはレシピがある。
仕事にはマニュアルがある。
人間は「答え」が好きだ。
もっと言えば、
答えがあると思うと安心する。
だから恋愛にも、
「モテる会話術」
「脈ありサイン」
「絶対成功する告白」
そんな本が並ぶ。
本屋だけではない。
動画も。
SNSも。
AIも。
みんな同じ質問をする。
「正解を教えてください。」
しかし、恋愛は本当にそういうものだろうか。
■ドミノは教えてくれた
ドミノには三百種類以上のルールがある。
二人で遊ぶもの。
四人で遊ぶもの。
一人で黙々と考えるもの。
どれもドミノである。
誰も、
「これだけが本物のドミノです。」
とは言わない。
恋愛も同じではないだろうか。
毎日電話したい人もいる。
用事がなければ連絡しない人もいる。
記念日を大切にする人。
誕生日すら忘れる人。
愛情表現が多い人。
静かな関係を好む人。
全部、人間である。
全部、恋愛である。
それなのに、
人間は恋愛だけは、
「正しいルールが一つある。」
と思い込む。
■違和感は間違いではない
相談の中で印象的だった言葉がある。
「理由は説明できないんです。」
私は、この言葉が好きだ。
人間の脳は、言葉になる前から世界を見ている。
表情。
声。
沈黙。
約束。
店員への態度。
笑うタイミング。
無数の情報を集め、
最後に一つの感覚だけを返してくる。
「何か違う。」
その時、人は困る。
説明できない。
だから検索する。
恋愛本を読む。
動画を見る。
誰かに相談する。
本当は心が答えを出しているのに、
頭が証拠を探し始める。
■人類の不思議
考えてみれば、不思議な生き物だ。
人生。
友情。
結婚。
子育て。
恋愛。
どれも正解は一つではない。
それでも人間は、
順位を付ける。
点数を付ける。
攻略法を作る。
偏差値にする。
勝率を計算する。
安心したいからだ。
世界を単純にしたいからだ。
しかし、
世界は単純になっていない。
単純になったのは、
人間の頭の中だけである。
■猫は攻略本を読まない。
恋愛テクニックも知らない。
嫌なら離れる。
安心できれば近づく。
眠くなれば眠る。
人間に嫌われないように、
性格を変えることもない。
それでも、人は猫を好きになる。
猫は、
「どうすれば好かれるか」
ではなく、
「どうすれば安心できるか」
で生きている。
本当は人間も、
そうだったのかもしれない。
【デバッガー所感】
ドミノには三百種類以上のルールがある。
同じ牌を使っていても、
遊び方は一つではない。
誰も、
「このルールだけが正しい。」
とは言わない。
ところが恋愛になると、
人類は突然、
「正解は一つしかない。」
と思い始める。
何回目のデートか。
何分後に返信するか。
何と言って告白するか。
安心するために、
答えを探す。
攻略本を探す。
でも、本当に必要だったのは、
正解ではなかった。
相手と、
同じルールで遊べるかどうかだった。
人類は恋愛が苦手なのではない。
ルールが一つではない世界で生きることが、苦手なのだ。
